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第六章 鵺が啼く空は虚ろ
第19話 偏愛
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「可哀想な紘太郎よ。お前達の争いに巻き込まれて、志半ばで逝ってしまった。よいか? ウラノス計画は紘太郎の研究なのだ! 私はそれを何としても完成させなければならん!」
「ふざけるなよ、黙って聞いてれば図々しい! そんなのは逆恨みじゃないか! おれ達の運命にお前らが横槍をいれなければ、お前の息子は死ななかった!」
永の怒りにも詮充郎はそれを上回る剣幕で叫ぶ。
「黙れ! 全ては鵺を手に入れる、開祖以来の目的のためだ! 私達親子だけじゃない、先代も先々代も、そのまた先祖──銀騎家の悲願なのだ!」
「勝手に人の運命を横から掻っ攫おうとするからこんなことになるんだ! 絶対に許さない!」
ずっと、銀騎からの横槍が邪魔だった。彼らがいなければもっと早く鵺の呪いを解明できたかもしれない。
詮充郎にいたっては、その若き頃から何度も苦しめられた。永が怒りそのままをぶつけると、詮充郎は開き直るように胸を張って言った。
「もちろんだとも。許しを請おうとは思わない。だが、紘太郎には謝れ! お前達に翻弄された挙句に死んでいったのだから!」
盲目なまでの息子への偏愛。
それに支配されている不様な老体に、蕾生が静かに怒りを押し殺して言う。
「爺さん、息子の命を弄んだのはあんたの方だろ」
「──何?」
「あんたが味わった屈辱は確かに酷いと思う。でも、生まれた子どもが力を持ってなかったら死ぬつもりだった? 息子の命をあんたは何だと思ってるんだ!」
「私はそれで今の地位にいる。あの時の選択を後悔などしておらん!」
譲るはずもない詮充郎の物言いに、蕾生もとうとう怒りのままに怒鳴った。
「だからあんたはまた繰り返すんだ! 孫の命をまた弄んだ! 銀騎に言った言葉を俺は許さない!」
「蕾生くん……」
星弥は蕾生を尊敬した。彼は自分が受けたことで怒っているのではない。常に誰かの為に怒り、誰かの為に戦っている。だからこそ彼は鵺の依代として選ばれたし、遂にはそれを乗り越えるに至ったのかもしれないと思った。
「私は息子の命を弄んでなどいない。あの子は私を救ってくれたのだ。あの子がいたから今の私がある。感謝こそすれ、弄ぶなど──」
他人のために怒った蕾生の言葉に、初めて動揺を見せた詮充郎は頭を抱えながらその場をうろつき出した。
「お祖父様……」
皓矢の言葉は届かない。詮充郎のそれまで理路整然としていた言葉は乱れ始め、奥底に眠っていた己の醜い嫉妬心を曝け出す。
「そ、そもそも、リンの魂を抜く術も、私が紘太郎に教わった術式と呪具で出来るはずだったのだ。だが、あの子は私が止めるのも聞かずに瀕死の体をおして自ら実行した。結局、紘太郎は私にはできないと思っていたのだ! 無力な私を見下していたのだ! だから御堂の裏切りに加担した! 力のない私など邪魔だったのだ!」
愛していたはずの息子に対する憎しみをも白日の下に晒す。
「私は紘太郎がいなければ何も為せなかった。ああ、屈辱だとも、我が子に教えを乞うて陰陽術のいろはを習うのは! 幼子が習う術も私は出来なかったのだから!」
「それは違います、お祖父様!」
「ふざけるなよ、黙って聞いてれば図々しい! そんなのは逆恨みじゃないか! おれ達の運命にお前らが横槍をいれなければ、お前の息子は死ななかった!」
永の怒りにも詮充郎はそれを上回る剣幕で叫ぶ。
「黙れ! 全ては鵺を手に入れる、開祖以来の目的のためだ! 私達親子だけじゃない、先代も先々代も、そのまた先祖──銀騎家の悲願なのだ!」
「勝手に人の運命を横から掻っ攫おうとするからこんなことになるんだ! 絶対に許さない!」
ずっと、銀騎からの横槍が邪魔だった。彼らがいなければもっと早く鵺の呪いを解明できたかもしれない。
詮充郎にいたっては、その若き頃から何度も苦しめられた。永が怒りそのままをぶつけると、詮充郎は開き直るように胸を張って言った。
「もちろんだとも。許しを請おうとは思わない。だが、紘太郎には謝れ! お前達に翻弄された挙句に死んでいったのだから!」
盲目なまでの息子への偏愛。
それに支配されている不様な老体に、蕾生が静かに怒りを押し殺して言う。
「爺さん、息子の命を弄んだのはあんたの方だろ」
「──何?」
「あんたが味わった屈辱は確かに酷いと思う。でも、生まれた子どもが力を持ってなかったら死ぬつもりだった? 息子の命をあんたは何だと思ってるんだ!」
「私はそれで今の地位にいる。あの時の選択を後悔などしておらん!」
譲るはずもない詮充郎の物言いに、蕾生もとうとう怒りのままに怒鳴った。
「だからあんたはまた繰り返すんだ! 孫の命をまた弄んだ! 銀騎に言った言葉を俺は許さない!」
「蕾生くん……」
星弥は蕾生を尊敬した。彼は自分が受けたことで怒っているのではない。常に誰かの為に怒り、誰かの為に戦っている。だからこそ彼は鵺の依代として選ばれたし、遂にはそれを乗り越えるに至ったのかもしれないと思った。
「私は息子の命を弄んでなどいない。あの子は私を救ってくれたのだ。あの子がいたから今の私がある。感謝こそすれ、弄ぶなど──」
他人のために怒った蕾生の言葉に、初めて動揺を見せた詮充郎は頭を抱えながらその場をうろつき出した。
「お祖父様……」
皓矢の言葉は届かない。詮充郎のそれまで理路整然としていた言葉は乱れ始め、奥底に眠っていた己の醜い嫉妬心を曝け出す。
「そ、そもそも、リンの魂を抜く術も、私が紘太郎に教わった術式と呪具で出来るはずだったのだ。だが、あの子は私が止めるのも聞かずに瀕死の体をおして自ら実行した。結局、紘太郎は私にはできないと思っていたのだ! 無力な私を見下していたのだ! だから御堂の裏切りに加担した! 力のない私など邪魔だったのだ!」
愛していたはずの息子に対する憎しみをも白日の下に晒す。
「私は紘太郎がいなければ何も為せなかった。ああ、屈辱だとも、我が子に教えを乞うて陰陽術のいろはを習うのは! 幼子が習う術も私は出来なかったのだから!」
「それは違います、お祖父様!」
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