魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第58話 魔術師のお掃除術2

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「よーし、それじゃあ掃除を始めようか」

「うん!!」

 ロイくんが元気に返事をする。
 うんうん、いい子だねー。

 あとちょっと離れた場所でアルフォンス様がコクコク頷いている。
 ……離れてるのは気になるけど、ちょっと可愛いかも知れない。

 しかし掃除するとは言ったもののどこから手を付けようかな?
 見た限り汚れてる範囲はかなり広い、簡単に手が届きそうではない部分もある。

 うーん、それじゃあアレを使ってまずは大半を片づけてしまおうか……。
 最初にも考えたけど8割くらいは私が片づけて、残った部分を教えながら普通に掃除するのが一番理に適っている気がするんだよね。
 うん、そうしよう!!

「最初に私がある程度綺麗にするから、ちょっとだけ待っててね」

「うん? 分かった」

 ロイくんはイマイチ分かってない様子で頷く。
 まぁ、分かってなくても見てれば分かるので問題ないね。

「水よ、我が声に応え顕現けんげんせよ」

 手のひらを上に向け呪文を唱えると、その手から少し上に私の大きさ頭より二回りくらいは大きな水の球が現れる。
 まぁこの程度なら呪文を唱えるまでもないんだけど……。

「すげー水だ!? でっかい水が出て来て浮いてる!!」

 それを見たロイくんは大興奮でそれを見ている。
 ほら、やっぱり魔術をよく知らない人はこうした方が喜んでくれるし。
 雰囲気だしって大切よね~。

 楽しそうなロイくんを微笑ほほえましく眺めていると、アルフォンス様が声を掛けてきた。

「……待て、キミはそれで何をするつもりなんだ?」

「はい、これを使って床や壁の汚れを洗い流して綺麗にします」

「そ、それはマズくないか……!?」

 何かを想像してしまったらしいアルフォンス様の表情が、途端にこわばった。
 む、これは説明せねばならない……!!

「大丈夫です、水はほぼ全ての問題を解決します……!! 水は最強なのです!!」

 そう、水は最強!! だから一切の問題は起きないし、むしろ水は全ての問題を解決する!! 完璧な理論だ……。

「なんだその水への厚い信頼は!? 仮にそうだとしても室内で水を使うで水浸みずびたしになるなどの問題がっ……」

「いいえ!!」

 まだまだ色々と言いたげなアルフォンス様の言葉を、ビシッとさえぎって私は首を振った。

「まぁ見ていて下さいよー!」

 ほら、こういうのって下手に説明をするより先に見せちゃった方が早い場合もあるからね? 特に今回のとかはそうだと思うんだよね~。
 それじゃあさっきの説明はなんなのかと思うかもしれないけど……まぁそこは気分ですね!! 言いたかっただけというか……その辺は深く考えたら負けよ……!!

「いけぇーっ!!」

 そう口にしながら私は魔力の流れを操って、水を操作した。
 球体だった水は一瞬で四方八方しほうはっぽうに飛び散り、壁や天井や床をおおい尽くすように流れた。
 そうしてそれらは対象物をらすことなく、汚れだけを洗い去って私の手元に戻ってきた。

 うん、掃除しやすそうな部分にちょっとだけ汚れを残しつつ、大半は綺麗になったね!!
 ただまぁ、今回使って戻ってきた水は当然ながら汚れたけども……!!

「な……な……」

「すげぇー、すげぇー!?」

 私の魔術を見た二人はそれぞれ全く違う反応をみせた。
 ロイくんの方は素直に大興奮って感じで、アルフォンス様に関してはちょっと予想外ですぐには声も出ないって感じかな?
 どっちにしても、私的に楽しい反応なので大満足です!!


「一体何をしたんだ!?」

 おお、やっぱりそういう質問が来ますかー。

「何って、見ての通り掃除ですけどほら……綺麗になったでしょ」

 そう言いながら私は、魔術によって見違えるように綺麗になった部屋を示した。

 元が古いからピカピカは流石に無理だったけど、最初と比べると見違えるような綺麗さである。具体的にいうと、黒ずんでいた壁が普通の壁の色をするようになりましたね。

「それはそうだが、今のアレは一体何なんだ?」

「つまり詳しい魔術的な原理の解説をご所望ということでしょうか」

「そ、そうではないが……いや、でも詳しくない程度の簡単には知りたい」

 え……『詳しくない程度の簡単には知りたい』なかなか難しいことを言いますね!?
 今までも魔術に詳しくない人にも分かるような感じで説明をしていたのに、そこから更に難易度を上げてくるとは……し、しかしそう言われたからにはやるしかありませんね。

