転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
61 / 122
第四章 新たな仲間とともに

第6話 回想(数日前)

しおりを挟む
 コレタマ部を作った帰り、星弥せいやは駅前まで足を延ばしてスーパーマーケットに行き、鈴心すずねが喜びそうな可愛らしいノートをいくつか見繕った後帰宅した。
 
「ただいまあ」
 
 玄関に入ると、母親が弾んだ声で星弥を迎え、急かすように手招きをしている。
 
「おかえり、星弥! こっちこっち!」
 
「お母様? どうかしたの?」
 
 促されるまま応接室に入ると、部屋の中央で鈴心が今自分が着ているものと同じ服を着させられて立っていた。
 傍らでは銀騎しらき家お抱えのテイラーが、まち針を巧みに操って鈴心の着ている制服を調整している。
 
「──」
 
 人間は驚き過ぎると何も言葉が出てこないし、思考もうまく回らない。十六年生きてきて、星弥はその事をこの日思い知った。
 
「ねえ? 可愛いでしょ?」
 
 ウキウキでルンルンの母に尻込みしながら、星弥はなんとか現状について問いかける。
 その様を鈴心は居心地悪そうに頬を赤らめながら見ていた。
 
「あ、う……な、何事?」
 
「すぅちゃんがね、高校に通うことになったのよ。あなたと同じ一年生で!」
 
「え!? だってすずちゃんはまだ中学生でしょ?」
 
 母からの突拍子もない説明に驚いていると、すぐ後ろで補足が聞こえてきた。
 
「──中学の過程はとっくに終えてるからね」
 
「兄さん!」
 
 振り返ると皓矢こうやがそこに立っており、母親同様に上機嫌だった。
 
「うん、鈴心、よく似合ってるよ」
 
「どうも……」
 
 鈴心はますます顔を赤らめて一言呟く。ニコニコの兄に、星弥は改めて聞いた。
 
「兄さん、どういうこと?」
 
「うん、ここ最近、僕の研究が忙しくて鈴心にろくに教えてあげられていないからね。最近は体調も安定してるし、学校に行かせたらどうかとお祖父様がね」
 
「お、お祖父様が!?」
 
 星弥は直感でヤバイと思った。祖父が突然そんなことをするなんて、確実にあの二人が関係しているせいだ。
 
「とは言え、たった一人で中学校へ行かせて体調を崩したら大変だから、星弥と同じ高校に編入手続きをとったんだよ。飛び級の帰国子女ってことにしてね」
 
「──」
 
 どうする、反対するべきか。それともこれを逆に利用するのか。周防すおうくんならどうするだろう、ただくんはどう思うだろう。
 色々なことが瞬時に星弥の頭を駆け巡っているうちに、皓矢が先んじて結論を突きつけた。
 
「だから星弥、よろしく頼んだよ?」
 
「星弥、私からもお願いね」
 
 しかも母の後押し付きで。
 こうなっては星弥に状況を覆すことなどできない。そもそも祖父の意向に逆らえるはずもない。
 そうしてあれよあれよという間に、今日を迎えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...