84 / 94
第82話 寝耳に水ならぬ、寝起きに某幼馴染-別視点-
しおりを挟む
昨夜はなんだか、いい夢をみた気がする……。
まぁ、そもそも昨日の出来事自体が、夢のようだったからな。
リアと街に行ってデートをして、更に一緒にダンスまで……ああ、あの時のリアは本当に美しくて、女神のようだった。
……いや、むしろ本当に女神なのでは?
呪われてからというもの、神の存在などすっかり信じていなかったが、もし彼女が女神だというのなら……また神を信じられる気がする、むしろ毎朝毎晩祈りを捧げることだろう。
ああ、リア……好きだ……。
今朝の私は早めに目が覚めたため、散歩がてらに一人で城内を歩きながら、とりとめもなくそんなことを考えていた。
そうしてエントランスに差し掛かったタイミングで、ちょうど玄関の扉が開きだして思わず足を止めた。
むむ……な、なぜ玄関が勝手に?
「あっ!! アルフォンス様、おはようございます」
警戒する私の前に、ひょっこりと玄関から姿を現したのはリアだった。
なんだリアだったか……ん、あれ、そう言えば先日もこんな光景を見た記憶が……。
まぁ、それは別に構わないか。彼女にも何かしらの理由があるのだろう。
「ああ、おは……」
そうして私も彼女に挨拶をしようと思ったのだが、その瞬間目にしたモノに思わず言葉を止めてしまった。
「もしかして今しがたのお目覚めですかー? ん、あれ、アルフォンス様…………」
急に黙った私を不審に思ったのだろう、リアは不思議そうな顔で私の視線の先を確認して、ようやく「あっ、そうだった」と納得した様子で頷いた。
「ご紹介しますねー!! ついさっき合流した私の幼馴染のカイく……いえ、カイアスです」
リアがそう言って手で示した先には、一人の男が立っていた。
彼女より頭一つ分程度背が高く、真っ赤な髪が特徴的で、がっしりとした体付きをしており……そして、なぜかリアと手を繋いでいた。
……まっ待て、状況が予想外過ぎて一瞬固まってしまったが、なぜいつか話に聞いたリアの幼馴染がいきなり出てくる!? なぜ彼女と手を繋いでいる!! そんな羨まし……ではなく、合流とはどういうことだ……!?
私が混乱して、考えもまとまらないままその男を凝視していると、そいつは爽やかに笑みを浮かべながら、こちらへ軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります殿下……私が彼女と同郷のカイアスです、以後お見知りおきのほどを」
カイアスと名乗ったその男は、一見丁寧な口調と態度でオマケに笑顔だったが、私はなんとなくそこに嫌なものを感じ取った。
いや、ただの気のせいかもしれないが……。
「あ、あぁ……」
とにかくその時は動揺が収まらず、どうにかそんな言葉を絞り出すのがやっとだったのだが……。
そしてそこから、どうしてこうなった。
私は今、リアとカイアスという男と対面でソファーに座っている。
あの後、リアに「実はアルフォンス様に色々とお話したいことがあるのですが、立ち話もなんなので何処かに移動しませんか?」と言われたため、つい適当な部屋へ案内してしまったのだが……。
正直、案内してる間も二人の様子が気になって仕方なかった。
さすがにもう手は繋いでいないが、代わりにここに来るまでの間に二人でコソコソ喋っていたのが物凄く気になるし……。
そもそも、リアとの距離が近いのも気になるし……。
二人の関係性はなんなんだ、幼馴染って本当にそれだけか? もうなんだが、色々気になって気になって仕方ないのだが……!?