「では今の現象を簡単に説明しますと、私が水を魔術的に操って壁や床の汚れを洗浄したのです」

 そこで一旦、言葉を区切り壁を床を示す。

「そしてご覧の通りですが、魔術的な主導権を手放してないので、ご覧の通り壁も床も濡れず汚れだけを取り去った状態になったというところですね…………こんな説明でいかがでしょうか?」

 そうして言葉を終えたところで、私はアルフォンス様の方を向いて笑顔を作った。

 いや、なんか今までとそんなに変わらない雰囲気になっちゃったけど……これでダメだって言われたらどうしよう。
 だって詳しく説明するのはダメっていうしばりって難しすぎません!? ここからもっと優しくしろって言われた場合、どこをくだいて説明すれば……。

「ああ、わかった……ありがとう」

 私が更に優しい説明案について考えていると、アルフォンス様のそんな声が聞こえてほっとした。

「ご理解とご納得を頂けたのであれば何よりです」

 これは詳しくない程度の説明だったらしい、本当によかった!!
 私の判断は間違ってなかったんだ……。

「では納得頂けたところで、残った水の処理もしちゃいますね」

 そう、まだここには汚水が残っているのだ。

 水自体は、熱をちょっと調節して蒸発させることですぐに消せるものの、水の中に含まれるゴミはそうはいかない。炎の魔術で燃やして灰にするにしても、その後の捨て場所が必要だ。

「ねぇロイくん、家でゴミっていつもどうやって捨ててるのかな?」

「ゴミならいつも目の前の通りとかにテキトーに捨ててるよ」

 サラッと衛生環境えいせいかんきょうが悪い!! もしかして通りがやたら汚かったのもそのせいかな!?
 ちらっと横目に見えたアルフォンス様もあからさまに嫌そうな顔をしてるし!!

「そっかー、でもそれはあまり身体によくないからもっと人が住んでいないような遠いところに捨てた方がいいと思うよ」

「え、そうなのか?」

「そうなんだよ、それと出来れば燃やした方がいいかな」

「へー燃やした方がいいのか」

「まぁ今回のところは私の方で燃やして持って帰っておくね」

 そう言いながら私は自分の荷物を漁って中から布袋ぬのぶくろを取り出した。
 その布袋を両手で広げて、真っ黒い水の球を操って布袋のうえまで移動させた。

 よしよし、そしたら水を蒸発させてっと。

「蒸発しなさい」

 その瞬間、水がじゅっと音を上げて蒸発して消え失せた。

「燃えなさい」

 そのまま炎の魔術を使って残ったゴミを一瞬で灰に変えた。
 そうしてできた灰を風の魔術を使ってさらさらと緩やかに布袋の中に収めた。

 まぁ、こんなものかな。
 呪文とか面倒くさくて雑にしちゃったけど、二人には分からないだろうしいいよね!!

「おお……すごい……」

 ロイくんがまた感嘆の声を上げている。
 うん、魔術を使う度に無邪気な反応してくれるのはちょっと嬉しいね……!! ほら、純粋に褒められる機会ってなかなか少ないし。

 あ、そうそうこの布袋だけど多分出したままの方がいいよね? またすぐに必要になりそうだし、他の掃除道具と一緒にテーブルの上に置かしてもらおっと。

 さて、ゴミも片づけたところで残った部分の掃除をしていきましょうかね~
 残った分というかわざと残した部分だけどね。

「お待たせロイくん、それじゃあ一緒に掃除をしようか」

「うん!! それで今のをおれにも教えてくれるのか?」

 そう言ってロイくんはキラキラと期待するような目をこちらに向けてくる。
 あれ、まったく違う方向性の期待を感じるぞ……もしかして魔術の方を教えてもらえると思ってる?

「うーん、今のはちょっと無理だから普通の拭きなんかを掃除を教えてあげるね」

「そうか、無理なのか」

「大丈夫だよ、拭き掃除でも頑張ればちゃんと綺麗になるからね」

「分かった、がんばる」

 少し残念そうに頷くロイくんに、わずかに申し訳なさを感じた私はそっと彼の頭を撫でた。

「ちゃんと頑張れるロイくんは偉いね」

 するとロイくんは、困ったような恥ずかしそうな笑顔を私に向けながら微かにうなずいたのだった。

 うん、可愛いー!! 弟がいるとこんな感じなのかな?
 私には兄しかいないからね…………うっ、兄……あっ、お兄っ!!

 ……い、いや、ダメだこれは忌まわしき記憶だからわざわざ思い出すのはやめよう。
 何よりこんな所まで来て、あの人のことを思い出すことはないからね……!!

 さーて、それよりもお掃除の続き頑張っちゃうぞ!!



―――――――――――――――――――――――――――……

▼オマケ

 忌まわしき記憶扱いされた兄「……(む、何やら気配を……)」
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