ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第二章 大森林

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 ――翌日。

「魔道具とは便利なものだな」
「ふわぁ~~、だろー?」

 結界の魔道具をあくびをしながら回収しているムラマサに素直な感想を述べれば、眠そうなのにいやに自慢げな感じで答えてきた。その態度が気になったので尋ねてみると

「何か、その魔道具に思い入れでもあるのか?」
「あ? あ~~、こりゃオイラが作ったんでぇ。ふわぁ~~~、ぶへぇ」
「なんだと?」

 木材石材の加工による建築。鍛冶師としての才能のみならず、魔道具の作成も手掛けているのか。
 こいつ、本当に天才だな。

「魔道具も作れるのだな」
「ああぁ~~、そうだぜぇ」
「俺もいつか魔道具を作ってみたいな」

 日本にあったアレコレの再現は、やはり異世界に来た以上はやっておきたい。

「オメーなら普通の魔道具なら簡単に作れっだろ。コツなんざ材料選びくらいで工作さえ出来りゃ赤子でもできらぁ」
「ほう、そうなのか」
「パーツはこっちで作ってやらぁ。そんでそれをテメーのイメージ通りに組み上げりゃ、ま、サクサクっと出来上がらぁ。ブシュルルルルルル……。グー……」
「寝るなよ、おい、起きろ」
「ンガッ!? はぁ。つっても、このレベルの魔道具作るってなっちゃ、職人もそう多くはねーんだぜぇぇ?」

 なるほど、それで自慢げなのか。

「すごいな。さすがムラマサだ」
「おうよ~、もっと褒めていいぞ」
「そうだな、すごいな。だからいいから顔洗って目覚ませ」

 おお~~、と気の抜けた調子でお湯を張った桶に向かうムラマサの背中に一言申しておく。

「顔洗っている途中で眠って溺れるなよ! しかし、あんな強力な魔道具が作れるとは、この世界はやはりすごい技術力を持っているな。それとも、技術系列が違うと考えるべきか? 地球では結界を張る機械なんてどうあがいても作れないだろうしな」

 結界の魔道具。
 それは聖碑の力を参考に作られた魔道具で、小型化し持ち運べるようにした実用性溢れる魔道具だ。
 ただし魔力の持続時間は四時間なので、お互いに起きてその度に魔力を注いで、を繰り返してきた。ムラマサが眠そうなのはその為だ。だが効果は絶大で、四メートル四方と大人二人で寝るには狭いながらも確かな安全地帯と化していた。ただし一度起動すると魔道具自体が固定されるので、回収するのには純粋に待たなくてはいけない融通の利かなさはある。

「その代わり俺がそこそこ強く殴ってもビクともしない結界。これはすごい強度だな」

 『ワイルドハンド』で多少セーブしているとは言え、この世界で言うとサリエラが全力で攻撃した程度の一撃だ。それを受けても大丈夫なのはとんでもない事だった。

「そんなすごいものを作れるのに、この世界の文明度は異様に低い。何故なのだろうか」

 文明を感じるのが街灯、街中ラジオ、冷蔵庫、冷暖房装置くらいだ。それも俺が最上級スウィートルームに寝泊まりした際に見ただけで、安宿の個室にはなかった。安宿でも調理場には冷蔵庫があったが、出てきたエールは生ぬるかった。恐らく香辛料などの高価なものの保存をするだけで一杯なのだろう。

「エールと言えば、冒険者連中は氷を浮かべて飲んでたな」

 生活魔法でコップの氷を凍らせて、それをエールに浮かべて飲んでいた。コツは熱を奪うように生活魔法を使う事で、間違っても水を直接凍らせてはいけない。腐った三日目の靴下の臭いが氷についてしまうから。

「そうと知らずに『生活魔法』を覚えたてで氷を直接作って入れたのは、いい思い出だったな」

 うべっ。今でも脳裏に焼き付くあの、アレ。どうして魔法はこんなにも体に悪いのだろうな。

「それはともかく、文明度の低さか。街の作りなんかは高度な文明を感じさせるのに妙な話だ」

 まるでそう、誰かが意図的に技術力を調整しているかのような……。

 考えらえるのはやはり、エルフの里が技術を隠匿している事。長寿のエルフたちが世界をコントロールしている可能性か。そうなると、エルフの里出身のムラマサと友好関係を結べたのは俺にとっては僥倖だったな。

「んはぁ。はー、さっぱりしたぜ」
「溺れずに戻ってきたか。なら朝食にしてから出発しよう」
「ガキじゃあるめーし、もう溺れねーっての」

 子供の頃に桶で溺れた事があるのか。

「さっさと食って、街づくりの候補地を探さねーとな!!」
「……、そう、だな」

 昨日の妙なノリに任せて俺が役所務めの際に何度も検討された「街つくりプロジェクト」で得た知識をムラマサに全て話した。その結果こうなるのは当然だが、さすがに俺は一晩経って冷静になっている。
 気分はそう、前世でこの話を聞いた時と同じで

「え? 本当にこんな森の中に巨大都市を作るのですか? 酒の勢いでも、小粋なジョークでもなく?」

 だ。

「つっても、チマチマ木を切り倒してたらオイラの心が死んじまう! 手っ取り早く開けた場所を探すんだぜ、兄弟!」
「あ、ああ……だが、そんな都合の良い土地などあるのだろうか」
「さぁな。でもよ、あれだ。こっから先は未踏の地。つまり」
「つまり?」

「冒険ってヤツだ! あってもなくても、楽しめるってなもんでぇ!」

 冒険者。
 その職についてから初めてそれらしいことをするような気がする。
 だからだろうか。自然と俺の顔にもムラマサと同じような笑みが浮かんでいるようだ。

「ヘッ、いい顔だ! 頼むぜ、兄弟! てやんでぇ!」
「なかった時は素直に諦めろよ? 他の目的で来ているのだからな」
「分かってらぁ!」

 本当だろうか。
 いや、子供に見えても元冒険者のオッサンだ。その辺の線引きはしっかりしているだろう。

 線引き。
 そう言えばここは魔物領域だ。人が勝手に線引きして街を作ってもモンスターに襲われるのではないか?

