90 / 122
第五章 邂逅
第19話 優しさ
しおりを挟む
「ライくん、それは違う」
蕾生の抱えた靄を永は一刀の下に切り払った。鈴心も同じことを言う。
「そうです、ライ。私達を殺しているのはあくまで鵺であって、貴方ではありません」
「でも、元は俺だろ?」
蕾生の問いに、はっきりと首を振って永は言った。
「君が鵺になったことイコール君は鵺に殺されたってことだ。何故なら鵺になった後、僕らはそれと意思の疎通ができたことはない。ただの破壊を繰り返す化け物なんだ。だから、君の内に秘められている鵺は一番最初に君を殺している。そして僕らはその仇を取ってる──残念ながら良くて相打ちなんだけどね」
「そう、考えてもいいのか?」
それは必ずしも事実ではないことは蕾生も気づいている。だが永と鈴心がそうやって、ある意味こじつけて考えてきた事を、愚かだと断じることは誰にもさせない。
二人がそう結論付けたのならそうなんだろうと信じることが、二人のこれまでに報いることなのだ。
「もちろん! ていうか、そうなんだよ」
「ライが悩む必要なんてないんです」
明るく笑う二人に、蕾生は心の底から安心した。
「わかった──ありがとう、お前らがいてくれて良かった」
蕾生の言葉に、永も鈴心も満足そうに頷いた。
これでまた、明日を生きることができる。
前を向いて、運命に立ち向かっていく。
「さあて、薄暗くなってきたから今日はオヒラキにする?」
緊張が解けた永はうんと伸びをして言った。
「銀騎の爺さんの提案はどうするんだ?」
「んなもん、無視に決まってるじゃん! まさかライくん、取り引きに応じようとか思ってないよね?」
「呪いを解く方法があるって言うなら、俺は別にいい」
蕾生が素直にそう言うと、永はあり得ないと一蹴して語気を強める。
「そんなのハッタリだよ! ジジイの所に行ったら絶対帰って来れないから!」
「鈴心もそう思うか?」
あの時、鈴心は少し揺れていた。そこの所を確認したくて蕾生が聞くと、鈴心は少し考えて答える。
「可能性はゼロではないと思います。でも改めて考えるとやはり信じられません。詮充郎はそんなに単純な人物ではない」
仮に呪いを解く方法が銀騎にあったとして、蕾生を預けた後本当に呪いを解いてくれるのか。そこの所が信用に値しないと鈴心は言う。
「だからね、今日はさっきリンが言ってた通り、萱獅子刀の在処がわかっただけ良しとする」
「じゃあ、あれを取り返す方法を考えるんだな?」
「うん。一晩考えてみるよ。だから今日は解散」
そうして永が立ち上がると、鈴心がおずおずと尋ねた。
「あの、ハル様……星弥の処遇は……」
「うん? いや僕が処断できる訳ないでしょ。今日はしてやられたけど。まあ、今後の彼女の出方次第かな」
すっかり忘れていたような顔をして、永は興味なさそうに答えた。どうやらまだ腹に据えかねているらしい。
「引き続き協力してくれるように頼みます」
懇願するように言う鈴心に、永は困ったように口を曲げて言った。
「いや、お前が頭を下げる必要はない。彼女の自由にさせてやれば?」
「わかりました。では、私は戻ります」
「うん。また明日ねー」
永がそう言うとすぐに振り返って駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。そんな鈴心の背中を見送って永がぽつりと呟く。
「不安だなあ」
「何がだ?」
蕾生が聞けば、永は困った顔でその心情を打ち明けた。
「リンの気持ちが、だよ。今回は銀騎の身内に生まれてしまったせいか、銀騎に心を寄せすぎている気がする。特に銀騎星弥にね」
「それは、仕方ないだろ?」
二人の姉妹のような雰囲気を思い返す。その間には永も蕾生も入れないような家族の絆を感じる。けれどそれは血縁として生まれてしまったからには抗い難いことだ。
「うん……これが悪い方に影響しないといいけど。ここまで銀騎詮充郎が計算していたとしたら、本当に厄介なクソジジイだよ」
「そうだな……」
永も蕾生も、その漠然とした不安に少し身震いした。
公園の電灯が点る。その光に気づいたことで、辺りの闇に気づかされた。
蕾生の抱えた靄を永は一刀の下に切り払った。鈴心も同じことを言う。
「そうです、ライ。私達を殺しているのはあくまで鵺であって、貴方ではありません」
「でも、元は俺だろ?」
蕾生の問いに、はっきりと首を振って永は言った。
「君が鵺になったことイコール君は鵺に殺されたってことだ。何故なら鵺になった後、僕らはそれと意思の疎通ができたことはない。ただの破壊を繰り返す化け物なんだ。だから、君の内に秘められている鵺は一番最初に君を殺している。そして僕らはその仇を取ってる──残念ながら良くて相打ちなんだけどね」
「そう、考えてもいいのか?」
それは必ずしも事実ではないことは蕾生も気づいている。だが永と鈴心がそうやって、ある意味こじつけて考えてきた事を、愚かだと断じることは誰にもさせない。
二人がそう結論付けたのならそうなんだろうと信じることが、二人のこれまでに報いることなのだ。
「もちろん! ていうか、そうなんだよ」
「ライが悩む必要なんてないんです」
明るく笑う二人に、蕾生は心の底から安心した。
「わかった──ありがとう、お前らがいてくれて良かった」
蕾生の言葉に、永も鈴心も満足そうに頷いた。
これでまた、明日を生きることができる。
前を向いて、運命に立ち向かっていく。
「さあて、薄暗くなってきたから今日はオヒラキにする?」
緊張が解けた永はうんと伸びをして言った。
「銀騎の爺さんの提案はどうするんだ?」
「んなもん、無視に決まってるじゃん! まさかライくん、取り引きに応じようとか思ってないよね?」
「呪いを解く方法があるって言うなら、俺は別にいい」
蕾生が素直にそう言うと、永はあり得ないと一蹴して語気を強める。
「そんなのハッタリだよ! ジジイの所に行ったら絶対帰って来れないから!」
「鈴心もそう思うか?」
あの時、鈴心は少し揺れていた。そこの所を確認したくて蕾生が聞くと、鈴心は少し考えて答える。
「可能性はゼロではないと思います。でも改めて考えるとやはり信じられません。詮充郎はそんなに単純な人物ではない」
仮に呪いを解く方法が銀騎にあったとして、蕾生を預けた後本当に呪いを解いてくれるのか。そこの所が信用に値しないと鈴心は言う。
「だからね、今日はさっきリンが言ってた通り、萱獅子刀の在処がわかっただけ良しとする」
「じゃあ、あれを取り返す方法を考えるんだな?」
「うん。一晩考えてみるよ。だから今日は解散」
そうして永が立ち上がると、鈴心がおずおずと尋ねた。
「あの、ハル様……星弥の処遇は……」
「うん? いや僕が処断できる訳ないでしょ。今日はしてやられたけど。まあ、今後の彼女の出方次第かな」
すっかり忘れていたような顔をして、永は興味なさそうに答えた。どうやらまだ腹に据えかねているらしい。
「引き続き協力してくれるように頼みます」
懇願するように言う鈴心に、永は困ったように口を曲げて言った。
「いや、お前が頭を下げる必要はない。彼女の自由にさせてやれば?」
「わかりました。では、私は戻ります」
「うん。また明日ねー」
永がそう言うとすぐに振り返って駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。そんな鈴心の背中を見送って永がぽつりと呟く。
「不安だなあ」
「何がだ?」
蕾生が聞けば、永は困った顔でその心情を打ち明けた。
「リンの気持ちが、だよ。今回は銀騎の身内に生まれてしまったせいか、銀騎に心を寄せすぎている気がする。特に銀騎星弥にね」
「それは、仕方ないだろ?」
二人の姉妹のような雰囲気を思い返す。その間には永も蕾生も入れないような家族の絆を感じる。けれどそれは血縁として生まれてしまったからには抗い難いことだ。
「うん……これが悪い方に影響しないといいけど。ここまで銀騎詮充郎が計算していたとしたら、本当に厄介なクソジジイだよ」
「そうだな……」
永も蕾生も、その漠然とした不安に少し身震いした。
公園の電灯が点る。その光に気づいたことで、辺りの闇に気づかされた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる