歌を忘れたオートマタ

海棠 楓

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 起動後初めて、ロイはシャンテを連れて外に出た。外に出て、日の光に晒されると、あらためて服の汚れが目立つ。まだ服を買ってやれないことを、ロイは改めて申し訳なく思った。
 教えられた、山奥の工房に辿り着いた。草木が手入れされないまま好き勝手生えている鬱蒼とした空気の中、ボロボロの小屋が建っていた。ロイは一瞬だけ躊躇したが、ここまで来たのだからと思い切ってドアを叩いた。
「すみませーん」
 返事がない。何度かドアをノックしながら呼びかけてみたが、何の反応もなかった。留守なのかも、と諦めて帰ろうとしたとき。
「……何の用だ? 人が徹夜明けで寝てるっていうのに」
 小さく開いたドアの隙間から、鋭い眼光がこちらを見ている。ロイは気圧されそうになったが、奮い立った。
「アンドロイドの修理をお願いしたくて来ました、この子なんですが」
 ロイはシャンテをドアの正面に促した。
「古いヴォカノイドなんですけど」
「見りゃあわかるわ」
 そんなやりとりの後、どうにか家の中に入れてもらえた。工房の中は想像していたより狭く、所狭しと工具や部品が並んでいた。どれもかなりの年期ものだが、きちんと整備されているとわかるものばかりだ。

 ガブは噂に聞いていたほど老いてはおらず、初老という言葉が相応しい男だった。彫りの深い顔の下半分は髭に覆われ、眉間には深い皺。ロイに負けず劣らずの汚れた服は、おそらく機械の油と埃が混じったものだろう。指先や爪の間まで真っ黒で、ぼさぼさの黒髪をかきかき煙草をくわえ、早く話せと言わんばかりに視線でロイに圧をかけている。
 シャンテとの出会いから現在に至るまでをロイはガブに語った。
「ほぉん。歌えるように、なあ……お前さんはどうなんだ?」
 ガブが煙草をふかしながら、シャンテの方に向き直った。
「僕、ですか?」
「ああ。歌いたいと思ってるのか?」
「僕は……」
 俯くシャンテを見て、慌ててロイが止めに入る。
「待って下さい、シャンテは確かに歌が好きって言ったんです、それにあんまり問い詰めたら」
「ロックがかかるんだろ」
「……なんでわかるんですか」
「自己破壊防止のための自己保護アルゴリズムだよ」
 そんな難しい単語を並べられても、ロイには異国の言語のようにちんぷんかんぷんである。
「僕は、怖いです」
「怖い?」
「はい、何だかわからないんですがすごく怖いです、歌が」
「――やめだ。この話は断る」
 それまで興味深そうに話していたのに、ガブはそう言い放つと椅子から立ちあがった。
「どうして?!」
「『怖い』だと? アンドロイドに感情なんてあるかよ。それにほら、金はあんのか」
「……っ、これから作ります! 死なない程度に働きます!!」
「もうやめてください、ロイ。これ以上無理したら本当に倒れてしまいます。僕は今のままで充分幸せです」
「シャンテ……」
「帰りましょう」

 帰り道、ロイは不思議に思っていることをシャンテに尋ねる。
「なあシャンテ。何か怒ってない?」
「怒ってなんていませんよ」
「どう見ても怒ってるって」
「金の話を持ち出して卑怯に断るあの男に腹が立っただけです」
「え……めちゃくちゃ怒ってるじゃん」
 こうして仕事仲間の予想通り、ロイはガブに依頼を断られたのだった。
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