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第一章 夢見るケモノは呪われている
第10話 日常が割れる音
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目の前に並ぶ色とりどりのサラダバーを見ても、蕾生の心は弾まなかった。
「野菜がおかわり自由でもなあ……」
「文句言わないの。それからサラダを野菜って呼ぶのやめなさい」
蕾生がサラダを盛らないのは当然としても、永もサラダバーに向かう気配がないまま二人は席に着いた。
「永。サ、ラ、ダ、よそわねえの?」
わざとらしく言うと、永は小声で周りを気にしながら短く言った。
「ライくん、悪いんだけどできるだけ急いで食べて」
「は?」
「頼んだよ」
蕾生の返答も聞かずに、永は急いで箸を動かした。口に詰め込めるだけつめて、急いで飲みこむ。
蕾生にも目配せして「早く食べろ」と促した。
「なんなんだ……」
首を捻りつつも、それきり永は何も言わず黙々と食べ進めるので、蕾生もそうするしかなかった。だが、焦ったため途中で割り箸を折ってしまった。
そのパキッと割れた音は、周りの楽しげな雰囲気に一見紛れたようではあった。だが、蕾生にはその音が頭にこびりついた。
元から早食いが得意な蕾生はすぐに永を追い越して、あっという間に食べ終わる。
永も最後の一口を口に運んで、味噌汁で流し込んだ。周りはまだ和気藹々と食事を楽しんでおり、サラダバーには人だかりが出来ていた。
「静かに立って、静かに運んで」
「……」
永の後について蕾生も皿の乗ったトレイを返却口に出し、そのまま入口に向かう。永は静かな足取りで、けれど迅速に歩き建物の外へ出た。
「どこに行くんだよ? 解散の前に点呼とるから食堂にいてくれって──」
「シー」
口の前で人差し指を掲げて蕾生の言葉をさえぎった永は、小声かつ早口で言う。
「そう、ここからは時間との勝負」
「え?」
「こっち」
蕾生の疑問に答える暇もなく、永は研究所の歩道を早足で歩き出す。
周囲を警戒しつつ、通る人を見ると方向を変えて、誰にも見られないように歩き続けた。
碁盤の目のような道路が幸いしているのだろう、右に左に進路を変えながら二人は誰の目に留まることもなく進んでいった。
蕾生はついていくのが精一杯で方向感覚もよくわからなくなっていた。だが、永は進むべき方向を知っているかのように歩みに迷いがない。何かに導かれているようにも見えた。
急に白くて無機質な道路が終わる。先に続くのは舗装のしていない道路で、土が剥き出しだった。どう見ても部外者が入っていいような雰囲気ではない。
すぐに煉瓦作りの大きなプランターの列に突き当たった。中には成人男性ほどの背丈の木が植えてある。
その先に続く道の左右には頑丈な壁が左右に立っており、植木の上から辛うじて見えるのは、芝生の広場とその中央に立っている温室のようなガラス張りの建物。
あまりに違う景色に、蕾生は目を丸くして驚いた。
「ねえ、ライ。この鉢植え、動かせる?」
「え?」
その永の要求に、蕾生は耳を疑った。
「野菜がおかわり自由でもなあ……」
「文句言わないの。それからサラダを野菜って呼ぶのやめなさい」
蕾生がサラダを盛らないのは当然としても、永もサラダバーに向かう気配がないまま二人は席に着いた。
「永。サ、ラ、ダ、よそわねえの?」
わざとらしく言うと、永は小声で周りを気にしながら短く言った。
「ライくん、悪いんだけどできるだけ急いで食べて」
「は?」
「頼んだよ」
蕾生の返答も聞かずに、永は急いで箸を動かした。口に詰め込めるだけつめて、急いで飲みこむ。
蕾生にも目配せして「早く食べろ」と促した。
「なんなんだ……」
首を捻りつつも、それきり永は何も言わず黙々と食べ進めるので、蕾生もそうするしかなかった。だが、焦ったため途中で割り箸を折ってしまった。
そのパキッと割れた音は、周りの楽しげな雰囲気に一見紛れたようではあった。だが、蕾生にはその音が頭にこびりついた。
元から早食いが得意な蕾生はすぐに永を追い越して、あっという間に食べ終わる。
永も最後の一口を口に運んで、味噌汁で流し込んだ。周りはまだ和気藹々と食事を楽しんでおり、サラダバーには人だかりが出来ていた。
「静かに立って、静かに運んで」
「……」
永の後について蕾生も皿の乗ったトレイを返却口に出し、そのまま入口に向かう。永は静かな足取りで、けれど迅速に歩き建物の外へ出た。
「どこに行くんだよ? 解散の前に点呼とるから食堂にいてくれって──」
「シー」
口の前で人差し指を掲げて蕾生の言葉をさえぎった永は、小声かつ早口で言う。
「そう、ここからは時間との勝負」
「え?」
「こっち」
蕾生の疑問に答える暇もなく、永は研究所の歩道を早足で歩き出す。
周囲を警戒しつつ、通る人を見ると方向を変えて、誰にも見られないように歩き続けた。
碁盤の目のような道路が幸いしているのだろう、右に左に進路を変えながら二人は誰の目に留まることもなく進んでいった。
蕾生はついていくのが精一杯で方向感覚もよくわからなくなっていた。だが、永は進むべき方向を知っているかのように歩みに迷いがない。何かに導かれているようにも見えた。
急に白くて無機質な道路が終わる。先に続くのは舗装のしていない道路で、土が剥き出しだった。どう見ても部外者が入っていいような雰囲気ではない。
すぐに煉瓦作りの大きなプランターの列に突き当たった。中には成人男性ほどの背丈の木が植えてある。
その先に続く道の左右には頑丈な壁が左右に立っており、植木の上から辛うじて見えるのは、芝生の広場とその中央に立っている温室のようなガラス張りの建物。
あまりに違う景色に、蕾生は目を丸くして驚いた。
「ねえ、ライ。この鉢植え、動かせる?」
「え?」
その永の要求に、蕾生は耳を疑った。
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