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ヒーロー達の青春エピローグ~夏の章~
【第24話】有り得ねぇよ
しおりを挟む月夜と透士郎が並んで歩いている。
静は、透士郎と出会した直後に――
『いっけなぁーい! 私ぃ、今日中に新しいバッティング手袋を買わなくちゃいけないんだったぁー! うっかりしてたなぁー、てへぺろー! そんな訳でお二人さんさよならー!』
と、白々しく去って行ったのだった。
そんな訳で今は、月夜と透士郎の二人っきりとなっている訳である。
(もぉーっ! 静ったらぁ! 絶対変な勘違いしちゃってるしぃ!! 変な気使っちゃって! もぉーっ!)
膨れ顔の月夜。
「どうしたんだ? お前……そんなにほっぺ膨らませて、おたふく風邪か?」
「ち、ちちち違うしっ! おたふく風邪じゃないしっ!」
「何でそんなに怒ってんだよ……」
「べ、べべべ別に怒ってる訳じゃないもんっ! ふんだっ!」
「怒ってるじゃねぇかよ……相変わらずよく分かんねぇ奴だな……」
ここで透士郎が話を変える。
「つーかお前、うちの高校受けるらしいじゃねぇか」
「はぁっ!? な、何でソレをあんたが知ってんの!?」
「白金から聞いた」
「まぁーたあの女かぁ!! 人のプライベートの事あれこれそれこれ覗きまくりやがってぇー!! あの野郎……!!」
「はいはい……お前の白金嫌いはもう良いから。で、どうなんだ? 本当に、うちの学校受けるのか?」
「…………」
月夜の表情が、少し照れ臭そうな気持ちを醸し出す。
「……受けるけど……悪い?」
「いーや? 全然悪くねぇよ。むしろ嬉しいかな」
「え……」
ドキッと弾む、月夜の心臓。
「太陽も喜ぶんじゃねぇかなぁ?」
「あ、そっち……?」
月夜は、分かり易く項垂れる。
「ん? どうかしたのか?」
「別に……何でもないわよ……何でも……」
月夜自身……この気持ちの変動っぷりには驚いている。
(な……何なのよ……何で今私……ガッカリしたんだろ……?)
「と、とにかくっ! あんたが何と言おうと、私はあんた達のいる学校行くから! 覚悟しておきなさいよね!」
「オレが何で、お前の進路に何か言う権利があるんだよ……好きにしろよ……」
「い、言われなくても! 好きにするんだからっ! ぷんっ!」
「だから何でそんな怒ってんだって」
「怒ってないしっ!」
「やれやれ……」
呆れるように、苦笑いを浮かべつつ、ため息を吐く透士郎。
隣で膨れている月夜を見ていると、彼の中で、とある感情、が芽生え始めていた。
その感情とは――
(うわぁー! 月夜の奴膨れてるよー! おもしろー! めちゃくちゃからかいたい! すっげぇからかいたい! 白金! お前が太陽の事からかいたくなる気持ち、今ならすっげぇ分かる! この一族は、そういう気分にさせてしまう何かがあるよなっ! 分かるっ! 分かるぞ白金っ!)
……愛梨の知らない所で、とんでもない共感者が現れていた。
どうやら万屋一家はそういう星の元に産まれた運命のようだった。……皐月以外。
(よしっ……ちょっくらからかってみるか)
「つーかアレだなぁ、お前がうちの高校受けたら、一年間だけだが、一緒に高校生活遅れるなぁ。お前ホントは、ブラコンなんてのは建前で、オレと同じ学校に行きたいから、ウチ受験すんだろ?」
(……オレ、からかうの下手だな……そんなもん違うに決まって……)
「…………」
返答せず、顔を真っ赤にしている月夜。
そんな彼女の様子を見て、透士郎は……。
(え……? 何だ? その反応……まさか……まさか本当に……?)
