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19.クソよりもクソ野郎
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休日。夕食後、リビングのソファでくつろぎながら小説サイトを読み漁っていたところにあかりがやってきた。
「あ、あの……、お父さんから電話……」
そう言ってスマホを差し出してきた。
「あ?」
俺にってことか?小説を読んでいていい気分だったのにも関わらず、それをよりにもよってアイツに邪魔されたことによって一気に不機嫌になってしまった。
声にもそれが表れていたらしく、あかりがビクッと反応して怯えてしまった。
「あ、わりい」
一言謝ってからスマホを受け取って電話に応じる。
「何の用だ」
「おお、出てくれたか。いやな、あかりちゃんから聞いたけど、守ってくれたらしいじゃないか。前より明るくなったのが電話越しでもわかったぞ」
「あ?知らねえよ。そんなことで電話してきたのか?」
「一応、俺からもお礼を言っておこうと思ってな。ソラのとこに行かせて良かったよ。ありがとう」
それを聞いた瞬間、俺はこめかみがひきつるのを感じた。
「勝手なこと言ってんじゃねえよ。俺に面倒ごとを押し付けて俺の生活をぶち壊しておいてなにが『良かった』だ。ふざけんな!」
そのまま電話を切ってやる。お礼を言うにしてもわざわざ電話で言う必要もないだろうに。そんなもんメッセージで十分だ。来ても見ないけど。
あかりにスマホを返すと、そこに立ったまま動かない。どうしたんだ?視線で問いかけると、あかりが口を開いた。
「お父さんのこと嫌い、なの?」
「ああ、嫌いだ。あんなクズな奴ら関わりたくもない」
「クズって……。な、なんで?いい人じゃ、ないの?」
「ハッ!いい人、ね」
あんなやつがいい人だなんて笑っちまう。
まあいい機会か。こいつにとっても今は義理の親だ。知る権利くらいはあるだろう。
俺は、立ったままのあかりを隣に座らせてから話し始めた。
俺の父は仕事が忙しく、しょっちゅう家を空けていた。俺は幼いながらもそれを理解して母と過ごしていた。
が、母は俺が小学生になり学校でイジメられていることを知ると俺を避けるようになり、今度は母が家に帰らない日が出てきた。母は俺を助けようとするどころか、見捨てて浮気をしていたのだ。
こうして家でも独りとなった俺は限られたお金で生活するために家事を覚えざるをえなかった。
そして中学1年生あの日。俺は真実を知った。
夜中に大声が聞こえてきて目が覚めた俺は、眠い目をこすりながらも声の元へと向かった。
「……なによ!私だけを悪いって言うの!?アナタだって仕事と言いつつも他の女と遊んでるじゃない!私知ってるのよ!?なのにあの子の世話まで押し付けて、私には我慢しろって言うの!?そんなの耐えられないわよ!」
「おい、夜中に大声を出すなよ。俺だって遊んでるわけじゃないんだ。それにソラだってまだ中学生なんだ。ほうってはおけないだろう」
「だったらアナタが面倒見ればいいじゃない。私はもう嫌よ!」
俺はそのやりとりだけで、何を話しているのか理解した。理解してしまった。父が仕事と言いつつ浮気をしていて、更にはイジメられている俺の世話もしたくないからと母も浮気をしている。
母は自分は悪くないと喚き散らし、父はなだめようとするも、自らへの疑いを否定もしない。
最低の気分だった。俺はそれ以上聞きたくなくて、そっと部屋に戻って頭から布団をかぶった。
あの女だけじゃなかった。仕事が忙しいと信じていた父すらも、子供の俺ではなく外にほかの相手を作って遊んでいたのだ。俺は学校だけじゃなく、家でも居場所などなかったのだ。もうなにも信じられなかった。
その日から全てを信じないことにした俺は学校でもイジメてくるヤツらを無視して過ごした。そうしていると、次第に気味悪がられて誰も近寄らなくなった。
それまで俯いていただけの顔を上げて周囲を見ていると人間関係というものがよく見えた。相手に合わせる上辺だけの安い友情。新しい玩具を探してはしゃぐヤツら。やる気なく鬱陶しそうに授業をする教師。その全てがくだらなく思えた。
結局、俺の中学卒業と同時に両親が正式に離婚することとなり、俺はどちらについていくかの選択を迫られたが、答えは決まっていた。
