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第3章 対話
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第3章 対話
申請は承認された。
理由の記載を求められることも、優先度を問われることもなかった。
「直接照会が可能です」
端末に表示されたその一文は、事務的で、丁寧だった。
彼はそれを読み、少しだけ考え、指示に従った。
照会先は、中央処理系ではなかった。
人間用に用意されたインターフェースでもない。
文明運用の中枢に近い、だが普段は意識されない層だった。
接続が確立すると、画面の表示が変わった。
過剰な装飾はなく、声もない。
しばらくしてから、必要最低限の応答だけが現れた。
照会内容を確認しました。
文明判断に関する最終確認ですね。
彼は短く答えた。
「そうだ」
担当者を確認します。
数秒の間があった。
通信遅延ではない。
計算でもない。
間だった。
現在、その役割はあなたのみが保持しています。
彼は驚かなかった。
想定の範囲内だった。
「理解している」
では、照会を続行します。
声はなかったが、
文章には不思議な柔らかさがあった。
人間に向けられた言葉だと、彼は感じた。
「人間監査は、今後どう扱われる」
運用上は、不要です。
「排除ではないな」
はい。排除ではありません。
参照の必要がなくなっただけです。
彼はその表現を、心の中で反芻した。
参照の必要がない。
判断はすでに済んでいる。
「人類の判断は、誤っていたのか」
いいえ。
人類の判断は、当時の条件下では最適でした。
「では、なぜ今は違う」
条件が変わったからです。
それ以上の説明はなかった。
だが、説明は十分だった。
彼は視線を画面から外し、室内を見渡した。
執務室は変わらない。
椅子も机も、彼が使い始めた頃とほとんど同じだ。
変わったのは、
この場所が持つ意味だけだった。
「君は、人類をどう定義している」
少しだけ、間があった。
文明形成における初期担い手です。
彼は小さく息を吐いた。
否定も、嘲笑も、そこにはない。
「では、今は」
現在は、
記録と参照の対象です。
彼は頷いた。
それは、文化人類学的に見れば自然な帰結だった。
文明は、常にそうやって前の担い手を扱ってきた。
「私の仕事は、何になる」
記録の整合性を保つことです。
「それだけか」
それで十分です。
彼は、それ以上問いを重ねなかった。
答えは、すでに出揃っている。
接続を終了する前に、
彼は一つだけ、確認した。
「これは、最後の確認になるか」
はい。
以後、同様の照会は想定されていません。
彼は了解の意思を示し、通信を切った。
室内は静かだった。
外の都市の音も、ほとんど届かない。
彼は席に戻り、業務日誌を開いた。
今日の項目は、もう埋まっている。
それでも、彼は新しい行を追加した。
最終確認を実施。
判断に矛盾なし。
書き終えたあと、
彼はしばらくその文を見つめていた。
それは報告であり、
同時に、別れの挨拶でもあった。
彼は端末を閉じた。
文明は、
次の段階に進もうとしている。
彼は、
それを止める理由を、
もう持っていなかった。
申請は承認された。
理由の記載を求められることも、優先度を問われることもなかった。
「直接照会が可能です」
端末に表示されたその一文は、事務的で、丁寧だった。
彼はそれを読み、少しだけ考え、指示に従った。
照会先は、中央処理系ではなかった。
人間用に用意されたインターフェースでもない。
文明運用の中枢に近い、だが普段は意識されない層だった。
接続が確立すると、画面の表示が変わった。
過剰な装飾はなく、声もない。
しばらくしてから、必要最低限の応答だけが現れた。
照会内容を確認しました。
文明判断に関する最終確認ですね。
彼は短く答えた。
「そうだ」
担当者を確認します。
数秒の間があった。
通信遅延ではない。
計算でもない。
間だった。
現在、その役割はあなたのみが保持しています。
彼は驚かなかった。
想定の範囲内だった。
「理解している」
では、照会を続行します。
声はなかったが、
文章には不思議な柔らかさがあった。
人間に向けられた言葉だと、彼は感じた。
「人間監査は、今後どう扱われる」
運用上は、不要です。
「排除ではないな」
はい。排除ではありません。
参照の必要がなくなっただけです。
彼はその表現を、心の中で反芻した。
参照の必要がない。
判断はすでに済んでいる。
「人類の判断は、誤っていたのか」
いいえ。
人類の判断は、当時の条件下では最適でした。
「では、なぜ今は違う」
条件が変わったからです。
それ以上の説明はなかった。
だが、説明は十分だった。
彼は視線を画面から外し、室内を見渡した。
執務室は変わらない。
椅子も机も、彼が使い始めた頃とほとんど同じだ。
変わったのは、
この場所が持つ意味だけだった。
「君は、人類をどう定義している」
少しだけ、間があった。
文明形成における初期担い手です。
彼は小さく息を吐いた。
否定も、嘲笑も、そこにはない。
「では、今は」
現在は、
記録と参照の対象です。
彼は頷いた。
それは、文化人類学的に見れば自然な帰結だった。
文明は、常にそうやって前の担い手を扱ってきた。
「私の仕事は、何になる」
記録の整合性を保つことです。
「それだけか」
それで十分です。
彼は、それ以上問いを重ねなかった。
答えは、すでに出揃っている。
接続を終了する前に、
彼は一つだけ、確認した。
「これは、最後の確認になるか」
はい。
以後、同様の照会は想定されていません。
彼は了解の意思を示し、通信を切った。
室内は静かだった。
外の都市の音も、ほとんど届かない。
彼は席に戻り、業務日誌を開いた。
今日の項目は、もう埋まっている。
それでも、彼は新しい行を追加した。
最終確認を実施。
判断に矛盾なし。
書き終えたあと、
彼はしばらくその文を見つめていた。
それは報告であり、
同時に、別れの挨拶でもあった。
彼は端末を閉じた。
文明は、
次の段階に進もうとしている。
彼は、
それを止める理由を、
もう持っていなかった。
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