魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
6 / 94

第6話 魔術師は気付いた

しおりを挟む
 翌朝、目を覚ました私は妙にさえていた。
 というか、昨日がボケ過ぎていただけかもしれない。

 例え数時間歩き続けたあとに森に入って、更に大量の魔獣と格闘しつつ森の中を迷い、暴力的な嵐に晒されるようなことが有ったとしても……!!

 いや、やっぱり文章にすると無茶し過ぎだった気がする。
 今後はもっと慎重に生きていこう……こう思ったのが何度目かは分からないけど。

 さて、目を覚ました私が気付いたことというのは、一晩を明かした古城の部屋に微かだけど妙な魔力が満ちていることだった。

 疲れていたのだから仕方ないけど、出来れば事前に気付きたかったな……。

 この魔力の正体がなんなのか身支度をしながら考えていたところ、ふと何かが足らないことに気付いた。

 あっ、ローブだ。

 昨日、乾かすために暖炉の前に置いてきたため、いつも着ているローブを着ていなかったのだ。
 身に付けるのが習慣化しているためアレがないと、どうにも落ち着かない。

 城内を勝手に歩き回るのは悪いような気がするが、自分のモノを取りに行くために昨日、案内された部屋だけを行き来するだけならいいだろう。

 そうと決めたら、自分はすぐ部屋を出た。

 もし怒られたら、素直に謝ろう……と心の片隅で考えつつ。



 暖炉の部屋まで無事たどり着いた。
 ただ移動中に見た限りではあるが、どうやら薄い妙な魔力は建物内全てにまんべんなく満ちていることが分かった。

 防御術の類ではなさそうだし、本当になんなのだろうか……。


 ローブは昨日置いたままの様子であったため、すぐ見つかった。
 さっさと着てしまおうとローブを手に取ったのだけれど。

「ん?」

 なぜだろう、人はいないのに視線を感じる気がする。
 ローブを着る手は止めずに辺りの様子を伺うが視線を感じた方にはツボや燭台、ランプといった調度品くらいしかない。

 昨日は意識しなかったが、いやに数が多いし、この調度品に何か仕掛けでもあるのだろうか……。

「何をしている」

 背後から声がしたため、振り向くとアルフォンス様が食べ物を載せたトレーを持って立っていた。

「おはようございます。朝起きた時にローブがないと落ち着かなかったため、取りに来てしまったんです」

 今、身に付けたばかりのローブを示すようになでた。

「ああ、そうか」

 さっきまで何か別のことを考えていたような気がするが、アルフォンス様が持っているトレーを見ているうちに吹き飛んでしまった。
 トレーの上のものは朝食だろうか、サンドイッチが大皿に大量に載っているのとスープがあるのが確認できる。
 アルフォンス様の体が大きいため、一見少ないように錯角するがそれなりの量がある。
 一人であんなに食べるのか……体の大きさを考えれば驚くものじゃないが、そんなものを見せつけるかのように多いとお腹がすいてしまうので止めて欲しい。

 これ以上意識すると空腹でつらくなりそうなので、私は食べ物から目をそらした。

「……もしかしてサンドイッチは嫌いか?」

「いや、嫌いではないですよ! 美味しそうなサンドイッチだと思います」

「ならば、よかった」

 アルフォンス様は何やら安心した様子だが、一方私の朝食は決定すらしてないので全然よくない。やっぱり堅パンだろうか。まだ沢山残っているけど、名前通り堅くて食べづらいので出来れば牛乳にでも漬けたいところだけど……。

「では朝食にしようと思うが……」

 昨日座っていたソファーの目の前にあるテーブルの上に皿を並べた、アルフォンス様が声をかけてくる。

「はい、どうぞ」

 さらっと頷きつつ、朝食を少しでも美味しく食べる方法についての思案は止めない。
 残念ながら牛乳は持ち合わせていない。前回、牛乳で美味しく食べられるのだからと水に漬けて柔らかくしようとした時はただ単にベチャベチャしただけで美味しくなかった……。
 一体、何が違うのだろうか。

「いや、キミは一緒に食べないのか?」

「……一緒に?」

「一応、キミの分も含めて用意してある。嫌だったら無理にとは言わないが……」

 その言葉に今まで考えていた保存食調理案を一瞬で投げ捨てた。

「えっ、そうなんですか!? とても嬉しいです」

 やった、堅くない普通のパンだ!!
 飛び上がりたいのをこらえて、食事の並んだテーブルの前のソファーに腰を掛けたがふと思った。

 いや、でもいいんだろうか? こんなに色々してもらっちゃって……。
 その分の御礼をする算段もまだついていないんだけど……。

 しかし食べ物からは良い匂いが漂ってくる。
 私は思い悩んでいると、アルフォンス様が不安そうな目で私の顔を覗き込んでくる。

「やはり嫌か。私が作った料理など……」

「えっ、アルフォンス様がお作りになられたのですか!?」

 驚いてアルフォンス様の手と料理を交互にみた。
 自分の倍以上はありそうな大きな手、しかも人間の手と作りが違い細かい作業は難しそうだ。
 それに対してパンは綺麗に切れているし、スープに入っている野菜の切り方も大きすぎず丁度良い大きさに見える。

「……凄いですね、そんなに器用に野菜を切れるなんて」

「そうか……?」

「はい、素直にそう思いましたよ」

 アルフォンス様はパッと嬉しそうな表情をしたものの、すぐにその表情を曇らせた。

「……でも食べる気にはならないんだろう」

 いや、なぜそうなる?
 もしかして、私が一瞬手を付けることを躊躇ったのが堪えているのだろうか。

「いいえ、そんなことありませんよ。ただ、どう御礼をしていいものかと悩んでしまっただけで……むしろ有り難すぎるくらいです!!」

「なんだ、礼なら気にしなくて良い」

「いや、コチラとしては気にしますよ!! 金銭の持ち合わせは……残念ながら多くありませんが、代わりに魔術師としての技術的なものであれば出し惜しみしませんよ!!」

 なかば勢いで言ってしまった部分もあるが、その言葉にアルフォンス様の反応が目に見えて変わった。

「本当か……!!」

 アルフォンス様は魔術師の技術的なものが欲しかったようだ。
 さて、何か心当たりなんて……あるね。この城に薄く満ちている妙な魔力。

 確かに不自然だったよね。
 少し前に疑問に思ったこともあったけど……空腹のせいで忘れていたわ。
 お腹が空くのは自然の摂理だから仕方ないことだね。

 ん、んん?

 別に長い時間ではなかったけど、色々考えながらアルフォンス様のことをボンヤリ見ていたら、彼の周りの魔力がやや不自然なのに気が付いた。部屋中に満ちている魔力とほぼ同じだから埋もれて分かりづらかったけど確かに違う。

 よく目を凝らしてみるとアルフォンス様が、気配は希薄なのに緻密に組み上げられた魔力をまとっているのが分かった。緻密である一方、ベッタリと絡みつくようなそれからは、得体の知れない嫌なものを感じた。

「……もしかして、アルフォンス様は呪いの類いでお困りなのではないですか?」

 確信があったわけではなかった。
 だけど顔を歪める彼の様子から、それが間違いではなかったと悟った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...