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新居関所と周辺文化に学ぶ温故知新のアップデート

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新居関所を見に行ってきた。ずっとそこにあるけど、関所を改めて見学するってことはあまりなかった。そこでちょいと出かけてみた。
新居と気賀、静岡には浜名湖近辺に二か所の関所があって、この関所を通らずにどっか出ようとすると大変な重罪だったそうな。
要するに江戸防衛のためのセキュリティシステムでもあった新居関所は、現在では日本でも唯一現存する建物なのだろうな。
新居関所(正式には今切関所といった)は慶長5年(1600年)に徳川家康が作った江戸幕府直轄の関所で、鉄砲と女性の出入りも厳しく取り締まったという。鉄砲は言うに及ばず女性についても厳しかったというのは、参勤交代で諸大名の妻子が江戸にいるのを逃がさないためだったとか。豊橋市の北部から三ケ日に抜ける道が姫街道と呼ばれているのは、みんな「入鉄砲出女(いりでっぽうでおんな)」に厳しい新居関所を避けてその道を通ったからだと言われている。
本坂峠は当時の難所で山賊とかもいたんで、事件が絶えなかった。それであの辺りは因縁があるってんで心霊スポットと呼ばれる根拠でもある。
業の深いところだねえ…。

今切(いまきれ)というのは1400年代の大地震と津波によって決壊、今の新居と舞坂の辺りが沈んでしまい海水が流入。翌年の暴風雨もあって完全に陸地が切れちゃったんで、今切れた、で今切。
比較的新しい、生々しい地殻変動を感じる地名だ。
ちなみに近くには橋本という地名も残っているので、おそらくその辺りが浜名川という川にかかっていた浜名橋のあった場所だろう。
ジジくさい?ほっとけ。
こういうことをイチイチ考えたり調べるのがスキなのだ私は。

で関所。
明治になって江戸幕府がなくなったときに各地の関所も廃止されたんだけど、ココだけはその後も学校や役所の建物として結構長い間使われていた。2度も天災に遭い、移転と立て直しを繰り返した結果わりと新しくて頑丈な造りだったのが幸いしたのではないかなと思う。安政2年(1855年)の建物だから、その数十年後にはもう明治時代が始まったわけだ。これだから歴史というのは面白い。
そして、結果として終戦後の昭和30年に国の特別史跡になったのだという。
ヘエー、と言いつつ見学。風通しもいいし夏でも涼しそうだ。
お侍さんのマネキンが飾ってあって、ここで旅人や荷物を改めたのだそうな。
面番所というその建物が、当時のもの。
マネキンさんの中には、修繕のため京に出張中のものもあった。今も昔もお役人のつとめは大変だな。
初めは幕府直轄、その次は吉田藩の管轄になった。
婦女子や子供、怪我人から死体まで改めたというから凄い。
しかも女性を改めるための専用スペースも設けられていて、関所番のお役人の奥さんたちがそれにあたっていたという。

お隣の資料館でも興味深い展示が並んでいた。
今切関所に置かれていた鉄砲なんかもある。火縄銃というやつか。
結構デカいのもある。花の慶次に出てきそうなやつ。
また漁村としての新居町の企画展示もあった。湊としては案外不便で、今切の渡し船にしても長いし大変だったそうな。
渡し船も庶民が乗るのと、参勤交代で大名が乗るのと、さらに皇族がお召しになった船とで色々ランクが違ってたりする。そりゃそうだろうな。
今だったらお召列車みたいなもんだからなあ。どんな乗り心地だったんだろうね。伊勢湾フェリーだって500円払ってちょっと高い席に座ると全然揺れなくて快適じゃん。
さすが国の特別史跡だけあって展示も情報も多いので、一度じゃ中々覚えられない。何度か足を運んでみたい場所になりました。

近所は新居宿で宿場町だった。紀伊国屋という旅籠屋が現存していて関所資料館とセットの入場券もある。せっかくなので見てみると、こっちも凄い。
聞けば東海道は地震や津波で利用者が戻らず、周辺の宿場町がみんなで是非とも公的旅行には東海道を通ってほしいと嘆願書を出したのだそうな。
今も昔もその辺変わらんね。
で、その結果、この旅籠は紀州の殿様の定宿になったために特別に
紀伊国屋
を名乗ることが許されたのだとか。
紀州の殿様のいきつけだから、紀伊国屋。なるほどな。
紀伊国屋書店さんは、なんで紀伊国屋なんだろね。紀州の殿様好みの本でも売ってたのかな。月刊ムーとか実話ナックルズとかスーパー写真塾とか…。
その殿様大丈夫か!?

さらに紀伊国屋にいた係員のおじさんに、近所に小松楼という置屋の建物を使った資料館もあると教えてもらったのでそっちも見に行った。
何しろその辺りは古い街並みが結構そのまま残っているので、そんなこともあるのかと狭い路地をテクテク歩く。
お肉屋さんとかお菓子屋さんもある。小さなスーパーマーケットもある。
その一角に、小松楼と書かれた建物が残っている。中に入ると職員さんがいて説明してくれた。それによれば、実はこの置屋をはじめ周辺が賑わったのは関所廃止後だという。
要するにすぐ近所にお役人、しかも幕府直轄だの吉田藩だのいってる関所まであってはハデに遊ぶことは中々難しい。
霞が関にキャバクラを建てるようなもんだからね。
で、工業地帯と漁村が賑わってきたときにいくつかのお店が出来た。この小松楼はそこに派遣する芸者さんを養成するための場所だったけど、二階に上がって遊ぶことも出来たのだという。
当時のままの建物、道具や表具も残っていて実に興味深い。
ちなみに一階ではローカル線の写真も展示されていたのでそっちも面白かった。
現在は地域のお年寄りを中心にしたコミュニティーセンターとして利用されており、NPO法人が運営している。

大切な場所、貴重な建物、そういうものを残そうとか伝えようというのは確かに大事なんだけどイザ本当に残すとなるとあんまりに大変だというのも良く分かった。
コミュニティーセンターや旅籠の建物はともかく、おそらくこうした特別史跡とかも、これからどんどん予算なんか削られちゃってさ。
文化や歴史なんか自分たちに都合のいいものしか残したくない、余計なお金は建物だろうと国民にだろうと使いたくない、というのがありありと伝わるこのご時世にあって(たぶん戦時中は勿論、江戸時代だってそうだったと思うけどね)現代に生きる我々としては、例えば文化的な側面、学術的な視点だけではなく、そこにどういう諸問題があって、それでも当時の人々は如何にして逞しく生きていたか、をもっと検証するべきではないだろうか。関所や置屋といった硬軟それぞれの歴史が息づく場所を訪れることで、また一つの温故知新がアップデートされた。
私としてはそんな気がして大変いい経験をしたと思います。
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