ふたりで編むのは赤い糸

海棠 楓

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 まだまだもたつく辻ともともと手の早い樋口、あっという間に辻の編み目に追いついた。きっちりと美しく並ぶ編み目のひとつひとつに、樋口の几帳面な性格が表れている。
「さすが樋口さんです! 早いのにこんなに綺麗な編み目……どこかで習ったりしてましたか?」
 またも羨望のため息をつきながら編み目を見つめて惚れ惚れとしている辻。樋口は、もう見慣れてしまったこの光景に笑みがこぼれる。
「いえ。それより辻さんだってあのアクリルたわしがデビューとは思えない成長の早さですよ。本当にお好きなんですね」
 そう言うと辻は相好を崩した。
「ええ。こんなデカい図体して、似合わないなあとは思うんですけどね。端から見てると滑稽でしょう」
「っ、そんなことありません!」
 辻がどんなに編み物を愛していて、そんなに情熱を注いでいるか、一番近くで見てきたと自負する樋口は、たとえ本人であれ辻のことをそんな風に言うのが耐えられなかった。
「ありがとうございます。樋口さんは、そんな風に言われたり、気持ち悪がられたりしたことって、ないですか?」
「うーん、ないですね。僕には似合ってるんじゃないですかね」
 趣味に性別や体の大小は関係ない、とはいうけれど、残念ながら周囲の目はそうでもなかったりする。樋口は実際「お前にはお似合いだ」と、蔑んだ意味で言われたことがあるが、特に傷つくことはなかった。言った辻が樋口にとってどうでもいい人間だったからだ。
「あ、確かに。編み物って緻密で繊細で、集中力や粘り強さも必要ですよね。樋口さんってそんな感じ」
 また似合っている旨の発言だが、今回は全く逆の肯定的な意味だということが安易にわかる。樋口がぽかんとしていると
「すみません、勝手に樋口さんのイメージ作って語っちゃって」
 大きな身を縮こめて辻が恐縮するものだから、樋口は噴きだしてしまった。
「嬉しいですよ、ありがとうございます」
 今度は辻がぽかんとする番だった。
「……何か?」
「いえ、樋口さんのそんな顔、初めて見たなって」
「どんな顔ですか」
 冗談めかして問うも、辻は真剣そのものだ。
「なんていうか、本当に嬉しそうな……?」
「そんな顔してました?」
「ええ。普段の樋口さんって、あまり感情が顔に出ないので、新鮮でした」
 とてもいいものを見た、という様子で上機嫌の辻を見ていると、自然と樋口も心弾む。樋口が辻といると感じる心地良さを、辻も感じてくれていたらいいな、なんて思いながら、

 ――もしかして、好きになったのかもしれない

 一瞬だけひょっこりと顔を覗かせたその疑問を、慌てて打ち消そうとした。


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