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第二章 離された手、繋がれた手
第20話 星弥の「協力」
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「──ふえぇ」
まるで講談でも聞いた後のような気の抜けた息を星弥は漏らした。
大仰な言い回しではあったけれど、永がした話は先日蕾生に語ったものと大差なかった。
蕾生にとっての新事実は今の所ない。
「信じて欲しいところではあるけど、信じられないだろうねえ」
何故か得意気に永は言う。少しでも劣勢を覆したい気持ちが溢れてしまっている。
「大丈夫か?」
背もたれに沈んだ星弥を見て蕾生が声をかけると、星弥はお茶を一口飲んだ後あまりまとまらない頭で答える。
「あ、うん。ちょっと、なんか壮大っていうか、ものすごくファンタジーっていうか、すごく大変そうっていうのはわかったかも……」
「俺も聞いた時は似たようなもんだった」
フォローをすっかり蕾生に任せた永は勿体ぶった口調のまま、あくまで上から目線の姿勢を崩さずに言った。
「これ以上のことは君の返事次第かな。まだライくんに話してないこともたくさんあるし」
すると星弥は真剣な眼差しで永を見据えた後、息をすっと吸ってはっきりと言う。
「わたしは──すずちゃんは貴方達とちゃんと話をするべきだと思う。その為の協力はします」
さすがに銀騎詮充郎に即突き出すような事はしないとは思っていたが、はっきりと協力すると口にした星弥の態度に蕾生は驚いた。
永も同様で、目をまるくして聞き返す。
「マジで?」
大きく頷いて、星弥は彼女なりに考えた己の立ち回り方を宣言した。
「それから、貴方達がお祖父様の敵にならない道を考える」
「はぁ? 悪いけどそんな道は──」
「当事者の貴方達には見つからないかもしれない。だからわたしが探してみる」
説得力のある、「模範的」な答えだった。それを星弥は天然ではなく、意識的にそうあろうとしている節がある。それを永は読み違えたのだ。
「本当に、苦手だなあ、君」
永にとっては制御のきかない味方──とも言えない、第三の勢力が現れたような気分だった。
「永、あきらめろ。こいつ、見た目に反して結構ぶっ飛んでる」
蕾生の表現は的確だった。なんとなく肌でとんでもない相手だとわかったのだ。
「さすが、孫……」
永はがっくりと肩を落とす。星弥を上手く取り込んで意のままに操る──という最高の結果ではなかったからだ。それでもこの辺が落とし所だとわかっているので余計に悔しい。
「えへへ、褒められた」
「褒めてない」
「ウソ!」
少し照れる星弥に蕾生が冷静に言えば、星弥はそれが心外かのように驚いていた。あいつのお守りはライに任せよう、と永は隠れて決める。
「わかった、それでいい。僕らだって銀騎と争わずにすむならそっちの方がいい」
そんなことは不可能だけどね、という言葉を辛うじて永は飲み込んだ。
「よし、じゃあ、まずはもう一度すずちゃんに会ってもらえるようにしないとね」
話はまとまったと言わんばかりに、星弥は手を打って今後のことを話し始める。
「手はあるのか?」
蕾生が聞くと、星弥はうーんと大袈裟に考える仕草をした後、あっけらかんと言ってのけた。
「具体的にはないけど、二人は毎週末うちに遊びにくればいいよ」
「え、いいの?」
「もちろん。わたしがお友達を呼ぶのは勝手でしょ? すずちゃんだってそれは止められない。後は時間をかけてゆっくり……ね?」
永と星弥が膝を突き合わせて相談していると、まるで悪巧みのようだと蕾生は思った。
「あんまりかける時間はないかもしれないけど……今はその作戦にのるしかない、か」
「決まりだね」
なんだか終始星弥のペースだったような気がする。だが鈴心が心を開かない現状、星弥の言う通りに動くしかないことは永も蕾生もわかっていた。
