65 / 94
第64話 少年との約束-別視点-1
しおりを挟む
「そうだ、ロイくんはさっき読み書きを覚えたいって言ってたよね」
「うん……」
私からすっと視線を外したリアは、かがんで例の子供に話し掛け始めた。
そう言えばここを一人で飛び出す前にも、そんなことを言っていたが一体どういうつもりなんだろうか……。
「今、話を聞いてきたら表通りの書店のおじさんが、仕事の合間になら読み書きを教えてくれてもいいらしいんだけど……そこで教わるのはどうかな?」
……は?
「え、ほんとう!?」
え、えっ?
「ロイくんが、もしよければだけど……」
「いや、ちょっと待って!! 色々ツッコミどころがあるのだが!?」
放っておくとそのまま話を進めてしまいそうなので、私は無理矢理間に割って入った。
色々気になる部分があるので、これはきちんと聞かなくてはなるまい……!!
「え、はい、なんでしょうか?」
「まず、そもそもキミは今まであの……先刻の書店に行っていたのか?」
「そうです」
「それでわざわざ交渉をしてきたのか?」
「はい」
「一体どうやって交渉を?」
「まぁ……そこは私の話術でちょいちょいっと」
これを答えるとき今までとは違い彼女の目が遠くなったように感じたのだが……。
なんだ、一体何をしてきたんだ。
「その『ちょいちょいっと』とはなんなんだ……」
「ちょいちょいっとですね!!」
今度はさっきのように不自然な様子は見せず、リアは堂々と笑顔で答えたのだった。
これはきっと、それ以上聞いても無駄なやつだろう……少なくとも今のところはきちんと答える気はなさそうだ。
うむ……では話題を変えるか……。
「ではそれは一旦いいとして……この少年に勉強させるのは、そもそも無謀というか無理じゃないか?」
まず一番気になっていたのはその部分だ。
いくら勉強できる環境が作れたとしても、この子供に勉強なんて出来るものか? という疑問が残る。疑問というか、私は絶対無理だと思ってるぞ。
「えー、そんなことありませんよ。ロイくんはやれば出来る子ですから……ね、ロイくん!!」
「う、うん……」
なんだ、リアからこの子供への厚い信頼は……? なんというか、釈然としない。
まぁこんなことを言えるのも、この子供の本性を知らないからだろう……ここはハッキリ彼女にも伝えておかねばならんな。
「悪いが私はこんな礼儀知らずな子供が、他人から教えを乞うなんて不可能としか思えない。キミは知らないだろうが彼の言動は少し目に余るものがあった」
だがしかし、私は大人なので幾分か表現を柔らかくしておいた。
別に細かく内容を伝えてしまうと、私がいいように馬鹿にされていたのがバレてしまうからとか、そういうわけではないのだ……。
まぁ、今の言葉だけでも生意気放題だったあの子供が、黙りこくって幾分か顔色を悪くしているので悪い気はしないがな!!
「そうですね、確かに今のロイくんには他人と接するのに必要な知識や経験が足らないかも知れません……」
少しいい気分になっている私に反して、リアは悩ましそうな顔で何やら考え込んでいる。
むむ、アレのことなんて別に気にしなくていいのにな……。
そんなことを考えていると、リアはパッと顔を上げて私へまっすぐに目を合わせ口を開いた。
「しかし私はロイくん自身にちゃんとやる気があって、なおかつ人の話を聞くことができる素直な気持ちさえあれば、大丈夫だと思っております」
ドキッとするくらい真剣なリアの眼差し。それに見つめられると私は何も言えなくなってしまった。
うっ、これは……ずるいな……。
「ねぇ、改めて聞くけどロイくん自身はどうしたい?」
いつのまにか私から目を逸らしていたリアは、再びあの子供の方に向き声を掛けていた。
「おれは……やっぱり字が読めるようになりたい」
「なら、頑張れるよね!!」
リアは思わず見とれてしまうような笑顔を浮かべてそう言った。
これが私だったらすぐにでも頷いてしまいそうなところだが……。
「でも……礼儀ってやつが、分からないのも本当だし……」
この子供はグズグズ言い出して、そうしようとはしなかった。
それはともかくとして、先程のリアの笑顔に動じていないのは凄いな……。
「それならさっきも言ったけど大丈夫だよ。ロイくんくらいの年の子なら、元気とやる気があって、悪い部分を注意された時に素直に直せれば十分だからね」
「本当に……?」
「うん、本当だよ」
…………は、いやいや!!
思わずリアに見入ってしまっていたが、先程の彼女の言葉にはまた色々ツッコミどころがあるぞ!?
「そ、そうとも限らないんじゃないか……みんながみんな許してくれるとは限らないぞ?」
なので、そのことをやんわりと伝える。あくまでやんわりとだが……。
「まぁ確かに、そういう人もいるかも知れません……ですが、その場合は私が許さないので大丈夫です!!」
だがリアは予想外に胸を張ってそう返してくる。
なぜそんなに自信に溢れているのだろうか……。
「な、何が大丈夫なんだ!?」
「子供の些細な至らなさすら許容できない大人は、私がシメるという意味です」
「いや、シメるって!?」
戸惑って聞き返す私の言葉に、彼女は答えず笑顔を返すだけだった。
薄々思っていたが、リアってたまに不穏だよな……。
見た目は可憐で可愛いのに……。
「うん……」
私からすっと視線を外したリアは、かがんで例の子供に話し掛け始めた。
そう言えばここを一人で飛び出す前にも、そんなことを言っていたが一体どういうつもりなんだろうか……。
「今、話を聞いてきたら表通りの書店のおじさんが、仕事の合間になら読み書きを教えてくれてもいいらしいんだけど……そこで教わるのはどうかな?」
……は?
「え、ほんとう!?」
え、えっ?
「ロイくんが、もしよければだけど……」
「いや、ちょっと待って!! 色々ツッコミどころがあるのだが!?」
放っておくとそのまま話を進めてしまいそうなので、私は無理矢理間に割って入った。
色々気になる部分があるので、これはきちんと聞かなくてはなるまい……!!
「え、はい、なんでしょうか?」
「まず、そもそもキミは今まであの……先刻の書店に行っていたのか?」
「そうです」
「それでわざわざ交渉をしてきたのか?」
「はい」
「一体どうやって交渉を?」
「まぁ……そこは私の話術でちょいちょいっと」
これを答えるとき今までとは違い彼女の目が遠くなったように感じたのだが……。
なんだ、一体何をしてきたんだ。
「その『ちょいちょいっと』とはなんなんだ……」
「ちょいちょいっとですね!!」
今度はさっきのように不自然な様子は見せず、リアは堂々と笑顔で答えたのだった。
これはきっと、それ以上聞いても無駄なやつだろう……少なくとも今のところはきちんと答える気はなさそうだ。
うむ……では話題を変えるか……。
「ではそれは一旦いいとして……この少年に勉強させるのは、そもそも無謀というか無理じゃないか?」
まず一番気になっていたのはその部分だ。
いくら勉強できる環境が作れたとしても、この子供に勉強なんて出来るものか? という疑問が残る。疑問というか、私は絶対無理だと思ってるぞ。
「えー、そんなことありませんよ。ロイくんはやれば出来る子ですから……ね、ロイくん!!」
「う、うん……」
なんだ、リアからこの子供への厚い信頼は……? なんというか、釈然としない。
まぁこんなことを言えるのも、この子供の本性を知らないからだろう……ここはハッキリ彼女にも伝えておかねばならんな。
「悪いが私はこんな礼儀知らずな子供が、他人から教えを乞うなんて不可能としか思えない。キミは知らないだろうが彼の言動は少し目に余るものがあった」
だがしかし、私は大人なので幾分か表現を柔らかくしておいた。
別に細かく内容を伝えてしまうと、私がいいように馬鹿にされていたのがバレてしまうからとか、そういうわけではないのだ……。
まぁ、今の言葉だけでも生意気放題だったあの子供が、黙りこくって幾分か顔色を悪くしているので悪い気はしないがな!!
「そうですね、確かに今のロイくんには他人と接するのに必要な知識や経験が足らないかも知れません……」
少しいい気分になっている私に反して、リアは悩ましそうな顔で何やら考え込んでいる。
むむ、アレのことなんて別に気にしなくていいのにな……。
そんなことを考えていると、リアはパッと顔を上げて私へまっすぐに目を合わせ口を開いた。
「しかし私はロイくん自身にちゃんとやる気があって、なおかつ人の話を聞くことができる素直な気持ちさえあれば、大丈夫だと思っております」
ドキッとするくらい真剣なリアの眼差し。それに見つめられると私は何も言えなくなってしまった。
うっ、これは……ずるいな……。
「ねぇ、改めて聞くけどロイくん自身はどうしたい?」
いつのまにか私から目を逸らしていたリアは、再びあの子供の方に向き声を掛けていた。
「おれは……やっぱり字が読めるようになりたい」
「なら、頑張れるよね!!」
リアは思わず見とれてしまうような笑顔を浮かべてそう言った。
これが私だったらすぐにでも頷いてしまいそうなところだが……。
「でも……礼儀ってやつが、分からないのも本当だし……」
この子供はグズグズ言い出して、そうしようとはしなかった。
それはともかくとして、先程のリアの笑顔に動じていないのは凄いな……。
「それならさっきも言ったけど大丈夫だよ。ロイくんくらいの年の子なら、元気とやる気があって、悪い部分を注意された時に素直に直せれば十分だからね」
「本当に……?」
「うん、本当だよ」
…………は、いやいや!!
思わずリアに見入ってしまっていたが、先程の彼女の言葉にはまた色々ツッコミどころがあるぞ!?
「そ、そうとも限らないんじゃないか……みんながみんな許してくれるとは限らないぞ?」
なので、そのことをやんわりと伝える。あくまでやんわりとだが……。
「まぁ確かに、そういう人もいるかも知れません……ですが、その場合は私が許さないので大丈夫です!!」
だがリアは予想外に胸を張ってそう返してくる。
なぜそんなに自信に溢れているのだろうか……。
「な、何が大丈夫なんだ!?」
「子供の些細な至らなさすら許容できない大人は、私がシメるという意味です」
「いや、シメるって!?」
戸惑って聞き返す私の言葉に、彼女は答えず笑顔を返すだけだった。
薄々思っていたが、リアってたまに不穏だよな……。
見た目は可憐で可愛いのに……。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる