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人生リスタート
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「はぁ…帰りたくないなぁ」
毎日毎日、何もしない義母と義姉の世話ばかり。
なぜ僕がその理不尽に為す術なく屈しているのかというと、それは僕の第二次性に原因があった。
この世界には、α、β、Ωという男女と別の性が存在する。そして僕は男でも妊娠できるというΩだ。
その特徴から印象付く通り、男性Ωは体の線も女性的で小柄な人が多く、僕も例に漏れない。
そして何より厄介なのがその発情期であり、抑制剤を飲まなければαを誘うフェロモンを振りまくことになる。僕が逃げ出せない最大の理由はそれだった。
父が死んで少し経った頃、毎月父が買ってきてくれていた抑制剤が切れ、義母にそれを伝えたことがあった。そのころはまだ猫かぶった義母しか知らなかったから、警戒もなにもなかった。
今となってはそれが悪手でしかなかったと理解できる。事ある毎に『お前が逃げ出したらΩ専用の奴隷商人に情報を売る』と散々脅されているのだ。
そして情報を売られれば、どこかに身を潜めていても必ず捕まってしまうだろう。Ωはその高い繁殖能力と、αと交わればほぼ確実にαの子供が産まれるという実しやかな情報によって、奴隷市場での価値がとても高くなっているからだ。商人たちは血眼になって探すはずだ。
バレないように逃げ出そうとしても、一日中家にいる彼女たちにはすぐバレる。そしたら情報を売られて、奴隷行き確定だ。町のどこに監視の目があるか分からないから、日中の仕事をしている時間に逃げ出すのも難しかった。
「僕がΩじゃなければ…」
とぼとぼと帰路を歩きながら、もう何度目かも分からない言葉を呟く。
僕は自身の性が嫌いだ。そして誰彼構わず誘惑するそのフェロモンはもっと嫌いだ。
なりたくてなったわけじゃないのに「淫乱だ」とか「獣のようだ」とか言われなければならないのが悔しくて仕方ない。だから僕は薬学を学ぼうと思った。おかげで抑制剤を自分で作れるようになったし、仕事にも就けた。
けれど磨いたその腕も、僕の現状を打破するには頼りないものでしかなかった。
(あの人たちが夜居なくなる時間さえあれば…)
そう考えてふと前を見ると、なにやら民衆、特に女性が寄り集まって騒がしい場所があった。
(あれは…掲示板?)
気になってその輪に潜り込んでみると、騒ぎの中心はひとつの掲示物のようだった。
「すごいわ!まさか私たちもこれに参加することになるなんて!」
「やだぁ、選ばれたらどうしましょう!」
「すごい玉の輿じゃない!張り切って準備しなきゃ!」
(なんだなんだ?女の子たちがすごく盛り上がってるけど…)
「えーと…『王宮で開かれるパーティへの招待状』?」
その掲示物を読んで、女の子たちがなんであんなに騒いでいるのか分かった。
なんでも、このグレイシル王国の第二王子、ルシアン=カスタニエ=グレイシル様が婚約者を見つけるためのパーティを開くらしい。
この国の王族の仕来りで、20歳までに婚約者を決められなかった王子は皆このパーティを開くことになっている。国中の成人女性と男性Ωは、平民だろうがもれなくみんな参加できるのだ。
(あー…これは義姉さんたちがドレス仕立てろってうるさいやつだ…)
そして、僕が行くことは許して貰えないだろう。億が一にも僕が選ばれてしまえば困るのはあの人たちだ。
(じゃあその日は僕一人かぁ…ん?)
そうだ、僕一人だ。一夜中僕にはあの人たちの監視の目が無くなる。
(もしかして、逃げられる!?)
一夜もあればあの人たちの包囲網を抜けられるだろう。その後はどこか遠くの街で薬師として雇ってもらって、お金が貯まったら自分の店を作る。
僕にとってあまりにも理想的な生活だ。
突如として現れたチャンスに、僕は目を煌めかせた。
「あら、もしかしてあなたΩの方?」
「え!?あ、はい、そうですけど…」
横で掲示板を見ていた女性が突然話しかけてきた。あまりに目を光らせているから、僕がこのパーティ自体に心躍らせているのだと思われたのだろう。実際はその後の新しい人生に、なのだけど。
「ふふ、そんなに警戒しないで?私恋人いるから、このパーティにはそんなに乗り気でないの」
「あ、そうなんですね…」
「困ったものよね、未婚の若い女性はみんな参加しなきゃならないなんて」
「たしかに…行きたくない人もいますよね」
国中の女性に人気なルシアン様の婚約者選びだから、みんな行きたがるようなイメージしかなかった。
「そんなこと考えもしなかったって顔ね?ふふ、それほどルシアン殿下が好きってことかしら」
「え、えぇ?!いや僕は…」
「照れなくていいのよ。応援してるわね」
そう言って女性は手を振り去っていった。
なんだかとんでもない勘違いをされたけれど、どうせ僕はもうすぐこの町を出るし…まぁいいか。
(ルシアン殿下…あなたのパーティ、利用させていただきます!)