「どっちにもついて行きたくなんかない。俺は……一人でいたい」
そう答えた俺に母は興味のなさそうな顔をしていたが、父は渋い顔をしていた。一人暮らしは心配だと言われたが、
「アンタらのおかげで家事もできるし、今とほとんど変わらないだろ」
と言ってやると、顔を顰めながらも渋々と了承した。
俺は知り合いのいない遠くの高校を受験し、遠慮しなくていいと言われたので好きなようにアパートを選んで家具を揃えた。
入学して数日はクラスメイトが話しかけてきたが、誘いを全て断ってテキトーにあしらっていると誰も近づいてこなくなり、「ぼっち」という認識が浸透していった。
一通り話し終えると、俺は一息ついた。
まさかアイツの浮気相手が子持ちでそいつもイジメられていたなんて思わなかったけどな。たしかに今のあかりにとっては少しは救われて、いい人扱いなんだろうけど、俺にとってはイジメられていた実の息子に見向きもせずに他の家庭に首を突っ込んだクソ野郎だ。むしろクソに失礼なくらいだ。
結局、どいつもこいつも自分が一番なのだ。アイツが俺にあかりを押し付けたのだって、あかりの母親と二人の時間を作るためじゃないのか?そんな疑問が頭を巡る。
母娘をどう言いくるめたのかは知らんが、とことん自分勝手なヤツだ。
ふと気が付くと、あかりが俯いて震えていた。
「そん、な……っ。それって、わ、私のせい……っ」
「ハァ……。ちげーよ。お前だって苦しんだだろうが。悪いのは自分の家庭を顧みなかったあのクズだ」
「で、でも……っ」
「それにな。今の俺は好きでひとりでいるんだ。だから別にこれでいいんだよ」
そう言ったのに、あかりはこちらを伺うようにチラチラと見てくる。
「なんだよ、まだなんかあんのか?」
「……ひとりでいるのは、楽だけど、寂しくは、ないの?」
「寂しい、か。面倒くさい人間関係よりはマシだとは思うがな」
「……そっか。わ、わたしはね、家にひとりでいると寂しくて、悪いことばっか考えちゃってた」
それも仕方ないだろう。心が弱ってる時にひとりでいると、どうしても悪い方向へと考えがちだ。
「で、でもね……っ、今は、ソラ君が一緒にいてくれるから、寂しく、ないよ?」
そう言ってあかりは弱々しくも微笑んだ。
「……お、おう。そうか」
まったく……。ウジウジしなくなるのはいいことだが、唐突に変なことを言うのは勘弁して欲しい。
「あ、あの……、お父さんから電話……」
そう言ってスマホを差し出してきた。
「あ?」
俺にってことか?小説を読んでいていい気分だったのにも関わらず、それをよりにもよってアイツに邪魔されたことによって一気に不機嫌になってしまった。
声にもそれが表れていたらしく、あかりがビクッと反応して怯えてしまった。
「あ、わりい」
一言謝ってからスマホを受け取って電話に応じる。
「何の用だ」
「おお、出てくれたか。いやな、あかりちゃんから聞いたけど、守ってくれたらしいじゃないか。前より明るくなったのが電話越しでもわかったぞ」
「あ?知らねえよ。そんなことで電話してきたのか?」
「一応、俺からもお礼を言っておこうと思ってな。ソラのとこに行かせて良かったよ。ありがとう」
それを聞いた瞬間、俺はこめかみがひきつるのを感じた。
「勝手なこと言ってんじゃねえよ。俺に面倒ごとを押し付けて俺の生活をぶち壊しておいてなにが『良かった』だ。ふざけんな!」
そのまま電話を切ってやる。お礼を言うにしてもわざわざ電話で言う必要もないだろうに。そんなもんメッセージで十分だ。来ても見ないけど。
あかりにスマホを返すと、そこに立ったまま動かない。どうしたんだ?視線で問いかけると、あかりが口を開いた。
「お父さんのこと嫌い、なの?」
「ああ、嫌いだ。あんなクズな奴ら関わりたくもない」
「クズって……。な、なんで?いい人じゃ、ないの?」
「ハッ!いい人、ね」
あんなやつがいい人だなんて笑っちまう。
まあいい機会か。こいつにとっても今は義理の親だ。知る権利くらいはあるだろう。
俺は、立ったままのあかりを隣に座らせてから話し始めた。
俺の父は仕事が忙しく、しょっちゅう家を空けていた。俺は幼いながらもそれを理解して母と過ごしていた。
が、母は俺が小学生になり学校でイジメられていることを知ると俺を避けるようになり、今度は母が家に帰らない日が出てきた。母は俺を助けようとするどころか、見捨てて浮気をしていたのだ。
