ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第二章 大森林

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「なあムラマサ。もしその反動が軽減できるとしたら、どうだ? 結界装置は量産できないか?」
「あ!? テメーはいきなり何を非常識な……、いや、待て。そういやテメーの二つ名は確か『ヒジョウシキンニク』だったな!」
「何だそれ!? 初耳だぞ!」

 しかもなんだその安直かつ侮蔑的な二つ名は!
 筋肉はただ筋肉であるべきなのだぞ!

「んなこたいい! さっきのは本当なのか!? 嘘だったらぶっ飛ばすぞ! このスットコドッコイ!」
「ぐ、ぐおおお! なんて力だ! 首を絞めるな! ふんぬ!」
「ぬぐあああ!! はぁ、はぁ」
「はぁはぁ」

 ……、朝から何をやっているのか。

「落ち着け、冷静になれ。そうだ、それでいい」
「フシュルルルルルルル……」

 獣じみた息を吐き出すムラマサに停戦のアピールをする。向こうもそれには同意のようで、無駄な時間を食ったとばかりに姿勢を正す。

「しゃーねーから、とっとと吐け!」
「分かった。しかしこのどさくさにまぎれて結界装置を再起動とは抜かりがなくて恐れ入るな」
「ったりめーだろ! テメーはここをどこだと思ってんでぇ!」

 ごもっともな話だ。
 モンスター溢れる大森林。その未踏の地。当然日が昇っていても危険な事に変わりはない。腰を据えて話し合いをするならば、安全の確保は重要だ。

「さすがは元冒険者。興奮していても自然と結界を張れる、その危機管理意識の高さに恐れ入る」
「……、おべっかはいらねぇ。さっさと言え。茶を沸かしてやる」
「ありがとう。だが、茶は俺がやる」
「そうか? ならいいんだがよ」

 普段お茶なんて入れないくせにいきなり気を回すとは、褒められてよほどうれしかったのか。だが、だからと言って料理の才能皆無なムラマサにやらせたくはない。

「それで、そうだ。『音魔法』と魔法の反動についてだったな」
「そう、それでぇ。てか、『音魔法』ってのはなんでぇ?」
「バード、俺の知る吟遊詩人の『歌唱』や『演奏』の元になったスキルだな。発動までの時間がかなり伸びる代わりに、魔法の制御能力が上がり、消費が抑えられる素晴らしいスキルだ」

 もちろん良い所ばかりではないが、今はこの説明で十分だろう。
 そう思ったが、ムラマサは何かが引っかかったのか、腕を組み、首を傾げていた。

「そうか。ちょいと聞いたらよさげなスキルだが、その発動までが伸びるってのがネックだな。だから使い手がいねーのか」
「全くいない訳ではないようだがな。サリエラ、俺の知る冒険者の一人がその存在を知っていたぞ」
「サリッ!? いや、ごほん、そうか」

 どうやら勇者サリエラの事を知っているようだ。
 まぁ彼ほどに色々な意味で有名なら誰が知っていてもおかしくはない。

「ま、あれだ。冒険者ってのは危険と隣り合わせだ。余力を残したい気持ちはあんが、手を抜いて殺されちゃ意味がねー。だから即座に魔法は撃ちてーし、スキルだってすぐに使いたいってなもんだ」
「それで使い手があまりいないのか」
「だろうな。あと音ってのは目立つかんな。テメーくれー頑丈じゃなきゃ戦闘中に使うなんざ危なっかしくてやってらんねぇってなもんでぇ。……、ちなみに発動まではどんくれー伸びるんだ?」

 確か、そうだな。古い記憶だから曖昧な所があるので、情報を掘り出すのに時間がかかったが……

「消費を抑えるだけだとして、初期で十倍、慣れてきて最短で二倍。そこに威力上乗せや範囲拡大を加えるとまた伸びる、だったか」
「十倍!? 不意打ちにも使えんし、そりゃ誰も使わねーわ!」
「便利なのだがなぁ」
「テメーくれー熟練してりゃそうでもねーだろうが、そこまでとなりゃ、もはや才能と言ってもいい。テメーの才能は筋肉だけじゃなかったってんだ! 良かったな!」

 酷い話だ。
 才能が筋肉だけでもいいではないか。

「だが、魔道具に使う分にゃ悪くねーかもな。さぁ、結界が解除される四時間後までまだまだ時間はあんだ。きっちり聞かせてくれ」
「そうだな。それと合わせて詠唱について、お前の意見も聞きたい」
「おうよ、何でも言ってくれ!」

 フンス、と胸を張るムラマサに入れたお茶を渡す。
 二人してズズズ……、と茶を一飲みした後で議論を始める。

「まず、俺の知る『音魔法』は、その反動を軽減する効果がある。これは、実は実験済みだ」
「……、そうか。法に触れてなきゃいいが……。聞かなかった事にしてもいいか?」
「何故そんな及び腰なのか。人相手にはしてないぞ。鳥だ鳥。偶々出会った歌の下手なダミ声鳥に教えただけだその時に分かったのだ」
「それって、野生の鳥か? おい、ほんとに問題ねーのかよ?」
「猛禽類ではなかったし大丈夫だろう。それに腹話術のようなものだから、これだけだと何の意味もないからな。鳴き声が綺麗になってとても喜んでいたぞ」
「まぁ、テメーがいいってんならいいんだけどよ。しっかし鳥にスキル覚えさすたぁ、さすがヒジョウシ」

