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第二章 大森林
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***
――少年たちに食事を与えた後、俺とムラマサは今後の相談を始めた。
「この後はどうすべきだろうか」
「こいつら見つけたってこって、ツィママンへの報告は問題ねーだろな。だがよ……」
「やせ細ったあの体を見たらこのままにはしておけないだろう。それに、彼らを保護するかはともかくとしても、あの大型の虫は彼らの安全の為にも倒すべきだ。しかし俺とムラマサの二人であいつはどうにかなるものなのか?」
「気持ちは分かるが、ありゃ無理だろ。テメーのあの、なんだ? どでけぇ攻撃も弾かれてたかんなー」
どでけぇ攻撃と言われた『ヤマト』だが、あれでも緊急用で不本意な威力しか出なかったので、その評価には遺憾の意を表したい所だ。だが、ここで異を唱えても、なら本気の『ヤマト』をぶつける隙を作れるかと言われれば、ヤツの動きを見た限りでは無理だと言える。
砲弾が飛ぶのを見てから足ガード余裕でしたとは、よほどの動体視力と反射神経をしているのだろう。
そんな素早い敵相手となると、俺の『音魔法』の最大の弱点、チャージタイムが長い、これが完全に足を引っ張る。こうして実際に現象を目の当たりにしては、確かにムラマサの言う通り、『音魔法』は冒険者向けのスキルではないな。
「溜めの時間さえ稼げれば、いや、後は射程の問題があったか」
「射程だぁ? もしかして、あのどでけぇ攻撃はもっと遠くまで飛ぶってのか?」
「ああ、俺の『ヤマト』、いや、『キャノンランス』は柄の長さで射程が伸びるのだ。実際には数キロ先まで届く、はずだ。もっともそれくらいの射程となると柄の長さも十メートルを超えるから、拠点防衛用にしか使えないのだがな」
十メートル以上の槍など、それはもはや家の大黒柱と変わりないほどの巨大な物体だからな。持ち歩くなど不可能な長さだ。
「はぁ!? いや、待て。『キャノンランス』ってんなら聞いた事あらぁ。そうか、それで見覚えのある攻撃だったってのか」
どうやらこの世界にも普通にこのスキルはあるようだ。
「でも、テメェ。ありゃ最高位の騎士、この国でいやぁ騎士団長クラスが使う大技だぜ? 一体ナニモンなんだ?」
「何者だと問われても、な」
少しでも何か良案が出ないかと情報を開示してみたが、どうやら藪蛇だったようだ。
困ったな。
「テメーがどこぞの神殿騎士だっつわれても、オイラは驚かねーぞ。連中は数が多いしな!」
惜しい、俺は聖騎士だ。神官と戦士からのクラスアップで成る神殿騎士ではない。
「俺は違うぞ?」
「だろーな! 連中はテメーほど強かねーし! あと、あいつらは融通が効かねー信奉者共だから酒飲まねーしよ! ガハハハハ!」
神殿騎士は魔法に寄っているから、そう言う意見もあるだろう。
しかしなんとか誤魔化せた。いや、ムラマサが気を使ってくれたのかね。借りが一つ増えた気分だ。
「で、どうすんでぇ」
「どうするか」
ふう、完全に手詰まりか。
「あ、あの!」
「ん?」
「なんでぇ、ボウズ。まだ食い足りねーのか? おいアル、オヤツはねーのか?」
あるにはあるが、それよりも彼ら少年ズは弁当を半分しか食べていないぞ?
