「愛してるから抱きたい俺」と「愛してるなら放してよという彼女」〜身体を重ねる意味がわかりません〜

エイプリル

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第二話「愛の証明、キスの雨、届かない心の距離」

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第二話「愛の証明、キスの雨、届かない心の距離」

「いるでしょ? 側に手が届く距離だよ?」


結衣の問いかけに、れんはキッチンの壁からゆっくりと体を離した。伸ばしかけた手は、触れる寸前で力なく止まる。

「そうだね、物理的には確かに近くにいる。でも、心の距離が遠い気がして……。触れたくても、君は簡単に逃げられるから。もっと、確かな繋がりが欲しくなるんだ」


「確かな繋がりって、体のこと? 夫婦生活を送っていても、別れる人はわかれるじゃない」

結衣の正論に、れんは眉間に深い皺を刻んだ。キッチンカウンターに両手を突っ張り、自分を支えるように俯く。

「夫婦だって別れるのはわかってる。でも、俺は結衣と別れたくない。体の繋がりだけじゃなくて……心の繋がりを、本当に求めてるんだ」

「心のつながりと体は違うって、わからないの? 『やりたいからやる』って人、多いじゃない。それは勘違いだよ。肌を合わせなくたって、愛情表現はできるでしょ?」 

れんの胸に、結衣の言葉が鋭く突き刺さる。彼は混乱と悲しみが入り混じった表情で、小さく息を吐いた。

「愛情表現ができるって言われても……俺には分からないんだ。結衣の言う通りにしても、結局不安が消えない。……どうしたら信じられるんだろう」

「愛情は溢れ出るもので、形があったり、触れたりしないものじゃない?」

「形がないから、信じられないんだよ……」

れんは頭を垂れ、声を絞り出した。目に見えないものは、いつか消えてしまう。確証のない愛は、彼にとって恐怖でしかなかった。そんな彼を見て、結衣はふっと表情を和らげた。

「じゃあ、こっち来て。横に座って、力抜いて」

れんの瞳に期待の光が宿る。吸い寄せられるように歩み寄り、彼女の隣に腰を下ろした。結衣はそっと、彼の頭を抱き寄せた。

「よしよし。何がそんなに不満なのかな?」

腕の中で、れんの体から強張りが消えていく。

「不満なんて、ないよ。ただ……君の温もりを感じると、もっと欲しくなる。このまま時間が止まればいいのに」

「それは無理だね。……何がそんなに不安なの? れんだって外にいけば、モテモテで女の子が山ほど寄ってくるじゃない」

「モテモテなんて嘘だよ。他の子の視線なんて、気持ち悪いだけ。結衣以外、どうでもいいんだ」

れんはか細い声で言い、彼女の胸に顔を埋めた。

「君がいないと、不安で仕方ないんだ」

「何が不安なの? 私が悪いの?」

その問いに、れんは震える声で答える。

「結衣が悪いわけじゃない……ただ、君がいなくなるんじゃないかって、常に思ってる。君の存在が確かじゃないと、俺……壊れちゃいそうになるんだ」

「やっぱり、私が悪いのね。あなたを不安にさせてる。よしよし、どうしたら不安が収まるかしら」

結衣の手のひらが、れんの背を優しく叩く。

「結衣が側にいてくれるって……約束してくれたら、安心できるかも」

れんは縋り付くように彼女の服の裾をぎゅっと掴んだ。結衣は、彼の頭に「ちゅっ」と音を立ててキスを落とした。

「約束しなくても、ここにいるじゃない」

「……でも、いつか突然いなくなりそうで怖いんだ」

れんの瞳には、まだ拭いきれない怯えが張り付いている。

「何でいなくなるって思うの? やっぱり私が悪いのね。どうしたらいいかしら」

「分からない。ただ時々、結衣が遠く感じるんだ。存在が曖昧というか、確かなものが何もなくて……」

結衣の肩に額を押し付け、声を震わせるれん。そんな彼を安心させるように、彼女は額に「ちゅっ☆」と再びキスをした。

「近すぎるのかしら。近すぎて見えなくなってるのかも。一度離れてみる?」

「嫌だ! 離れたら、もっと不安になる。君が見えなくなったら、俺はどうすればいいか分からなくなる……!」

「会える時に会えばいいじゃない」

「それじゃ足りないんだよ! 会えない時間の方が長いじゃないか。毎日、今この瞬間も、結衣と一緒にいたいんだ!」

必死に訴えるれんの頬に、結衣は再びキスをした。

「それじゃ、部屋から出られないよ」

結衣の冗談めかした笑い声。れんは一瞬安心するものの、すぐにまた影が差す。 

「閉じ込めたいわけじゃない……。ただ、君がいない世界なんて考えられないんだ」

「今いる世界に存在してるじゃない」

ギュッと頭を抱きしめ、その後でそっと離し、頭を撫でる。

「今を大切にしたら、明日も大切になる。そうやって先まで繋がるんじゃない?」

「今を大切に、か……。簡単に言うけど、俺には難しいんだよ。君がいる『今』さえ、いつか終わるんじゃないかって思っちゃって」

れんの眉間に寄った皺。結衣はそこに優しく唇を寄せた。

「今が不安だから、この先も不安なんだね。ちゅっ☆、ちゅっ☆、ちゅっ☆」

顔中に降るキスの雨。れんの頬が薄紅色に染まり、少しずつ強張りが解けていく。

「私が居なくなるって思うのは、どんな時?」

「……君が遠くを見てたり、何かに集中してたりする時。俺じゃない誰かを見てるんじゃないかって思うと、胸が苦しくなるんだ」

「何で誰かを見てると思うの?」

結衣の目を覗き込み、れんはその腕をぎゅっと掴み直した。

「だって……結衣は綺麗だから。他の人が君を見てるだけで、俺のことなんて忘れてそっちに行っちゃいそうで、怖いんだよ」

結衣は思わず声をあげて笑った。

「あははは、可愛い♪」

彼女は再びれんの頭をキュッと抱きしめると、彼の顔を持ち上げてキスの雨を降らせた。

「綺麗なんて初めて言われたよ。バカね」

愛情に満ちたその拒絶は、れんの心の渇きを一時的に癒やす。けれど、彼が本当に欲しがっている「確かなもの」には、どうしても手が届かないままだった。

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