「愛してるから抱きたい俺」と「愛してるなら放してよという彼女」〜身体を重ねる意味がわかりません〜

エイプリル

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第1話:おはようから始まる絶望の朝食

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 登場人物紹介

 れん:彼女が兎に角大好きなヤンデレ気味な彼氏

 高身長のイケメンなのに残念な性格
 今は兎に角彼女を自分のものだという実感が欲しい


 結衣:れんの彼女。

 れんは私の何が好きなの?
 好きだから愛してるからと言えば
 何でも譲らなければならないなんて可笑しいよ
 いつも正論パンチで反撃して
 返り討ちにする
 れんは好きだけど、何でが多すぎてわからない






 ​第1話:おはようから始まる絶望の朝食

 その日はとんでもない発言から始まった


「ねぇ、ヤろ?」


 ベッドの端に腰掛けたれんが、低い声で結衣に促した。その瞳には、隠しきれない熱と不満が混じり合っている。

「やだ。眠いの~」

 結衣は素っ気なく返し、潜り込んだ布団の感触を確かめた。今はただ、この柔らかい闇に包まれて眠りたかった。

「え~、眠いの? でも俺、もう我慢できないんだけど……。今日、すごくムラムラしてるんだよね」

 不満げに眉をひそめ、れんがじっとこちらを見つめてくる。その視線の重さに、結衣は小さくため息をついた。

「しらない」

 突き放すように言って、頭まで布団をかぶる。

「知らないって言われても困るなぁ……。布団の中、暖かそうで気持ち良さそう。一緒に入りたいんだけどな」

 れんの指先が布団の端をそっと引っ張る。その気配に、結衣は身を硬くした。暗闇の中で、彼の瞳が危険な光を宿しているのが分かった。

「お触り禁止」

「えー、触るくらい良いじゃん……。ちょっとだけ」

 唇を尖らせたれんが、布団越しに結衣の足先を探るように指を這わせてくる。

「やっ!」

 結衣は素早く足を引っ込めた。

「ちぇっ……逃げられちゃった。そんなに嫌がらなくてもいいのに……」

 舌打ちをする音。ベッドの端で一人取り残されたれんの瞳孔が、夜の闇に同化して開いていく。

「おやすみなさい」

「待ってよ……まだ寝ちゃダメだよ。今日こそは君のこと、いっぱい愛したいんだ」

 結衣の背中に向けられる、執着の混じった声。

「疲れてるの」

「疲れてるなんて嘘でしょ。俺の方がずっと疲れてるよ。なのに眠れないくらい、君のことが欲しくてしょうがないんだよ」

 れんは枕元に跪き、結衣の耳元で切実に囁く。その温度が肌に触れるようで、結衣は思わず身をよじった。

「ねぇ、お願い、寝かせて」

 沈黙が流れる。やがてれんは目を細め、諦めたように布団の端を見つめた。

「わかったよ……。今日は諦める。でも、明日は絶対に逃がさないからね。おやすみ、結衣」

 月明かりが部屋に差し込み、一人座り込むれんの横顔を青白く照らし出す。その姿は、まるで獲物を逃した獣のようでもあり、捨てられた子供のようでもあった。

「ふぅ……今日はダメだったか。でも、諦めないからね」

「……ん」

 結衣が寝返りを打ちながら漏らした微かな声に、れんの口角がわずかに上がった。

「その『ん』だけで、今は許してあげる。明日こそは……逃がさないよ」

 翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びながら、れんはキッチンに立つ結衣の姿を凝視していた。