「ち、違う!」
「あ? なんでぇ、まだ半分しか食ってねーじゃねーか! どうした? 腹でもいてーのか?」
「だから違うって! この子、なんで話聞いてくれないんだ!?」
分かる。
ムラマサは結構思い込みが激しいからな。
そしてさりげなくお子様扱いされているな、ムラマサ。本人が流しているから、俺も敢えては触れないが。
「それで、どうして弁当を半分残しているのだ? 別に残した事を責めている訳ではないぞ。何か、食べてはいけないものでもあったか?」
「これは、残りは村のみんなに持って帰るんだ!」
「う、うん。僕らだけこんなおいしいのを食べてたら、申し訳ないから……」
「狩りに出る大人たちに食べてもらえば、もっと獲物が増えるかもしれないしね!」
……、何と言う、何と言う子供たちなのだろう。
ガリガリにやせ細り、今も口元から涎を垂れている所から、まだまだ食い足りないのだろう。育ち盛りだし遠慮する必要はないのに……。
だが、これはそう、日本的な考え方だ。
俺もかつては戦後の厳しい復興状態の中で生を受けた身だ。食べ物の貴重さは分かっていた。いや、分かっていたつもりだった。しかしいつの日か、飽食大国日本の影響を受け、食に対する執着や感謝、何よりもその大切さを見失っていたのかもしれない。今の俺のほぼ全財産とも言える食料だが、代金の請求はツィママンにでもすればいいだろう。この子たちのような存在の安否を気遣う調査依頼を出すくらいだ、あいつとて否やとは言うまい。
ならここで全ての食材を出し切るのも悪い手ではないな。事後承諾で運搬費用として三倍額を吹っ掛けるつもりだが、不可抗力だ、フフフ。
「……、ふ、そうだな。それはお前たちで食べなさい」
「え、でも……」
「こう見えて俺はかなり食料を持っている。その証拠に、ほら」
「わっ! 何もない所からお弁当が! 一個、二個、……十個以上もあるよ!!」
「両手で数えきれない……」
ふむ、数を数えられる所からすると、そこそこの教育は受けているのか。
先ほどの子供たちの、村の者たちを慮る様子と言い、非常に好感のもてそうな村のようだ。そしてそこに住まう人たちも、性根が優しいのだろう。
そんな人たちに、俺の持つ食料を分けるのも、そう、やぶさかではないな。
「もし迷惑でなければ、お前たちの言う村の人たちにも、この食料を渡したいと思っているのだが、どうだろうか?」
そう言うと、子供たちの目がキラキラと輝き始めた。
「オジサン! ありがとう!!」
「すごい! オジサン、すごい人だ!!」
「オジサンも僕みたいに、どこか変なの?」
オジサンオジサンと言われるが、ふむ。
そんなに若く見えるか?
「おいボウズ共。コイツはこう見えてまだ十代だぞ。俺みてーに五十代に差し掛かろうってオッサンじゃねーんだ。ちったぁ気を使えや!」
「え!? ご、ごめんなさい、お兄さん! あとお前、何が五十代だよ! チンチクリンのクセに!」
「はー!? 俺はドワーフだ! この背は生まれついてのモンでぇ! あと、俺、男だかんな! てやんでぇ!」
子供たちが信じられないと言う顔で俺の方を見る。
うん、気持ちは分かる。
あと、事実確認のために俺を見たという事は、俺は子供たちの信頼を勝ち取ったのだろう。心を開いてくれたようで、これは嬉しい反応だ。
食べ物で釣った訳ではない。
「そうだな。そこのオッサンはああ見えて、オッサンだ。とてつもなくオッサンだ。寝ている最中に屁をこくほどのオッサンだ」
「げぇぇぇ!!」
「マジかよ! かわいいと思って油断した!!」
「だ、だましたな!!」
「ざっけんなテメーら! バァロォ共め! 勝手に勘違いしたんじゃねーか! てやんでぇ!」
ムラマサが半分演技の口調で子供たちを叱ると、どうだろうか。
子供たちは横並びに整列し、ムラマサに頭を一斉に下げた。
「な、なんでぇ?」
「「「ごめんなさい!!」」」
「はぇ?」
まぁ、例の村が俺の思う通りの村なら、きっとこういう教育をしているだろうなとは思っていた。そして実際にこのように教育していた訳だ。
悪いことをしたなら、素直に謝る。
俺の中で、その村への好感度がうなぎ登りに急上昇中だ。
「見た目でバカにしちゃいけないって、長老が言ってた」
「こんぷれっくす、あるよね?」
「僕だって、好きでこの体で生まれた訳じゃないんだ。だから、ごめんなさい」
こうなるよな。
「あ、あー。てやんでぇ! 次は許さねぇかんな!!」
そして梯子を外されたムラマサは、素直でない調子で答えているが、それは無いのではないだろうか。
ほら見ろ。子供たちも不安げな様子で俺を見ているではないか。
「ああ、大丈夫だ。こいつはこう見えてあれだ。お前たちの先輩みたいなものだからな。後輩には寛容で優しいのだ」
「っ! そうでぇ! オイラは慣れてっからな! もう気にすんな!」
「慣れてる……」
「慣れてるって……」
「オッサンも辛い人生……」
おいおい、子供たちに同情されてるぞ、ムラマサ氏よ。
「て、てやんでぇ!! おいアル! 飯もっと出してやれ! オラ! てめぇら! 遠慮すんな!!」
飯は出すが、何だかな。今までイジられる側だったから、イジる側になった事がないのだろうか。不慣れな様子が初々しいオッサンだ。
「そう言う訳だから遠慮なく食べなさい。お代わりもあるぞ」
「はい!」
「分かりました!!」
「オッサン……辛い」
そこの少年、まぜっかえすな!
