魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第83話 幼馴染とは二人っきりでも、まずフラグは立たない

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 それはアルフォンス様がカイくんの滞在を了承してくれた後のこと、私がほっと胸をなで下ろしたタイミングで起きた。

「そうそう、申し訳ありません殿下」

 話が途切れたところで、カイくんがそう口を開いたのだ。

「実は我々には、まだ二人で相談しなくてはならない事柄が残っているのです。そのため大変失礼ではございますが、リアと私はここで一旦退出させて頂きますね」

 そう言い終わるのが早いかいなや、カイくんはアルフォンス様の返事も待たずに、私の手を掴んでさっと席を立ち、そのまま部屋の外へと出てしまったのだ。
 当然、手を掴まれた私もずるずると引きずられるような形で一緒である。

 え、いや何事……!?

「か、カイくん、ちょっとどうしたの!?」

「さっき言った通りだ、お前と話すことがある」

 カイくんはロクに私の顔も見ないでそう答える。
 その一方で足だけは止めないので、元いた部屋からはドンドンと離れていく。
 ああ……これじゃあ、今から戻るのは難しそうだね……もうっ。

「でもさ、話しがあるにしたって、アルフォンス様へのあの態度はどうかと思うんだけど」

「ある程度形式通りにやって最低限の義理は通しただろ、あとは知らん」

「えっ、ちょっと待って……?」

「そもそも、俺はあのケモ王子にそういう対応する必要性を感じていない…… アレだけやったのをむしろ褒めて欲しいくらいだ」

「カイくん!?」

 なんとなんと、アルフォンス様をケモ王子呼ばわり!? 更に本人がいないとは言え、敬意の欠片もない態度!!
 そ、そんなぁ……カイくんはなんだかんだ言っても真面目な良い子だと思っていたのに、いつの間にそんな悪い子になっちゃったの? 悪いのは口だけだって、信じてたのに……うぅ、カイくん。

「うるさい騒ぐな、こっちはそれよりももっと大事な話があるのだから」

「え……大事な話?」

 するとカイくんは声を潜め、真剣な表情で言った。

「ああ、だからすぐに誰にも話を聞かれない場所へ案内しろ」



 ―――――――――――――――――――――――――――……



 そんなわけで、カイくんを急遽私が借りている古城の部屋に案内したのだけれど……。

「これだけでは不十分だ。外からの盗聴や侵入を防げるように、この部屋に
 遮音しゃおん侵入遮絶しんにゅうしゃぜつ効果がある魔術結界を張れ」

「えぇ、なんでそこまで……」

「いいからやれ」

「……はい」

 有無うむを言わせないカイくんの声に、私はしぶしぶ魔術結界を張る準備を始めた。
 そもそも今の私は、無理を言ってカイくんに付き合ってもらっている立ち場なので、強く言われると逆らえないのである……。

「あとしばらく使うつもりだから、俺とお前だけは出入り出来るように効果を設定してくれ」

「いや、本当にどうして……」

「いいから、そうしろ」

「むぅ……でもそんなに色々言うなら、カイくんがやればいいのに」

「俺の魔力はお前と違って、無計画に使いまくってもいいほど多くねぇんだよ。何よりお前がやった方が早いし精度も高い……まぁ実力の差というやつだ」

「……」

 これは唐突に褒めて……いや、全体的にはけなしている気もするけど、私の凄さを認めてるということだよね? ね?

 うーん、そっか……まぁただの事実なんだけど、そう言われると悪い気はしないかな。
 ふふ、しょうがないなぁ?

 私が上機嫌で術を使い始めると、カイくんがぼそっと何か呟いた。

「こういう魔術絡みだと、異様にちょろいんだよな……」

 聞こえなかったけど、きっと私の魔術の素晴らしさに、感嘆かんたんを漏らしていたに違いない。うむうむ。



 そんなこんなで私は手早く結界魔術を掛け終えて、カイくんに声を掛けた。

「はーい、張り終わったよ~」

 うん、我ながらなかなかの仕事ぶりである。控え目に言って天才かも知れない……。

「流石の手際だ、短時間で掛けたにも関わらず術自体の完成度も高いし、そうそう真似できる芸当ではないな」

「ふふーん」

 そんなカイくんの誉め言葉に、私は大きく胸を張る。
 ふふふ、いいねーいいねー。いやー褒められるのって気持ちいいなぁー。

「さて、準備もできたところで本題に入るか」

 あれぇ、もう終わり……? もっと褒めないの?

 そんな呑気なことを考えていた私に反して、カイくんがかなり真剣な表情をしていることに、私は今頃になって気付いた。

 ……あ、これはマズいやつかも知れない。
 すっと血の気が引くのを感じたところで、カイくんが口を開いた。

「お前ここでリアって名乗ったんだな、いつもの偽名じゃなくて」

 あ……あぁ、そこが気になってたのかぁ。
 うん、まぁ、確かに考えようによっては良くなかったかもしれないけど……。

「いや、まずいつものあれも偽名というか……」

「そこはどうでもいい」

「はい……」

 物凄く低い声のカイくんに、バッサリ切り捨てられた私は、もはや反論することなど出来ず静かに頷いた。

 …………でも正直、それだけでそんなに怒ることかな。
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