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単に共通の趣味を持つ友人が出来て嬉しいあまり、辻が優しすぎるあまり、勘違いしているだけだと、そう思おうとした。でなければ、純粋に友人として接してくれている辻に下心を抱くなんて失礼だと思うから。そしてさらには、辻も同じ同性愛者とわかってからでなければ、好きになってはいけない、とは樋口のマイルールである。過去の経験から、「ノンケに惚れても辛いだけ」という教訓を得た上でのルールだ。こんな恋の始まりはルール違反である。
樋口が自分の心にブレーキをかける理由は、それだけではない。誰に何を思われようと動じない彼には、そんなことよりもっと重要な問題があるのだ。
華奢で小柄で細かく几帳面な彼、実はバリタチである。人生で一番苦労したことは何かと訊かれたら、この件に関することだろう。好意を寄せてくる者はだいたい彼をネコだと思って近づいてくるし、違うとわかって去る者もいれば、無理やりネコ役を押しつけようとする者もいた。樋口自身も、自身の人間性と性的立ち位置のギャップに悩み苦しんでいる。簡単にネコになれれば苦労はしない。他の面に関しては、好きな相手の好みに染まるのもまた一興、という考えの樋口であるが、どうしてもここだけは譲れない。
辻は確率的にきっとノンケだろう。百歩譲ってノンケじゃなかったとしても、この大きくて立派な体格、包容力のある性格、無駄のないスマートな立ち居振る舞いから、十中八九タチだろう。はじめから不毛な恋とわかっていながらその沼に落ちていく体力も危険な賭けに挑む気概も、樋口にはもうなかった。
「樋口さん? そろそろ寝ましょうか。少しお疲れのようですね」
今日は泊まり込みの約束をしていた。よりによってこんな時に、こんな気持ちと向き合うことはしたくなかった。せめて辻と別れ、家に帰るまで気づかないで欲しかった、と自分自身に恨み辛みをぶつける。
交代でシャワーを済ませ、辻が貸してくれた寝衣に袖を通せば、予想はしていたがかなりサイズが大きい。上衣だけでも尻まですっぽりと隠れ、いわゆる「彼シャツ」のようだ、と一人で赤面し、慌ててセットのパンツもはいた。
「あは、やっぱり大きかったですね」
部屋に戻れば辻がすっかり寝床を整えていた。寝室にはシンプルなシングルベッド、の隣に床へ布団が敷かれていた。
「お先にいただきました」
樋口が軽く一礼した。寝衣の袖と裾は二回折ってある。
「じゃあ僕も。先に休んでてくださいね」
辻が立ち上がり、すれ違いざまそう言ったとき、見下ろされた形で視線がぶつかった。樋口が意識してしまっているからかどうかわからないが、辻の瞳に何か得体の知れない、今までにない熱を感じてしまった。
――自意識過剰だ。
ぶんぶん頭を振って、準備してくれた寝床に潜り込む。樋口がそういう目で見てしまっているからといって、辻までそういう目で見ていると思うのは、随分と失礼な思い上がりである。
辻もシャワーを終え、二言三言言葉を交わし、消灯した。
樋口が自分の心にブレーキをかける理由は、それだけではない。誰に何を思われようと動じない彼には、そんなことよりもっと重要な問題があるのだ。
華奢で小柄で細かく几帳面な彼、実はバリタチである。人生で一番苦労したことは何かと訊かれたら、この件に関することだろう。好意を寄せてくる者はだいたい彼をネコだと思って近づいてくるし、違うとわかって去る者もいれば、無理やりネコ役を押しつけようとする者もいた。樋口自身も、自身の人間性と性的立ち位置のギャップに悩み苦しんでいる。簡単にネコになれれば苦労はしない。他の面に関しては、好きな相手の好みに染まるのもまた一興、という考えの樋口であるが、どうしてもここだけは譲れない。
辻は確率的にきっとノンケだろう。百歩譲ってノンケじゃなかったとしても、この大きくて立派な体格、包容力のある性格、無駄のないスマートな立ち居振る舞いから、十中八九タチだろう。はじめから不毛な恋とわかっていながらその沼に落ちていく体力も危険な賭けに挑む気概も、樋口にはもうなかった。
「樋口さん? そろそろ寝ましょうか。少しお疲れのようですね」
今日は泊まり込みの約束をしていた。よりによってこんな時に、こんな気持ちと向き合うことはしたくなかった。せめて辻と別れ、家に帰るまで気づかないで欲しかった、と自分自身に恨み辛みをぶつける。
交代でシャワーを済ませ、辻が貸してくれた寝衣に袖を通せば、予想はしていたがかなりサイズが大きい。上衣だけでも尻まですっぽりと隠れ、いわゆる「彼シャツ」のようだ、と一人で赤面し、慌ててセットのパンツもはいた。
「あは、やっぱり大きかったですね」
部屋に戻れば辻がすっかり寝床を整えていた。寝室にはシンプルなシングルベッド、の隣に床へ布団が敷かれていた。
「お先にいただきました」
樋口が軽く一礼した。寝衣の袖と裾は二回折ってある。
「じゃあ僕も。先に休んでてくださいね」
辻が立ち上がり、すれ違いざまそう言ったとき、見下ろされた形で視線がぶつかった。樋口が意識してしまっているからかどうかわからないが、辻の瞳に何か得体の知れない、今までにない熱を感じてしまった。
――自意識過剰だ。
ぶんぶん頭を振って、準備してくれた寝床に潜り込む。樋口がそういう目で見てしまっているからといって、辻までそういう目で見ていると思うのは、随分と失礼な思い上がりである。
辻もシャワーを終え、二言三言言葉を交わし、消灯した。
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