何より、今までなるべく直視しないようにしていた事実だが……改めてしっかり対面してしまうと、どうしても意識してしまうことがある。
そう、このカイアスという男なんというか顔がいい。
ややきつい印象だが、リアと並んでも見劣りしない程度には整った顔立ちをしている。
前提としてリア自身が物凄く可憐で美しいことを考えると……うん、つまりそういうことだ。
まぁ、それはそれとして理屈抜きにただ気分が良くないので、リアにあまり近づくのはやめて欲しいし、あまり親しくしないで欲しい……。
…………今の私にとってこの男の存在は、それ自体が毒だ。全てがよろしくない。
「あー、それでリア、話しというのは……」
だから私はカイアスから目を逸らしてリアに顔を向けたのだが、その瞬間彼の方からピリッとした何かを感じて思わず視線を戻した。
……だが、そこには先程と何も変わらない、笑顔のカイアスがいるだけだった。
な、なんだ……いや、だが今何か確かに……。
「はい、アルフォンス様ご説明いたしますね~」
こちらの困惑が収まらないうちに、リアが話を始めてしまったため、私はその疑念を振り払って彼女の方を向いた。
ひとまず、今は彼女の話に集中しよう……。
「彼が同郷の幼馴染だということはお話したかと思いますが、私の方で調査を進めた結果、今回の件にはもう少し人手が必要そうだと判断いたしました。そこで少々連絡を取って、彼に手伝いに来てもらったと言うわけです」
「そ、そうなのか」
連絡を取った、いつのまに……? 手伝いに来てもらったというが移動手段は? 一体どこからどうやって来たんだ!? と、今のリアの発言についても色々と気になるところだらけではあるが、考え出すとキリがない疑問をどうにか押さえ込んで、私は彼女の言葉に頷いた。
「ええ、そうなんです」
「でもそれならば先に、相談してくれればよかったのに……」
そう、気になる部分も多いが、せめてそこくらいはどうにかして欲しかった……。
そんな思いから私はつい、そう口にしてしまっていた。
「まぁまぁ、そこには色々と事情がありまして」
だから色々とはなんだ、そこを詳しく説明してくれないか!? などと思うものの、とても口に出すことはできず。
もやもやとした気持ちを抱えながら、何も言えずにリアを見つめていたところ……。
今までの会話に参加してなかった、カイアスが「少々よろしいでしょうか」と言いながら、私の方を向いてすっと手を挙げた。
「……なんだ」
まさかカイアスの方から声を掛けられるとは思ってはおらず、警戒しながら私がそう返すと、彼は笑顔を浮かべたままこちらに向かってこう言った。
「いえ、別にたいしたことではないのですが、うちのリアが大変お世話になったとお聞きしましたので……私からもお礼が言いたいと思いましてね」
「う、うちの?」
「はい、うちのリアに良くして下さり、本当にありがとうございます」
「……」
う、う、う、うちのリアとはどういうことだ!?
しかも何故か、この男『うちの』という部分を妙に強調していた気がするし……なんだこれは一体どういう意味だ!?
「……一応幼馴染とは聞いたが、君たちの関係性は実際どうなっているんだ?」
どうにか心を落ち着かせて、なるべく冷静な声を出すように意識しつつ、私はカイアスにそう問いかけた。
すると彼は、どこかわざとらしさを感じさせられる、やや困ったようなそぶりを見せながら口を開いた。
「そう言われますと、なかなか答えるのが難しいのですが……一応彼女の家族から常々『リアのことを頼む』と言われている程度の関係性ですかね」
か、か、家族から頼まれているだと!?
私は衝撃のあまり、思わず椅子から立ち上がってしまった。
だってそれでは、家族公認の恋人みたいなものではないか……!! ま、ま、まさか本当に…… 。
「アルフォンス様、大丈夫ですか!?」
動揺する私へ、そのように心配そうな声を掛けてくれたのは、突然立ち上がった私に驚いた様子のリアだった。その表情には私を心配してか、どこか不安もにじんでいる。
しまった……。
「あ、いや、少し立ち上がりたい気分になってな……」
っっ!! そうだ、一番肝心なのはリア自身がどう思っているかではないか!?
彼女の顔を見てそう気付いた私は、言葉を取りつくろう余裕もなく彼女に問いかけた。
「リアの方はどうなんだ?」
「へ?」
「君の方はカイアスのことをどう思っているんだ、聞かせてくれ」
リアは一瞬呆気に取られた様子だったが、ややあって質問の趣旨をようやくのみ込んだのか、コクンと頷いて口を開いた。
「あっはい、カイく……いえ、カイアスのことですか?」
「そうだ」
彼女が何度も言いかけてる『カイく』も正直気にならないでもないが、今は一旦置いておく。
「そうですね……彼は私の家族というか親友みたいな存在ですかね」
「っっっそうか」
家族と親友っ!! つまり恋人ではない……!!
よ、よかったぁぁぁぁ!!
「ねぇ、カイくんなんで急に肘でつっついてくるの……?」
「たまたま当たっただけだ、気にするな」
「えぇ、噓だぁ……」
安心する私をよそに、また二人がコソコソと話をしている様子だったが……まぁいいだろう。
家族で親友らしいからな。そう、家族で親友……!!
「あ、それとアルフォンス様にお願いしたいことがございまして」
「なんだ?」
「さっき言った通り、手伝いのためにカイアスもこの古城に滞在してもらいたいので、その許可と空き部屋を貸して頂ければと」
え……嫌なんだが。
いや、確かに彼はリアの幼馴染で家族と親友的な存在かも知れないが、それはそれとして、リアの側に同年代の……しかも容姿が整っている男なんて、わざわざ置いておきたいわけがない。
そう、絶対に近くにいて欲しくはないぞ……!?
