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エピソード4『木鋸千草と海波静』
【第65話】木鋸千草と海波静⑤
しおりを挟む暗い廃工場のような場所で……静は目を覚ました。
「…………ここは……?」
寝起きの為、静の思考が追い付かない。
「……確か私は……そう……学校のトイレに入ろうとして……そこで急に意識が……駄目だ……そこからは何も思い出せない……ここは一体……どこなんだ? 廃工場……?」
「目覚めたみたいだね。静」
「っ! 冬夜! ここは一体……っ!!」
動こうとしても、動けなかった。
静は今、椅子に座っている。しかし、ただ座っているだけではない。
両手と両足が、ロープで固く結ばれてしまっている。
「これは……! どういう事だ!? 冬夜!」
「どうもこうもないよ。見れば分かるだろ? オレが君を監禁したんだよ」
「監禁……っ!? 何故こんな事を……!」
「決まっているだろう? 君が――僕のモノに、ならないからだよ」
「っ!!」
市川冬夜の顔が、不気味に歪む。
長い付き合いである静が、見た事もない邪悪な顔をしていた。
「……こんな事をして……私がお前に靡くとでも思ってるのか!?」
「靡くと思うんじゃなくて……靡かせるのさ――その身体にね」
「っ!!」
「おい皆、入って来て良いぞ!」
そう号令を上げると、廃工場の扉が開き、外から如何にもヤンチャをしていそうな男共が、三十人程入って来た。
「おおーこいつが噂の女か。めっちゃ可愛いじゃねぇか。冬夜、こいつ狙ってたんだろ? 良いのか? 好きにしちゃってよぉ」
「良いよ朝夏兄。思う存分回してやってよ。自分の置かれた立場をしっかり分からせた上で、この女とは付き合う事にするからさ」
「いいねぇー。悪いねぇー、流石はオレの弟だ」
暴走族『一殺入魂』の総長――市川朝夏が、不敵な笑みを浮かべる。
舐め回すように、静へと顔を近付ける市川朝夏。
「そんな訳で悪いねぇ……お楽しみと行こうじゃないか。かわい子ちゃん。その小さな身体で……オレと……昨日引いたクジで『アタリ』を勝ち取った、総勢三十人の子分達の相手を思う存分してくれよぉ? 頼むからぁ……冬夜の彼女になる前に……壊れないでくれよぉ?」
「………………!」
静は今……絶体絶命のピンチに陥っていた。
一方――少し時を遡り……千草は。
「見えたっ! あそこが静の通っている中学だ!」
屋根から屋根を飛び回り、あっという間に自宅から離れた場所にある中学校に到着した千草。
普段、デヘデヘとしたどエロな千草からは想像出来ないようなアクロバティックな動きで、瞬く間に中学校の校庭に足を踏み入れた。
そして……一階の窓、二階の窓と蹴り上げながら壁伝いに校舎を駆け上がって行く。
「確か三年の教室は三階にあったよねっと!」
あっという間に三階へ到着。
普通ならば有り得ない、三階にある教室への外からの侵入。
三階外窓の冊子に足を掛け、突然現れたアフロの男にザワつく生徒達。
「海波静はどこのクラス!?」
一番窓際にいた女子生徒にいきなりそう問い掛ける千草。
女子生徒は驚き、椅子ごと倒れそうになる。
そんな女子生徒を、千草は優しく、アクロバティックに受け止めた。
「ごめん……いきなり現れて、驚かせてしまったね」
「い……いえ……あ、ありがとうございま……きゃっ」
「おっとごめん。事故だ。つい手に力が入ってしまい、胸を揉んでしまった……これは事故だ本当にすまない」
「じ……事故なら仕方ないです……はい……」
千草はわざと胸を揉んだ。らしさが戻って来たようだ。
周囲の生徒達がザワつく。
「あ、あのアフロの人……静の彼氏じゃない?」
