ふたりで編むのは赤い糸

海棠 楓

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「樋口さん」
 今は就業時間中、ここは樋口が勤めるオフィス。入り口に立っているのは、間違いなく辻である。信じられない、といった顔で固まっていると、周りがじっと見てくるので、仕方なく立ち上がって辻への対応をすることに。
「どうしたんですか、こんなところまで」
 小声で耳打ちするように言うと、
「こうでもしないと会ってくれないから……」
 辻は肩を落とした。
「あの、この後メールしますので、ご確認ください。では」
 ビジネスライクな物言いで一礼すると、辻は自分のオフィスへと戻っていった。
 その言葉通り、すぐにメールが来た。
「編み上がったセーターを見て欲しいです。今週どこか空いてませんか」

 あの日以来初めて、ダイレクトにお誘いが来た。いつまでも逃げ回っているだけというのもな、と樋口は考えた。それに樋口だって、辻に会いたくないわけではなかった。正確に言うと、会うのが怖かったのだ。会うとますます焦がれてしまうのはわかっていたから。
「明日少しなら大丈夫です」
 考えに考えてようやく返せたのは、こんな返信だった。
 その返信を見た辻はにわかに落ち着かなくなった。誘っておいて何だが、緊張してきた。あんなに何度も食事や酒、寝食をともにさえしたというのに。ひとまず、まだ会ってくれることにほっとした。もう会ってもらえないかと思っていたから。
 まずは完成したセーターを直接見てもらいたい。樋口の指導のおかげで編み進められた、あれから少しは上達した、編み目だって揃うようになってきた。そんなところを全部見て欲しい。そしてあの日のことを謝りたい。そして――

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