ひとまず子供たちを落ち着かせ、俺はムラマサと再び話をする。
「残りの二人の子は話が出来ないようだな」
「ああ、声がでねぇって話だ。のどの構造と声帯が食い違っちまってるようだ。可哀そうなこった。あれじゃ宣言もできねーからスキルも使えネェ。本当に、残酷な世界だぜ、てやんでぇ……」
そうか、声が出ないのか。
「ん? だったらあれだ。『音魔法』を覚えたらいいのではないか?」
いや、なんだよ、その手があったか! みたいな顔。
唐突にものすごく不細工なのだが……。
「そうでぇ! んじゃ、ガキどもに教えてくるか! ぐぇ!?」
「それより先に今後について決めないといけないだろう。教えるなら腰を据えてやりたいし、例の村の様子も、巨大虫の動向も気になるしな」
そして俺たち二人は再び話し合い、ひとまずその村に行って、その後でツィママンへと報告し物資の補給を終えた上で、再度その村を訪れるのが良いだろうと仮に決めた。虫については今の所は無視、ダジャレではない、をして、後日ツィママンに戦力を借り受ける事となった。
しかし、もう一度大森林を往復するのか。
こんな時、翠水晶があればワープサークルで瞬時に行き来できるのだが、ない物ねだりしても仕方がないか。
「あ、あの!」
魔法の触媒である翠水晶について考えていた時、一人の少年から声がかかった。彼らのリーダー格の少年だ。
そう言えば、それどころではなかったから彼の名前を聞いていなかったな。
「弁当二個では足りなかったか? でも、ほどほどにしておかないと体に障るぞ?」
「ち、違う! そうじゃなくて、お兄さんたちって、冒険者、だよね? 強いの?」
ん? と俺とムラマサは互いの顔を見る。
「つえーぞ」
「標準よりは、上だろうな」
大森林の上位存在である大熊を楽々に狩れるのだから、そう言っても過言ではないだろう。
そんな調子で答えたが、子供たちはヒーローを見る目で俺たちを見て、はくれなかった。
どちらかと言うと、地獄に糸、溺れる者が掴んだ藁、そんな必死さが瞳の奥から伺える。
一体、何事だろうか。
「お願い! 白い子を助けて!!」
――少年たちに食事を与えた後、俺とムラマサは今後の相談を始めた。
「この後はどうすべきだろうか」
「こいつら見つけたってこって、ツィママンへの報告は問題ねーだろな。だがよ……」
「やせ細ったあの体を見たらこのままにはしておけないだろう。それに、彼らを保護するかはともかくとしても、あの大型の虫は彼らの安全の為にも倒すべきだ。しかし俺とムラマサの二人であいつはどうにかなるものなのか?」
「気持ちは分かるが、ありゃ無理だろ。テメーのあの、なんだ? どでけぇ攻撃も弾かれてたかんなー」
どでけぇ攻撃と言われた『ヤマト』だが、あれでも緊急用で不本意な威力しか出なかったので、その評価には遺憾の意を表したい所だ。だが、ここで異を唱えても、なら本気の『ヤマト』をぶつける隙を作れるかと言われれば、ヤツの動きを見た限りでは無理だと言える。
砲弾が飛ぶのを見てから足ガード余裕でしたとは、よほどの動体視力と反射神経をしているのだろう。
そんな素早い敵相手となると、俺の『音魔法』の最大の弱点、チャージタイムが長い、これが完全に足を引っ張る。こうして実際に現象を目の当たりにしては、確かにムラマサの言う通り、『音魔法』は冒険者向けのスキルではないな。
「溜めの時間さえ稼げれば、いや、後は射程の問題があったか」
「射程だぁ? もしかして、あのどでけぇ攻撃はもっと遠くまで飛ぶってのか?」
「ああ、俺の『ヤマト』、いや、『キャノンランス』は柄の長さで射程が伸びるのだ。実際には数キロ先まで届く、はずだ。もっともそれくらいの射程となると柄の長さも十メートルを超えるから、拠点防衛用にしか使えないのだがな」
十メートル以上の槍など、それはもはや家の大黒柱と変わりないほどの巨大な物体だからな。持ち歩くなど不可能な長さだ。
「はぁ!? いや、待て。『キャノンランス』ってんなら聞いた事あらぁ。そうか、それで見覚えのある攻撃だったってのか」
どうやらこの世界にも普通にこのスキルはあるようだ。
「でも、テメェ。ありゃ最高位の騎士、この国でいやぁ騎士団長クラスが使う大技だぜ? 一体ナニモンなんだ?」
「何者だと問われても、な」
少しでも何か良案が出ないかと情報を開示してみたが、どうやら藪蛇だったようだ。
困ったな。
「テメーがどこぞの神殿騎士だっつわれても、オイラは驚かねーぞ。連中は数が多いしな!」
惜しい、俺は聖騎士だ。神官と戦士からのクラスアップで成る神殿騎士ではない。
「俺は違うぞ?」
「だろーな! 連中はテメーほど強かねーし! あと、あいつらは融通が効かねー信奉者共だから酒飲まねーしよ! ガハハハハ!」
神殿騎士は魔法に寄っているから、そう言う意見もあるだろう。
しかしなんとか誤魔化せた。いや、ムラマサが気を使ってくれたのかね。借りが一つ増えた気分だ。
「で、どうすんでぇ」
「どうするか」
ふう、完全に手詰まりか。
「あ、あの!」
「ん?」
「なんでぇ、ボウズ。まだ食い足りねーのか? おいアル、オヤツはねーのか?」
あるにはあるが、それよりも彼ら少年ズは弁当を半分しか食べていないぞ?
