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エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』
【第95話】白金愛梨と万屋太陽③
しおりを挟む結論から述べると、太陽と宇宙の考えは、当たらずとも遠からずだった。
というのも、愛梨が今いる場所は、『日本超能力研究室』の寮ではなく『本部』だったからだ。
本部にある、戦闘訓練場に立っていた。
まるでドーム式の野球場のような訓練場。
四方には、二千人程度が収納可能な観客席。
大きなモニター。
観客席にはほぼ満席と言って良い程の人間達が詰め掛けており、訓練場に立っている愛梨を見つめていた。
ザワザワとザワつく観客達。
二千人近くの観客の内、九割が、愛梨と歳の近い中~高校生であり、残りの一割が白衣を着た研究者や『日本超能力研究室』の職員達だ。
かなり……注目されている。
モニターに映像が映し出される。
映った人物は……犬飼だった。
犬飼市一……以前、月夜にポルターガイスト討伐への協力を依頼した研究者である。
もちろん今日も白衣とスーツを裏表逆に着用していた。
『それでは白金愛梨――――模擬戦闘を行うぞ』
戦闘場に立っている愛梨は「はい」と頷いた。
『では――Aランカー……黒島大輔《くろしまダイスケ》、入場しろ』
その名前を聞いた瞬間――観客席が大いにザワついた。
「え!? 今日、白金さんと闘うのって……黒島さんなの!?」
「凄ェ! 最強のAランカーと伝説のSランカーの対決だよ……!!」
「これ……お金取れるカードだろ!?」
「黒島さんなら……もしかしたら……」
「これって、黒島さんが勝ったら、Sランカーに繰り上げなのかな!?」
「それ! 全然有り得るだろ!!」
「マジか!? その為に先生達は白金さんを呼び出したのか!?」
「見物だぜ!!」
等など……大いにザワついている。
しかし、こんな歓声に白金は狼狽えたりなどしない。
「黒島くんかぁ。Aランカー最強だなんて……随分と腕を上げたみたいだね」
「もちろんですとも。オレも良い加減、弱いのには飽き飽きしてましたし、努力しましたからね」
「弱いって……Aランカーなんでしょ? 充分強いじゃない。謙遜しちゃって」
「Sランカーにそれを言われても、嫌味にしか聞こえないっすねぇ……」
「大丈夫。本音だから」
「ま、とにかく本気でいかせてもらいますから。ご覚悟を」
「もちろん」
そんな愛梨と黒島のやり取りを見つめている、市一と又旅。
「ねぇ、ワンワンくん。随分と現場は盛り上がってるけどぉ……どっちが勝つと思うぅ?」
「そんなもの決まっているだろう……白金愛梨はSランカーだぞ? ギフトを授かった天性のヒーローだ。黒島大輔も強いが……やはり相手にはならんよ」
「やっぱりねぇ……」
「まぁ……白金愛梨の方は、長い間戦闘をしていないブランクがある……そこがどう影響するか……。勝負事は、やってみなくては分からない側面はあるが……果たして……」
「やってみるまで分からない……かぁ……」
又旅は、愛梨へと目を向ける。
彼女は昨日、愛梨が太陽を振ったシーンを目の当たりにしている。
又旅はそれを手助けした形である為、心苦しい気持ちに苛まれていた。
愛梨は今、その協力要請の条件であった研究に協力している――という訳である。
模擬戦闘という、研究に。
市一がマイクのスイッチを入れ、カメラの前に立つ。
『それでは両者構え――――始めろ』
瞬間――
訓練場で向かい合う、黒島と愛梨が戦闘態勢に入る。
「記念すべきAランカー最終戦が、あの万屋太陽さんじゃなかったのは残念ですが――白金さん、勝たせてもらいますよ!」
「勝てたら、勝って良いよ」
悠々と返答する愛梨。
黒島が両手をピストルの形にすると……彼の両手に、それぞれ拳銃が現れた。
愛梨はすかさず【読心】で心を読む。
(能力名は……【必中弾丸】かぁ……。撃てば必ず相手に当たる弾丸……追跡してくるそうだし……避けても無駄って事か……ふむ…………良い能力だね。Aランカーだけの事はある……さて……となると問題は――出力だけど……果たして……)
「行きますよ! 白金さん!」
愛梨目掛けて左右の銃口を向け、引き金を引く。
銃声と共に――二発の弾丸が発せられた。
しかしその二発の弾丸は……追尾すること無く終わった。
「え……?」
黒島が目を剥く。
目に追えない筈の弾丸二発が……呆気なく見切られ、手刀で叩き落とされた光景に……驚きを隠せない。
愛梨の足元に、二発の銃弾がめり込んでいる。
「うん……手がちょっと痛い……良い出力だよ。凄いね、黒島くん」
ニコッと微笑む愛梨。
観客席の面々も、驚きを隠せない。
一番驚いているのは――黒島本人なのだが……。
市一と又旅は、微動だにしていない。
感情に、何の変化もない。さも……これが、当たり前だと言わんばかりに。
市一が再確認として。説明を始める。
「超能力は、三つの項目でランクを判断する。
一つ、能力の種類やその出力、操作能力、そして持続力を測る……超能力の項目。
二つ、パワーやスピード。柔軟性、目の良さ、反射神経等の……純粋な身体能力項目。
そして三つ目は、一と二を踏まえそれぞれをどれだけ併用し扱え、自分なりの戦闘スタイルを構築出来ているか? その完成度を測る……応用力の項目。
