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ただ一人だけの彼女
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俺は校門が見える、水飲み場に身を隠す様にして下校する生徒たちを見つめていた。
しばらくすると、小夜が歩いて校門を抜けるのが目に入った。俺は急いで校門へ走る。
「小夜」
高級な外車の窓から身を乗り出した男が小夜に声をかけた。
小夜は片手を上げてにこりと微笑む。そのまま当たり前の様に車の助手席に乗って去ってしまった。
車に乗っていた男の顔は見えなかったが、俺なんかよりずっと大人で太刀打ちできない気がした。
「クソッ!」
俺は、モヤモヤとした気持ちを打ち消す様に走り出す。
なんでこんなことになって気づくんだ! 俺、いつの間にかあいつのことが好きになってる! ずっと酷い事ばかりして来た俺に、いつも優しく微笑んだ小夜! 他の女にキスするのが嫌だと感じた時に、どうして気づかなかったんだ!
俺はいろいろな後悔を胸に抱きながらも走り続けた。
俺は1年からの付き合いだから、小夜の家を知っていた。気づくと彼女の家の前までたどり着いていた。
近くの駐車場で、外車から降りて家の方へ向かう小夜が見えた。隣には先ほどの男の後ろ姿もあった。
「小夜!」
俺は男の方など見もせずに、小夜の手首を掴んで強引に走った。
「真咲くん?!」
小夜は驚いた顔をしていたが、そのまま一緒に走っていた。
近くを流れる川のそばまで来て、俺は走る足を止めた。二人ははあはあと洗い息を整えながら見つめ合う。すでに夕日は山の向こうへ沈みかけ、空も川もオレンジに染まっていた。
「小夜」
俺は少しだけ呼吸が落ち着いたところで、小夜の名を呼んで彼女の身体を抱きしめた。
「真咲くん?どうしたんですか?」
俺は小夜を抱きしめたままで話始めた。
「小夜、もう遅いのかもしれないけど、今までお前に酷いことばかりしてごめん。俺、お前の前では気取らず済んで、すごく居心地が良かったんだ。どんな俺だって、小夜なら愛してくれると勘違いしてた。ごめん。俺、小夜が好きだったよ。今更気づいても遅いけど......」
「真咲くん、私、なんのことかわかりません。いったい何が遅いんですか?」
小夜は、俺に応える様に、俺の背中に腕を回しながら聞いて来た。
「だって、俺のことがもう嫌になったんだろ? だからあんな包容力のありそうな大人の男とつき合って」
俺が悔しそうにそう言うと、小夜は背中に回していた手を離して俺の顔を包んだ。
「ちょっと待ってください。大人の男の人って、まさかさっきの?」
「ああ、外車の男とつき合ってるんだろ?」
俺が渋面をしてそう言うと、小夜は豆鉄砲をくらった鳩の様な表情をした。
「何を勘違いしてるんですか? あの人は、私の母の再婚相手ですよ?」
「へっ?」
俺は間の抜けた声を出してしまった。
「歳だって50のおじさんです。どうしてそんな歳の離れた人と私が付き合うんですか」
「え?だって、急にきれいになったし、俺に会おうとしなくなったし......」
伏目がちに俺が言うと、小夜は俺の頬に手を添えたまま優しい声音で語った。
「会おうとしなくなったんじゃないですよ。会いたくても、忙しくて会えなかっただけです。その理由も私、ちゃんと言いましたよね? イメージチェンジしたのは、真咲くんとセカンド・キスできた記念にと思って、ちょっとおしゃれしてみただけですよ?」
「え......それじゃあ、小夜は俺を好きなままなのか?」
「はい。好きです。前に告白した時よりもずっと好きですよ」
「なぜ......。俺、小夜に酷いことばかりした気がするのに」
「いいえ、酷いことなんてされてません。あなたは毎日私にお弁当を持って来させることもできたのに、たった週に一度しか指定しなかったじゃありませんか。彼女なら、それくらい頼まれなくてもしてあげたいと思うものです。それに、他の女性にキスすることを隠さず教えてくれて、私で練習してくれた。それって、他の人より心を許してくれてる証拠でしょう? 私、真咲くんに命令されるの嫌じゃないですよ。だって、私を必要としてくれてるってことだもの」
「小夜......」
小夜は何も言わなくても、俺の行動の意味をわかってくれてた。俺はもう一度、小夜の柔らかな身体を抱きしめ尋ねた。
「なんでそんなに俺を好きでいてくれるんだ?」
「だって、あなたは私の初恋の人で、ファースト・キスの相手ですもの」
「ええっ?」
俺はまたも驚いて、小夜の顔を見つめた。
「真咲くん、保育園の時の『さっちゃん』を覚えていませんか?」
「さっちゃん......?」
その名を聞いて、俺は薄れかけた記憶が少しずつ蘇って心が震えた。
「ああ、覚えてる。俺が女みたいだってからかわれたら、いつも守ってくれたさっちゃんだ。それに、うちの両親が仕事で忙しくて、寂しくてよく泣いてたけど、そんな時、いつも抱きしめてくれた女の子。確か、ご両親の離婚か何かで引っ越してしまったんだ」
「そうです。私、大好きだったまーくんと離れるのが辛くて、私からキスをして言ったんです。私、絶対まーくんを忘れない。出会えたら、結婚してって申し込むよって。だけど流石にそんな子供の時のこと。私も忘れかけていたんです。だけど高校に入って真咲くんを見た時、そんな約束を思い出して。それで真咲くんを見ていたら、みんなにチヤホヤされている割には無理してる様に見えて。気になって見続けてるうちに好きになってた」
小夜は、俺の大事な友達だった。今の小夜だけでもこんなに愛しいのに、その事実がわかってしまったら、もう絶対小夜を離せない。
「小夜......俺の一番目の、いや、ただ一人の彼女になってくれないか」
「返事をするまでもないことです、真咲くん」
また、俺は心地良い小夜の身体を、時間が経つのも忘れて抱きしめ続けたーー。
ー完ー
しばらくすると、小夜が歩いて校門を抜けるのが目に入った。俺は急いで校門へ走る。
「小夜」
高級な外車の窓から身を乗り出した男が小夜に声をかけた。
小夜は片手を上げてにこりと微笑む。そのまま当たり前の様に車の助手席に乗って去ってしまった。
車に乗っていた男の顔は見えなかったが、俺なんかよりずっと大人で太刀打ちできない気がした。
「クソッ!」
俺は、モヤモヤとした気持ちを打ち消す様に走り出す。
なんでこんなことになって気づくんだ! 俺、いつの間にかあいつのことが好きになってる! ずっと酷い事ばかりして来た俺に、いつも優しく微笑んだ小夜! 他の女にキスするのが嫌だと感じた時に、どうして気づかなかったんだ!
俺はいろいろな後悔を胸に抱きながらも走り続けた。
俺は1年からの付き合いだから、小夜の家を知っていた。気づくと彼女の家の前までたどり着いていた。
近くの駐車場で、外車から降りて家の方へ向かう小夜が見えた。隣には先ほどの男の後ろ姿もあった。
「小夜!」
俺は男の方など見もせずに、小夜の手首を掴んで強引に走った。
「真咲くん?!」
小夜は驚いた顔をしていたが、そのまま一緒に走っていた。
近くを流れる川のそばまで来て、俺は走る足を止めた。二人ははあはあと洗い息を整えながら見つめ合う。すでに夕日は山の向こうへ沈みかけ、空も川もオレンジに染まっていた。
「小夜」
俺は少しだけ呼吸が落ち着いたところで、小夜の名を呼んで彼女の身体を抱きしめた。
「真咲くん?どうしたんですか?」
俺は小夜を抱きしめたままで話始めた。
「小夜、もう遅いのかもしれないけど、今までお前に酷いことばかりしてごめん。俺、お前の前では気取らず済んで、すごく居心地が良かったんだ。どんな俺だって、小夜なら愛してくれると勘違いしてた。ごめん。俺、小夜が好きだったよ。今更気づいても遅いけど......」
「真咲くん、私、なんのことかわかりません。いったい何が遅いんですか?」
小夜は、俺に応える様に、俺の背中に腕を回しながら聞いて来た。
「だって、俺のことがもう嫌になったんだろ? だからあんな包容力のありそうな大人の男とつき合って」
俺が悔しそうにそう言うと、小夜は背中に回していた手を離して俺の顔を包んだ。
「ちょっと待ってください。大人の男の人って、まさかさっきの?」
「ああ、外車の男とつき合ってるんだろ?」
俺が渋面をしてそう言うと、小夜は豆鉄砲をくらった鳩の様な表情をした。
「何を勘違いしてるんですか? あの人は、私の母の再婚相手ですよ?」
「へっ?」
俺は間の抜けた声を出してしまった。
「歳だって50のおじさんです。どうしてそんな歳の離れた人と私が付き合うんですか」
「え?だって、急にきれいになったし、俺に会おうとしなくなったし......」
伏目がちに俺が言うと、小夜は俺の頬に手を添えたまま優しい声音で語った。
「会おうとしなくなったんじゃないですよ。会いたくても、忙しくて会えなかっただけです。その理由も私、ちゃんと言いましたよね? イメージチェンジしたのは、真咲くんとセカンド・キスできた記念にと思って、ちょっとおしゃれしてみただけですよ?」
「え......それじゃあ、小夜は俺を好きなままなのか?」
「はい。好きです。前に告白した時よりもずっと好きですよ」
「なぜ......。俺、小夜に酷いことばかりした気がするのに」
「いいえ、酷いことなんてされてません。あなたは毎日私にお弁当を持って来させることもできたのに、たった週に一度しか指定しなかったじゃありませんか。彼女なら、それくらい頼まれなくてもしてあげたいと思うものです。それに、他の女性にキスすることを隠さず教えてくれて、私で練習してくれた。それって、他の人より心を許してくれてる証拠でしょう? 私、真咲くんに命令されるの嫌じゃないですよ。だって、私を必要としてくれてるってことだもの」
「小夜......」
小夜は何も言わなくても、俺の行動の意味をわかってくれてた。俺はもう一度、小夜の柔らかな身体を抱きしめ尋ねた。
「なんでそんなに俺を好きでいてくれるんだ?」
「だって、あなたは私の初恋の人で、ファースト・キスの相手ですもの」
「ええっ?」
俺はまたも驚いて、小夜の顔を見つめた。
「真咲くん、保育園の時の『さっちゃん』を覚えていませんか?」
「さっちゃん......?」
その名を聞いて、俺は薄れかけた記憶が少しずつ蘇って心が震えた。
「ああ、覚えてる。俺が女みたいだってからかわれたら、いつも守ってくれたさっちゃんだ。それに、うちの両親が仕事で忙しくて、寂しくてよく泣いてたけど、そんな時、いつも抱きしめてくれた女の子。確か、ご両親の離婚か何かで引っ越してしまったんだ」
「そうです。私、大好きだったまーくんと離れるのが辛くて、私からキスをして言ったんです。私、絶対まーくんを忘れない。出会えたら、結婚してって申し込むよって。だけど流石にそんな子供の時のこと。私も忘れかけていたんです。だけど高校に入って真咲くんを見た時、そんな約束を思い出して。それで真咲くんを見ていたら、みんなにチヤホヤされている割には無理してる様に見えて。気になって見続けてるうちに好きになってた」
小夜は、俺の大事な友達だった。今の小夜だけでもこんなに愛しいのに、その事実がわかってしまったら、もう絶対小夜を離せない。
「小夜......俺の一番目の、いや、ただ一人の彼女になってくれないか」
「返事をするまでもないことです、真咲くん」
また、俺は心地良い小夜の身体を、時間が経つのも忘れて抱きしめ続けたーー。
ー完ー
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みんなの感想(4件)
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かわいいーー
そして小夜ちゃんの包容力が素晴らしい。
面白かったです!
ななこさん、こちらにもコメントありがとうございます!
面白かったと言ってもらえてとても嬉しいです。
わがままな男も手玉にとる小夜......
この後の二人をなんとなく想像してしまいました(笑)
お前ら好き〜〜〜!!(´TωT`)
色んな予想ってか予測が当たったの地味に嬉しかったd(˙꒳˙* )
2人とも一生幸せでいろ…!(*´ω`*)
reikaさん、コメントありがとうございます。
こちらの作品も読んで下さったんですね。
ありがとうございます。
サブタイトルつけるのが下手で、内容がほとんどバレるなといつも思いながらもつけています(笑)
カワイイ。小夜ちゃん従順すぎるけどそこが良かったですね。イケメン性格素直で良かったです。
里見知美さん、コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってすみません。
このお話は、平松愛理さんの『駅のない遮断機』という曲を聴いていて思いついたもので、『微笑んでいればいつか開くの』『最後に辿りつくはずの終着駅よ』のふたつのキーワードに感動したことから、従順すぎるヒロインが生まれました。
ヒーローはもっと嘘つきで浮気な男にする予定だったんですが、文字数少なくしたら割と真面目な男になってしまいました。
と、長々と書いてしまい、すみません。