「なぁ、ムラマサよ。あの結界装置は量産出来ないのか?」
「ああん? 材料がねーから無理だが、どうしたってんだ?」
「いや、こんなモンスターの領域のど真ん中に都市を作っても襲われるだけなのではないかと危惧してな」

 そう指摘すると、今気付いたかのような表情をしていた。

「盲点だったぜ。そりゃ確かに危険だわ。うーん、どうしたもんでぇ」
「あの魔道具が量産出来ればな。足りない材料が現地調達できれば最高だが、難しいか?」
「うーん。そりゃ難しいな。反動抑制用の機関だからレア中のレアだ。剛毛獅子みてーな大物のレアドロップだかんな」
「反動抑制用の機関? それは、何かで代用できたりはしないのか?」
「オイラの知る限り、ねーな」
「そうか」

 どういう物かは知らないが、見た目は若いが歳を食っているこの男が言うのだからそうなのだろうか。

「反動抑制機関ってのは、まぁ、ヒトで言う髪の毛みてーなもんだな」

 ……、おや?
 俺の疑問顔に先手を打って答えてくれたようだが、いきなり理解の出来ない方向に話が飛んだように思うぞ?

「これも分かっちゃいねーか。しゃーねーな。いいか? 人間の髪の毛ってのは大事な魔力機関なんだ」
「そうなのか」
「そうなんでぇ。だからハゲやらバーコードってのは魔力の扱いが苦手なんでぇ。例外はあんがな」
「例外?」
「テメーみてーな異世界人だな。どういう理屈か知んねーがその法則が通用しねぇ。つっても、誰かが人体実験になってくれさえそりゃ、すぐ分かんだろうが、な? 開きにすりゃ一発だ!」

 そんな目で俺を見るな。

「さすがに解剖を含む人体実験はお断りだ」
「はっは、さすがにオイラも兄弟をってのは勘弁だ。生きたまんま脳みそ見なきゃなんねーしな」

 それは怖すぎだろ!

 ムラマサは平然と言っていたが、その記録があるという事は、かつてこの世界ではソレが行われたという事でもある。
 第二次大戦期は日本でもその手の人体実験は行われていたと聞くし、この世界だからと言う話ではないのは分かる。この世界だって魔族との世界大戦があったのだから、追いつめられた人類側が鬼畜な実験を行っていたのかもしれない。そう言う意味では、向こうの世界の住人も、こちらの世界の住人も精神性に違いはないのだろう。
 だが、それにしたって恐ろしい話だ。

「そんで、様々な人間の努力と犠牲で分かったのが、髪の毛と魔力の関係ってヤツだ。簡単にいやぁ、脳みそで使った魔法の反動を、髪の毛通して逃がしてるってだけだな」
「そうなのか。……、え? そうなのか?」
「魔法を使うと髪の色が変わるってヤツもその反動の副作用って話で、魔眼の類にしたって、脳みそにちけーから発現するってんだかんな。ほんと人の体ってのは不思議だな、てやんでぇ!」

 念じるだけで発動する魔法の発動元が脳みそだというのは、話の内容としては分からなくもない。魔法陣が現れたりすれば発動元はそこだと思えるが、頭の中で魔法を構築するのならソコが起点になるのは当然だ。

 そして、今まで疑問だった。
 ファンタジーの魔法の定番、詠唱がなかった事に。
 だがその疑問も解消したように思う。

「全部脳で制御していたのか。なるほど、確かにそれなら詠唱がないのも納得がいく」

 とは言え、本場の詠唱を一度聞いてみたかった。

 桃山とゲームをしていた際は、詠唱ロールと言うものがあった。
 より格好良く、よりセンセーショナルな詠唱だとボーナスを受けられるというものだ。その為に英語、イタリア語、スペイン語等を幅広く勉強したものだ。

 なお、最強はドイツ語だった。さすが元同盟国。

 ウンコでさえ「シャイセ!」などと言うのだからな。
 スタイリッシュ過ぎて最初はバカにされているのが分からなかったくらいだ。なお、ドイツでは人に使うとそのまま「クソ野郎!」と言う罵倒になるので要注意だ。

「なんでぇ、その詠唱ってのは?」
「ん? ああ。どう言えばいいのか。魔法を行使する為の文言? そう言うものだ」
「テメーのあのブツクサ言ってるヤツか? ありゃてっきりバードの『歌唱』スキルかと思ってたんだが、単なる趣味だったのか!」
「失敬な! そんなわけないだろう!」

 実際に効果を目の当たりにしておいて、どうしてそのような結論になるのだろうか。
 バード、つまり吟遊詩人の事だが、の『歌唱』スキルはあくまで『歌唱』スキルに内包されている効果を発動するスキルだ。『音魔法』のように、他の魔法を使う際に利用してコスト踏み倒したり、効果を拡大する等の効果はない。

「『音魔法』はあれだ、つまり……、ふむ?」

 今、何か閃いた。

 詠唱、『音魔法』、バード。
 バードと言えば村で出会った鳥だ。あいつは、そう言えば『音魔法』を覚えられたな。
 これはもしかするともしかして、俺はこの世界の魔法の在り方に革命を起こしてしまうのではないだろうか。
 そんな閃きが脳裏をよぎった。

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