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誤解される〜セディ視点

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ゆいとの約束の時間。

俺は玄関ホールでゆいが降りてくるのを待っていた。


俺は今日、ゆいを動物園に連れて行くつもりなのでラフなシャツとズボンを着ている。

ゆいも普段、あまり飾らない人だから、あえて服装指定をする必要がないと思っていた。

(美しいのに気取らないゆいの性格が大好きだ!)


だが、階段から降り立ったゆいは、予想を大きく覆し、とても美しく着飾っていた。

この世のものとは思えない妖艶な美しさに、俺は一瞬、呼吸をするのも忘れた。


ラベンダー色のシフォンドレスを身に纏い、髪を大人っぽく結い上げたゆいはまさしく妖精......。

しかも最近の流行りと聞いてはいるが、ドレスの長さがとても短く、膝から下の足が露出している。

俺は視力がいいので、ここからでもゆいの滑らかで美しい足がしっかりと目に入ってしまう。


眼福ではあるが、これは他人には見せてはいけない代物だ......。

俺がそばで守っているから、襲われる心配はないだろう。

だが、不埒な奴らがいやらしい目でゆいの足を見ると思うと堪え難い。


母上は、こんなに綺麗な彼女を見せびらかせて嬉しいだろうという。

けれども俺は、誰にも見せず、隠しておきたいタイプだ。

そうはいっても今更着替えてもらうわけにも行かないので、俺たちは馬車に乗り込み出発した。


馬車の中で向かい合わせに座るゆい。

恥ずかしそうに視線を斜め横にずらしている様や、大人っぽく結い上げた髪。

その後れ毛までも艶かしい。

俺の目の前には、生身の足が綺麗に揃えられてこちらを向いている。

飾らないでも美しいその顔には、薄化粧が施されて更に色っぽさが際立っている。


デートの相手が奥手な俺でなかったら、ゆいは馬車の中で襲われていたのではなかろうか。

そんな邪なことばかり考えていると、ゆいがどこに行くのかと尋ねてきた。


しまった。

俺は現実に戻って青ざめた。

ゆいのこの格好で動物園はないよな......。

俺が事情を話してデートコースを変更しようかと尋ねたのだが、ゆいは俺の考えたデートコースがいいと言う。

そこでとりあえず、もっとラフな服に着替えてもらうため、大型デパートへやって来た。


「わあ!服がいっぱい~」

ゆいが瞳をキラキラさせて言った。

そんな様子を見ると、色っぽいだけでなく可愛らしくていいなあと俺までニヤける。

「どれでも、欲しいものをプレゼントするよ」

俺がそう言ったのだが、ゆいは首を傾げて俺に言った。

「ゆい、このセカイのおしゃれわかりません。セディ、えらんでくれますか?」

「えっ、俺が?」

「はい、セディのこのみのふく、きたいです」

ゆいが頬を赤らめて言う。


そんな風にされたら俺まで照れてしまうではないか。

俺はキョロキョロと辺りを見渡した。

「そ、そうだな......。これなんかは、どうだろうか」

俺はゆいに似合いそうな、ミントグリーンのワンピースを持ち上げて見せた。

袖と襟には白い折り返しがついており、シンプルで清楚なデザインだ。

もちろん、スカートは足首まで隠れる長さだ。

「かわいい。わたし、これがいいです」

「じゃあ、そこで試着させてもらうといい。すみません、ちょっといいですか」

俺は試着をお願いしようと、近くにいた女性店員に声をかけた。

後ろを向いていた女性店員はくるりと振り返り、「いらっしゃいま......ヒッ ! 」と悲鳴をあげた。

その店員は俺の顔を見て、ガタガタと震え、「いやあっ!」と店の奥へ駆け込んで行った......。


......後ろから声を掛けたのはまずかったか......。

俺は自分の顔が、見慣れない人にとっては恐怖を覚えるほどの醜悪さだというのは理解していたから、しばらく待って誰も出てこなければ諦めて別の店へ行こうと思っていた。


すると奥から店長らしき男が出て来てくれたのでホッとした。

女性とやりとりするのはお互いに辛いものがあるからな。

しかし、ホッとしたのもつかの間、店長はジロリと俺を睨みつけて言いがかりをつけて来た。

「キミ、うちの店員に何か用かね?あの子にはちゃんと恋人がいて結婚の約束もあるのだ。キミのようなものが言い寄って良い子じゃないんだぞ」

俺は店長にすっかり誤解されてしまったようだ。

こんなこともままあるから慣れているとはいえ、面倒なことになったと俺はため息をついた。

「あ、いえ、そうではなくて、この服を試着させて欲しいだけなんだが」

俺は持っていた服を店長に差し出して見せた。


店長はますます怪しいとばかりに俺を睨みつける。

「こんな女性用の服をどうするつもりだ?まさかこれを、うちの店員に買ってやるから付き合えとでも言ったんじゃないだろうな?」

う~ん......。この店で服を買うのは難しそうだな......。

ゆいには申し訳ないが、違う店に行こうか......。

俺が説得が難しそうな店長に見切りをつけようかと思っていると、隣からゆいが前に出て来て叫んだ。


「ちょっと!てんちょさん!!なんですか、そのセッキャクは!」

「えっ?」

店長は、ゆいを見て目を見開いた後、顔を赤らめた。

「てんちょさん!セディはわたしのふくかってくれるです!テンインは、なにもしていないのににげたです!オキャクにそんなタイド、いけないでしょ!?」

「は、そ、そうでしたか?それは申し訳ありません......。ですが、本当に、この男とあなた様はお知り合いで?」

店長は信じられないとばかりに、おどおどとゆいに問い返した。

「このおとこいうなっ!このヒトは、わたしのいちばんたいせつなヒトですっ!!セディにあやまって!」

「は、ははっ、も、申し訳ありません...... 」

店長は面食らったように俺の方に向いて謝った。

「い、いえ、わかってもらえれば、俺は良いので...... 」

俺も日頃大人しいゆいの剣幕に驚いて、速攻で店長を許した。


そんな様子を店の奥から見ていた店員が、恐る恐る出て来て深々と謝った。

「わ、わたし......。驚いてしまって思わず逃げてしまいました......。申し訳ありませんでした」

「い、いえ...... 」

緊張感漂う空気の中、ゆいが店員に言った。

「セディがゆるしたからもういいです。それじゃあ、これ、シチャクさせてクダサイ」

そう言って、店員とふたり、試着室へ行ってしまった。

残された店長は俺にボソリと言った。

「すごく......お綺麗な彼女さんですね......羨ましい...... 」

「は...ハハハ...... 」

俺は乾いた笑い声しか出なかった。






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