「ち、違う!」
「あ? なんでぇ、まだ半分しか食ってねーじゃねーか! どうした? 腹でもいてーのか?」
「だから違うって! この子、なんで話聞いてくれないんだ!?」
分かる。
ムラマサは結構思い込みが激しいからな。
そしてさりげなくお子様扱いされているな、ムラマサ。本人が流しているから、俺も敢えては触れないが。
「それで、どうして弁当を半分残しているのだ? 別に残した事を責めている訳ではないぞ。何か、食べてはいけないものでもあったか?」
「これは、残りは村のみんなに持って帰るんだ!」
「う、うん。僕らだけこんなおいしいのを食べてたら、申し訳ないから……」
「狩りに出る大人たちに食べてもらえば、もっと獲物が増えるかもしれないしね!」
……、何と言う、何と言う子供たちなのだろう。
ガリガリにやせ細り、今も口元から涎を垂れている所から、まだまだ食い足りないのだろう。育ち盛りだし遠慮する必要はないのに……。
だが、これはそう、日本的な考え方だ。
俺もかつては戦後の厳しい復興状態の中で生を受けた身だ。食べ物の貴重さは分かっていた。いや、分かっていたつもりだった。しかしいつの日か、飽食大国日本の影響を受け、食に対する執着や感謝、何よりもその大切さを見失っていたのかもしれない。今の俺のほぼ全財産とも言える食料だが、代金の請求はツィママンにでもすればいいだろう。この子たちのような存在の安否を気遣う調査依頼を出すくらいだ、あいつとて否やとは言うまい。
ならここで全ての食材を出し切るのも悪い手ではないな。事後承諾で運搬費用として三倍額を吹っ掛けるつもりだが、不可抗力だ、フフフ。
「……、ふ、そうだな。それはお前たちで食べなさい」
「え、でも……」
「こう見えて俺はかなり食料を持っている。その証拠に、ほら」
「わっ! 何もない所からお弁当が! 一個、二個、……十個以上もあるよ!!」
「両手で数えきれない……」
ふむ、数を数えられる所からすると、そこそこの教育は受けているのか。
先ほどの子供たちの、村の者たちを慮る様子と言い、非常に好感のもてそうな村のようだ。そしてそこに住まう人たちも、性根が優しいのだろう。
そんな人たちに、俺の持つ食料を分けるのも、そう、やぶさかではないな。
「もし迷惑でなければ、お前たちの言う村の人たちにも、この食料を渡したいと思っているのだが、どうだろうか?」
そう言うと、子供たちの目がキラキラと輝き始めた。
「オジサン! ありがとう!!」
「すごい! オジサン、すごい人だ!!」
「オジサンも僕みたいに、どこか変なの?」
オジサンオジサンと言われるが、ふむ。
そんなに若く見えるか?