くっ、どうにか理由をつけて、この男だけ追い出せないものか……。
「いやいや、何を言ってるんだよリア」
私が真剣に追い出す方法について考え始めたところで、突然カイアスが私にも聞こえるくらいの声でそんな風に喋り出した。
いや……えっ、さっきまでリアだけと話すときは小声だったではないか? それになんだ、その口調の変わりようは、確かにアレが素だとは思ってはいなかったが……。
「お前から散々聞いたが、アルフォンス殿下は寛大で慈悲深く心優しい方なんだろう? なら、わざわざ答えを聞くまでもなく、返事は決まっているじゃないか」
っっ!?
待て、リアはどんな風に、カイアスへ私のことを話したんだ!? さ、流石にそれはおかしいだろう!!
……まさか本当にそう思っているのか?
「確かにそうだけど、ほら一応聞くだけは聞いておかないと……」
あ、リアの返事を聞く限り、実際にそんな風に話していそうな雰囲気が出ている……。
いつのまにか、リアから物凄く信頼されてる……。
ちょうど今、そいつを追い出す算段を立ててたというのに……!!
なんとも言えない気持ちで、リアのことを見つめていたところ、すっと視線をこちらに向けた彼女と目があった。
「それで……あの、いかがでしょうか?」
リアは控えめに伺うような表情で、でもどこか信頼を感じられる目で私のことを見つめてくる。
もしここで、彼女のそれを裏切るような言動をすれば一体どうなることだろうか……くっ。
「……ああ、もちろん構わない」
こうなったらもはや断ることなどできない。
私はどうにか感情を表に出さないように、気を付けながらそう答えたのだった。
「ありがとうございます!!」
お礼を言ってくるリアの明るい笑顔も、今回ばかりは恨めしい。
ああ、なんで……なんで、こんなことに……!!
心のなかで頭を抱える私とは逆に、いい笑顔を浮かべたカイアスはリアの顔を覗きながら「な、言っただろ」などと口にして、彼女の肩をポンポン叩いていた。
やめろ、私の前でベタベタするなっ!! ぬぐっ、ぬぐぐぐ!!
まぁ、そもそも昨日の出来事自体が、夢のようだったからな。
リアと街に行ってデートをして、更に一緒にダンスまで……ああ、あの時のリアは本当に美しくて、女神のようだった。
……いや、むしろ本当に女神なのでは?
呪われてからというもの、神の存在などすっかり信じていなかったが、もし彼女が女神だというのなら……また神を信じられる気がする、むしろ毎朝毎晩祈りを捧げることだろう。
ああ、リア……好きだ……。
今朝の私は早めに目が覚めたため、散歩がてらに一人で城内を歩きながら、とりとめもなくそんなことを考えていた。
そうしてエントランスに差し掛かったタイミングで、ちょうど玄関の扉が開きだして思わず足を止めた。
むむ……な、なぜ玄関が勝手に?
「あっ!! アルフォンス様、おはようございます」
警戒する私の前に、ひょっこりと玄関から姿を現したのはリアだった。
なんだリアだったか……ん、あれ、そう言えば先日もこんな光景を見た記憶が……。
まぁ、それは別に構わないか。彼女にも何かしらの理由があるのだろう。
「ああ、おは……」
そうして私も彼女に挨拶をしようと思ったのだが、その瞬間目にしたモノに思わず言葉を止めてしまった。
「もしかして今しがたのお目覚めですかー? ん、あれ、アルフォンス様…………」
急に黙った私を不審に思ったのだろう、リアは不思議そうな顔で私の視線の先を確認して、ようやく「あっ、そうだった」と納得した様子で頷いた。
「ご紹介しますねー!! ついさっき合流した私の幼馴染のカイく……いえ、カイアスです」
リアがそう言って手で示した先には、一人の男が立っていた。
彼女より頭一つ分程度背が高く、真っ赤な髪が特徴的で、がっしりとした体付きをしており……そして、なぜかリアと手を繋いでいた。
……まっ待て、状況が予想外過ぎて一瞬固まってしまったが、なぜいつか話に聞いたリアの幼馴染がいきなり出てくる!? なぜ彼女と手を繋いでいる!! そんな羨まし……ではなく、合流とはどういうことだ……!?
