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秋の終わり間近に
【第69話】そういう運命だったんだろ
しおりを挟む「ふぅん……それで透士郎くんに、『月夜の事はお前に任す』って言ったんだ」
気候が少しずつ肌寒くなってきた、とある秋の日。
太陽は午前中に透士郎家へ突撃し、コーヒーをいただきながら透士郎の尻を叩いた。
そして午後からは、大好きな彼女とのデートに勤しんでいるという運びである。
そんなデート中に、愛梨が言った。
「それは流石に、透士郎くんに責任負わせ過ぎじゃない?」
「いや……責任負わせ過ぎも何も、オレまだ愛梨に何も言ってないんだが……スラスラと他人の心を読んで話をスイスイ進めるのやめて貰える? まぁ、説明省けて楽っちゃ楽なんだけども……」
「あら? 他人じゃないでしょ? あなたは彼氏だもの。大好きな彼氏だからこそ、私はいっぱい心読むわよ。だって大好きな彼氏だもの」
「分かった……そんな彼氏大好きな彼氏って連呼しないでくれ……恥ずかしいから……」
「うふふっ、照れちゃってぇー」
「そりゃ、照れもするっての……」
彼氏彼女の関係になっても、やはり太陽は愛梨に敵わないようだった。
いつもこんなやり取りをしては、太陽が照れ、愛梨が勝ち誇ったかのように微笑んで終わる。
これが、この二人の関係性だ。
かつて宇宙が憧れ、嫉妬し、羨ましがってしまったのが無理もないほどのイチャイチャっぷり、仲の良さっぷりだった。
さて、話を本筋へ戻そう。
「つまり……太陽は、透士郎くんなら月夜ちゃんを任せても良いと思った訳ね」
「うん、やっぱりまだ何もオレの口から説明していないけれど……心を読まれて話が進んでいるけれど。もういいや、はいそうです。オレはそう思ってます」
「どう思う?」と、ようやくここで、太陽は自分の声でその件について言及する。
「あの二人……お似合いだと思うか?」
「それはもう――お似合いもお似合いだと思う。あの二人には、あの二人以外他にいないと思う程には、お似合いだと思う」
「大絶賛だな」
「大絶賛だし、大賛成だよ。むしろ、あの二人の好意の矢印に、今の今まで気付けていなかった太陽に驚いてるくらいだよ……何で気付けなかったの……?」
「月夜はいつまでもオレの事が好きなんだと信じていたから」
「月夜ちゃんを色眼鏡で見過ぎでしょ……シスコンにも程がある。ま、太陽のそんな所も好きなんだけどね」
「あ……ありがとう」
照れ臭そうな太陽。そしてニヤニヤしている愛梨。
隙あらばイチャイチャしてみせる二人だった。
「で――愛梨はどう思う?」
「どう思うとは……あなたが、今やろうとしている事?」
「ああ……」
「面白いとは思う……けど、そこまで焦らなくても良いんじゃないかなぁ……とも思うけれど」
「うーん……けどなぁ……月夜はオレの妹だからなぁ……」
「まぁ、それは確かに言えてるかも。あなたの妹だものね。けれど、兄妹だからって、そこまで似てるとは限らないんじゃない? 案外月夜ちゃんだったらスパッと決めちゃうかもよ?」
「だと良いんだけどなぁ……オレの妹――だからなぁ……」
「ま、そこは自分の判断を信じれば良いんじゃない? 私も、何か出来る事があれば手伝うし」
「……ん、サンキュー」
「ちなみに『この話』、あんまり広めない方が良いんだよね? 今、誰々が知ってるの? ……ああ、今の所、皐月さんと火焔さんだけなのね。了解」
「答えてねぇのに理解してくれた……話早いから助かるわー」
太陽の皮肉交じりのその言葉には触れず、「それにしても……」と愛梨は続ける。
「折角二人がちゃんと恋心を自覚して、鈍い太陽くんがようやく気付いたこのタイミングで、そんな話が降って湧いてくるだなんてね……タイミングが良いのか悪いのか…………【霊騒々】ねぇ……所謂、ポルターガイストってやつだよね?」
「そ、月夜の明らかな下位互換だ」
「何もわざわざ、こんな時に暴れ回らなくても良かったのにね」
「そういう運命だったんだろ」
「……運命?」
「……ああ」と太陽が頷き、続ける。
「例えば――大地の自己犠牲による、天宮との一件。
例えば――星空の劣等感による、忍との一件。
例えば――海波の優柔不断さから始まった、千草との一件。
例えば――剛士さんの頑固さから続いている、皐月姉との関係。
例えば――
オレの勇気不足や、お前の月夜との確執の一件。
これら全ては運命だったんだよ。きっとな。神様から与えられた試練って奴だ」
「……月夜ちゃんと透士郎くんにとっての、運命《それ》が――この一件だって事?」
「ああ……二人の仲が近付く為の……急接近する為の試練、という事だな。これを乗り越えなきゃ……あの二人は駄目って訳だ」
「…………」
「大地と天宮のように、星空と忍のように、海波と千草のように――この運命の試練を乗り越えて、はじめて――本当の意味で、結ばれる事が出来るんだ……」
太陽は続ける。
「だから、月夜と透士郎がこの一件をどう乗り越えるのか……これが、あの二人にとってのターニングポイントとなる筈だ。どうか無事に――乗り越えて欲しいなって、思うよ――」
「…………うん……」
「大地と天宮、星空と忍、海波と千草のように……な……」
「…………うん……」
ここで――太陽はあえて、『自分と愛梨のように』とは、言わなかった。
そして愛梨もまた……彼があえて自分達を含めなかった事に納得をしていた。
何故か?
太陽の言う、運命の試練というものが本当にあると仮定した場合――
太陽と愛梨がソレを乗り越えたのかどうかが未確定だからである。
愛梨と月夜の和解がそうだったのか?
はたまた、太陽が告白の為の勇気を得る事がそうだったのか?
もしくは、あの険悪だった出会いから打ち解けるまでのそのプロセスそのものがそうだったのか?
太陽は、それら全てがそうであると思いたい反面……(そんなに甘くねぇよな……)と考えており……。
愛梨に至っては――
(まだ私達にその試練は訪れていない筈……)
と、考えている。
そして、愛梨は心の中でこう続けた……。
(私が……このままである限り……)
そう――続けたのであった。
「…………ま、今は月夜と透士郎の一件だな」
「……うん、そうだね」
太陽と愛梨はそう言って笑い合い、目を逸らした。
未来の事より、今を見つめるべき――そう、言わんばかりに。
しかし彼らはいずれ、目を逸らす事が出来なくなる。
向き合わなくてはならない時がやってくる。
イコールそれは――――愛梨が変われないという事を意味する訳だが……。
それはまだ、未来の話である。
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