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第3話:甘い朝食と、消えない予感
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「れんだってこんなにかっこいいから、外で女の子の目が気になる時あるけど。そんな時は目をじっと見れば、私に向けられる眼差しで、もうどうでもいい気がするよ?」
結衣はそう言って、れんの顎にちゅっとキスを落とした。そのまま彼の背中を優しくナデナデと撫でる。
「本当に……? 結衣は俺のことだけを見ててくれる? 外でも、どこでも」
れんは彼女の背中に手を回し、その温もりに身を委ねながらも、縋るような瞳で結衣を見つめ返した。
「ちゅっ」
今度は、唇に触れるだけの軽いキス。
「今も見てるでしょ?」
結衣の柔らかい感触が全身を突き抜け、れんは目を見開いたまま固まった。キッチンの朝日が二人を包み込み、この瞬間だけは彼女が「自分のもの」であるという実感が、微かな安堵と共に心を満たしていく。
「うん……今、結衣だけを見てる」
「良かった」
結衣はれんの額に自分の額をこつんと預け、そっと体を抱き寄せた。落ち着かせるように背中を撫でる手のひら。その規則的なリズムに、れんの肩からようやく力が抜けた。
「……落ち着いた?」
「うん。落ち着いてきた。結衣がいると、本当に安心できる」
「じゃあ、朝ごはんにしよ? 何作ってくれるんだっけ?」
結衣の明るい声に、れんは我に返った。キッチンカウンターには、作りかけのトーストとスクランブルエッグ。
「あ、そうだった……。すぐ仕上げるね」
「お腹すいたよ、早く~」
慌ててフライパンに向かうれんの後ろ姿に、結衣の楽しげな歌声が重なる。
「お腹すいた、食べたい、食べたいよ~♪」
でたらめな歌を口ずさむ彼女の無邪気さが、れんの目尻を優しく下げさせる。
「はい、どうぞ。熱いうちに食べてね」
「頂きます~♪」
結衣はゴキゲンでフォークを動かし、「美味しい!」と頬を緩ませた。口の横にちょこんとケチャップがついている。
「ほら、こっち向いて」
れんはティッシュを手に、彼女の口元をそっと拭った。
「ん~~、ありがとう」
「どういたしまして。結衣が喜んでくれると、俺も嬉しい」
テーブルに肘をつき、結衣の顔を覗き込む。
「結衣と一緒にいると、世界で一番幸せな気がするよ。これからもずっとこうしていたい」
「うん。穏やかに過ごせたらいいね」
結衣の肯定の言葉。れんはテーブル越しに彼女の手をぎゅっと握りしめた。窓から射し込む朝日が、重なり合った指を金色に縁取る。
「結衣がそう言ってくれると、本当に安心できるよ……」
結衣は握られた手に、ちゅっと軽くキスをした。
「ん……。結衣のキス、何度されても慣れないよ」
「やだ、そんな風に言われると恥ずかしいよ」
結衣は照れて笑うが、れんは真剣だった。
「だって本当のことだから。結衣がいるとドキドキが止まらないんだ」
「やだ、くすぐったい」
照れる彼女の肩に、れんはそっと頭を寄せた。
「結衣が可愛すぎて困るよ……もっと近くにいたい」
「ふふっ、子供みたい。可愛い頭。ナデナデ」
結衣の手が髪を梳く。その心地よさに目を細めながらも、れんの心には静かな不安が澱(おり)のように溜まっていく。
(今、こんなに幸せなのに……。どうしてこの感触は、掴もうとするほど指の間からこぼれていく気がするんだろう)
「結衣のナデナデ、最高……もっとしてほしい」
「うん、いいよ。可愛い、可愛い」
彼女の愛の言葉は、今のれんにとっては「今」を繋ぎ止めるための麻薬のようだった。
「結衣に撫でられると、全部忘れちゃう……。結衣のことしか考えられなくなる」
「やだ、記憶喪失? 忘れないで~(笑)」
「忘れないよ。ただ、結衣だけを見てたい時間が増えちゃうんだ」
「困っちゃうね。欲張りすぎちゃだめ」
結衣が冗談めかして言ったその「欲張り」という言葉に、れんはハッとして体を引き離した。
「ごめん……欲張りすぎちゃった。でも結衣と一緒にいると、つい欲張りになっちゃうんだ」
寂しげな視線を送るれんに、結衣は少しだけ困ったように笑った。
「もう! そろそろ重いよ。少し離れて?」
「……わかった。ごめんね。結衣が嫌なら、離れるよ」
れんは椅子を少し引いた。体は離れても、彼の手はまだテーブルの上で、彼女が座っていた場所の余熱を無意識に探している。
結衣が笑うたび、優しくするたび、れんの心は救われ、そして同時に「これを失う日」へのカウントダウンを始めてしまう。彼女の「今を大切に」という言葉を信じきれないまま、れんは明るい朝日の中で、一人だけ底の見えない不安の淵を歩いていた。
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