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一方、辻は辻で、答えを誤ったと焦っていた。いい大人なんだから、正直に言っても大丈夫、いや、言うべきだと思ったのだが。体目当てと思われ幻滅されたのだろうか。それとも清い交際をご所望なのだろうか。
「あの、もちろん今すぐとは言ってませんよ! お付き合いして、ゆっくり……」
「無理なんです」
「無理?」
「僕も、辻さんを抱きたいので……」
なるほどそういうことか。ようやく辻にも合点がいった。
「かまいませんよ」
ずっとずっとくよくよと悩んでいたことを、あまりにもあっけらかんと承諾するので、樋口は信じられないという顔で辻を見た。
「な、何がかまわないんです?」
「樋口さんが僕を抱いてくださっても」
「え、辻さん抱く側なんでしょ……?」
「はい」
「ちょっと何言ってるかわかりません、そんな簡単に譲れるものなんですか」
しきりに首を傾げている樋口に辻がそっと歩み寄り、肩に手を置いた。こんなにも接近したのは初めてで、互いの心臓が早鐘を打つ。
「樋口さんを失うのに比べたら、なんてことないです」
少し高い位置から、ゆっくりと辻の顔が降りてくる。言葉の終わりには息がかかりそうなほどに近くなっていた。樋口はこの雰囲気に身を任せたいものの、重要な問題がまだ解決していないので落ち着かない。
「ただ樋口さんが僕なんかに勃ってくれるのかだけが心配です」
困ったように笑う辻を愛おしく思うと同時に、忘れていた現実を突きつけられる。
「それを言うなら、僕だって葛藤してるんです。どう考えたって辻さんが抱く側になるべきだって、頭ではわかってるんですよ……こんなちっさくて頼りない僕なんかより……」
小さくてひょろっとして、肝っ玉の小さい樋口本人より、体も大きくて包容力がある辻が抱く側にまわるのがしっくりくる。そう頭では思うものの、である。
「や、やっぱり僕が抱かれる側に……」
「見た目や性格で役割を勝手に決めつけなくっていいんです。こうあるべきだ、とか、それが普通だ、とか、そんなことどうでもいいんです」
俯いていた樋口が、はっとして顔を上げる。編み物の趣味を周囲に隠す辻を不思議に思ったり、趣味に性別など関係ないと話し合ったりしていたことを思い出した。
「大事なのは、樋口さんがどうしたいか、でしょ」
「あの、もちろん今すぐとは言ってませんよ! お付き合いして、ゆっくり……」
「無理なんです」
「無理?」
「僕も、辻さんを抱きたいので……」
なるほどそういうことか。ようやく辻にも合点がいった。
「かまいませんよ」
ずっとずっとくよくよと悩んでいたことを、あまりにもあっけらかんと承諾するので、樋口は信じられないという顔で辻を見た。
「な、何がかまわないんです?」
「樋口さんが僕を抱いてくださっても」
「え、辻さん抱く側なんでしょ……?」
「はい」
「ちょっと何言ってるかわかりません、そんな簡単に譲れるものなんですか」
しきりに首を傾げている樋口に辻がそっと歩み寄り、肩に手を置いた。こんなにも接近したのは初めてで、互いの心臓が早鐘を打つ。
「樋口さんを失うのに比べたら、なんてことないです」
少し高い位置から、ゆっくりと辻の顔が降りてくる。言葉の終わりには息がかかりそうなほどに近くなっていた。樋口はこの雰囲気に身を任せたいものの、重要な問題がまだ解決していないので落ち着かない。
「ただ樋口さんが僕なんかに勃ってくれるのかだけが心配です」
困ったように笑う辻を愛おしく思うと同時に、忘れていた現実を突きつけられる。
「それを言うなら、僕だって葛藤してるんです。どう考えたって辻さんが抱く側になるべきだって、頭ではわかってるんですよ……こんなちっさくて頼りない僕なんかより……」
小さくてひょろっとして、肝っ玉の小さい樋口本人より、体も大きくて包容力がある辻が抱く側にまわるのがしっくりくる。そう頭では思うものの、である。
「や、やっぱり僕が抱かれる側に……」
「見た目や性格で役割を勝手に決めつけなくっていいんです。こうあるべきだ、とか、それが普通だ、とか、そんなことどうでもいいんです」
俯いていた樋口が、はっとして顔を上げる。編み物の趣味を周囲に隠す辻を不思議に思ったり、趣味に性別など関係ないと話し合ったりしていたことを思い出した。
「大事なのは、樋口さんがどうしたいか、でしょ」
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