魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
66 / 94

第65話 少年との約束-別視点-2

しおりを挟む

「そうそう、それよりもロイくんは服をどうにかした方がいいと思ってね……」

 リアが話を変えるように、パンと手を叩きながらそんなことを言い出した。
 まぁ、確かにこの子供の服はボロボロであまり見れたものではないが……。

「だからテキトーな服のを、いくつか買ってきたから試してみてよー」

 そして彼女はゴソゴソと、荷物の中から子供用の服を何着か取り出し始めた。

「き、キミは服まで買ってきたのか!?」

「いえいえ、あくまでついでですよ~ それに最低限服装はちゃんとしてないと、街の方にいってもロクな扱いをされないことは目に見えてますから」

「それはそうだろうが、わざわざそこまでするか……」

「ええ、私やる時は中途半端なことはしない主義なので!!」

 むむ、理屈はなんとなく分かるが納得出来ない。
 なぜこんな生意気な子供のためにそこまでするのだろうか……そう、こんな生意気な子供のために!!

「まぁ、正確なサイズは分からないので、気持ち大きめの服を選んできたんですけどね~ これならたぶん平気なはず……あれ、ロイくんどうしたの?」

 ……気が付くとどうやらあの子供が俯いてしまっていたらしい。
 いよいよリアにすら、まともに応じる気が無くなったかのか?
 それだったらいい機会だから、徹底的に懲らしめても……。

 そんなことを考えたものの、残念ながら表情をみるにどうも違いそうだ。

「気付いたんだ、自分にはここまでしてもらっても返せるものが何もないって……」

 そしてソレは深刻そうな表情で、そんなことを言い出す。

 ……いや、今更何を言ってるんだこの子供は、それをいうなら母親をリアにせた時点でそうではないか。むしろ一から十まで彼女の厚意こういに甘えるつもりじゃなかったことが驚きだ。

「うん、そっか……」

 でも心優しいリアはそのようなツッコミを入れたりせず、そっと頷く。
 ああ、優しいなぁ……そのうえ可愛いなぁ……。

「確かに今のロイくんでは、さっきの診察料も今買ってきた服のお金も払うのは難しいだろうね……」

 リアのそんな言葉に、あの子供は黙り込んでうつむいてしまった。
 そうだ、もっと言ってやれ……!!

「だから返すつもりがあるのなら、それはずっと後でいいよ?」

 しかしリアは、私が予想外の方向に話のかじを切った。
 え、そう来るのか……?

「まずはしっかり勉強して、その後に勉強したことを活かして働くようになって……そうして、いつかお金を稼げるようになったら返してくれればいいからね」

「いつか稼げるようになったら……」

「そうそう、いわゆる出世払いというやつだね」

 ……ま、まぁ、一理あるが……コレに限っては無理だろう。

「分かった、頑張って勉強して出世する!!」

 くっ……リアの今の言葉のお陰で、あの子供がすっかり元気を取り戻してしまった……。
 いや、出世とか絶対無理だろう!! リアの手前わざわざ口に出さないが、私はそう思うぞ!?

「そうそう、その意気……という、ところで私が買ってきた服を試してみて欲しいんだけど」

「うん!!」

 ああ、すっかり元通りの調子だ。むしろ前より元気になった気さえする……本当に残念だ。
 非常に残念だ。


「そうだ、その前に……」

 私の落胆らくたんを余所に、楽しそうな様子で子供用の服の準備をしていたリアだったが、ふいにその動きを止めた。

「ロイくん、少しだけ口を閉じて息を止めてくれる?」

 …………何やらまた彼女が妙なことを言い出したな。
 んん、私にも何をするつもりなのか全く検討がつかないぞ。

「う、うん分かった」

 さすがにリアをしたってるソレも、やや困惑した様子だったがぎこちなく頷く。

「ふふ、じゃあ行くよ」

 リアがパチンっと指を鳴らすと、あの子供の周りを囲むように水が現れた……いや、湯気が出てるからお湯か?

 それらが例の子供の全身をおおつつむように流れ、一瞬で汚れを取り去ってしまった。
 更にリアがもう一度指を鳴らすと、お湯はシュッと音を立てて消え去り、その後には足元から暖かい風が起こってそやつの身体を乾かした。

「これでどうかな?」

「わぁっすごい!!」

 一連のそれを体験したソレは、キラキラと感動した目をリアに向けているが……。
 え? いや、何だそれは……本当に凄いな!? なんなら自分もやって欲しいのだが……。

「それじゃあ、今度こそ新しい服を着てみてよ」

「うん!!」

 だが私の興味など関係なく、リアはドンドン話を進めていく。

 今度は、あの子供の着替えを手伝い始めた。
 その時のリアがまたニコニコと楽しそうで……まぁ可愛いな。彼女は何をしてても大体可愛いが。
 そう言えばリア、以前やたら着替えの手伝いをしたがってたからなぁ……。
 むっではこれはあの時、できなかったことの代わりか……? そう考えると、少しイラッとするな。


「……どうかな?」

着替えを終えたアレが、嬉しそうに両手を広げてリアに服を見せている。
まぁ、普通だな……それ以上でもそれ以下でもない。

「似合ってるよ!!」

「え、へへ」

「それじゃあ、今度はこっちを……」

そうして今度は、リアが別の服をいそいそと持ち出す。

 ん……あれ、よく考えると私、途中からのやりとりに一切入れていないな?
 こんな感じは、掃除の時にもなかったか!?
 あの子供のことは心底どうでもいいが、リアに相手にされないのは結構寂しい気が……。

 でも今、ここで間に入るのはおかしいし……仕方ない、これが終わるまでは黙っておくか……。

 その後、私はこの子供が服を着替えては、リアに褒められる場面を、延々と見させられることになった……。
 つ、ツラい……なんだこの苦行は……。




「それじゃあ、そろそろ私達は帰るね」

 何十分が経過しただろうか……。
 ひと通りの服を着せて満足したらしいリアが、そう言った。

 よ、ようやくここから出られる……!! この不毛な時間が終わる!!

 喜々して出て行こうとした私の視界の端で、あの子供がリアの手を引っ張ってぎゅっと握りしめてるのが目に入った。
 は……はぁっ!? 何を勝手にリアに触っている……!?

「……ねぇリオン、また会いに来てくれる?」

 誰が来るか……!?
 心の中で反射的にそう思った私とは逆に、優しげな笑顔を浮かべたリアは言う。

「そうだね、きっとまた来るよ」

 え、また来るつもりなのか……? わざわざ?

「っ!! 約束だよ」

「うん、約束だってロイくんは出世して今回のお礼をしてくれるんでしょ?」

「うん!!」

 ああ、確かにそんな話もあったな……。
 でも来なくてもよくないか? 少なくとも私はもう来ない方がいいと思うぞ?

「あ、あとまた来る時に……もしよかったら、その、さっきみたいな魔法を教えてくれないかなって思って……」

 はっ、魔法を教えてくれだと??
 流石にそれは図々しいだろ、まぁずっとこの子供は図々しいがな……ほら、リアきっぱり断っていいぞ。

「そうだね……じゃあ、次会うまでに物凄く勉強を頑張ってたら考えてあげようかな?」

あ……考えてあげるのか。
まぁアレだな彼女は優しいからはっきり断らなかっただけで、実質断ったということだよな……そうだよな?

「分かった、物凄く頑張る!!」

「うん、頑張ってね」

にっこりと笑顔でそう答えるリア、とても可愛い。もはや彼女だけが癒しだ……。

「それじゃあ、またねロイくん。 表の街に出る時は身なりに気をつけるんだよ~ あと今日あげた服も貧民街だと目立つから、着る時には気を付けてねー」

「分かった!! またねー」

はぁ……やれやれ、ようやく本当に終わったか……。

 ほっとしながら外へ出て扉を閉める瞬間、私はあの子供と一瞬だけ目があった。
 扉はすぐに閉じてしまったが、アレがニヤリと笑いパクパクと口を動かしたのが見えた。

『バカ』

 そう……あの子供は確かにそのように口を動かしていた。
 な、なんてめたマネを!?

「あれ、どうかしましたか?」

 私が静かに怒りを感じていたところ、リアが不思議そうに私の顔を見つめてきた。

 うむ、今のことをリアに話、戻って文句の一つでも付けてから帰るか?
 だが、正直アレのためにこれ以上時間を浪費したくもないし……何よりかっこ悪い気が……くっ。

「…………なんでもない、早く行こう」

「そうですか、分かりました」

 そう考えた結果、私はこの場を後にすることを選んだ。
 リアも一瞬不思議そうな顔をしたものの、何も聞かずに頷いてくれた。
 ああ、もう些細ささいな動作全てが可愛いな……。


 だがしかし生意気な子供よ、この借りはいつか返す……!!
 いいか、必ずだ!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...