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19話 秘めた思いを隠しながら
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「んー、中間試験疲れましたね」
そう言って座ったまま伸びをしているのは、僕エキセルソの美しき婚約者ラテーナ・カルアである。
僅かに細められたアメジストのような瞳に、彼女の動きに合わせてふわりと揺れるスミレ色の髪、薄紅色に色づいた頬に、ふぅと息が漏れ出す艶やかな唇、その全てが芸術品のようである。
ただ確かに、このような仕草は本来貴族令嬢としては良くないことかもしれないが、幸い今ここには僕らしか居ないし、こういう何気ない仕草にのみ滲む素の美しさまでを堪能できるのは、婚約者として至上の喜びと言っても過言ではないだろう。
「いや、疲れて伸びをしているラテーナも美しくて素敵だよ」
「せ、セル様……!!」
今まで何度も繰り返し口にしてきたような誉め言葉のはずなのに、その度にラテーナは新鮮に頬を紅潮させる。
いつまでも初心なのか、僕の言葉が足りないのか少し悩みどころである。
もし足らないのであれば、当然更に誉める頻度を増やすつもりである。
まぁ、それはそれとして……今は改めて話したいことがあった。
「ねぇラテーナ」
「はい、なんでしょうか」
「僕は君の不安を取り除くことが出来ているかな?」
「え」
戸惑ったようなラテーナの表情、困ったように揺れる瞳。そんな様子さえ愛おしいが、同時に心苦しくもある。ラテーナ自身のためとは言え、これから彼女が答えづらいであろう質問をしなくてはならないのだから。
「ほら、入学からだいぶ経っただろう?入学前のあの時、君は婚約破棄して欲しいと口走るほどに取り乱して不安がっていたけど、あの不安は和らいだかな」
本当は聞かなくても答えは分かっていた。出来ればラテーナにも正直に答えて欲しいけども……。
「……はい、もう大丈夫です」
ラテーナは美しく笑う、僕には分かるよく出来た作られた笑顔で。
ああ、やっぱり彼女は嘘を付いた。知っていた、だって彼女はそういう人だから。
「セル様が色々と気にかけて下さったお陰で、もうすっかり大丈夫です。ありがとうございます」
そんなことないだろう。ずっと君のことを見ている僕が気付かない筈がない。ほんの一瞬だが、君の顔に不安が滲むことがあると。
それを懸命に君が隠そうとしていることも。
今までの行動や、その成果に自信がないわけではない。実際に彼女の不安の種を遠ざけるのには、それなりに成功してきたと思う。
だけどラテーナの気持ちを取りこぼしていないかだけは、どうしても不安になった。
彼女が安心してくれなくては、どんな行為も意味をなさないのだから。
「確かに、まったく不安がなかったと言えば嘘になります。でもセル様が側に居て下さったから、だいぶ安心できました」
本当は全部話して欲しい。君の全てを僕に預けて一緒に背負わせて欲しいんだ。
でもきっとこれは僕のエゴで、そんなことを言っても君をますます困らせてしまうだけだと分かっている。
「よかった……」
だからそれ以上問い出すことなんて出来なかった。
ああ、君の中の不安を全て無くしてしまうには、今の僕ではまだまだ力不足なんだね。
理解はしていたけど苦しいし悔しいな。
でも、それでも今は構わない。僕は僕の出来ることをするだけだから。
「ああ、ラテーナと過ごす夏季休暇が楽しみだなー」
「もうセル様ったら、また先に期末試験もあるのに気が早いですよ」
「だって、そんなの気にするほどのものではないからさ」
そう、他の何も気にせず、何物にもとらわれず、僕はただ君を守るよ。
だからいつかの日か、何も心配しないで笑って欲しい、それが僕のただ一つの願いだ。
自分の全てを賭けてもまだ足らないほど大切な、僕のラテーナ。
君へ輝かんばかりの愛と幸福を捧げよう。
そう言って座ったまま伸びをしているのは、僕エキセルソの美しき婚約者ラテーナ・カルアである。
僅かに細められたアメジストのような瞳に、彼女の動きに合わせてふわりと揺れるスミレ色の髪、薄紅色に色づいた頬に、ふぅと息が漏れ出す艶やかな唇、その全てが芸術品のようである。
ただ確かに、このような仕草は本来貴族令嬢としては良くないことかもしれないが、幸い今ここには僕らしか居ないし、こういう何気ない仕草にのみ滲む素の美しさまでを堪能できるのは、婚約者として至上の喜びと言っても過言ではないだろう。
「いや、疲れて伸びをしているラテーナも美しくて素敵だよ」
「せ、セル様……!!」
今まで何度も繰り返し口にしてきたような誉め言葉のはずなのに、その度にラテーナは新鮮に頬を紅潮させる。
いつまでも初心なのか、僕の言葉が足りないのか少し悩みどころである。
もし足らないのであれば、当然更に誉める頻度を増やすつもりである。
まぁ、それはそれとして……今は改めて話したいことがあった。
「ねぇラテーナ」
「はい、なんでしょうか」
「僕は君の不安を取り除くことが出来ているかな?」
「え」
戸惑ったようなラテーナの表情、困ったように揺れる瞳。そんな様子さえ愛おしいが、同時に心苦しくもある。ラテーナ自身のためとは言え、これから彼女が答えづらいであろう質問をしなくてはならないのだから。
「ほら、入学からだいぶ経っただろう?入学前のあの時、君は婚約破棄して欲しいと口走るほどに取り乱して不安がっていたけど、あの不安は和らいだかな」
本当は聞かなくても答えは分かっていた。出来ればラテーナにも正直に答えて欲しいけども……。
「……はい、もう大丈夫です」
ラテーナは美しく笑う、僕には分かるよく出来た作られた笑顔で。
ああ、やっぱり彼女は嘘を付いた。知っていた、だって彼女はそういう人だから。
「セル様が色々と気にかけて下さったお陰で、もうすっかり大丈夫です。ありがとうございます」
そんなことないだろう。ずっと君のことを見ている僕が気付かない筈がない。ほんの一瞬だが、君の顔に不安が滲むことがあると。
それを懸命に君が隠そうとしていることも。
今までの行動や、その成果に自信がないわけではない。実際に彼女の不安の種を遠ざけるのには、それなりに成功してきたと思う。
だけどラテーナの気持ちを取りこぼしていないかだけは、どうしても不安になった。
彼女が安心してくれなくては、どんな行為も意味をなさないのだから。
「確かに、まったく不安がなかったと言えば嘘になります。でもセル様が側に居て下さったから、だいぶ安心できました」
本当は全部話して欲しい。君の全てを僕に預けて一緒に背負わせて欲しいんだ。
でもきっとこれは僕のエゴで、そんなことを言っても君をますます困らせてしまうだけだと分かっている。
「よかった……」
だからそれ以上問い出すことなんて出来なかった。
ああ、君の中の不安を全て無くしてしまうには、今の僕ではまだまだ力不足なんだね。
理解はしていたけど苦しいし悔しいな。
でも、それでも今は構わない。僕は僕の出来ることをするだけだから。
「ああ、ラテーナと過ごす夏季休暇が楽しみだなー」
「もうセル様ったら、また先に期末試験もあるのに気が早いですよ」
「だって、そんなの気にするほどのものではないからさ」
そう、他の何も気にせず、何物にもとらわれず、僕はただ君を守るよ。
だからいつかの日か、何も心配しないで笑って欲しい、それが僕のただ一つの願いだ。
自分の全てを賭けてもまだ足らないほど大切な、僕のラテーナ。
君へ輝かんばかりの愛と幸福を捧げよう。
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