魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
5 / 94

第5話 嵐は突然に-別視点- 2

しおりを挟む
 それからリアという少女と過ごした時間は短いながらも、とても楽しいものだった。

 普通の人間との会話にえていた私にとって、どんな些細ささいな内容でも楽しく思えただろうが、リアが魔術師という特殊とくしゅな存在であることと可憐かれんな少女である事もあり、余計に楽しく興味深く思えた。

『魔術の研究が盛んな場所の出身なので基礎は幼い頃からたたき込まれました』

 そんなことを勢いよく言った割に、出身地について詳しく聞いてみると、どう考えても不自然な返答がかえってきたのには流石におかしかったな……。

『えーっと、この国からはずっと遠い場所にある形容けいようし難い田舎です! 旅に出たのも田舎に飽きたからです』

 あれでは聞いて欲しくないことがバレバレではないか。結局詳しく聞くことは出来ず終いになってしまったが、それはいまだに心残りだ……。

 ああ、あと私が身分を明かした時の彼女の反応も面白かった。

『な、なんと王子殿下で有らせられたのですね……。先程までの失礼な行い大変申し訳ありませんでした、どうかお許し頂きたく……』

 あの慌て振りは一周まわって微笑ましかったくらいだ。
 大きく目を見開いたと思ったら、気が動転してしまったのか急に謝り出すし……今考えると思わず笑ってしまう。

 更にその後、リアから魔術道具というものを貸して貰ったのだったな。まぁ、あの道具自体は珍しくて面白かったのだが……。
 思わず彼女の存在を忘れるほどに、夢中になってしまったことが申し訳なくて謝ったのだが……。

『別に構いませんよ、アルフォンス様の楽しそうな姿を見ているだけで私も楽しかったですから』

 そういいながら彼女が浮かべた笑顔が、その可憐な容姿と相まって輝いて見えてしまったのだ。気のせいではなく本当に……それで目を合わせていることが出来なくなってしまった私は思わず顔を逸らしたのだ。
 更に彼女のその発言で、夢中になっていた自分の様子を見られていた事実にも気付いてしまい、居ても立っても居られなくなって……。

 っっっいや、あれは本当に恥ずかしい!!

 思い出さなければよかった……!!

「あの王子……」

 こわごわとそんな声を掛けられたことで、今までの雑念が消えスッと冷静になる。

「…………今しばらく発言は控えてくれ、まだ考えをまとめているところだ」

「はい、失礼いたしました……」

 危ない危ない……いつの間にか思考が大幅にズレてしまっていた。

 改めて考えを仕切り直そう思ったところ、急にそれまで忘れていた部屋の静けさや暗さをヒシヒシと感じるようになり、空気が重く息苦しいもののように感じられるようになった。

 何も変わったものなんてない、私の気持ち以外は……。
 ただ回想だったのに、ここまで気持ちが引きずられるなんてな……。

 今、私がいるのは先程彼女といた部屋であり、腰を掛けているのも彼女と話していたときに座っていたのと同じソファーである。

 この冷え冷えとした静けさは、私にとっては日常だったはずなのに、なぜ今更こんなにもツライのだろう。
 やはりここが先程と同じ部屋だからこそ、余計に明るく楽しかった先刻までとの落差を感じるのだろうか……。


 いや、そんな無意味なことを考えるのはやめなくてはならない……。
 軽く頭を振って私は改めて、今必要な事柄へ考えをめぐらせた。

 考えるのはやはり魔術師のリアのことではあるが、中でも焦点を当てるのはその素性についてである。

 あの子は先程自分の出身地をはっきり答えることをしぶったが、そもそも魔術師にしても魔術道具にしても珍しい存在だ。
 その技術や知識は、その特殊性や扱いの難しさから伝統的に魔術を研究し扱う一部の国の専売特許せんばいとっきょとなっている。
 つまり彼女が出身地を明確に答えなくても、最低限そのうちのどれかの出身であることだけは間違いないはずだ。

 そう、魔術とは珍しく貴重なものなのだ。

 該当する国の外にはほとんど出回ることはなく、仮に他国に売るとしてもとんでもない高値を付けられる。
 そもそも彼らは交渉の席についてくれないこともザラで、魔術を扱う国以外だと王侯貴族であってもその恩恵を受けることは困難だ。
 そんな魔術を扱う国の代表格が、魔術帝国と称される北部の大国であり、それに及ばないまでもある程度の技術力を持つ中小諸国たちである。

 それらの情報を踏まえたうえで、魔術師のリアについて考える。

 前述の通り魔術師も魔術道具も、簡単には該当国からは持ち出されることがない存在だ。
 彼らは秘密主義な部分があるためハッキリとした話は不明だが、おそらく国外への持ち出しには厳しく制限が掛けられているのだろう。

 そう考えると彼女の立場は、貴重な魔術道具を持ち出せるだけの権限を持っているか、勝手に持ち出してきた立場かの二つに一つだ。

 どちらにしても大したものであるが……。
 こちらとして都合がいいのは……勝手に持ち出しているパターンか、権限を持っているけど何も知らないパターンだな……。

 それというのも、元々くだんの呪いの話は一度、魔術を扱う全ての国に相談を持ちかけて断られている経緯があるからだ。

 かろうじて大精霊の呪いであることの証明だけをおこなってくれたのが、件の魔術帝国であるが……。
 その後の相談については、にべもなく断られてしまったらしい。他国についても同様で、その中で手を尽くしたが結果はかんばしくないものだった。


 それらの経緯を考えると、彼女が転がり込んで来たのは僥倖ぎょうこうと言うしかない。
 彼女が引き受けてくれれば、今までついえていた希望の光も差してくる……またとない機会だ。

 だからどうにかして、引き受けてもらいたいところである……。
 事情を知らなければ最悪だましてでも……。

 そう思った瞬間、先程リアがみせた表情の数々が脳裏のうりを過ぎった。

 …………いや、違う……それは流石にダメだ。
 あのように屈託くったくなく接してくれた彼女を騙すなんて……。

 最初こそ無理をしているのだろうかと思ったが、話しているうちに嘘を付くのが苦手な裏表のない性格であることが分かった。

 きっと彼女は私の化け物じみた容姿を嫌悪していないのだろう。

 彼女の美しく神秘的な容姿もさることながら、自分自身ですら嫌悪して止まない容姿を気にも留めなかった……彼女の心も清らかで美しいのだろう。

 何より女性が笑いかけてくれることなど、もう二度とないと思っていた私にとって彼女の笑顔は奇跡そのものだった。

 あの笑顔を思い出すだけで、自然と胸が温かくなる。

 だがその分だけ彼女を利用しようと考えた、自分のみにくさに嫌悪感を覚えたのだった。

 …………だがしかし、どうするべきか。

「……王子」

 流石に長い間放置し過ぎたせいか、家臣が再び声を掛けてきたきた。
 これは無視するわけにいかないか……。

「なんだ」

「先程のお嬢さんのことですが……」

 やはりその話題になるか。
 私も今まで長々と考えていたことでもあるが……。

「彼女は嵐をしのぐために一晩の宿を貸した客人に過ぎぬ。明日になればすぐにでも出て行くだろう」

 しかしあえて私はそう言った。
 こやつも私が今まで考え込んでいたことを知ってるだけに、どれだけ白々しらじらしい台詞を吐いているか察するだろう。その意図もな……。

「……恐れながら申し上げます。先刻のお嬢さんとのやり取りを拝見しましたところ、王子相手にもおくさず話をすることが出来る、心根こころねがまっすぐな方とお見受けしました」

 それでもやつはそう口にした。
 まぁ内容が内容だけに、そうそう引く気にはならんか……。
 しかし心根がまっすぐか……私とは対照的だな。

「……それがどうした」

「だから魔術師であるという、あのお嬢さんに呪いのことを相談して、協力してもらうのは如何でしょうか?」

 もっともな提案だ、希少な魔術師が目の前にいるのだから。

「……協力などしてくれると思うか?」

「分かりません。ですが頼むだけの価値はあると思います」

 そうだ、実際に頼むだけの価値はあるだろう。

「だが大精霊の呪いなど馬鹿げた話だと一蹴して、相手にしないやも知れぬぞ……」

「確かにそのような可能性もあるでしょう。しかしあのお嬢さんは、そのような方には思えませんでした」

「…………」

 そのような方には思えませんでしたか……仮にそうだったとしても、そもそも引き受けてくれない可能性や、まず実力が足らない可能性もある。
 ……ああ、気づけばまた私はそうやって相手を測ろうとしている。つくづく私は救えないな……。

「どうかご一考下さい」

 何はともあれ、家臣からそこまで言われてしまっては完全に無視するわけにはいかないか。

「分かった……」

 だから私はただ一度短く頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...