「月夜……?」
「あっ! ち、ちちちちち違うからっ! 全然っ? 全然そんなんじゃないからっ! わた、私はただっ! 兄貴と同じ学校に……って、それも違うからっ! えーっとー……あー……面倒臭いなぁ! もうっ!」
「…………」
(だよな……違うよな……)
顔を真っ赤にしながら否定を始めた月夜を見て、その疑念を払拭する透士郎。
月夜が透士郎に好意を持っている――否、そんな事は有り得ない。
それが透士郎の至った結論だった。
(やっぱからかうのはやめよう。オレには向いてねぇ)
「とにかくさ、理由なんて何でも良いんだよ。絶対、受かってくれよな」
「え?」
「だってさ……お前がうちの学校来てくれたら――嬉しいし、楽しいだろうからな」
月夜の頬の色が、更に赤くなる。
透士郎の笑顔を見て、胸が弾んでしまう。
ついつい確かめたくなってしまった。
月夜が声を紡ぐ。
「……それって……どういう意味で、嬉しいの……?」
「ん? どういう意味って……?」
「だ、だからぁ――」
「あぁーっ!! 透士郎! てめぇこんな所にいやがったのかぁー!!」
と、ここで横槍が入った。
主役――太陽《邪魔者》の登場である。
太陽《お邪魔虫》は憤慨しており、つかつかと二人の元へと歩み寄って来る。
「放課後、一緒にエロ本買いに行こうって約束してたじゃねぇか!! そそくさと帰って行きやがってよぉ!! この裏切り者めぇ!!」
「いや……オレは普通に断った筈だけど? それを約束とは言わねぇだろ……?」
呆れ顔の透士郎。
そして太陽は気付いた。
透士郎の横にいる――その人物の姿に。
「っ!? つ、月夜!? お前ら何で一緒に帰ってんだ!?」
「何でって……たまたまそこで一緒に――」
「まさかお前ら! 付き合ってんのか!?」
月夜の言い分に被せる形で、太陽がそんな的外れな想像を口にしてしまう。
それについて、月夜は悪い気はしていないのだが……透士郎は……。
「んな訳ねぇだろ――有り得ねぇよ」
と、一刀両断に否定した。
ズキン……月夜の心が、痛む。
(あれ? 何でだろ……何でこんなに……嫌な気持ちに、なるの? 何で……)
その意味を、月夜はまだ受け入れていない。
透士郎のその言葉に、太陽が反応する。
「だよなぁー! 有り得る訳ねぇよなぁ! って事はアレか! たまたまその辺で一緒になったとか、そういう……――あれ? 月夜さん? 何で電信柱をフワフワと浮かせてらっしゃるのですか?」
「……ん? あんたを、ブチコロス為よ」
「へ? ――がはっ!」
次の瞬間、太陽の頭上に――一本の電信柱が落下した。
下敷きになり、帯びただしい程の血が、水溜まりのように溢れ出ていた。
「えぇ……」
目の前で繰り広げられた惨劇を前にして、透士郎はドン引きしている。
しかし月夜は、大した反応もせず、透士郎に言う。
「行きましょう」
「え? で、でも、太陽を助けねぇと……」
「そいつの力なら大丈夫よ……さ、行きましょう」
「お、おう……」
月夜の後を追う形で、透士郎が歩き出す。
そして再び並び合う二人。
『有り得ねぇよ』
その言葉が、深く……深く、月夜の胸に突き刺さり、何度も何度も脳内で再生されてしまう。
何度も……何度も……。
(何で、そんな事聞いちゃうのよ……バカ兄貴)
二人は並んで歩く。
並んで……。
「……もしもーし、大丈夫ですかぁー?」
電信柱の下敷きになり、気を失っている太陽。そんな彼の頬をツンツンしながら、声を掛けているのは静だった。
月夜と透士郎――二人の関係性を探る為に、つけていたのだ。
どうやら、太陽の傷は完全に再生している様子。
静は、呆れ顔で声を落とす。
「邪魔した上に、余計な事言うからこうなっちゃうんですよぉー……ちゃんと反省してくださいねぇ……お邪魔虫さん……」
それから十分後……。
太陽は目を覚まし、自力で電信柱から脱出したそうだ。
めでたしめでたし。
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