85 / 94
第83話 幼馴染とは二人っきりでも、まずフラグは立たない
しおりを挟む
それはアルフォンス様がカイくんの滞在を了承してくれた後のこと、私がほっと胸をなで下ろしたタイミングで起きた。
「そうそう、申し訳ありません殿下」
話が途切れたところで、カイくんがそう口を開いたのだ。
「実は我々には、まだ二人で相談しなくてはならない事柄が残っているのです。そのため大変失礼ではございますが、リアと私はここで一旦退出させて頂きますね」
そう言い終わるのが早いかいなや、カイくんはアルフォンス様の返事も待たずに、私の手を掴んでさっと席を立ち、そのまま部屋の外へと出てしまったのだ。
当然、手を掴まれた私もずるずると引きずられるような形で一緒である。
え、いや何事……!?
「か、カイくん、ちょっとどうしたの!?」
「さっき言った通りだ、お前と話すことがある」
カイくんはロクに私の顔も見ないでそう答える。
その一方で足だけは止めないので、元いた部屋からはドンドンと離れていく。
ああ……これじゃあ、今から戻るのは難しそうだね……もうっ。
「でもさ、話しがあるにしたって、アルフォンス様へのあの態度はどうかと思うんだけど」
「ある程度形式通りにやって最低限の義理は通しただろ、あとは知らん」
「えっ、ちょっと待って……?」
「そもそも、俺はあのケモ王子にそういう対応する必要性を感じていない…… アレだけやったのをむしろ褒めて欲しいくらいだ」
「カイくん!?」
なんとなんと、アルフォンス様をケモ王子呼ばわり!? 更に本人がいないとは言え、敬意の欠片もない態度!!
そ、そんなぁ……カイくんはなんだかんだ言っても真面目な良い子だと思っていたのに、いつの間にそんな悪い子になっちゃったの? 悪いのは口だけだって、信じてたのに……うぅ、カイくん。
「うるさい騒ぐな、こっちはそれよりももっと大事な話があるのだから」
「え……大事な話?」
するとカイくんは声を潜め、真剣な表情で言った。
「ああ、だからすぐに誰にも話を聞かれない場所へ案内しろ」
―――――――――――――――――――――――――――……
そんなわけで、カイくんを急遽私が借りている古城の部屋に案内したのだけれど……。
「これだけでは不十分だ。外からの盗聴や侵入を防げるように、この部屋に
遮音と侵入遮絶効果がある魔術結界を張れ」
「えぇ、なんでそこまで……」
「いいからやれ」
「……はい」
有無を言わせないカイくんの声に、私はしぶしぶ魔術結界を張る準備を始めた。
そもそも今の私は、無理を言ってカイくんに付き合ってもらっている立ち場なので、強く言われると逆らえないのである……。
「あとしばらく使うつもりだから、俺とお前だけは出入り出来るように効果を設定してくれ」
「いや、本当にどうして……」
「いいから、そうしろ」
「むぅ……でもそんなに色々言うなら、カイくんがやればいいのに」
「俺の魔力はお前と違って、無計画に使いまくってもいいほど多くねぇんだよ。何よりお前がやった方が早いし精度も高い……まぁ実力の差というやつだ」
「……」
これは唐突に褒めて……いや、全体的にはけなしている気もするけど、私の凄さを認めてるということだよね? ね?
うーん、そっか……まぁただの事実なんだけど、そう言われると悪い気はしないかな。
ふふ、しょうがないなぁ?
私が上機嫌で術を使い始めると、カイくんがぼそっと何か呟いた。
「こういう魔術絡みだと、異様にちょろいんだよな……」
聞こえなかったけど、きっと私の魔術の素晴らしさに、感嘆を漏らしていたに違いない。うむうむ。
そんなこんなで私は手早く結界魔術を掛け終えて、カイくんに声を掛けた。
「はーい、張り終わったよ~」
うん、我ながらなかなかの仕事ぶりである。控え目に言って天才かも知れない……。
「流石の手際だ、短時間で掛けたにも関わらず術自体の完成度も高いし、そうそう真似できる芸当ではないな」
「ふふーん」
そんなカイくんの誉め言葉に、私は大きく胸を張る。
ふふふ、いいねーいいねー。いやー褒められるのって気持ちいいなぁー。
「さて、準備もできたところで本題に入るか」
あれぇ、もう終わり……? もっと褒めないの?
