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第一話:氷の剣、震える指先
しおりを挟む第一話:氷の剣、震える指先
「……承知いたしました、殿下。お望みのままに」
優雅にカーテシーの礼をとり、深く腰をおろすそのさまは雪の中の儚い春をまつ花のようだ
カイルはエルセの返事を聞くと、何の感情も見せずに冷たい真紅の眼差しで一瞥した。、行ってくる
「それと、俺の部屋には近づくな。お前の部屋は別に用意してある。……使用人が案内するだろう」
振り返ることもなく告げられた冷酷な声。長い黒のマントが重々しく翻り、彼の背中からは明確な拒絶のオーラが滲み出ていた。それはまるで、触れる者すべてを凍りつかせる氷の壁のようだった。
周囲の貴族たちは、獲物を見るような好奇の視線と、わずかばかりの同情をエルセに向けてヒソヒソと囁き合っている。
(――ああ、これでいい。期待などしなければ、傷つくこともないのだから)
エルセは側にたっても何マイルも離れている夫の背中を見つめながら胸元で拳を握りしめ、自分に言い聞かせた。この結婚が愛のない砂漠のようなものだということは、誰の目にも明らかだった。
「王妃様こちらになります」
使用人に案内されて辿り着いた自室は、豪華ではあったが、主を拒むような冷たく寂しげな空気が漂っていた。窓の向こうには広大な庭園が見え、さらにその先にはカイルの居室がある別棟がそびえ立っている。
同じ屋根の下にいながら、彼との距離は果てしなく遠い。
「使用人の方達が礼儀を保ってけれているのは有難いわね」
正直、正妻扱いされているのが少し不思議にかんじていた
「夫とは冷たい氷河に阻まれているようなのに、それでも王妃扱いをしてくれるならば、精一杯体裁は整て正姫としての最低限の役目をしなければ」
『そう、私が機嫌を損ねれば一縷の望みも掌の雪の様に消えてしまうのだから』
窓の外を眺めると遠くに庭園が見える。美しい花を咲かせて管理の行き届いた庭園は氷の監獄の様な城の中で僅かな希望の光の様に輝いて見えた。遠くの庭園から目が離せずに家族に想いを馳せていた
数日が経ち、エルセは城での生活に少しずつ慣れ始めていた。
しかし、カイルとはほとんど顔を合わせることもない。食事も別々、生活空間も完全に分けられている。まるで同じ城という器に閉じ込められた、赤の他人のようだった。
それでも、カイル殿下には心より感謝申していた。家門への温情、そして弟へのご支援をり。
期待以上に良くして頂いている
「この結婚は書類上の物だ。お前に興味はない。わかったなら俺の邪魔をするな。この屋敷の隅で、死んだように静かにしていろ」
そう言われたあの日、死の淵を綱渡りの様に歩いていた。しかしカイル殿下の邪魔さえしなければ城では、自由が許されエルセはほんの少し、呼吸が楽になった気がしていた
ある日の午後。
エルセが重苦しい空気から逃れるように散歩をしていると庭園にたどり着いた。
「ここは……いままで、遠くでながめていたあの庭園?」
目が輝き、芳しい香りが漂ってくる。大きく胸を膨らませ。体全体で感じる
春の暖かい日差しに溶けていくような、そんな気がした
「お花を部屋に飾れないかしら?」
エルセは家財を没収され、お気に入りの花瓶も可愛い花の刺繍の天外に、かけるカーテンも全て失った。エセルのものは何も無く
せめて。部屋に生花を飾りたいと願った
「庭師は居ないのかしら?」
辺りを見回しながら進んでいくと
遠くから空気を切り裂くような鋭い音が聞こえてきた。好奇心が顔を出し
音のする方へ近づいていくと、そこには上半身を露わにし、一心不乱に剣を振るカイルの姿があった。
陽光を浴びて光る汗、岩のように引き締まった身体、そして一切の隙のない剣さばき。鋭い眼光を放つその姿は、まさに「戦鬼」と恐れられる孤高の戦士そのものだった。
エセルは声も出せずに見いいっていた
それは、恐怖なのか好奇なのか……
カイルはエルセの気配を察知すると、ぴたりと動きを止めた。
「……何の用だ。見世物ではないぞ」
汗を拭おうともせず、彼は剣を構えたまま、警戒するような目つきでエルセを射抜いた。
その視線は、初夜の時よりもなお鋭く、彼女の細い肩を震わせるほどに冷たかった。
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