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第五章 邂逅
第2話 鍵開け名人?
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有刺鉄線を見た永は、眼前の状況を一瞥した後、想定内という表情で呟いた。
「なるほど、一般的なやつだね」
「どうする? ぶち破るのは簡単だけど」
冷静に言う蕾生の言葉に、星弥は内心驚いた。未だ蕾生の力がどれくらいなのかは見たことがないからだ。
星弥は不良をコテンパンにできる、と言ったような凡庸な想像しかしていなかった。
人知れず動揺する星弥を他所に、永は蕾生と相談を続ける。
「それだと派手だなあ。どこかの面に入口があるんじゃない?」
永の予想通りの答えを、先んじて建物の周りを一周してきた鈴心が持ってきた。
「ハル様、こちらです」
その案内に従って少し回り込むと、フェンスの一区画が扉になっている箇所があり、大きな南京錠がかかっていた。
流れるような一連のやり取りに、星弥は三人の阿吽の呼吸とも言える雰囲気を実感する。
「この錠前、随分錆びています」
鈴心が指差して永にそれを見るように促す。
「ここから出入りしてる訳ではなさそうだね」
永がそう言うと星弥も首を傾げた。
「兄さんはどうやって入ってるんだろう……」
「ま、それについては考えても無駄なので──うん、思った通りの形だ。じゃあ、ライくん、これ壊しちゃっていいよ」
「おう」
短い返事の後、蕾生はその南京錠を掴むと、上部の曲がった鉄を引っ張った。するとすぐに南京錠は二つに分かれ、フェンスの入り口が開いた。
「すご……」
蕾生の怪力を初めて目の当たりにした星弥は息を呑んだ。鈴心は特に動じずに永にひとつ確認をする。
「壊してしまってよかったんですか? ハル様」
「ああ、帰りにこの錠前下げていくから。付け焼き刃かもしれないけど、ないよりいいでしょ?」
そう言うと永はウエストポーチから別の南京錠を取り出して見せた。蕾生が壊したものにはあまり似ていないが、古くて錆びている点は共通している。
皓矢がこの南京錠を使っていないなら、代わりにかけておいても少しの間なら誤魔化せるかもしれない。
「さすが永、用意がいい」
蕾生が満足げに頷いて、開いたフェンスに手をかけて入口を広げる。それを当然のようにして永が先に中に入った。
鈴心も続こうとするが、星弥がぽかーんと口を開けているので、その手を引いた。
「星弥? 行きますよ」
「あ、はい」
そうして四人は倉庫の入口までの侵入に成功した。入口は重そうな鉄の扉で閉じられている。かんぬきなどの原始的な鍵はない。周りの有刺鉄線などというアナログな雰囲気とは逆に、近代的な電子ロックがかかっていた。
「最初にして最大の難関だね」
鉄製のドアノブをぐいぐい引くけれど当然ビクともせず、その横のテンキーボタンを睨みながら永は息を吐いた。
「蹴破る──わけにもいかねえよな」
蕾生も悔しそうに考えあぐねていると、横から星弥が吸い込まれるようにドアに寄り、テンキーを触る。
「暗証番号……か」
言いながら星弥は四桁の番号を押した。するとカチリという音ともに扉が開く。
「──え!?」
あまりに自然な出来事に、思わず永は大声を上げてしまう。
「あ、開いちゃった……」
「星弥、何を入力したんです?」
慌てて鈴心が聞くと、星弥も目を丸くしたまま答えた。
「冗談のつもりで兄さんの誕生日を……」
「──」
今度は鈴心の方がぽかーんと口を開けてしまった。
「オウ……」
永が言葉を失って声を漏らす。星弥は罰が悪そうに肩を竦めた。
「なんかごめん……」
「まあいい、入口でまごまごしてる訳にもいかねえだろ。入ろうぜ」
結果オーライ派の蕾生は、その場で深く考えることをさせずに永を急かした。
「そうだね、行こう」
とにかく扉が開いてしまった以上、ここからは時間との勝負だ。それを充分にわかっている永もひとまず頷いた。
「なるほど、一般的なやつだね」
「どうする? ぶち破るのは簡単だけど」
冷静に言う蕾生の言葉に、星弥は内心驚いた。未だ蕾生の力がどれくらいなのかは見たことがないからだ。
星弥は不良をコテンパンにできる、と言ったような凡庸な想像しかしていなかった。
人知れず動揺する星弥を他所に、永は蕾生と相談を続ける。
「それだと派手だなあ。どこかの面に入口があるんじゃない?」
永の予想通りの答えを、先んじて建物の周りを一周してきた鈴心が持ってきた。
「ハル様、こちらです」
その案内に従って少し回り込むと、フェンスの一区画が扉になっている箇所があり、大きな南京錠がかかっていた。
流れるような一連のやり取りに、星弥は三人の阿吽の呼吸とも言える雰囲気を実感する。
「この錠前、随分錆びています」
鈴心が指差して永にそれを見るように促す。
「ここから出入りしてる訳ではなさそうだね」
永がそう言うと星弥も首を傾げた。
「兄さんはどうやって入ってるんだろう……」
「ま、それについては考えても無駄なので──うん、思った通りの形だ。じゃあ、ライくん、これ壊しちゃっていいよ」
「おう」
短い返事の後、蕾生はその南京錠を掴むと、上部の曲がった鉄を引っ張った。するとすぐに南京錠は二つに分かれ、フェンスの入り口が開いた。
「すご……」
蕾生の怪力を初めて目の当たりにした星弥は息を呑んだ。鈴心は特に動じずに永にひとつ確認をする。
「壊してしまってよかったんですか? ハル様」
「ああ、帰りにこの錠前下げていくから。付け焼き刃かもしれないけど、ないよりいいでしょ?」
そう言うと永はウエストポーチから別の南京錠を取り出して見せた。蕾生が壊したものにはあまり似ていないが、古くて錆びている点は共通している。
皓矢がこの南京錠を使っていないなら、代わりにかけておいても少しの間なら誤魔化せるかもしれない。
「さすが永、用意がいい」
蕾生が満足げに頷いて、開いたフェンスに手をかけて入口を広げる。それを当然のようにして永が先に中に入った。
鈴心も続こうとするが、星弥がぽかーんと口を開けているので、その手を引いた。
「星弥? 行きますよ」
「あ、はい」
そうして四人は倉庫の入口までの侵入に成功した。入口は重そうな鉄の扉で閉じられている。かんぬきなどの原始的な鍵はない。周りの有刺鉄線などというアナログな雰囲気とは逆に、近代的な電子ロックがかかっていた。
「最初にして最大の難関だね」
鉄製のドアノブをぐいぐい引くけれど当然ビクともせず、その横のテンキーボタンを睨みながら永は息を吐いた。
「蹴破る──わけにもいかねえよな」
蕾生も悔しそうに考えあぐねていると、横から星弥が吸い込まれるようにドアに寄り、テンキーを触る。
「暗証番号……か」
言いながら星弥は四桁の番号を押した。するとカチリという音ともに扉が開く。
「──え!?」
あまりに自然な出来事に、思わず永は大声を上げてしまう。
「あ、開いちゃった……」
「星弥、何を入力したんです?」
慌てて鈴心が聞くと、星弥も目を丸くしたまま答えた。
「冗談のつもりで兄さんの誕生日を……」
「──」
今度は鈴心の方がぽかーんと口を開けてしまった。
「オウ……」
永が言葉を失って声を漏らす。星弥は罰が悪そうに肩を竦めた。
「なんかごめん……」
「まあいい、入口でまごまごしてる訳にもいかねえだろ。入ろうぜ」
結果オーライ派の蕾生は、その場で深く考えることをさせずに永を急かした。
「そうだね、行こう」
とにかく扉が開いてしまった以上、ここからは時間との勝負だ。それを充分にわかっている永もひとまず頷いた。
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