職場の仲間たちやルカ様と会えなくなるのは寂しいけれど、落ち着いたら手紙を出したりしよう。
縛られてばかりの僕の人生、必ず変えてみせると決心した。
毎日毎日、何もしない義母と義姉の世話ばかり。
なぜ僕がその理不尽に為す術なく屈しているのかというと、それは僕の第二次性に原因があった。
この世界には、α、β、Ωという男女と別の性が存在する。そして僕は男でも妊娠できるというΩだ。
その特徴から印象付く通り、男性Ωは体の線も女性的で小柄な人が多く、僕も例に漏れない。
そして何より厄介なのがその発情期であり、抑制剤を飲まなければαを誘うフェロモンを振りまくことになる。僕が逃げ出せない最大の理由はそれだった。
父が死んで少し経った頃、毎月父が買ってきてくれていた抑制剤が切れ、義母にそれを伝えたことがあった。そのころはまだ猫かぶった義母しか知らなかったから、警戒もなにもなかった。
今となってはそれが悪手でしかなかったと理解できる。事ある毎に『お前が逃げ出したらΩ専用の奴隷商人に情報を売る』と散々脅されているのだ。
そして情報を売られれば、どこかに身を潜めていても必ず捕まってしまうだろう。Ωはその高い繁殖能力と、αと交わればほぼ確実にαの子供が産まれるという実しやかな情報によって、奴隷市場での価値がとても高くなっているからだ。商人たちは血眼になって探すはずだ。
バレないように逃げ出そうとしても、一日中家にいる彼女たちにはすぐバレる。そしたら情報を売られて、奴隷行き確定だ。町のどこに監視の目があるか分からないから、日中の仕事をしている時間に逃げ出すのも難しかった。
「僕がΩじゃなければ…」
とぼとぼと帰路を歩きながら、もう何度目かも分からない言葉を呟く。
僕は自身の性が嫌いだ。そして誰彼構わず誘惑するそのフェロモンはもっと嫌いだ。
なりたくてなったわけじゃないのに「淫乱だ」とか「獣のようだ」とか言われなければならないのが悔しくて仕方ない。だから僕は薬学を学ぼうと思った。おかげで抑制剤を自分で作れるようになったし、仕事にも就けた。
けれど磨いたその腕も、僕の現状を打破するには頼りないものでしかなかった。
(あの人たちが夜居なくなる時間さえあれば…)
そう考えてふと前を見ると、なにやら民衆、特に女性が寄り集まって騒がしい場所があった。
(あれは…掲示板?)
気になってその輪に潜り込んでみると、騒ぎの中心はひとつの掲示物のようだった。
「すごいわ!まさか私たちもこれに参加することになるなんて!」
「やだぁ、選ばれたらどうしましょう!」
「すごい玉の輿じゃない!張り切って準備しなきゃ!」
(なんだなんだ?女の子たちがすごく盛り上がってるけど…)
「えーと…『王宮で開かれるパーティへの招待状』?」
その掲示物を読んで、女の子たちがなんであんなに騒いでいるのか分かった。
なんでも、このグレイシル王国の第二王子、ルシアン=カスタニエ=グレイシル様が婚約者を見つけるためのパーティを開くらしい。
この国の王族の仕来りで、20歳までに婚約者を決められなかった王子は皆このパーティを開くことになっている。国中の成人女性と男性Ωは、平民だろうがもれなくみんな参加できるのだ。
(あー…これは義姉さんたちがドレス仕立てろってうるさいやつだ…)
そして、僕が行くことは許して貰えないだろう。億が一にも僕が選ばれてしまえば困るのはあの人たちだ。
(じゃあその日は僕一人かぁ…ん?)
そうだ、僕一人だ。一夜中僕にはあの人たちの監視の目が無くなる。
(もしかして、逃げられる!?)
一夜もあればあの人たちの包囲網を抜けられるだろう。その後はどこか遠くの街で薬師として雇ってもらって、お金が貯まったら自分の店を作る。
僕にとってあまりにも理想的な生活だ。
突如として現れたチャンスに、僕は目を煌めかせた。
「あら、もしかしてあなたΩの方?」
「え!?あ、はい、そうですけど…」
横で掲示板を見ていた女性が突然話しかけてきた。あまりに目を光らせているから、僕がこのパーティ自体に心躍らせているのだと思われたのだろう。実際はその後の新しい人生に、なのだけど。
「ふふ、そんなに警戒しないで?私恋人いるから、このパーティにはそんなに乗り気でないの」
「あ、そうなんですね…」
「困ったものよね、未婚の若い女性はみんな参加しなきゃならないなんて」
「たしかに…行きたくない人もいますよね」
国中の女性に人気なルシアン様の婚約者選びだから、みんな行きたがるようなイメージしかなかった。
「そんなこと考えもしなかったって顔ね?ふふ、それほどルシアン殿下が好きってことかしら」
「え、えぇ?!いや僕は…」
「照れなくていいのよ。応援してるわね」
そう言って女性は手を振り去っていった。
なんだかとんでもない勘違いをされたけれど、どうせ僕はもうすぐこの町を出るし…まぁいいか。
(ルシアン殿下…あなたのパーティ、利用させていただきます!)
職場の仲間たちやルカ様と会えなくなるのは寂しいけれど、落ち着いたら手紙を出したりしよう。
縛られてばかりの僕の人生、必ず変えてみせると決心した。
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