こうして家でも独りとなった俺は限られたお金で生活するために家事を覚えざるをえなかった。
そして中学1年生あの日。俺は真実を知った。
夜中に大声が聞こえてきて目が覚めた俺は、眠い目をこすりながらも声の元へと向かった。
「……なによ!私だけを悪いって言うの!?アナタだって仕事と言いつつも他の女と遊んでるじゃない!私知ってるのよ!?なのにあの子の世話まで押し付けて、私には我慢しろって言うの!?そんなの耐えられないわよ!」
「おい、夜中に大声を出すなよ。俺だって遊んでるわけじゃないんだ。それにソラだってまだ中学生なんだ。ほうってはおけないだろう」
「だったらアナタが面倒見ればいいじゃない。私はもう嫌よ!」
俺はそのやりとりだけで、何を話しているのか理解した。理解してしまった。父が仕事と言いつつ浮気をしていて、更にはイジメられている俺の世話もしたくないからと母も浮気をしている。
母は自分は悪くないと喚き散らし、父はなだめようとするも、自らへの疑いを否定もしない。
最低の気分だった。俺はそれ以上聞きたくなくて、そっと部屋に戻って頭から布団をかぶった。
あの女だけじゃなかった。仕事が忙しいと信じていた父すらも、子供の俺ではなく外にほかの相手を作って遊んでいたのだ。俺は学校だけじゃなく、家でも居場所などなかったのだ。もうなにも信じられなかった。
その日から全てを信じないことにした俺は学校でもイジメてくるヤツらを無視して過ごした。そうしていると、次第に気味悪がられて誰も近寄らなくなった。
それまで俯いていただけの顔を上げて周囲を見ていると人間関係というものがよく見えた。相手に合わせる上辺だけの安い友情。新しい玩具を探してはしゃぐヤツら。やる気なく鬱陶しそうに授業をする教師。その全てがくだらなく思えた。
結局、俺の中学卒業と同時に両親が正式に離婚することとなり、俺はどちらについていくかの選択を迫られたが、答えは決まっていた。
「どっちにもついて行きたくなんかない。俺は……一人でいたい」
そう答えた俺に母は興味のなさそうな顔をしていたが、父は渋い顔をしていた。一人暮らしは心配だと言われたが、
「アンタらのおかげで家事もできるし、今とほとんど変わらないだろ」
と言ってやると、顔を顰めながらも渋々と了承した。
俺は知り合いのいない遠くの高校を受験し、遠慮しなくていいと言われたので好きなようにアパートを選んで家具を揃えた。
入学して数日はクラスメイトが話しかけてきたが、誘いを全て断ってテキトーにあしらっていると誰も近づいてこなくなり、「ぼっち」という認識が浸透していった。
一通り話し終えると、俺は一息ついた。
まさかアイツの浮気相手が子持ちでそいつもイジメられていたなんて思わなかったけどな。たしかに今のあかりにとっては少しは救われて、いい人扱いなんだろうけど、俺にとってはイジメられていた実の息子に見向きもせずに他の家庭に首を突っ込んだクソ野郎だ。むしろクソに失礼なくらいだ。
結局、どいつもこいつも自分が一番なのだ。アイツが俺にあかりを押し付けたのだって、あかりの母親と二人の時間を作るためじゃないのか?そんな疑問が頭を巡る。
母娘をどう言いくるめたのかは知らんが、とことん自分勝手なヤツだ。
ふと気が付くと、あかりが俯いて震えていた。
「そん、な……っ。それって、わ、私のせい……っ」
「ハァ……。ちげーよ。お前だって苦しんだだろうが。悪いのは自分の家庭を顧みなかったあのクズだ」
「で、でも……っ」
「それにな。今の俺は好きでひとりでいるんだ。だから別にこれでいいんだよ」
そう言ったのに、あかりはこちらを伺うようにチラチラと見てくる。
「なんだよ、まだなんかあんのか?」
「……ひとりでいるのは、楽だけど、寂しくは、ないの?」
「寂しい、か。面倒くさい人間関係よりはマシだとは思うがな」
「……そっか。わ、わたしはね、家にひとりでいると寂しくて、悪いことばっか考えちゃってた」
それも仕方ないだろう。心が弱ってる時にひとりでいると、どうしても悪い方向へと考えがちだ。
「で、でもね……っ、今は、ソラ君が一緒にいてくれるから、寂しく、ないよ?」
そう言ってあかりは弱々しくも微笑んだ。
「……お、おう。そうか」
まったく……。ウジウジしなくなるのはいいことだが、唐突に変なことを言うのは勘弁して欲しい。
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