魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第41話 出かける前に4

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 少し遠目の物陰から資材置き場小屋の人影を確認して、私は口を開いた。

「いらっしゃいますよー、あの方々ですよね? ところで交渉についてはどうしましょうか、やはりアルフォンス様の方が……」

 そう言いながらかたわらに立つアルフォンス様を見ると、何やら様子がおかしいように感じたため私は思わず言葉を途中で止めた。
 それはなんというか……固まっているような感じで見てて心配になる。

「アルフォンス様……?」

「あ、ああ……」

あ、よかった。ちゃんと名前に反応してくれた!!
とりあえず意識はあるようで一安心だ。

「如何されましたか?」

「いや、あのな……人が多いと思ってだな……」

「人が……でもあれはせいぜい3、4人ですよ? とても多いとは……」

 そこまで言いかけてふと思い当たったことがあった。
 彼は以前、普通の人間と長らくまともに接していないような、ふしのある発言をしていたけど、まさか……。
 流石に不敬ではないかと思ったものの、一度考えるとそうとしか思えなくて……いや、でも王族がまさか、ね? ……でも一応、聞いてみようか。

「……私の推測で間違っていたら申し訳ないのですが、もしかしてアルフォンス様は人と接すること……特に複数人がいるような状況に苦手意識を持たれていたりなどされます?」

 長い間を開けたのちに、アルフォンス様は小さな声でこう言った。

「…………昔は平気だったんだ」

 …………。
 昔は平気、つまり今はダメなんですね……? なるほど、なるほど……そっかー。

 いや……きっと色々あったんだよね?
 ならここは私がサポートしてあげないと……!!

「分かりました。交渉は私がおこなって、道中もアルフォンス様がなるべく話さなくて済むように配慮いたしますね」

 本人も気まずいだろうと思い、私はなるべく何事もないような笑顔でそう言った。

「悪いがそうしてくれると助かる……」

「はい、大丈夫ですよー。そういうのには慣れてますからサクッと終わらせちゃいますからねー、アルフォンス様は私の出て行った後ろから付いてきて下さいませ」

 軽くそう告げて私は資材置き場小屋の方に視線を戻し、ジッと彼らの様子を伺う。
 人数はどうやら4人で、その中のある一人がまとめ役をしているようだった。
 なので私はその人に声を掛けやすそうなタイミングを見計らって、彼らの元へ歩み寄っていった。


「はじめまして、アナタ方がこの城への物資の運搬を請け負っている方ですね?」

「ああ、そうだがアンタは……もしかして城から出てきたのか?」

 私が声を掛けるとまとめ役の男がヒョイと振り返った。年齢は若く、その雰囲気は街場によくいるお兄さんという感じだ。

「はい、私は一時的に城で雇われてる者でしてリオンと申します。実は街まで行きたいのですが、異郷の出身で土地勘がなく困っておりまして……出来れば街へ戻る際に同行させて頂ければ助かるのですがよろしいでしょうか?」

「それは別に構わないが……後ろの人も一緒か?」

 彼はそう言いながら私の後方にいるアルフォンス様にスッと視線を向けた。
 私も合わせて目をやるといきなり話題に出されたことに驚いたのかアルフォンス様はビクッと肩を揺らしていた。
 し、しっかりして下さいアルフォンス様……!!
 むしろ話しの流れ的にそうなるのも自然でしょう!? ビクビクされると逆に不自然なんで、そこだけはお願いしますよ……?

「ええ、そうです。紹介が遅れましたが、この方はアル……アルフレッドのアルさんと言いますー」

 そして私は彼のことも紹介する。
 途中で『あれ、これってこのまま実名を言ったらまずいやつでは?』と思って急遽きゅうきょ偽名を考えたけどどうにかなったね……明らかな愛称あいしょうのアルにさん付けとか、やや不自然な部分もあるけども……!!

「えっ……あ、アルフレッドです」

 アルフォンス様も私の紹介に合わせてぎこちなく名乗る。
 このぎこちなさって私の紹介がアレなせいで不安になったからとかじゃないよね……? 緊張されているんですよね?

「この通り少し恥ずかしがり屋さんなので、基本的に必要なことは私が喋らせて頂いております」

 すかさず私は言葉を付け足して、下手にアルフォンス様へ話し掛けられることの無いように配慮も欠かさない。
 はい、有能!! これでさっきのは帳消しですね? えっ、それ以前に王族に恥ずかしがり屋さんは不敬だって? ちょっと分かりませんね、異郷の出身なので文化の違いとかがありますし……。

「ほーん、まぁいいわー。オレはトムだ、リオンとアルさんとやら送ってってやるよ」

「ありがとうございます、トムさん」

「どうせ、ついでだからな」

 そう言いながらトムさんは、くるっと背を向けて歩き出す。

 するとトムさんが離れるタイミングを見計らったのだろう、アルフォンス様が私に近付いてきて小声で話し掛けてきた。

「おい、リオンとはなんだ」

 あ、やっぱりそこ気になっちゃうかー。アルフォンス様はともかく、傍目はためからみたら私は名前を使い分ける必要もないからね……。

「たまに使う仕事用の名前です。実はリアの方は私的というか親しい人からの呼び方でして……」

 本当なら最初にアルフォンス様に名乗るのもリオンの方が良かったのかも知れないんだけど、まぁなんとなく……というか普通にボケていたせいかリアって言っちゃったんだよねー。
 たぶんそれで困ることはないと思うから別にいいんだけどね?

「し、親しい………… そ、そうか。あと、そのアルという呼び方だが……」

 はいはい、そちらももちろん分かってますよー。

「そちらについては突然申し訳ありませんでした。今だけですのでご安心下さい……!」

 やっぱり突然愛称で呼んだのはよくなかったよね。ただ焦って口走ちゃっただけだけど、いきなりそう呼ばれるのが嫌な人は嫌だもんね?

「あ、いや、あ…………そうか」

「おーい、来ないのかー!」

 その時、トムさんや他の方々の作業が終わったためか遠くから声を掛けられた。

「はーい、今行きますー!! ……ほら、行きましょう?」

「あっああー」

 アルフォンス様を促して歩き出しながら、私はふと思った。

 あれ? アルフォンス様ってあまり他人のいるような状況が苦手なら、やっぱり同行させてもらわないで街まで行った方がよかったんじゃ……。

 ………………。

 こ、これは早めに気付かなかった私のせいじゃないよね……?
 ……うん、仕方のないことだったんだ。

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