ふたりで編むのは赤い糸

海棠 楓

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「で、これが去年の秋に編んだスヌードです」
「うわぁ……ケーブル編みキレイですね……! どのぐらいかかりました?」
「夜寝る前にしか編む時間がなかったので一ヶ月ぐらいです」
 ひと月も経つと、ふたりは個室の居酒屋、カラオケボックスなどで各々の作品を見せ合ったり、時には一緒に編んだりと、すっかり”編み友”になっていた。辻の方が編み歴は浅く、いつも樋口の作品を見ては羨望のため息を吐いた。

「ここはどうやってるんですか?」
「このサイトに詳しく載ってますよ」
 情報交換も欠かせない。とにかく辻にとって、今までおおっぴらに語り合える辻がいなかったので、樋口と語り合えることが嬉しくてたまらない様子だ。辻の方が年上らしいが、完全に慕われていると言うか、懐かれているといった状況である。手放しで褒められることなどあまり経験のない樋口にとってむず痒いような心持ちであったが、やはり褒められれば悪い気はしない。樋口も次第に辻に心を開き、惹かれていった。

 辻は顔のパーツが大きくはっきりとした顔立ちで、きりりとしたイケメンといった風貌だ。上背があり肩幅が広く、体格にも恵まれている。言葉遣いは折り目正しいし、スマートな気配りもよくできる。かと思えば最初の出会いの時のように抜けた一面も持ち合わせており、ひとたび懐けば屈託のない無邪気な笑顔を見せてくる。きっと仕事もバリバリこなすし、女性からもモテるのだろうな、と樋口は勝手に分析していた。
「……樋口さん?」
 一人で分析を楽しんでいたら、辻が不思議そうに顔をのぞき込んできた。その距離の近さに、どぎまぎする。
「あ、えっと、何でしたっけ」
「今週末、僕ん家で一緒に編みませんかって話ですよ。今セーターにチャレンジしてるんですがどうにも難しいところがあちこちあって……」
 困ったように笑いながら頭を掻く辻を前に、どうして断れようか。
「いいですね。じゃあ僕もセーター編み始めようかな。どんな色で編んでますか?」

 そして週末。待ち合わせよりも随分早く樋口は家を出ると、手芸店に立ち寄った。山鳩色の毛糸を買った。辻は紺鼠色の毛糸で編んでいると言っていた。爽やかな中にも落ち着きのある、とても辻らしい色だな、と樋口はその色のチョイスに感心した。
「今日はありがとうございます。荷物持ちますよ」
「大丈夫です、今買ってきた毛糸ですから」
 嵩張るが重量はない、という意味で言ったのだが、辻はすっかりテンションが上がってしまった。
「そうなんですか? 何色にされました? 見ても良いですか?」
「辻さんのおうちに着いてからにしましょう」
「あ、そうですね……」
 樋口の落ち着いた諫めによって我に返った辻は、少し恥ずかしそうに首をすくめた。

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