転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
111 / 122
第六章 鵺が啼く空は虚ろ

第19話 偏愛

しおりを挟む
「可哀想な紘太郎ひろたろうよ。お前達の争いに巻き込まれて、志半ばで逝ってしまった。よいか? ウラノス計画は紘太郎の研究なのだ! 私はそれを何としても完成させなければならん!」
 
「ふざけるなよ、黙って聞いてれば図々しい! そんなのは逆恨みじゃないか! おれ達の運命にお前らが横槍をいれなければ、お前の息子は死ななかった!」
 
 はるかの怒りにも詮充郎せんじゅうろうはそれを上回る剣幕で叫ぶ。
 
「黙れ! 全てはぬえを手に入れる、開祖以来の目的のためだ! 私達親子だけじゃない、先代も先々代も、そのまた先祖──銀騎しらき家の悲願なのだ!」
 
「勝手に人の運命を横から掻っ攫おうとするからこんなことになるんだ! 絶対に許さない!」
 
 ずっと、銀騎からの横槍が邪魔だった。彼らがいなければもっと早く鵺の呪いを解明できたかもしれない。
 詮充郎にいたっては、その若き頃から何度も苦しめられた。永が怒りそのままをぶつけると、詮充郎は開き直るように胸を張って言った。
 
「もちろんだとも。許しを請おうとは思わない。だが、紘太郎には謝れ! お前達に翻弄された挙句に死んでいったのだから!」
 
 盲目なまでの息子への偏愛。
 それに支配されている不様な老体に、蕾生らいおが静かに怒りを押し殺して言う。
 
「爺さん、息子の命を弄んだのはあんたの方だろ」
 
「──何?」
 
「あんたが味わった屈辱は確かに酷いと思う。でも、生まれた子どもが力を持ってなかったら死ぬつもりだった? 息子の命をあんたは何だと思ってるんだ!」
 
「私はそれで今の地位にいる。あの時の選択を後悔などしておらん!」
 
 譲るはずもない詮充郎の物言いに、蕾生もとうとう怒りのままに怒鳴った。
 
「だからあんたはまた繰り返すんだ! 孫の命をまた弄んだ! 銀騎に言った言葉を俺は許さない!」
 
「蕾生くん……」
 
 星弥せいやは蕾生を尊敬した。彼は自分が受けたことで怒っているのではない。常に誰かの為に怒り、誰かの為に戦っている。だからこそ彼は鵺の依代として選ばれたし、遂にはそれを乗り越えるに至ったのかもしれないと思った。
 
「私は息子の命を弄んでなどいない。あの子は私を救ってくれたのだ。あの子がいたから今の私がある。感謝こそすれ、弄ぶなど──」
 
 他人のために怒った蕾生の言葉に、初めて動揺を見せた詮充郎は頭を抱えながらその場をうろつき出した。
 
「お祖父様……」
 
 皓矢こうやの言葉は届かない。詮充郎のそれまで理路整然としていた言葉は乱れ始め、奥底に眠っていた己の醜い嫉妬心を曝け出す。
 
「そ、そもそも、リンの魂を抜く術も、私が紘太郎に教わった術式と呪具で出来るはずだったのだ。だが、あの子は私が止めるのも聞かずに瀕死の体をおして自ら実行した。結局、紘太郎は私にはできないと思っていたのだ! 無力な私を見下していたのだ! だから御堂みどうの裏切りに加担した! 力のない私など邪魔だったのだ!」
 
 愛していたはずの息子に対する憎しみをも白日の下に晒す。
 
「私は紘太郎がいなければ何も為せなかった。ああ、屈辱だとも、我が子に教えを乞うて陰陽術のいろはを習うのは! 幼子が習う術も私は出来なかったのだから!」
 
「それは違います、お祖父様!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...