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馴染む愛情、ピュアなトキメキ

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シリル君が暴行を受けてから、私はシリル君のことばかり考えていたのだが、その間に意図せず殿下からのミッションが終了していた。

私は婚約者候補の敗者として噂される覚悟でいたのだけど、殿下の想い人とのキューピッド役を買って出て、見事成就させた国の貢献者としてアンダーソン侯爵家に殿下から感謝の書状が贈られたと噂が広がり、私の名誉は守られた。

次期生徒会長からも解放され、これからは、生徒会の庶務の雑用係を気楽にやればいいようだ。

そして、今回の事で、ミレーユ様とも親しい間柄になり、オシャレや見目に拘るキャロライン様を巻き込んで、ミレーユ様を美しく変身させるべくナディア様、ドロシー様とともに奮闘している。

クラスの発言権を持っているナディア様が仲間に加わったことや、ミレーユ様と近しい関係になったことで、学園での私の立場は知らない間に強いものとなり、嫌がらせの類いも完全に潰えた。もちろん、その私の親友であるシリル君も、馬鹿にしたり、意地悪したりする人間は激減した。

午前の、短い休憩時間ーー。

「ミレーユ様。貴女は決して女性として魅力がないわけではありませんわ。ただ、ご自分の見せ方を間違っているように思いますの。その地味な装いがいけないのですわ。一般的な若いご令嬢がするような可愛らしいお洒落より、もう少し上品な大人の装いを意識すれば、コケティッシュな魅力が生まれる事間違い無しですわ!」

キャロライン様は、生き生きとミレーユ様にファッション雑誌を見せている。こんな色が似合いそう、とかこんなレース使いなら甘くなくてカッコいい、とか。

ナディア様とも気ぐ合うらしく、オシャレ談義に花を咲かせていた。

「それはそうと、メイベル様がいらっしゃいませんわね?どうなさったの?」

ミレーユ様が尋ねた。

するとドロシー様が目を輝かせながら答えた。

「ミレーユ様、あちらにちゃんといらしてですわ」

ドロシー様が教室の片隅を見やった。

「わたくし、ずっと気になって見ていましたの。ああしていると、まるで、長年連れ添った夫婦のようではありませんこと?わたくしの脳内小説が溢れて大変ですわ」

みんなが一斉に私たちを見た。
その後全員が眉を下げ、生暖かい視線になった。

けれど私は全くそれに気づいていない。

シリル君は向かいの席からこちらを向いて、机の上に腕を出している。

私はシリル君のシャツの袖ボタンが取れかかっているのに気付き、裁縫道具を出して縫い付けているところなのだ。

「交際歴が長いカップルにしか見えませんわね」

「世話女房」

「全く、あれで親友同士なんて言っているのだから切ないですわ」

彼女たちは口々に言っていたが、私には聞こえていないのだった。



◇◇◇


午前の授業がすみ、昼食の時間になっていた。

昼食の時間はアーサー様が来るので、いつものメンバーで校庭にいる。

早食いのアーサー様は、食事を終えると、当たり前のように私からお弁当を渡され食べているシリル君をジト目で見て言った。

「ちぇー。俺の出番がないまま、ミッションが終了しちまったのかぁ。つくづくシリルには敵わないのな、俺」

「……なんか、すみません、アーサー様」

なぜか暴行を受けただけのシリル君が眉を下げて謝った。

そこへドロシー様が口を挟む。

「わたくしも、正直アーサー様とメイベル様のラブシーン見たかったですわ~。今までにない、濃厚な場面が見られると思っていたのに」

そういうと、キャロライン様も興味を引かれたようで乗って来た。

「わたくしも影に隠れて見たかったですわ!アーサー様、どんな演技を見せてくれるつもりでしたの?」

アーサー様は私をちらりと見て言った。

「一応、俺たちが前から付き合っている間柄に見える演技をしろってことだったから、少しは身体に触れていいかとメイベルに了解をもらってはいたんだが。肩を抱いたり抱きしめたりはイマイチインパクトにかけると思って、身体にも触れることなく強烈なの考えていたんだけどな」

「えーっ!なんですの、その裏‼︎ 本当に、身体に触れもせず、強烈なラブシーンができますの?」

「それは本当に惜しい見ものでしたわね。今からでも、やって見せて欲しいですわ」

3人で盛り上がっている中、私にはさして興味のない話なので、シリル君が美味しそうにご飯をもぐもぐさせているのをにこにこと眺めていた。

そんな様子を見ていたアーサー様が言う。

「……少しは俺のことも、意識させたいよな。よし、今から実践して見せてやるぜ」

そう言うと、アーサー様は私が座っている背後の壁にに両手を付いて私を囲むようにしてきた。

私はシリル君を見ていて気がついていなかったのだけど、影が射した事で前を向いた。

すぐ目の前に、アーサー様の精悍な顔があった。

どくん。心臓が飛び跳ねた。

「……どこにも触れてないから、ちょっとくらい、いいだろ?」

そう言って、アーサー様は顔を近づけて来た。

えっ、キスされるの?
私は反射的に目をぎゅっと瞑った。

吐息がすぐ近くにかかるのを感じる。

「……からの寸止めだ」

唇が触れそうになる手前でアーサー様は止まり、離れて行った。

「どうだ?これなら、触れずして、深い仲だって表現できただろ?」

アーサー様はドロシー様たちに向かって笑った。

ドロシー様もキャロライン様も、頬を赤らめて絶賛していた。


けれど。
私はそれどころじゃない。

なぜが激しく動悸が打ち、胸が締め付けられるように苦しい。顔からは、火が出たように熱い。

たかがキスするフリをしただけ。
いつもなら、どうってことないはずなのに……。

私は手に持っていたフォークをぽとりと落とした。

アーサー様はそれに気づいて私を見た。

「 ⁉︎  ……メイベル? すまん、大丈夫か⁈ 」

耳まで真っ赤にして涙ぐんでいる私を見て、焦ったアーサー様が謝ってきた。

「触れなければいいと思ったんだが、ご令嬢には刺激が強すぎたのか?ほんとに悪かった」

私はその言葉で我に返り、フルフルと首を横に振ったけれど、心臓の動悸が治まらない。

アーサー様の顔が見れなくて、

「わ、私……用事を思い出して……失礼します!」

なぜか敬語を発して走り出していた。


(なにこれ~!私じゃないみたい)




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