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第42話 街への道中-別視点-
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運搬者の彼らとともに古城を出発して、まだそんなに時間も経過していない頃。私は一人だけ一団のやや後方を歩いていた。
リアは当然のように彼らと一緒に前方を歩いている。
いや、これはなんとなくいつの間にかそうなってしまって……。
声を掛けられた流れで前方を歩くことになったリアだったが、最初はそれでもコチラを気にしてチラチラ視線を送ってくれていた。しかし流石にいたたまれなくなり私が首を振ると、それっきり諦めたのか振り向かなくなった。
申し訳なさを感じると同時に、自分でそうしておきながら彼女が振り向いてくれないことに寂しさを感じていた……私はつくづく身勝手だな。
「しかし驚いたなー、あの城に人が居るなんて」
不意に前方からそんな話題が聞こえてきて、私は思わずドキッとした。
やはり傍目からみるとあの古城は怪しく不自然な存在なのだろう…… 。
私自身それは痛いほど分かっていた。
「それってどういう意味でしょうか……? 物資を届けているのだから、人が居るに決まっているじゃないですか」
続けて聞こえて来たのはリアの声で、なんでそんなこというのかとでも言いたげな口調でそう言う。
「それはそうだが……ほらこの城って気味が悪いだろ? しかも今まで人影も見なかったし……だから化け物がいるって噂があってな」
男は声の調子を落として潜めるようにそう言った。
うっ化け物……!?
私は身構えて反射的に更に距離を取る。
何故ならそれは罵詈雑言の語句として散々、自分に向けられてきたものだったからだ。
だ、大丈夫だろうな……バレてないよな?
「全く失礼な話しですねー!? 化け物なんている筈がないでしょう……!」
ビクビクしていると、今までで一番強い口調のリアはムッとした様子で反論した。
おそらく私の動揺なんて知らないはずなのに、まるで庇うようにそう言ってくれる彼女の反応は正直とても嬉しかった……。
「そうだなー、おかしなことを言ってスマン」
先程のリアの言葉を受けて軽い調子で謝る男の声を聞き、私はほっと胸をなでおろす。
「本当ですよー。でも、あの城には色々と事情があるのは事実なのであまり近付かない方がいいかも知れませんねー」
更にリアは化け物の存在を否定するだけでは良くないと気を回してくれたのか、わざわざ男が城に近付かないように釘を刺すようなことを言い出した。
な、なんて良い子だろう……。
「ほーお、その事情ってなんだ?」
「それを言っちゃったら、ぼかした意味がなくなるじゃないですかー」
「あはは、それもそうだなー」
「そうですよー、トムさん」
一時はハラハラさせられたもののリアとトムという男は、そんな軽妙なやりとりの末、なごやかに笑い合っていた。
………………。
う、羨ましい……!! 安心したらなんだか急に羨ましい!!
私も談笑しながら歩きたいのだが……!?
確かに一人で歩くことを選んだのは自分だが、それで楽しそうな様子を見せつけられることなど聞いてないぞ……!!
「それにしてもアンタは話しやすいし、いい人だなー」
「そう言っていただけると嬉しいですねー。でもアルさんだっていい人なんですよー?」
密かに羨ましがりながら、前方の会話に耳を傾けていると突然自分のことを話題に出されて驚いた。
はっ!?
ど、どういうつもりだ……!?
「そうなのか?」
「そうですよ、不器用な部分もありますが親切で優しい人なんですから」
そう話すリアの声色からは、確かに本気でそう思っていることが伝わってきて……こそばゆいというか、なんだかくすぐったい気がした。
しかし不器用とはなんだろう……そこは普通に親切で優しいでも良くないか? ダメなのか……?
「アンタがいうのなら、そうなんだろうな」
「ええ、アルさんのことをお分かり頂けて嬉しいです」
そう言ったリアの声音からは顔が見えなくても、いかにも満足したような気持ちが伝わってくる。
……いや、他人が認められて嬉しそうにしてるとか可愛いすぎではないか!?
あとやっぱり一連の会話を聞いてて思ったが、これからもアルと呼んで欲しい気持ちが……。くっ、どうすれば……!!
そんなことを悶々と考えながら歩いた私の耳には、しばらく二人の会話が届くこともなかった。
「あれ、こっちの道の方が近くありませんか?」
気が付くといつの間にか分かれ道に差し掛かっていたらしい、一方の道に進もうとしている彼らに対してリアはもう一方の道を指し示してそう問いかけていた。
「ああ、確かにそうだがそちらの道は獣が徘徊していて危険だから、腕の立つやつじゃなきゃ使えねーよ。ましてや荷車があるとな……だから、オレたちはいつもこちらの道を使っている」
「なるほど、では今回は近い方の道を使いましょう」
「おう、分かってくれたか……って、は?」
まぁ、そういう反応になるよな。いかにも同意しますみたいな感じで返事しているのに、真逆のことを言ってるものな……。
いや、どういうつもりなんだリアは?
「だって私、腕が立ちますから私がいれば平気ってことですよね」
戸惑った様子の彼らにリアは自信満々にそう言う。
う、腕が立つのか!? ……本当に?
そんなに?
「だがアンタ、剣はおろか武器らしい武器も持ってないじゃないか」
トムが怪訝そうに言う。
まぁ、そう思うのももっともだろうな……。
「ええ、私は魔術師ですからそう言ったものは使いません」
「魔術師だってぇ……?」
「ご存知ありませんか、呪文を唱えて魔術を使う存在です」
「聞いたことくらいはあるが、アンタが本当に……?」
彼がすんなり信じられないのも無理ない。
我が国では魔術師の存在は一般的ではないのだ。王族の私ですら、魔術師に会ったのはリアを含めても数人程度だからな。
「はい、そうです……火よ我が指先に灯れ」
「おお、確かに指の先に火が付いた!! 魔術師と言うのは本当みたいだが、そんな小さな火で何が出来るんだ?」
「この火は分かりやすいようにつけてみただけで、実際にはもっと別の魔術を使います」
「ほうほう、どんな凄いことをしてくれるんだ? 襲い掛かってくる獣を片っ端から殺せるようなのがあるのか?」
リアの言葉を聞きながら楽しげにうんうんと頷く、そのトムという男がさらっと物騒なことを言う。
片っ端から殺せるかって、こんな可愛らしい少女に聞くか!? いや、この男は一体どういう感性を……。
「はい、確かにそういうのも出来なくもないのですが……」
軽く頷いたリアは事もなげにそう答えた。
出来なくもないのか!? えっ、この子が……!!
内心で動揺しまくる私を他所に、リアはそのまま男と会話を続けていた。
「それはあまり効率的ではないので獣避けの魔術を使います。文字通り獣を退けることが出来る魔術です」
「ほーそんなものがあるのか」
「では早速掛けてみますね」
そう言ってリアがパチンと指を鳴らす。すると私を含めた今ここにいる者たち全員にキラキラとした光が降り注いだ。
……なんか、よく分からないがキラキラしたのが降ったな。
「はいー、掛けましたよー」
「確かにキラキラして凄かったけど、ほんとに効果があるのか?」
「ええ、私が保証します」
「そういうのなら一応信じてみるが……」
「はい、効果の程はすぐに分かりますから一度進んで見て下さい」
そんな会話の末、リアはトンと軽く胸を叩いて、彼らに進むように促していた。
いつの間にか話しが進んでしまっているが、果たして大丈夫なのだろうか?
やや不安になってリアの方を見ていると彼女がタイミングよく振り返った。そうして私と目が合うと、こちらに向かってウィンクをしてきた。
ローブの中からわずかに見える表情は自信に満ち溢れており、パチンと目を閉じる動作には言葉も無いが任せろという雰囲気が滲み出ている。
か、可愛いな!? ……いや、可愛いけれども!!
可愛いという部分と別にもっと考えることが……!! いや、でもいいか一旦任せても……うん、そうだな。
そのように自信満々なリアに促されて、一同は近い方の道を進むことになったのだった。
大丈夫だろう、リアは割と優秀だし、何より可愛いし……。
リアは当然のように彼らと一緒に前方を歩いている。
いや、これはなんとなくいつの間にかそうなってしまって……。
声を掛けられた流れで前方を歩くことになったリアだったが、最初はそれでもコチラを気にしてチラチラ視線を送ってくれていた。しかし流石にいたたまれなくなり私が首を振ると、それっきり諦めたのか振り向かなくなった。
申し訳なさを感じると同時に、自分でそうしておきながら彼女が振り向いてくれないことに寂しさを感じていた……私はつくづく身勝手だな。
「しかし驚いたなー、あの城に人が居るなんて」
不意に前方からそんな話題が聞こえてきて、私は思わずドキッとした。
やはり傍目からみるとあの古城は怪しく不自然な存在なのだろう…… 。
私自身それは痛いほど分かっていた。
「それってどういう意味でしょうか……? 物資を届けているのだから、人が居るに決まっているじゃないですか」
続けて聞こえて来たのはリアの声で、なんでそんなこというのかとでも言いたげな口調でそう言う。
「それはそうだが……ほらこの城って気味が悪いだろ? しかも今まで人影も見なかったし……だから化け物がいるって噂があってな」
男は声の調子を落として潜めるようにそう言った。
うっ化け物……!?
私は身構えて反射的に更に距離を取る。
何故ならそれは罵詈雑言の語句として散々、自分に向けられてきたものだったからだ。
だ、大丈夫だろうな……バレてないよな?
「全く失礼な話しですねー!? 化け物なんている筈がないでしょう……!」
ビクビクしていると、今までで一番強い口調のリアはムッとした様子で反論した。
おそらく私の動揺なんて知らないはずなのに、まるで庇うようにそう言ってくれる彼女の反応は正直とても嬉しかった……。
「そうだなー、おかしなことを言ってスマン」
先程のリアの言葉を受けて軽い調子で謝る男の声を聞き、私はほっと胸をなでおろす。
「本当ですよー。でも、あの城には色々と事情があるのは事実なのであまり近付かない方がいいかも知れませんねー」
更にリアは化け物の存在を否定するだけでは良くないと気を回してくれたのか、わざわざ男が城に近付かないように釘を刺すようなことを言い出した。
な、なんて良い子だろう……。
「ほーお、その事情ってなんだ?」
「それを言っちゃったら、ぼかした意味がなくなるじゃないですかー」
「あはは、それもそうだなー」
「そうですよー、トムさん」
一時はハラハラさせられたもののリアとトムという男は、そんな軽妙なやりとりの末、なごやかに笑い合っていた。
………………。
う、羨ましい……!! 安心したらなんだか急に羨ましい!!
私も談笑しながら歩きたいのだが……!?
確かに一人で歩くことを選んだのは自分だが、それで楽しそうな様子を見せつけられることなど聞いてないぞ……!!
「それにしてもアンタは話しやすいし、いい人だなー」
「そう言っていただけると嬉しいですねー。でもアルさんだっていい人なんですよー?」
密かに羨ましがりながら、前方の会話に耳を傾けていると突然自分のことを話題に出されて驚いた。
はっ!?
ど、どういうつもりだ……!?
「そうなのか?」
「そうですよ、不器用な部分もありますが親切で優しい人なんですから」
そう話すリアの声色からは、確かに本気でそう思っていることが伝わってきて……こそばゆいというか、なんだかくすぐったい気がした。
しかし不器用とはなんだろう……そこは普通に親切で優しいでも良くないか? ダメなのか……?
「アンタがいうのなら、そうなんだろうな」
「ええ、アルさんのことをお分かり頂けて嬉しいです」
そう言ったリアの声音からは顔が見えなくても、いかにも満足したような気持ちが伝わってくる。
……いや、他人が認められて嬉しそうにしてるとか可愛いすぎではないか!?
あとやっぱり一連の会話を聞いてて思ったが、これからもアルと呼んで欲しい気持ちが……。くっ、どうすれば……!!
そんなことを悶々と考えながら歩いた私の耳には、しばらく二人の会話が届くこともなかった。
「あれ、こっちの道の方が近くありませんか?」
気が付くといつの間にか分かれ道に差し掛かっていたらしい、一方の道に進もうとしている彼らに対してリアはもう一方の道を指し示してそう問いかけていた。
「ああ、確かにそうだがそちらの道は獣が徘徊していて危険だから、腕の立つやつじゃなきゃ使えねーよ。ましてや荷車があるとな……だから、オレたちはいつもこちらの道を使っている」
「なるほど、では今回は近い方の道を使いましょう」
「おう、分かってくれたか……って、は?」
まぁ、そういう反応になるよな。いかにも同意しますみたいな感じで返事しているのに、真逆のことを言ってるものな……。
いや、どういうつもりなんだリアは?
「だって私、腕が立ちますから私がいれば平気ってことですよね」
戸惑った様子の彼らにリアは自信満々にそう言う。
う、腕が立つのか!? ……本当に?
そんなに?
「だがアンタ、剣はおろか武器らしい武器も持ってないじゃないか」
トムが怪訝そうに言う。
まぁ、そう思うのももっともだろうな……。
「ええ、私は魔術師ですからそう言ったものは使いません」
「魔術師だってぇ……?」
「ご存知ありませんか、呪文を唱えて魔術を使う存在です」
「聞いたことくらいはあるが、アンタが本当に……?」
彼がすんなり信じられないのも無理ない。
我が国では魔術師の存在は一般的ではないのだ。王族の私ですら、魔術師に会ったのはリアを含めても数人程度だからな。
「はい、そうです……火よ我が指先に灯れ」
「おお、確かに指の先に火が付いた!! 魔術師と言うのは本当みたいだが、そんな小さな火で何が出来るんだ?」
「この火は分かりやすいようにつけてみただけで、実際にはもっと別の魔術を使います」
「ほうほう、どんな凄いことをしてくれるんだ? 襲い掛かってくる獣を片っ端から殺せるようなのがあるのか?」
リアの言葉を聞きながら楽しげにうんうんと頷く、そのトムという男がさらっと物騒なことを言う。
片っ端から殺せるかって、こんな可愛らしい少女に聞くか!? いや、この男は一体どういう感性を……。
「はい、確かにそういうのも出来なくもないのですが……」
軽く頷いたリアは事もなげにそう答えた。
出来なくもないのか!? えっ、この子が……!!
内心で動揺しまくる私を他所に、リアはそのまま男と会話を続けていた。
「それはあまり効率的ではないので獣避けの魔術を使います。文字通り獣を退けることが出来る魔術です」
「ほーそんなものがあるのか」
「では早速掛けてみますね」
そう言ってリアがパチンと指を鳴らす。すると私を含めた今ここにいる者たち全員にキラキラとした光が降り注いだ。
……なんか、よく分からないがキラキラしたのが降ったな。
「はいー、掛けましたよー」
「確かにキラキラして凄かったけど、ほんとに効果があるのか?」
「ええ、私が保証します」
「そういうのなら一応信じてみるが……」
「はい、効果の程はすぐに分かりますから一度進んで見て下さい」
そんな会話の末、リアはトンと軽く胸を叩いて、彼らに進むように促していた。
いつの間にか話しが進んでしまっているが、果たして大丈夫なのだろうか?
やや不安になってリアの方を見ていると彼女がタイミングよく振り返った。そうして私と目が合うと、こちらに向かってウィンクをしてきた。
ローブの中からわずかに見える表情は自信に満ち溢れており、パチンと目を閉じる動作には言葉も無いが任せろという雰囲気が滲み出ている。
か、可愛いな!? ……いや、可愛いけれども!!
可愛いという部分と別にもっと考えることが……!! いや、でもいいか一旦任せても……うん、そうだな。
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