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第三章

3-10 逆盗聴

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 部屋に入るなりソファの定位置にちゃっかり座って、はるかは自分の携帯電話の画面を見せながら星弥せいやにあるアプリを示す。
 
 そして永の携帯電話から星弥の携帯電話に、聞いたこともない名前の怪し気なアイコンのアプリが送られた。
 
「インストールしたけど、なあに?これ?」
 
「そのアプリを起動したままで、鈴心すずねチャンにいつものメッセージアプリでメッセージを送り続ける」
 
「ええ?」
 
 星弥の理解が追いつかないので、永はニコニコしながら星弥の手を取ってその中の携帯電話を握った。
 その手管は実に鮮やかで詐欺だったらどうするんだろうと、蕾生らいおは星弥の警戒心の無さを少し心配する。だがそれは彼女がこちらを百パーセント信じてくれている証でもあるか、とも思った。
 
「ここをこうすると……君の携帯電話が拾った音声をすぐに文章化して、相手にそれを送信し続けることができる」
 
「わたし達の会話を無理矢理送りつけて読ませるってこと?」
 
「そ。元は盗聴目的に開発されたものなんだけど、役に立つ日が来るなんてねえ」
 
「誰が作った、そんな物騒なモン」
 
 蕾生はいい加減につっこまないとどんどん怪し気なアイテムが増えると思った。
 永はウフフと笑いながら画面を操作している。
 
「うん、顔も知らないトモダチがちょっとねー」
 
「お前は相変わらずネットで危ない橋渡ってんな……」
 
「まあまあ、このやり方なら法には触れないでしょ?逆盗聴なんだからさ」
 
 全く悪びれない永に、蕾生も溜息しか出ない。
 
「すずちゃんが電源切っちゃったら?」
 
 星弥が少し不安気に言うと、永はギャンブラーのような顔をして言った。
 
「そこは賭けだよね。でもやって見る価値はあると思わない?」
 
「まあ、だめで元々か」
 
 何にしてもとっかかりが欲しい。蕾生も渋々賛成した。
 
「わかった、やってみよう。あー、でも後で絶対わたしが怒られるよお」
 
 星弥も決意を見せた後、鈴心に睨まれることでも想像したようで顔を緩ませながら困っている。
 
「……嬉しそうだな」 
 そんな彼女を見て蕾生は少し引いた。
 
「よし、じゃあ、スタート!」
 永は星弥の態度もにこやかにスルーして大袈裟に片手を上げ、人差し指で携帯電話の画面をタップした。

 
「──もう、喋ったら送信されるの?」
 
 少しの沈黙の後、痺れを切らした星弥は何故か小声で喋り出す。
 
「うん。すでに送られてるよ、ほら」
 
 永が携帯電話の画面を指し示すと、会話の通りに文字が打たれ送信されていることを示すアニメーションが流れる。
 
「ほんとだ。あ、既読ついた!」
 
 三人は読まれもせずに鈴心側が退出することも考えていたが、意外とすぐに反応があった。それに気をよくした永が少し戯けて見せる。
 
「おーい、リン、見てるかあ?ハルだよーん」
 
「すずちゃん?私達の会話を全部送るから、興味が出たら降りてきてね?」
 
「ほら、ライくんもなんか喋って!」
 
 永に促された蕾生は、二人のように軽い感じで喋ることなど出来ないので、自然と怒った口調になってしまう。
 
「鈴心、おいこら、とっとと出てこい」
 
「あ!スタンプ返ってきた!」
 
 返信の代わりに返ってきたのは、とても可愛らしい兎が「殺す」と言っているイラストだった。
 
「すずちゃんお気に入りの「ウサコロちゃん」だ!」
 
 それを見て星弥は声を弾ませて喜んだが、永と蕾生は目を合わせて失笑する。
 
「ま、まあ、反応は悪くないようだしこのままおしゃべりしよっか!」
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