そんな呑気なことを考えていた私に反して、カイくんがかなり真剣な表情をしていることに、私は今頃になって気付いた。
……あ、これはマズいやつかも知れない。
すっと血の気が引くのを感じたところで、カイくんが口を開いた。
「お前ここでリアって名乗ったんだな、いつもの偽名じゃなくて」
あ……あぁ、そこが気になってたのかぁ。
うん、まぁ、確かに考えようによっては良くなかったかもしれないけど……。
「いや、まずいつものあれも偽名というか……」
「そこはどうでもいい」
「はい……」
物凄く低い声のカイくんに、バッサリ切り捨てられた私は、もはや反論することなど出来ず静かに頷いた。
…………でも正直、それだけでそんなに怒ることかな。
「そうそう、申し訳ありません殿下」
話が途切れたところで、カイくんがそう口を開いたのだ。
「実は我々には、まだ二人で相談しなくてはならない事柄が残っているのです。そのため大変失礼ではございますが、リアと私はここで一旦退出させて頂きますね」
そう言い終わるのが早いかいなや、カイくんはアルフォンス様の返事も待たずに、私の手を掴んでさっと席を立ち、そのまま部屋の外へと出てしまったのだ。
当然、手を掴まれた私もずるずると引きずられるような形で一緒である。
え、いや何事……!?
「か、カイくん、ちょっとどうしたの!?」
「さっき言った通りだ、お前と話すことがある」
カイくんはロクに私の顔も見ないでそう答える。
その一方で足だけは止めないので、元いた部屋からはドンドンと離れていく。
ああ……これじゃあ、今から戻るのは難しそうだね……もうっ。
「でもさ、話しがあるにしたって、アルフォンス様へのあの態度はどうかと思うんだけど」
「ある程度形式通りにやって最低限の義理は通しただろ、あとは知らん」
「えっ、ちょっと待って……?」
「そもそも、俺はあのケモ王子にそういう対応する必要性を感じていない…… アレだけやったのをむしろ褒めて欲しいくらいだ」
「カイくん!?」
なんとなんと、アルフォンス様をケモ王子呼ばわり!? 更に本人がいないとは言え、敬意の欠片もない態度!!
そ、そんなぁ……カイくんはなんだかんだ言っても真面目な良い子だと思っていたのに、いつの間にそんな悪い子になっちゃったの? 悪いのは口だけだって、信じてたのに……うぅ、カイくん。
「うるさい騒ぐな、こっちはそれよりももっと大事な話があるのだから」
「え……大事な話?」
するとカイくんは声を潜め、真剣な表情で言った。
「ああ、だからすぐに誰にも話を聞かれない場所へ案内しろ」
―――――――――――――――――――――――――――……
そんなわけで、カイくんを急遽私が借りている古城の部屋に案内したのだけれど……。
「これだけでは不十分だ。外からの盗聴や侵入を防げるように、この部屋に
遮音と侵入遮絶効果がある魔術結界を張れ」
「えぇ、なんでそこまで……」
「いいからやれ」
「……はい」
有無を言わせないカイくんの声に、私はしぶしぶ魔術結界を張る準備を始めた。
そもそも今の私は、無理を言ってカイくんに付き合ってもらっている立ち場なので、強く言われると逆らえないのである……。
「あとしばらく使うつもりだから、俺とお前だけは出入り出来るように効果を設定してくれ」
「いや、本当にどうして……」
「いいから、そうしろ」
「むぅ……でもそんなに色々言うなら、カイくんがやればいいのに」
「俺の魔力はお前と違って、無計画に使いまくってもいいほど多くねぇんだよ。何よりお前がやった方が早いし精度も高い……まぁ実力の差というやつだ」
「……」
これは唐突に褒めて……いや、全体的にはけなしている気もするけど、私の凄さを認めてるということだよね? ね?
うーん、そっか……まぁただの事実なんだけど、そう言われると悪い気はしないかな。
ふふ、しょうがないなぁ?
私が上機嫌で術を使い始めると、カイくんがぼそっと何か呟いた。
「こういう魔術絡みだと、異様にちょろいんだよな……」
聞こえなかったけど、きっと私の魔術の素晴らしさに、感嘆を漏らしていたに違いない。うむうむ。
そんなこんなで私は手早く結界魔術を掛け終えて、カイくんに声を掛けた。
「はーい、張り終わったよ~」
うん、我ながらなかなかの仕事ぶりである。控え目に言って天才かも知れない……。
「流石の手際だ、短時間で掛けたにも関わらず術自体の完成度も高いし、そうそう真似できる芸当ではないな」
「ふふーん」
そんなカイくんの誉め言葉に、私は大きく胸を張る。
ふふふ、いいねーいいねー。いやー褒められるのって気持ちいいなぁー。
「さて、準備もできたところで本題に入るか」
あれぇ、もう終わり……? もっと褒めないの?
そんな呑気なことを考えていた私に反して、カイくんがかなり真剣な表情をしていることに、私は今頃になって気付いた。
……あ、これはマズいやつかも知れない。
すっと血の気が引くのを感じたところで、カイくんが口を開いた。
「お前ここでリアって名乗ったんだな、いつもの偽名じゃなくて」
あ……あぁ、そこが気になってたのかぁ。
うん、まぁ、確かに考えようによっては良くなかったかもしれないけど……。
「いや、まずいつものあれも偽名というか……」
「そこはどうでもいい」
「はい……」
物凄く低い声のカイくんに、バッサリ切り捨てられた私は、もはや反論することなど出来ず静かに頷いた。
…………でも正直、それだけでそんなに怒ることかな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる