魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第59話 貧民街でのこと-別視点-1

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 まぁ、色々あって貧民街に来たのだが……。

「えーと、まず掃除をする時に必要なのは換気だね!! さっきは魔術を使う都合上窓を開けなかったけど、それ以外のときは必ず先に窓を開けようねー。掃除でたつホコリを吸うと身体に悪いから」

「うん、分かったー、窓を開ける!!」

「はーい、ロイくんありがとうー!! それじゃあ、さっき借りた桶に水を入れておいたから、これで布を濡らそうねー」

「うん、濡らすー!!」

 なぜかとある貧民の家の掃除をすることになっていた。
 しかもこの間の会話に私は一切入れていない。意図的ではないと思うが完全に無視されてる。

 ああ、元々リアと二人で楽しく街を回る予定だったのに、なんでこんなことになってるのだろうか……。


 元を辿れば、たまたまこの少年が医者に突き放されている場面を見掛けてしまったことに始まり、そこでリアが医者の代わりに彼の母親を診察すると少年に声をかけてしまったのだ。

 正直なところ、私は貧民とは関わりたくはないし当然リアとも関わらせなくないと思っていたため、彼女の突然の行動に驚いたし焦った。

 だからつい彼女に少年を見捨てることをすすめてしまったのだ……直接そう口にしたわけではないが私は間違いなくそうとしか取れない言動を取った。
 そして少なくともそれが間違っているとは思わなかった。
 彼女から『あの少年と同じくらいに母親を亡くしてる』という話を聞くまでは……。

 そこでようやくハッとして、今までの私の言葉が彼女にどう受け取られていたのかを考えた。もし彼女が少年に過去の自分を重ねていたのだとしたら、私の言葉はまるで彼女を……。

 それに気付いた時には、既にリアはこちらに背を向けて少年の方へ走っていってしまっていて、先程以上に焦ることになった。

 もちろんリアの気持ちは出来るだけ尊重したい。しかしそうは言っても治安が悪い貧民街に一人で行かせるのはやはり危険だ。
 気が進まないが、ここは私も一緒に行くべきだろう……。
 そのような考えに至って、私は彼女の後を追ってここまでついて来たというわけだが……。

 あれからずっと思っているのは、例え意図してなかったとしても、私には先程の言動で彼女を傷付けてしまった責任があるということだ。
 本当のことは分からないが、そのことについては機会をみて謝らなくてはと考えている……。

…………。

 思わず長々と今までのことを振り返ってしまったな。
 まぁ、お陰で落ち着いたというか、少しは心のわだかまりもなくなったことだし改めてリアの様子を確認するか。
 どうやらリアは先程から変わらず、あのロイとかいう少年と親しげに話しているようだった。


「うん、ロイくん上手に絞れたねー、えらいえらい」

「ふふーん」

 まぁ、リアは優しいからあの少年に親切に接しているのも分かるが……。

 なんというかイライラする光景だ……そもそもあの子供、リアが優しいからと調子に乗っている節があるのではないか? なんで掃除まで彼女にさせているんだ? 一応理由はさっき聞いたけども、やはりおかしくないか?

「そうだ、アルさんはどうしますか?」

 そんなことを考えていたら、リアが突然振り返って声を掛けてきた。

「あ、ああっ…………何をだ?」

 お、驚いた……もしかして無意識にあの子供をにらんだりしてなかったよな? 不安だ……。

「もちろん掃除のことですけど、私とロイくんはこれから拭き掃除をするのですがアルさんは……」

 私の心配をよそに彼女は普通に返事をしてくれた。
 これはたぶん大丈夫だったのだろう……よかった。

「では私もそれをしよう」

「そうですか、それではさきほど私が絞った布を使って下さい」

「ああ……」

 頷いてリアから布を受け取ろうとしたところ……視界の端で、私に対してどこか小馬鹿にしたような目を向ける少年の顔が映った。
 一瞬のことだったので気のせいかも知れないが、なんか『そんなこともできないのか?』的な目を向けられていたような気が……!?
 こ、これは……。

「あの……アルさん?」

そして急に動きを止めた私にリアが心配そうな目を向けてくるが……が……。

「…………やはり自分でやる」

「え?」

「だから自分で布を絞ると言っているのだ」

「ご、ご自分で……?」

 明らかに戸惑ったような反応をするリア。
 なんなのだそれは、どういう意味だ……?

「ダメなのか」

「いえ、そんなわけじゃないですけど……でも水にひたして濡らしてから、ひねってぎゅっと絞るんですよ、できるんですか?」

「……馬鹿にしてるのか」

「馬鹿にはしておりません、純粋に心配はしておりますけども」

「必要ない、まだ濡れてない布を貸してくれ」

「そう仰るのであれば、どうぞ」

 リアから布を手渡される。四つにおられたその布を何気なく広げていたところ、「これもどうぞ」という言葉とともに目の前へ水の入った桶も差し出された。
 その桶はリアが魔術で出したのであろう、んだ水で満たされていた。そこに受け取った布を浸して濡らす。
 それから……確か、その濡らした布を折りたたんで捻っていたよな? こうして捻って、グイグイ絞って……っと。
 うむ、こんなモノだろうな。

「ほら、どうだ」

 私が絞った布を見せると、リアは「わぁ」と言いながら笑顔で手をパチパチと叩いた。

「すごい、確かにちゃんと出来ましたねー」

 …………。
 なんだか、物凄くなんとも言えない気持ちなんだが……?

「……もしかして、馬鹿にしてないか?」

「いえいえ、そんなことはありませんよー」

 リアは一応はニコニコしてるけど、それがなんというか今までにないくらい嘘臭い……。

 もう少し問い詰めようと口を開いたところ。

「なぁー」

 いつの間にかリアの隣まで近づいて来ていた貧民の少年ロイが、リアのローブのそでをちょいちょいと引っ張っていたのだった。

「ん、どうしたのかな?」

 当然というべきか、リアは少年の方を振り返って優しく問いかける。

「掃除の続きは一体いつやるんだ?」

 そう言いながらロイは先程濡らした布をリアの前に掲げた。
 どうやら、こいつは待ちくたびれてわざわざリアへ声を掛けに来たらしいな……。

 いや、それにしても謝りも入れずに他人の会話に入ってくるなんて育ちが悪くないか? …………まぁ悪かったな。

「うん、今からやるよ待たせてゴメンね。あ、申し訳無いですがアルさんは一旦待っていて下さい」

「ああ……」

 そのままリアはロイに引っ張られて彼の方に行ってしまった。
 そうやって人を引っ張るのも良くないと思うのだが……?


「じゃあさっきの続きからだねっ」

 そうして優しいリアはロイの行動に何もいうこともなく、私から少し離れた場所でそいつに掃除を教え始めたのだった。

「この布はそのままだと大き過ぎるから、こうやって畳んでね」

「分かった」

「で、こうやって持って綺麗にしたい部分をこういう感じで拭いてみて」

「うん!!」

「わー良く出来ました~」

「えへへ」

 一人取り残された私は、横目でただただ二人の様子を見ていた。
 ……なんだか物凄く釈然としない。

 そして暇だ……物凄く暇だ。

 一応、あれだけ教えれば掃除できるだろうしコチラにリアを呼び戻してもいいよな……?
 よく考えると、そもそもアイツが間に入ってきたワケだし……。

 うむ、リアを呼び戻そう、そうしよう。アレの相手なんて最低限だけすればいいのだ。

「あー、リ……っ」

 そこまで言いかけて気付いた。
 そう言えば、彼女はこの子供にリオンとか名乗ってたな……。
 もしかしてリアって呼んだらマズいのか……?

「ん、はいー!!」

 だが言葉を止めて迷っているうちに、リアが私の声に気付いてくれた。

「あっ、ロイくんはそのまま掃除していてね……で、どうしましたかアルさん?」

 そしてリアはロイに軽く声を掛けて、こちらへ近づいてくる。

「あー、あのな……私にもそれを教えてくれないか……?」

「はい、そうですね、構いませんよー! とは言っても大したことは教えられませんがね」

 リアが笑顔で頷いてくれたことにほっとする。しかしそんな中、視界の端でロイがジトっとした視線を向けていることに気付く。
 彼はすぐに目を逸らして掃除に戻ったが、先程の小馬鹿にしたような目の件といいあの子供の様子が妙に引っかかったのだった。

 ……思い過ごしだろうか。
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