「おいボウズ共。コイツはこう見えてまだ十代だぞ。俺みてーに五十代に差し掛かろうってオッサンじゃねーんだ。ちったぁ気を使えや!」
「え!? ご、ごめんなさい、お兄さん! あとお前、何が五十代だよ! チンチクリンのクセに!」
「はー!? 俺はドワーフだ! この背は生まれついてのモンでぇ! あと、俺、男だかんな! てやんでぇ!」
子供たちが信じられないと言う顔で俺の方を見る。
うん、気持ちは分かる。
あと、事実確認のために俺を見たという事は、俺は子供たちの信頼を勝ち取ったのだろう。心を開いてくれたようで、これは嬉しい反応だ。
食べ物で釣った訳ではない。
「そうだな。そこのオッサンはああ見えて、オッサンだ。とてつもなくオッサンだ。寝ている最中に屁をこくほどのオッサンだ」
「げぇぇぇ!!」
「マジかよ! かわいいと思って油断した!!」
「だ、だましたな!!」
「ざっけんなテメーら! バァロォ共め! 勝手に勘違いしたんじゃねーか! てやんでぇ!」
ムラマサが半分演技の口調で子供たちを叱ると、どうだろうか。
子供たちは横並びに整列し、ムラマサに頭を一斉に下げた。
「な、なんでぇ?」
「「「ごめんなさい!!」」」
「はぇ?」
まぁ、例の村が俺の思う通りの村なら、きっとこういう教育をしているだろうなとは思っていた。そして実際にこのように教育していた訳だ。
悪いことをしたなら、素直に謝る。
俺の中で、その村への好感度がうなぎ登りに急上昇中だ。
「見た目でバカにしちゃいけないって、長老が言ってた」
「こんぷれっくす、あるよね?」
「僕だって、好きでこの体で生まれた訳じゃないんだ。だから、ごめんなさい」
こうなるよな。
「あ、あー。てやんでぇ! 次は許さねぇかんな!!」
そして梯子を外されたムラマサは、素直でない調子で答えているが、それは無いのではないだろうか。
ほら見ろ。子供たちも不安げな様子で俺を見ているではないか。
「ああ、大丈夫だ。こいつはこう見えてあれだ。お前たちの先輩みたいなものだからな。後輩には寛容で優しいのだ」
「っ! そうでぇ! オイラは慣れてっからな! もう気にすんな!」
「慣れてる……」
「慣れてるって……」
「オッサンも辛い人生……」
おいおい、子供たちに同情されてるぞ、ムラマサ氏よ。
「て、てやんでぇ!! おいアル! 飯もっと出してやれ! オラ! てめぇら! 遠慮すんな!!」
飯は出すが、何だかな。今までイジられる側だったから、イジる側になった事がないのだろうか。不慣れな様子が初々しいオッサンだ。
「そう言う訳だから遠慮なく食べなさい。お代わりもあるぞ」
「はい!」
「分かりました!!」
「オッサン……辛い」
そこの少年、まぜっかえすな!
ひとまず子供たちを落ち着かせ、俺はムラマサと再び話をする。
「残りの二人の子は話が出来ないようだな」
「ああ、声がでねぇって話だ。のどの構造と声帯が食い違っちまってるようだ。可哀そうなこった。あれじゃ宣言もできねーからスキルも使えネェ。本当に、残酷な世界だぜ、てやんでぇ……」
そうか、声が出ないのか。
「ん? だったらあれだ。『音魔法』を覚えたらいいのではないか?」
いや、なんだよ、その手があったか! みたいな顔。
唐突にものすごく不細工なのだが……。
「そうでぇ! んじゃ、ガキどもに教えてくるか! ぐぇ!?」
「それより先に今後について決めないといけないだろう。教えるなら腰を据えてやりたいし、例の村の様子も、巨大虫の動向も気になるしな」
そして俺たち二人は再び話し合い、ひとまずその村に行って、その後でツィママンへと報告し物資の補給を終えた上で、再度その村を訪れるのが良いだろうと仮に決めた。虫については今の所は無視、ダジャレではない、をして、後日ツィママンに戦力を借り受ける事となった。
しかし、もう一度大森林を往復するのか。
こんな時、翠水晶があればワープサークルで瞬時に行き来できるのだが、ない物ねだりしても仕方がないか。
「あ、あの!」
魔法の触媒である翠水晶について考えていた時、一人の少年から声がかかった。彼らのリーダー格の少年だ。
そう言えば、それどころではなかったから彼の名前を聞いていなかったな。
「弁当二個では足りなかったか? でも、ほどほどにしておかないと体に障るぞ?」
「ち、違う! そうじゃなくて、お兄さんたちって、冒険者、だよね? 強いの?」
ん? と俺とムラマサは互いの顔を見る。
「つえーぞ」
「標準よりは、上だろうな」
大森林の上位存在である大熊を楽々に狩れるのだから、そう言っても過言ではないだろう。
そんな調子で答えたが、子供たちはヒーローを見る目で俺たちを見て、はくれなかった。
どちらかと言うと、地獄に糸、溺れる者が掴んだ藁、そんな必死さが瞳の奥から伺える。
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