「おはよう、結衣。昨日は諦めたけど、今日は一日中チャンスを狙ってるからね」

 寝癖のついた髪を掻き上げながら、彼は露骨に唇を舐める。

「何それ~、あははは。ご飯たべる?」

「ご飯作ってあげるよ。でも食べ終わったら、一緒に散歩に行かない? 外なら人目があって、君も逃げにくいだろうし」

 れんの言葉に、結衣はフライパンを回しながら首を傾げた。

「え? いいよ。運動して発散したら?」

「それいいね! 公園まで走ろうか。二人で汗かいたら、その後のこと……考えてくれる?」 

「ご飯食べてすぐ走ったらお腹痛いじゃん。一人で走ってきなよ」

「えー、そんな意地悪言わないでよ……」

 軽口を叩きながらも、れんの目は笑っていない。朝食が並び、二人はテーブルを挟んで向き合った。

「……何がそんなに不満なの?」

 結衣が尋ねると、れんは身を乗り出して彼女を射抜くように見つめた。

「何って……今日こそは君をゲットするってことだよ。ご飯を食べたら動きが鈍くなるでしょ? 走った後、息を切らしているところを捕まえるのもいいな」

「パフォーマンスが落ちるの? それはそっちも同じでしょ」

「そうだね。でも、俺は結衣が欲しくて我慢できないんだ」

「めんどくさい……」

 結衣の呟きに、れんの表情が一変した。苛立ちが顔を出し、フォークを持つ手に力がこもる。
「面倒くさいって……そんな言い方しないでよ。ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃん」

「ちょっとじゃない予感がする」

「鋭いなぁ……そうだよ。でも、一緒にいたいだけなんだよ」

 結衣は不思議そうに目を瞬かせた。

「一緒に、いるじゃん。今だって、こうして」

「いるけど……もっと近くにいたいんだよ。物理的にも、気持ち的にも! ただ朝ごはんを食べてるだけじゃ満足できないんだ」

「十分近くにいるよ?」 

「足りないんだって。もっと触れたいし、体温を感じたい。……
一口ちょうだい? あーん、って」

 結衣は渋々、スクランブルエッグをフォークで掬って彼の口元へ運んだ。

「はい、あーん。これでいいでしょ?」

「ん……美味しい。でも、これだけじゃ全然足りない。もっと欲しいな、結衣の全部が」

 れんが結衣の手首を掴む。その指先がわずかに震えていた。

「え……。上げられるものじゃないよ」

「わかってる。だから奪いたいんだ。今日こそ逃がさないからね」

 結衣は、彼の手を冷めた目で見つめた。理解ができなかった。どうしてこの人は、これほどまでに「形」に固執するのだろうか。

「はぁ……。意識を飛ばせたらいいのに。そうすれば体だけ渡して、意識は別の所に行けるでしょ」

 その言葉は、れんの心に深い傷をつけた。
 
「意識を飛ばすなんて簡単に言うなよ……! 俺がどれだけ必死で君のことを考えてると思ってるの? 体だけじゃダメなんだよ、意識ごと全部欲しいんだ!」

「いったいよ! 欲しいって何よ、ものじゃないんだから。それに何? 体を触らせないと心を繋げられないの? 変じゃない?」

 結衣は腕を振り払おうとしたが、れんの力は強まるばかりだ。

「違う……! 心も体も、全部俺のものにしたいんだ。もっと近くに感じたいだけなんだよ!」

「だから、何で体を渡さないと近くに感じられないの? 兄弟だって、親だって、友達だって心は繋がってるよ。どんなに離れても、絆は切れない。そうでしょ?」

 れんの顔が苦痛に歪んだ。

「それとは違うんだ……! 俺は結衣のことを、それ以上の存在として見てるから。肌で感じないと、君がどこかへ行ってしまいそうで不安なんだ。心だけじゃ足りない、もっと確かな証拠が欲しいんだよ」

「体を渡したら確かなものになるの? 確かなものって、何?」

 れんは熱っぽい視線で結衣を見つめ、キッチンの壁に背を預けたまま、ずるずると崩れ落ちるように彼女に縋り付いた。

「それは……君が俺のものだって証拠だよ。逃げられないって、実感したいんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、結衣の口から冷淡な拒絶がこぼれた。

「……キモい。

逃げられないって何? 私の自由を奪うの? それがれんの愛情表現なの? 違うじゃない」

 れんは弾かれたように手を離した。あまりに真っ当で、あまりに温度のない結衣の正論。それが、愛を叫んでいたはずのれんの胸を深く、残酷に突き刺す。

「キモい」

という決定的な拒絶を前に、

れんだけが、

自分たちの間に修復しがたい深い溝が刻まれたことを悟り、ただ独り絶望の淵に立たされていた。

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