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第9話 呪いをかけられた王子さま-中談(童話風)-
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これは今から少しだけ昔のお話。
カストリヤ王国には天から愛されたと言われるほどの美しい容姿を持つ王子様がいました。
とても大事に育てられた王子様は、どれほど我が儘を言っても諫められることはなく、大抵の願いは叶えてもらえました。
その結果、王子様は我が儘で身勝手な振る舞いばかりをするような人間に育ってしまったのです。
気に入らないモノがあれば投げ捨て、少しでも失敗した気にくわない召使いは簡単にクビにしてしまいました。
それでも誰ひとり王子を咎めることをしなかったため、その行いはドンドン増長していきました。
ある時王子は王都から離れた領地の視察のために、大精霊が住むと言われる森にある古い城塞に滞在することになりました。
本当は田舎領地の城に行くことなんて嫌でしたが、父王より命ぜられて渋々視察に来たのです。
しかし元々、我が儘な王子さまのことですから仕事も程々に遊びほうけるようになりました。
そして王子様が、その城にやってきて一月が経ったころ。
それは酷い嵐の夜のことでした。
王子さまは、誰かが玄関を叩く音を耳にしました。
城の中は静まり返り、扉を叩く音だけが響きます。
普段なら使用人が対応するはずですが、この日は何故か誰も扉を開きません。
まるで王子さま以外の誰にも聞こえていないようでした。
いつまでも止まらない音に痺れを切らした王子さまは、自ら玄関の扉を開きました。
「どうか一晩泊めていただけないでしょうか」
しわがれた声でそう懇願したのは薄汚くて醜い老婆でした。
「一時とは言えココは仮にも王子の居城、怪しい者はあげることは出来ない」
「ですが、この嵐の中に長く晒されていれば、か弱い老婆は死んでしまうでしょう」
「お前のような薄汚い老婆がどうなったところで知ったことか」
「見た目だけで相手を判断すると後悔しますよ……」
老婆は忠告しますが、王子は聞く耳を持ちません。
「いいから、早く立ち去れ」
「……それがアナタの答えですね」
すると老婆の姿は光に包まれて、美しい女性に姿を変えたのです。
「私は大地を司る大精霊、今までのアナタの行いをずっと見てきました。自身の容姿を鼻にかけて美しくないと断じた人間を蔑み嘲笑してきたこと、自らの身分を笠に着た数々の身勝手で傲慢な振る舞い……どれも到底許されるものではありません。報いを受けて、アナタはより相応しい姿に変わってもらいましょう」
呆気にとられている王子をよそに、淡々とそう述べた大精霊はふわりと宙に浮き上がりました。
「さぁ、この男に傷付けられた人々の怒りよ、悲しみよ、ここに集まり呪いと化しなさい。世界の理を束ねる大精霊の名の下に裁きを下します。この身勝手で傲慢なこの者に相応しい罰を、呪いを、この者へ与えよ」
そう唱えた大精霊が黒い腕を振るうと、黒い渦がたちまち王子様や城を飲み込みこんでしまいました。
そして王子さまは恐ろしい獣のような姿に、お城は古ぼけた状態に、中にいた人々もモノへと姿が変わってしまったのです。
「それは人を慈しむことせず、傲慢で尊大な振る舞いをしてきたアナタに相応しい獣の姿です。その姿でもし誰かを大切に想い慈しむ心、そう真実の愛を手にすることが出来れば呪いを解くことが出来るでしょう……せいぜい足掻き苦しみなさい」
宙に浮いた大精霊はそれを言い終えると、元からいなかったかのように姿を消してしまいました。
呪いのかかった王子さま達を残して。
それから出来る限りのありとあらゆる手段を使い、呪いを解こうと試みましたが
その呪いが解けることはありませんでした。
何よりも呪われた王子に対面した人々の反応が王子様を深く傷付けていきました。
呪われた王子さまの姿を見たある者は悲鳴を上げ逃げ出し、ある者は声も上げず恐怖に身をすくませ、ある者は泣きながら逃げ出しました。
まれに逃げ出さずに話しを出来る者もいましたが、罵倒されるか、そうでなくてもその顔にはありありと侮蔑の色が滲んでいました。
最初こそ呪いを解こうとしていた王さまと王妃さまも、見込みがないと分かってくると王子さまへの態度をすっかり変えてしまったのです。やがて親である王さまや王妃さまからも見捨てられた王子さまは、呪いをかけられた古城に追いやられ隠れ暮らすようになりました。
その中で王子さまは自らの今までのおこないを深く後悔しました。
身勝手な振る舞いなどするべきではなかった、どんな人にも親切に接するべきだったと。
しかしどれほど反省しても呪いが解けることはありません。
大精霊から言われた呪いを解く方法である真実の愛とやらも、実の親からも見捨てられた今、希望を持つことすら出来ませんでした。
そして呪いの影響なのでしょう、かつて美しかった大精霊の森までも時間が経てば経つほど鬱蒼とした魔獣のはびこる森へと姿を変えていきました。
そんな様子を見ながらも何も出来ず、呪いが解けないまま時が流れてしまい今に至りました。
カストリヤ王国には天から愛されたと言われるほどの美しい容姿を持つ王子様がいました。
とても大事に育てられた王子様は、どれほど我が儘を言っても諫められることはなく、大抵の願いは叶えてもらえました。
その結果、王子様は我が儘で身勝手な振る舞いばかりをするような人間に育ってしまったのです。
気に入らないモノがあれば投げ捨て、少しでも失敗した気にくわない召使いは簡単にクビにしてしまいました。
それでも誰ひとり王子を咎めることをしなかったため、その行いはドンドン増長していきました。
ある時王子は王都から離れた領地の視察のために、大精霊が住むと言われる森にある古い城塞に滞在することになりました。
本当は田舎領地の城に行くことなんて嫌でしたが、父王より命ぜられて渋々視察に来たのです。
しかし元々、我が儘な王子さまのことですから仕事も程々に遊びほうけるようになりました。
そして王子様が、その城にやってきて一月が経ったころ。
それは酷い嵐の夜のことでした。
王子さまは、誰かが玄関を叩く音を耳にしました。
城の中は静まり返り、扉を叩く音だけが響きます。
普段なら使用人が対応するはずですが、この日は何故か誰も扉を開きません。
まるで王子さま以外の誰にも聞こえていないようでした。
いつまでも止まらない音に痺れを切らした王子さまは、自ら玄関の扉を開きました。
「どうか一晩泊めていただけないでしょうか」
しわがれた声でそう懇願したのは薄汚くて醜い老婆でした。
「一時とは言えココは仮にも王子の居城、怪しい者はあげることは出来ない」
「ですが、この嵐の中に長く晒されていれば、か弱い老婆は死んでしまうでしょう」
「お前のような薄汚い老婆がどうなったところで知ったことか」
「見た目だけで相手を判断すると後悔しますよ……」
老婆は忠告しますが、王子は聞く耳を持ちません。
「いいから、早く立ち去れ」
「……それがアナタの答えですね」
すると老婆の姿は光に包まれて、美しい女性に姿を変えたのです。
「私は大地を司る大精霊、今までのアナタの行いをずっと見てきました。自身の容姿を鼻にかけて美しくないと断じた人間を蔑み嘲笑してきたこと、自らの身分を笠に着た数々の身勝手で傲慢な振る舞い……どれも到底許されるものではありません。報いを受けて、アナタはより相応しい姿に変わってもらいましょう」
呆気にとられている王子をよそに、淡々とそう述べた大精霊はふわりと宙に浮き上がりました。
「さぁ、この男に傷付けられた人々の怒りよ、悲しみよ、ここに集まり呪いと化しなさい。世界の理を束ねる大精霊の名の下に裁きを下します。この身勝手で傲慢なこの者に相応しい罰を、呪いを、この者へ与えよ」
そう唱えた大精霊が黒い腕を振るうと、黒い渦がたちまち王子様や城を飲み込みこんでしまいました。
そして王子さまは恐ろしい獣のような姿に、お城は古ぼけた状態に、中にいた人々もモノへと姿が変わってしまったのです。
「それは人を慈しむことせず、傲慢で尊大な振る舞いをしてきたアナタに相応しい獣の姿です。その姿でもし誰かを大切に想い慈しむ心、そう真実の愛を手にすることが出来れば呪いを解くことが出来るでしょう……せいぜい足掻き苦しみなさい」
宙に浮いた大精霊はそれを言い終えると、元からいなかったかのように姿を消してしまいました。
呪いのかかった王子さま達を残して。
それから出来る限りのありとあらゆる手段を使い、呪いを解こうと試みましたが
その呪いが解けることはありませんでした。
何よりも呪われた王子に対面した人々の反応が王子様を深く傷付けていきました。
呪われた王子さまの姿を見たある者は悲鳴を上げ逃げ出し、ある者は声も上げず恐怖に身をすくませ、ある者は泣きながら逃げ出しました。
まれに逃げ出さずに話しを出来る者もいましたが、罵倒されるか、そうでなくてもその顔にはありありと侮蔑の色が滲んでいました。
最初こそ呪いを解こうとしていた王さまと王妃さまも、見込みがないと分かってくると王子さまへの態度をすっかり変えてしまったのです。やがて親である王さまや王妃さまからも見捨てられた王子さまは、呪いをかけられた古城に追いやられ隠れ暮らすようになりました。
その中で王子さまは自らの今までのおこないを深く後悔しました。
身勝手な振る舞いなどするべきではなかった、どんな人にも親切に接するべきだったと。
しかしどれほど反省しても呪いが解けることはありません。
大精霊から言われた呪いを解く方法である真実の愛とやらも、実の親からも見捨てられた今、希望を持つことすら出来ませんでした。
そして呪いの影響なのでしょう、かつて美しかった大精霊の森までも時間が経てば経つほど鬱蒼とした魔獣のはびこる森へと姿を変えていきました。
そんな様子を見ながらも何も出来ず、呪いが解けないまま時が流れてしまい今に至りました。
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