離婚しようとしたら将軍が責任とれ?

エイプリル

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第十七話 将軍の留守、心の隙間

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第十七話 将軍の留守、心の隙間

 繍慧(シュウフェイ)が息を弾ませて駆けてきた。

 「泰殿が伝言を持ってきました。将軍さまは、暴動の後始末に追われていて──巻き添えになった民の臨時天幕の設置、破壊された建物の撤去、犯人の捕縛の指揮まで……しばらくはお戻りにならないとのことです」

 「……わかりました」

 私はきっぱりと頷くと、即座に言った。

 「下男を集めなさい!」

 「え、ちょ、嫁っ子ちゃん、何をするつもりだい?」

 王子様が驚きつつ問いかける。

 「説明してる暇はありません!」

 そう言って立ち上がる私の腕を、王子様がすかさず支えてくれる。

 「支えるよ」

 軽く礼を言い、小走りで中庭へ向かう。すでに下男たちが整列し始めていた。

 「聞いてください!」

 私は厳しい顔で言葉を発する。声に迷いはない。

 「これから数名ずつに組分けします。第一組は倉庫からクワ、スキ、荷車、桶を持ち出し、将軍の元へ届けてください。第二組は、屋敷にある薬草を余すことなくかき集めて、同じく届けなさい」

 「繍慧、あなたは着替えと食事を持って、将軍に届けて」

 「お任せください!」

 皆の力強い返事に、私は自然と微笑んでいた。

 「墨影兵で屋敷に残っている者を呼び出して、正門から屋敷の周りを三交代制で警備させなさい」

 さらに声を強めて告げる。

 「将軍の留守の間、一匹の蟻たりとも通すな! もし手抜かりがあれば、軍令にて罰します!」

 「ピューッ!」

 王子様が口笛を吹く。

 「勇ましいねぇ、嫁っ子ちゃん♪」

 軽口に、明蘭が帳簿を確認しながらふふっと笑い、

 「大旦那様のもとで勉強してましたから、これくらい当然です」と胸を張った。

 「まだよ」

 私はきっぱり言い添える。

 「将軍の張った天幕の近くに、粥の施しの天幕を張りたいの。……王子様の出番です。いち早く許可を取ってください」

 「かしこまり~♪」

 王子様は気軽に返事をしながらも、すぐに踵を返して宮廷へ向かって走っていった。

 「明蘭!」

 「はい!」

 「侍女たちを集めて。下級侍女は炊き出し。中級侍女は交代で墨影兵に食事を配膳。上級侍女には屋敷内の見回りをさせて。何か増えたり、減ったりしていないか、巡回記録を作るように」

 「承知しました!」

 明蘭がきっぱりと答える。

 それぞれが役割を得て、四方八方に走り出した。

ーーーーーーーー

数日後

墨影兵が槍を持ち
門前で整然並んでいる
何人か門前で騒ぐ人が来たが

将軍府の中は平常に戻りつつあった

奥様。帳簿ですと明蘭が臨時で放出した物資等の帳簿を毎日持ってきては
夫人に見せている

いいわねと見終わると明蘭に戻し
そろそろ施しの粥も少しづつ引き上げましょう

この後は、少し材木等値が上がるはずなので
法外な値を付けるところを記しておいて
それから米問屋ね
はい!と短く明蘭が返事をしたところで

「やぁ嫁っ子ちゃん」と軽口の挨拶をしてくるのは

「王子様!待ってましたよ~」
とガシッと腕を組んで
「さぁ、さぁ、いいからいいから♪」と引っ張っていく

「ちょっと?嫁っ子ちゃん?何?え?何~?」

引きずられた先は
晨の屋敷だった

部屋につくと同時に
もう「いらない」とばかりに
ぺいっと投げ捨てるように
入口において小走りに晨に近寄る

「ダメダメ~取って上げるから!やっとものが掴めるようになったんだから
無理しないの~」

どうしたの~と聞きながら
晨の顔を拭き
晨の綺麗な顔が治って良かったわ~
この辺はもう少しね~
と、傷やアザの確認をするのが日課になった


晨が照れくさそうに「はい」と答えるのを見て、王子は黙ってその様子を見守る。だが、その眼差しはどこか寂しげで、決して軽薄なものではなかった。

ふと、夫人が晨の顔を拭いた時、王子がぽつりと漏らした。

「羨ましいな……俺だって似たような顔なのに……」  

「え?」と首をかしげて振り返る。夫人

「ゔっ。か、かわいい
あ!いやなんでもないよ~」


『どうしたんだ?なんだかドキドキする』

「晨も元気そうだし、そろさろ行くよ。将軍の様子もみないとね?」


笑顔の裏に、ほんの一瞬だけ滲んだ切なさを残して、王子は背を向けて歩き出した。

夫人はその背中をひと目見やったが、すぐに視線を晨へと戻した。

――人懐こい人。でも、ああいう言葉は、きっと誰にでも言っているのだろう。

兄や弟の世話を焼いて育った彼女にとって、男の人は守るべき対象ではあっても、恋愛の相手にはなり得ない。ましてや、あんな明るくて人を惑わすような王子が、自分を特別視するはずがないと思い込んでいた。

それに、恋というものは――本で読むにはいいけれど、自分に起こることだとは今でも思えなかった。

「晨、痛くない?少し赤くなってるかしら」

淡々と、けれど優しい声でそう言いながら、夫人は再び晨の手当てに集中した。

まるで、王子の言葉など初めから聞いていなかったかのように――。






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