私が混乱して、考えもまとまらないままその男を凝視していると、そいつは爽やかに笑みを浮かべながら、こちらへ軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります殿下……私が彼女と同郷のカイアスです、以後お見知りおきのほどを」
カイアスと名乗ったその男は、一見丁寧な口調と態度でオマケに笑顔だったが、私はなんとなくそこに嫌なものを感じ取った。
いや、ただの気のせいかもしれないが……。
「あ、あぁ……」
とにかくその時は動揺が収まらず、どうにかそんな言葉を絞り出すのがやっとだったのだが……。
そしてそこから、どうしてこうなった。
私は今、リアとカイアスという男と対面でソファーに座っている。
あの後、リアに「実はアルフォンス様に色々とお話したいことがあるのですが、立ち話もなんなので何処かに移動しませんか?」と言われたため、つい適当な部屋へ案内してしまったのだが……。
正直、案内してる間も二人の様子が気になって仕方なかった。
さすがにもう手は繋いでいないが、代わりにここに来るまでの間に二人でコソコソ喋っていたのが物凄く気になるし……。
そもそも、リアとの距離が近いのも気になるし……。
二人の関係性はなんなんだ、幼馴染って本当にそれだけか? もうなんだが、色々気になって気になって仕方ないのだが……!?
何より、今までなるべく直視しないようにしていた事実だが……改めてしっかり対面してしまうと、どうしても意識してしまうことがある。
そう、このカイアスという男なんというか顔がいい。
ややきつい印象だが、リアと並んでも見劣りしない程度には整った顔立ちをしている。
前提としてリア自身が物凄く可憐で美しいことを考えると……うん、つまりそういうことだ。
まぁ、それはそれとして理屈抜きにただ気分が良くないので、リアにあまり近づくのはやめて欲しいし、あまり親しくしないで欲しい……。
…………今の私にとってこの男の存在は、それ自体が毒だ。全てがよろしくない。
「あー、それでリア、話しというのは……」
だから私はカイアスから目を逸らしてリアに顔を向けたのだが、その瞬間彼の方からピリッとした何かを感じて思わず視線を戻した。
……だが、そこには先程と何も変わらない、笑顔のカイアスがいるだけだった。
な、なんだ……いや、だが今何か確かに……。
「はい、アルフォンス様ご説明いたしますね~」
こちらの困惑が収まらないうちに、リアが話を始めてしまったため、私はその疑念を振り払って彼女の方を向いた。
ひとまず、今は彼女の話に集中しよう……。
「彼が同郷の幼馴染だということはお話したかと思いますが、私の方で調査を進めた結果、今回の件にはもう少し人手が必要そうだと判断いたしました。そこで少々連絡を取って、彼に手伝いに来てもらったと言うわけです」
「そ、そうなのか」
連絡を取った、いつのまに……? 手伝いに来てもらったというが移動手段は? 一体どこからどうやって来たんだ!? と、今のリアの発言についても色々と気になるところだらけではあるが、考え出すとキリがない疑問をどうにか押さえ込んで、私は彼女の言葉に頷いた。
「ええ、そうなんです」
「でもそれならば先に、相談してくれればよかったのに……」
そう、気になる部分も多いが、せめてそこくらいはどうにかして欲しかった……。
そんな思いから私はつい、そう口にしてしまっていた。
「まぁまぁ、そこには色々と事情がありまして」
だから色々とはなんだ、そこを詳しく説明してくれないか!? などと思うものの、とても口に出すことはできず。
もやもやとした気持ちを抱えながら、何も言えずにリアを見つめていたところ……。
今までの会話に参加してなかった、カイアスが「少々よろしいでしょうか」と言いながら、私の方を向いてすっと手を挙げた。
「……なんだ」
まさかカイアスの方から声を掛けられるとは思ってはおらず、警戒しながら私がそう返すと、彼は笑顔を浮かべたままこちらに向かってこう言った。
「いえ、別にたいしたことではないのですが、うちのリアが大変お世話になったとお聞きしましたので……私からもお礼が言いたいと思いましてね」
「う、うちの?」
「はい、うちのリアに良くして下さり、本当にありがとうございます」
「……」
う、う、う、うちのリアとはどういうことだ!?
しかも何故か、この男『うちの』という部分を妙に強調していた気がするし……なんだこれは一体どういう意味だ!?
「……一応幼馴染とは聞いたが、君たちの関係性は実際どうなっているんだ?」
どうにか心を落ち着かせて、なるべく冷静な声を出すように意識しつつ、私はカイアスにそう問いかけた。
すると彼は、どこかわざとらしさを感じさせられる、やや困ったようなそぶりを見せながら口を開いた。
「そう言われますと、なかなか答えるのが難しいのですが……一応彼女の家族から常々『リアのことを頼む』と言われている程度の関係性ですかね」
か、か、家族から頼まれているだと!?