「動きヤバくない?」
「人間離れしてる……すげぇ……」
「写真ではアレだったけど……実物かっけぇ……」
千草は、そんなざわつきになど気にも止めず、再度問い掛ける。
「海波静は!? オイラは、海波静に用があるんだ! どこのクラスにいるんだい!?」
すると、一人の男子生徒が反応した。
「静なら……このクラスですけど」
「なぬっ!? じゃあ何故居ないんだい!?」
「何か……トイレ前で倒れたとかで……冬夜が、保健室に連れて行くって……」
「冬夜!? それって……市川冬夜か!?」
「そ……そうです、けど……」
「ちぃっ! 先を越された! って事は多分……保健室にはいないな! OK! 情報ありがとう!」
そう言って千草は、校舎の三階から飛び降りた。
驚愕する生徒達――――飛び降り自殺!? と、言わんばかりに。
急いで下をのぞき込む生徒達だが、千草は空中でくるんっと一回転し、見事地面に着地を決める。
そして、再び走り出す。
生徒達は、ポカーンと空いた口が塞がらなかった。
千草が丁度、校門を通り抜けた所で……「よぉ」と、何者かに話掛けられた。
「おっ、透士郎じゃん! こんな所で何してんの!?」
透士郎だった。
「お前を待ってたんだよ」
「オイラを……?」
「ああ――どうやら……目は、覚めたようだな」
「…………うん!」
「ってな訳で、情報をやるよ。静と市川冬夜は、町外れの廃工場に居る。静は両手両足が椅子に縛られ動けない状態。廃工場内には、市川冬夜と二人きり。そしてその周囲には、約千人くらいの暴走族が取り囲んでいる」
「何それ!? めちゃくちゃヤバいじゃん!!」
「まぁ待て、周囲の暴走族はオレ達に任せろ。お前は【透明化】を使って、廃工場内に侵入しろ」
「え? でも……」
「遠慮すんな。囚われの姫を助けるのは――――王子様の役目、だろ?」
「…………うん!!」
「立派に――王子様役を演じて来い!」
「ありがとう!! 恩に着るよ!!」
千草は一目散に走り出す。
それを見送り、透士郎も両頬を叩いて気合を入れた。
「よし! オレも気合い入れるか!!」
そして時は現在に戻る――
場所は廃工場。
身動きの取れない静は、三十人もの屈強な暴走族を前に何の手立てもない状況だった。
しかし――
「ふふっ! あははっ!」
静は笑った。
怪訝な表情を見せる、暴走族達。
総長――市川朝夏が、「何笑ってんだ? 犯される前から、おかしくなっちまったのか?」と問い掛ける。
「いや……そうじゃなくて……何か……不思議な気持ちなのよ」
「不思議な気持ち? 犯されるのを楽しみにしてんのか? はんっ! 真性のドMだなぁ」
「いや、それも違うかな……」
「あん?」
「何だろうな? こんなに絶望的な状況なのに、不思議と――――何一つ恐怖を感じないんだ……何故だろう?」
「はぁ? やっぱコイツ、おかしくなってんぞ!」
高笑いする三十人の暴走族達。
市川朝夏は叫ぶ。
「なら、その身体に教えてやるよぉ――二度とそんな舐めた笑みを浮かべられないように……本物の恐怖ってのを! 教えてやるよぉ!!」
市川朝夏の手が、静の無防備な身体へと伸びる。
それに続くかのように、他の暴走族達も一斉に静目掛けて動き出した。
その瞬間――
何もない所から――暴走族の面々は攻撃を受けた。
銃撃など……遠距離攻撃ではなく、直接殴られたり、蹴られたような感覚である。
しかも、その威力は凄まじく。その、謎の攻撃を受けた数名の暴走族は、激しく後方へと吹き飛ばされ、廃工場の壁に激突。
そのまま動かなくなった。
当然――この暴走族の総長である、市川朝夏も同様に。
もちろん、死んではいない。そうならないように、手加減は加えている。
最低限の……手加減を。