「それ以上はヤメロ」

「お、おう。気に入ってなかったんだな。わりぃ」
「当たり前だ。しかしそうだな。あの鳥には生来の才能があったのだろうな。人の言葉も理解していたし、賢い鳥だったのだろう」
「モンスターじゃねーよな?」
「街中にいたから問題なかろう」

 問題、ないよな?
 あれ? なんだか急に不安になってきたぞ。

「考えたって埒あかねぇな。で、そりゃ俺も覚えられっか?」
「分からん。才能の塊であるお前だと、逆に覚えられんかもしれん」
「あー、キャパ超えるかもしれねーな。それに俺のような頭が凝り固まった中年じゃ無理か。ガキんちょなら行けるかもしれねーな」

 その見た目でそう言われても反応に困るな。

「んじゃ、都市計画の中にはガキんちょの育成ってのも入れとくか!」
「そうだな……藪蛇だったな……」

 セカセカと取り出した紙面にメモを綴っていくムラマサ。そのメモの表題は「アルと俺の都市計画」。何だかホモホモしいので、そのタイトルはやめて欲しい。

「よっしゃ! これでよし、と! んで、その『音魔法』ってのはどうやるんでぇ?」
「とても簡単だ。魔力で声帯を作り、腹話術のように話すだけだ。『このように、な』」

 実演して見せた方が早いだろうとやってみたが、非常に面白いな。
 今のはムラマサの声を真似たのだが、そっくりすぎて鳥肌が立ったくらいだ。

「お、おお!? 俺の声じゃねーか! うわー、そりゃ犯罪に使えそうじゃねーか……」
「そんな感想!?」
「つっても、少し違和感あるな。なんつかー、作った声みてーな、ちょっと遠いような、聞きなれたヤツならまず間違えねーくらいにゃ違和感あらぁ」
「実際に声を作ってるからな。で、どうだムラマサ、出来そうか?」
「あ? あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああ」

 いや、お前の口から声を出してどうする。

「魔力を練って、そっと、そうだな、スピーカーを置く感じだ。スピーカー、分かるよな?」
「分からぁ! ラジオや拡声器のアレだろ!? だがありゃ仕組みが複雑で……」

 いきなり魔道具について語り始めたが、そうではない、そうではないのだよ、ムラマサ。

「ストップ、ストップだムラマサ。そんな理屈はいらぬ! 感じろ! 己の第二の声を!」
「は? いや、だってよ」

 くっ、これだから理系脳は!

 管楽器の音を出すのにものすごく苦労するタイプだ。頭で先に考えるから、従来と違う動作を求められているのについていけない。頭が固いというか、クセみたいなものだな。出来るとなると一瞬でコツを掴むが、そのきっかけをつかむのに難儀する。
 こういうヤツには、一度頭をカラッポにして本能の赴くままにやらせるのがいい。

「いいから感覚でやってみろ! 分析、解析、理屈は抜きで、とにかくやってみろ! 何も考えるな! 話はまずそこからだ!」
「お、おう? てやんでぇ? あ、あ、ちげーか。ん? 『こう、か?』」
「……、あっさりだな。そして何故、俺の声……」
「『はっは、こりゃ』 おもしれねーな。って、ダメだ、持続させるにゃコツがいんな」
「そうだな。だが、一番難しい最初の一歩を踏み出せたのだから、後は慣らすだけだろう」
「次はこいつでどんだけ消費が抑えられっかだが、んー『魔法? どう』 やんだ?」
「『音魔法』はその名の通り、音に魔力を乗せて発動するものだから、俺のように歌うか、そうだ! そう、それだ!」

 そうだよ、何を俺は散々遠回りしたのか。

「な、なんでぇ?」
「詠唱だ! 詠唱だよムラマサ! その『音魔法』で詠唱して、魔法を唱えられないか? いや、もっと具体的に言えば、詠唱する事で魔法は使えないのか?」
「詠唱? つまりはどういうことでぇ?」
「特定のキーワード、文言を唱える事で『音魔法』を無意識に発動させ、それで魔法を行使する、という案だ」

 そう、これだ。

「やってみよう。黄昏よりも、いや、ダメだ。我は放つ、ダメだ! 天光満つる所に、いかん! 体は剣ダメだあああ!! 万物の根源たる七無理。何かがヤバい。リーテ ラトバリアウトおおおお!! 本能に何かがヤバいと訴えかけてくる何かがヤバい。チョサクケンがヤバいと脳に直接訴えかけてくる!?」
「お、おい、言葉遣いがおかしくなってないか?」

 どうやら前世の有名な呪文の類は使用できないようだ。こう、神様的な存在が「著作権侵害はダメだから!」と訴えかけてくるように、詠唱そのものを阻害されてしまう。

「そうだな。ならオリジナルで行くしかないか。そうなると、こうか?」

「『我が魔力よ 集いて炎となり 敵を穿て』 『火弾』!!」

 シンプルイズベストと言う言葉が好きだ。だからこそ唱えるべき呪文を簡素化してみた。ドイツ語にしょうか悩んだが、また著作権に引っかかってもイヤなのでこちらの世界の言語にした。

 その結果は、予想以上だった。

 俺の詠唱に呼応して周囲の魔力を疑似声帯が吸引し、魔法の反動を打ち消しつつ、俺の突き出した右手からピンポン球サイズの火球が飛び出て結界に衝突した。

「あっ」

「あっ! じゃねーよ! あぶねーだろ!! 結界張ってあるし、オイラも目の前にいるのに! 非常識すぎでぇ!」

 はい、すいません。
 今回ばかりは非常識を言われても反論できないな。
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