また来週、今度はどんな手で鈴心に会おうかその場では結論が出ないまま散会となった。
まるで講談でも聞いた後のような気の抜けた息を星弥は漏らした。
大仰な言い回しではあったけれど、永がした話は先日蕾生に語ったものと大差なかった。
蕾生にとっての新事実は今の所ない。
「信じて欲しいところではあるけど、信じられないだろうねえ」
何故か得意気に永は言う。少しでも劣勢を覆したい気持ちが溢れてしまっている。
「大丈夫か?」
背もたれに沈んだ星弥を見て蕾生が声をかけると、星弥はお茶を一口飲んだ後あまりまとまらない頭で答える。
「あ、うん。ちょっと、なんか壮大っていうか、ものすごくファンタジーっていうか、すごく大変そうっていうのはわかったかも……」
「俺も聞いた時は似たようなもんだった」
フォローをすっかり蕾生に任せた永は勿体ぶった口調のまま、あくまで上から目線の姿勢を崩さずに言った。
「これ以上のことは君の返事次第かな。まだライくんに話してないこともたくさんあるし」
すると星弥は真剣な眼差しで永を見据えた後、息をすっと吸ってはっきりと言う。
「わたしは──すずちゃんは貴方達とちゃんと話をするべきだと思う。その為の協力はします」
さすがに銀騎詮充郎に即突き出すような事はしないとは思っていたが、はっきりと協力すると口にした星弥の態度に蕾生は驚いた。
永も同様で、目をまるくして聞き返す。
「マジで?」
大きく頷いて、星弥は彼女なりに考えた己の立ち回り方を宣言した。
「それから、貴方達がお祖父様の敵にならない道を考える」
「はぁ? 悪いけどそんな道は──」
「当事者の貴方達には見つからないかもしれない。だからわたしが探してみる」
説得力のある、「模範的」な答えだった。それを星弥は天然ではなく、意識的にそうあろうとしている節がある。それを永は読み違えたのだ。
「本当に、苦手だなあ、君」
永にとっては制御のきかない味方──とも言えない、第三の勢力が現れたような気分だった。
「永、あきらめろ。こいつ、見た目に反して結構ぶっ飛んでる」
蕾生の表現は的確だった。なんとなく肌でとんでもない相手だとわかったのだ。
「さすが、孫……」
永はがっくりと肩を落とす。星弥を上手く取り込んで意のままに操る──という最高の結果ではなかったからだ。それでもこの辺が落とし所だとわかっているので余計に悔しい。
「えへへ、褒められた」
「褒めてない」
「ウソ!」
少し照れる星弥に蕾生が冷静に言えば、星弥はそれが心外かのように驚いていた。あいつのお守りはライに任せよう、と永は隠れて決める。
「わかった、それでいい。僕らだって銀騎と争わずにすむならそっちの方がいい」
そんなことは不可能だけどね、という言葉を辛うじて永は飲み込んだ。
「よし、じゃあ、まずはもう一度すずちゃんに会ってもらえるようにしないとね」
話はまとまったと言わんばかりに、星弥は手を打って今後のことを話し始める。
「手はあるのか?」
蕾生が聞くと、星弥はうーんと大袈裟に考える仕草をした後、あっけらかんと言ってのけた。
「具体的にはないけど、二人は毎週末うちに遊びにくればいいよ」
「え、いいの?」
「もちろん。わたしがお友達を呼ぶのは勝手でしょ? すずちゃんだってそれは止められない。後は時間をかけてゆっくり……ね?」
永と星弥が膝を突き合わせて相談していると、まるで悪巧みのようだと蕾生は思った。
「あんまりかける時間はないかもしれないけど……今はその作戦にのるしかない、か」
「決まりだね」
なんだか終始星弥のペースだったような気がする。だが鈴心が心を開かない現状、星弥の言う通りに動くしかないことは永も蕾生もわかっていた。
また来週、今度はどんな手で鈴心に会おうかその場では結論が出ないまま散会となった。
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