暴走族最強の総長であり、兄である市川朝夏が一撃で沈められた様子を、遠巻きで見ていた市川冬夜は、唖然としてしまう。
残りの暴走族の面々も、唖然となる。
「あ……兄貴……? え……? えぇえぇええーっ!? な、何が起こったんだ……? 何が起こったんだよぉおおーっ!!」
絶叫する市川冬夜を相手にもせず。
その『見えない何か』は、廃工場内の暴走族達へ次々に攻撃を加えて行く。
ものの数秒で……廃工場内の暴走族は全滅。
残った者は――市川冬夜、ただ一人。
「な……何なんだよ!? 何が起こったんだよ!! おい皆起きろよ! 兄貴まで何してんだよ!! あんた最強なんだろ!? ここまでこの暴走族をデカくしたのはあんただったんじゃねぇのかよ!! さっさと起きてその意味不明な敵をぶちのめしてくれよ!! 兄貴ぃーっ!!」
「情けねぇ奴だなぁ……」
「へ?」
突然聞こえた――その……聞き覚えのある声に、市川冬夜は戦慄してしまう。
そして、その声が聞こえた方向へ目を向けると。
静の傍で、モゾモゾと動いているアフロの姿があった。
「な……っ! 何でお前が!! ここにいるんだよぉ!?」
その市川冬夜の問い掛けに、木鋸千草は答える。
静の身体を縛っているロープを解きながら、答える。
「何でって……そんなの決まってんじゃん。聞かなくても分かるような事、聞かないでくれる? 答えるの面倒臭いからさぁ……でもまぁ、大切な事だからさ……一応答えてあげるよ」
全てのロープを解き終えた千草は立ち上がり、市川冬夜へと向き直る。
「ここにいる理由……? そんなの――――」
そして言う――ここへ来た理由を。
「大切な人を! お前達みたいなクズ共から守る為に来たに決まってんだろぉが!! 静の身体に指一本でも触れてみやがれ!! 触れたその指一本ずつ、へし折ってやるから覚悟しろよ糞野郎がぁ!!」
「ひぃ……っ!!」千草の殺気に当てられ……腰を抜かす市川冬夜。
何かとは明言しないが、腰を抜かした彼の周りには水溜まりが出来ていた。
その水溜まりの上で、彼はガクガクと震えている。
闘わずして、勝負ありだった。
(ま、ヒーローと一般人じゃこんなもんだよね……)と、そんな彼の姿を見つめながら、拍子抜けと言わんばかりに溜め息をつく千草。
そんな千草の服の袖を、力なく掴む静。
「千草くん……」
「……何?」
「許してくれたの……? 私の事……」
「許してないとここに来てないよ……相変わらず察しが悪いなぁ……静は」
その言葉を聞いて……静の目から、涙が止まらなくなった。
千草と和解出来た喜びから。
この窮地から脱した事への安心感から。
大好きな人が、またしても自分を助けてくれたという感謝心から。
そして――
千草が、自分の事を……『大切な人』と、言ってくれた幸せから。
涙が次々と溢れ出てしまう。
けれど――――まだ、この一件は決着がついていない。
静は涙を拭い、歩き出す。
「千草くん、ありがとう……全部――終わらせてくる」
「ん。いってらー」
情けない姿を見せている市川冬夜の前へ。
「冬夜……お前、私の事――好きなんだよな?」
「……へ? あ、う……うん」
「……そうか……なら――――私の本質を見ても……同じ事が言えるのか、試してやろう」
「こ……これ……?」
「コレを見て尚――私の事を好きだと言えるのであれば……お前を、千草くんと同じ土俵で見る事を約束しよう」
「ほ……本当か?」
「ああ……本当だ……そんな事が言えたとしたら――な」
静の右腕が眩く光り始めた。
それ即ち――
【借力】発動の合図である。
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