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のぞき込んでくる辻の瞳が揺れている。こんな風に、宥めるように優しく言ってはいるが、本当のところ彼の方こそ内心恐ろしくてたまらなかった。この気持ちを、辻自身を、樋口が受け入れてくれるのかどうか。もちろん最初は樋口を抱くつもりだった。思い切り優しくドロドロに甘やかして気持ちよくしてやりたい、と。けれど状況が変わった。見た目は関係ないとは言いつつも、こんな図体で可愛いネコになんてなれるわけがないとは思うけれど、そりゃ少しは怖いという気持ちもあるけれど、もしも樋口が受け入れてくれるというのなら。
「こんな僕ですが、抱いてくれますか?」
初めて重ねた唇は、渋みがかった緑茶の味。辻がこの後のことを考えこみながら茶を淹れていて、うっかり長時間放置してしまったのだ。
まだ付き合うとはっきりとした返事もしていないはず。なのにこんな風に、舌まで絡め合うようなキスをしていいものだろうか。生真面目が過ぎる樋口は一瞬だけそんなことを考えたが、本当に一瞬でそんな迷いは吹き飛んだ。慣れない役目を恥じらいながら懸命に果たそうとする辻に心打たれたし、存外初心で可愛らしい一面を垣間見ることが出来て、頭であれこれと考える余裕なんてなくなるほどに昂った。辻の「僕なんかに勃ってくれるのか」という心配は、完全に杞憂であった。ひどく興奮すると同時に、不慣れな役回りを強いた責任として、しっかりリードしなければという使命感に燃えた。
一方辻は、簡単にタチの座を明け渡してみたものの、やはり初めてのネコは不安だし、可愛げがなさ過ぎて萎えられはしないだろうか、など気になってしまう。体にも余分な力が入ってしまって、なかなか樋口に身を委ねることが出来ない。こんなことでは余計にダメだ、リラックス、集中、そう思えば思うほど、身は固くなる。
「緊張しちゃいますよね……」
樋口が申し訳なさそうに、優しく撫でるように首筋に触れた。好きな人の指先が、触れるか触れないかの力加減でなぞったその一点から、甘い痺れが全身に伝播する。このときようやく辻の中で、思考より感覚が勝った。
「……はい」
「少しでも、気持ちよくなってもらえたらいいんですが」
先に交代でシャワーを済ませたふたりは、既に一糸纏わぬ状態。躊躇いがちに、でも力強く、樋口は辻の、そして樋口自身の性器を、二本まとめて握った。
「あっ、それ」
辻が悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げた。下腹部にむず痒いような快感が走る。辻はこんなことをされるのが初めてなら、当然樋口に握られるのも初めてで、わけがわからなくなってくる。それでも次第に、混乱よりも快感が辻を支配し始めた。樋口の手が上下に動くたび、ぬちぬちと卑猥な音が響く。
「は、あっ、これ」
「辻さん今すっごい、やらしい顔してます」
扱く力を強められて、言い返そうにも言い返せないが、辻の本心は「お前が言うな」だ。樋口の今の顔は、普段からは想像も出来ないぐらいに猥りがましくて、まるで犯されているような錯覚に陥る。それでも口調は相変わらず敬語のままで、それがまた興奮を駆り立てる。普段おとなしくて控えめな樋口が、こんな風になるなんて……と思っていた辺りから、思考は完全に快感に支配され、停止した。それでも
「指、入れますね」
その言葉に我に返る。淡々と手にローションを垂らす樋口を、少し怖いと思ってしまった。
「ひ、ぐちさん、」
辻に情けなく裏返った声で呼ばれ、樋口が辻を見遣る。怯えの色がありありと浮かんで、庇護欲をそそり、より一層愛しさが増す。
「あの、優しくしてください、ね……」
おまけにこんなことまで言い出すものだから、逆に抑えが効かなくなってしまう。
「……善処します」
辻を攻めたてる樋口は、普段のおとなしく冷静な彼とは別人のように、ガツガツくる感じがたまらない。決して荒々しくはないが、静かにねっとりと執拗な攻めは、じわじわと辻の思考も理性も全てを奪っていく。
ゆっくりと、ひとつになれば、内臓が押し上げられる未知なる感覚にはじめこそ違和感しかなかったが、その違和感や圧迫感、鈍い痛みは、次第にじりじとした甘い痺れに取って変わられていった。
今までに聴いたことのない声で啼く辻に、樋口もひどく欲情した。懸命に優しく丁寧に抱いていたが、辻が普段からは想像もつかない嬌態を晒せば晒すほど、彼の「優しくして」という願いを聞き入れるのが困難になってゆく――
「こんな僕ですが、抱いてくれますか?」
初めて重ねた唇は、渋みがかった緑茶の味。辻がこの後のことを考えこみながら茶を淹れていて、うっかり長時間放置してしまったのだ。
まだ付き合うとはっきりとした返事もしていないはず。なのにこんな風に、舌まで絡め合うようなキスをしていいものだろうか。生真面目が過ぎる樋口は一瞬だけそんなことを考えたが、本当に一瞬でそんな迷いは吹き飛んだ。慣れない役目を恥じらいながら懸命に果たそうとする辻に心打たれたし、存外初心で可愛らしい一面を垣間見ることが出来て、頭であれこれと考える余裕なんてなくなるほどに昂った。辻の「僕なんかに勃ってくれるのか」という心配は、完全に杞憂であった。ひどく興奮すると同時に、不慣れな役回りを強いた責任として、しっかりリードしなければという使命感に燃えた。
一方辻は、簡単にタチの座を明け渡してみたものの、やはり初めてのネコは不安だし、可愛げがなさ過ぎて萎えられはしないだろうか、など気になってしまう。体にも余分な力が入ってしまって、なかなか樋口に身を委ねることが出来ない。こんなことでは余計にダメだ、リラックス、集中、そう思えば思うほど、身は固くなる。
「緊張しちゃいますよね……」
樋口が申し訳なさそうに、優しく撫でるように首筋に触れた。好きな人の指先が、触れるか触れないかの力加減でなぞったその一点から、甘い痺れが全身に伝播する。このときようやく辻の中で、思考より感覚が勝った。
「……はい」
「少しでも、気持ちよくなってもらえたらいいんですが」
先に交代でシャワーを済ませたふたりは、既に一糸纏わぬ状態。躊躇いがちに、でも力強く、樋口は辻の、そして樋口自身の性器を、二本まとめて握った。
「あっ、それ」
辻が悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げた。下腹部にむず痒いような快感が走る。辻はこんなことをされるのが初めてなら、当然樋口に握られるのも初めてで、わけがわからなくなってくる。それでも次第に、混乱よりも快感が辻を支配し始めた。樋口の手が上下に動くたび、ぬちぬちと卑猥な音が響く。
「は、あっ、これ」
「辻さん今すっごい、やらしい顔してます」
扱く力を強められて、言い返そうにも言い返せないが、辻の本心は「お前が言うな」だ。樋口の今の顔は、普段からは想像も出来ないぐらいに猥りがましくて、まるで犯されているような錯覚に陥る。それでも口調は相変わらず敬語のままで、それがまた興奮を駆り立てる。普段おとなしくて控えめな樋口が、こんな風になるなんて……と思っていた辺りから、思考は完全に快感に支配され、停止した。それでも
「指、入れますね」
その言葉に我に返る。淡々と手にローションを垂らす樋口を、少し怖いと思ってしまった。
「ひ、ぐちさん、」
辻に情けなく裏返った声で呼ばれ、樋口が辻を見遣る。怯えの色がありありと浮かんで、庇護欲をそそり、より一層愛しさが増す。
「あの、優しくしてください、ね……」
おまけにこんなことまで言い出すものだから、逆に抑えが効かなくなってしまう。
「……善処します」
辻を攻めたてる樋口は、普段のおとなしく冷静な彼とは別人のように、ガツガツくる感じがたまらない。決して荒々しくはないが、静かにねっとりと執拗な攻めは、じわじわと辻の思考も理性も全てを奪っていく。
ゆっくりと、ひとつになれば、内臓が押し上げられる未知なる感覚にはじめこそ違和感しかなかったが、その違和感や圧迫感、鈍い痛みは、次第にじりじとした甘い痺れに取って変わられていった。
今までに聴いたことのない声で啼く辻に、樋口もひどく欲情した。懸命に優しく丁寧に抱いていたが、辻が普段からは想像もつかない嬌態を晒せば晒すほど、彼の「優しくして」という願いを聞き入れるのが困難になってゆく――
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