一つ目……超能力については……強い能力を持ち、それなりに扱える者はそれなりにいる。Aランカーの中には、Sランカーよりも良い能力を持つ者さえいるからな……。
しかし――Sランカーの十二人に特筆すべきなのは、二つ目の項目……。
身体能力だ」
「ギフトって呼ばれる――――超身体能力よねぇ……彼ら彼女らにとっての普通の運動は……まるで超能力で強化したもののように見えちゃうものぉ……」
「そして、協力で強大な超能力と、その超身体能力をものの見事に応用し、それぞれを百%発揮出来る――戦闘センス……正に――神に選ばれし天賦の才――それがあるからこその、Sランカーだ」
「………天賦の才……ねぇ……」
又旅は、戦闘場に立っている愛梨を悲しげな表情で見つめる。
(超能力者って仮面を剥がせばぁ……ただの普通の女の子――なのだけれどねぇ……)
そして現場では、早くも決着がつこうとしていた。
「正面から撃っても無駄なら……足で撹乱して――――って、思ってるでしょう?」
「え?」
(視界から消え――――)
「良い狙いね……でも――」
「っ!?」
愛梨はまるで、消えたように見える速度で黒島に接近し……素早く、彼の首筋に手刀を入れた。
観客には、目に追えない程のスピードで……。
「あがっ!」
「まだまだ修行が足りないね」
意識を失い……地面へと俯せに倒れ込む黒島だった。
勝負あり。
『勝者――白金愛梨』
市一が勝敗を決した声を上げるが……。
観客席からの歓声は上がらない。
白金愛梨の――――圧倒的ともいえる力の前に……声が出ないのだ。
先程までの盛り上がりが嘘のように、沈黙してしまっている。
「まぁ……観客席がこうなるのも、無理のない話よねぇ……」
「ああ……しかし、何より恐ろしいのは……Sランカーの十二人が揃えば……この白金愛梨ですら、後方支援に回らざるを得ない、という事実が、一番恐ろしい……」
「全員揃えばぁ……世界中の軍隊揃えても相手にならないんじゃなぁい?」
「……そうかもな……」
「黒島くんも強い筈なんだけどねぇ……」
「天才の前では、秀才は無力だと言うことだ……」
「っ! お、帰って来たわよぉー。その天才がぁ」
放送室の扉が開き、天才――白金愛梨が入って来た。
「お疲れ様ぁ、愛梨ちゃん……あ、別に疲れてないかぁ。観客がドン引く程の完勝だったもんねぇ……」
「いえいえ、彼、強かったですよ。銃弾弾いた手、まだヒリヒリしてますもん」
(普通は銃弾を弾ける筈がないんだけどねぇ……)というツッコミは、心に閉まっておく又旅だった。
「で、どうだったぁ? 久々に戦闘服に身を包んで闘った気分はぁ? 少しは気が晴れたかしらぁ?」
「まぁ……少し懐かしくて興奮しましたし、少しは晴れた……ような気がします……あはは……」
苦笑いの愛梨。
どうやら彼女はまだ、吹っ切れていない様子だった。
そんな愛梨の姿を――遠く離れた地から覗いている人物が居た。
透士郎だ。
「居たぞ。『研究室』の戦闘訓練場に居た」
透士郎が、忍宅まで駆け付け、【千里眼】を使用し、愛梨の居場所を発見していた。
太陽が眉間に皺を寄せる。
「戦闘訓練場? 何でそんな所に?」
「さぁ? それは分からねぇ……研究の一環で、模擬戦闘でもさせられたのかもな……。今は猫田さんや犬飼さんと談笑してる様子だ」
「ふぅん……」
するとここで、宇宙は閃いた。
「ねぇ……泡水。三人は今――戦闘訓練場のどこで談笑しているの?」
「放送室」
「これは……チャンス、じゃない?」
「何が?」宇宙の言葉に、太陽が首を捻る。
だが――忍と透士郎は、その言葉の意図を理解したようで……。
忍が解説を始める。
「戦闘訓練場の放送室には、唯一……『超能力ジャマー』が張られている。即ち――放送室では、白金は読心を使えない」
「あ……」
「つまり……犬飼さんか猫田さんのどちらかに協力して貰えれば、今なら白金とコンタクトが取れる可能性がある――という事だ」
「それだぁ!!」
太陽が興奮して飛び上がった。
「けど! けど! どうやって協力を頼むんだ!? どうやって!? どうやって!?」
「落ち着け太陽」
透士郎がそんな風に太陽を宥めた時だった。
太陽のスマートフォンが、大きな音をたてた。着信音だ。
突然のその音に、皆びっくりしてしまう。
「こんな時に誰だよ!」
スマートフォンを手に取り、太陽は着信相手を確認する。
「え……?」と、その着信相手の名前を見て、唖然としてしまう。
「なぁ……透士郎……?」
「何だ? 早く電話に出た方が良いんじゃねぇのか?」
「愛梨って今……犬飼さんと話してんだよな?」
「そうだが? 主に喋ってんのは、猫田さんみたいだけど……それがどうかしたのか……?」
「……だよな……」
「?」
太陽は、着信相手の名前が表示されたスマートフォンの画面を三人に見せる。
「「「え!?」」」
その着信相手の名前は――――
『犬飼市一』
太陽以外の三人は、即座にこの電話の意図を理解した。
宇宙が言う。
「出なさい万屋! 今すぐに! そして――絶対声を出しちゃ駄目よ! 通話ボタンを押すだけ!」
「通話ボタンだけ……?」
「早く!!」
「お……おう……!」
言われるがまま、太陽は通話ボタンを押した。
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