私は衝撃のあまり、思わず椅子から立ち上がってしまった。
だってそれでは、家族公認の恋人みたいなものではないか……!! ま、ま、まさか本当に…… 。
「アルフォンス様、大丈夫ですか!?」
動揺する私へ、そのように心配そうな声を掛けてくれたのは、突然立ち上がった私に驚いた様子のリアだった。その表情には私を心配してか、どこか不安もにじんでいる。
しまった……。
「あ、いや、少し立ち上がりたい気分になってな……」
っっ!! そうだ、一番肝心なのはリア自身がどう思っているかではないか!?
彼女の顔を見てそう気付いた私は、言葉を取りつくろう余裕もなく彼女に問いかけた。
「リアの方はどうなんだ?」
「へ?」
「君の方はカイアスのことをどう思っているんだ、聞かせてくれ」
リアは一瞬呆気に取られた様子だったが、ややあって質問の趣旨をようやくのみ込んだのか、コクンと頷いて口を開いた。
「あっはい、カイく……いえ、カイアスのことですか?」
「そうだ」
彼女が何度も言いかけてる『カイく』も正直気にならないでもないが、今は一旦置いておく。
「そうですね……彼は私の家族というか親友みたいな存在ですかね」
「っっっそうか」
家族と親友っ!! つまり恋人ではない……!!
よ、よかったぁぁぁぁ!!
「ねぇ、カイくんなんで急に肘でつっついてくるの……?」
「たまたま当たっただけだ、気にするな」
「えぇ、噓だぁ……」
安心する私をよそに、また二人がコソコソと話をしている様子だったが……まぁいいだろう。
家族で親友らしいからな。そう、家族で親友……!!
「あ、それとアルフォンス様にお願いしたいことがございまして」
「なんだ?」
「さっき言った通り、手伝いのためにカイアスもこの古城に滞在してもらいたいので、その許可と空き部屋を貸して頂ければと」
え……嫌なんだが。
いや、確かに彼はリアの幼馴染で家族と親友的な存在かも知れないが、それはそれとして、リアの側に同年代の……しかも容姿が整っている男なんて、わざわざ置いておきたいわけがない。
そう、絶対に近くにいて欲しくはないぞ……!?
くっ、どうにか理由をつけて、この男だけ追い出せないものか……。
「いやいや、何を言ってるんだよリア」
私が真剣に追い出す方法について考え始めたところで、突然カイアスが私にも聞こえるくらいの声でそんな風に喋り出した。
いや……えっ、さっきまでリアだけと話すときは小声だったではないか? それになんだ、その口調の変わりようは、確かにアレが素だとは思ってはいなかったが……。
「お前から散々聞いたが、アルフォンス殿下は寛大で慈悲深く心優しい方なんだろう? なら、わざわざ答えを聞くまでもなく、返事は決まっているじゃないか」
っっ!?
待て、リアはどんな風に、カイアスへ私のことを話したんだ!? さ、流石にそれはおかしいだろう!!
……まさか本当にそう思っているのか?
「確かにそうだけど、ほら一応聞くだけは聞いておかないと……」
あ、リアの返事を聞く限り、実際にそんな風に話していそうな雰囲気が出ている……。
いつのまにか、リアから物凄く信頼されてる……。
ちょうど今、そいつを追い出す算段を立ててたというのに……!!
なんとも言えない気持ちで、リアのことを見つめていたところ、すっと視線をこちらに向けた彼女と目があった。
「それで……あの、いかがでしょうか?」
リアは控えめに伺うような表情で、でもどこか信頼を感じられる目で私のことを見つめてくる。
もしここで、彼女のそれを裏切るような言動をすれば一体どうなることだろうか……くっ。
「……ああ、もちろん構わない」
こうなったらもはや断ることなどできない。
私はどうにか感情を表に出さないように、気を付けながらそう答えたのだった。
「ありがとうございます!!」
お礼を言ってくるリアの明るい笑顔も、今回ばかりは恨めしい。
ああ、なんで……なんで、こんなことに……!!
心のなかで頭を抱える私とは逆に、いい笑顔を浮かべたカイアスはリアの顔を覗きながら「な、言っただろ」などと口にして、彼女の肩をポンポン叩いていた。
やめろ、私の前でベタベタするなっ!! ぬぐっ、ぬぐぐぐ!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる