魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
87 / 94

第85話 偉い人と面倒な人物のお話タイム

しおりを挟む
 私の祖国は、その成り立ちゆえに特殊な部分があるものの、一応は王政の国である。
 だから我が国で陛下というのは、すなわち国の為政者いせいしゃで君主たる国王を指す。

 広大な国土と長い歴史を誇るカストリヤとは比べるべくもないが、実は一応は同じ王国だったりする。
 王国というとつまり、まぁ王様がとっても偉いわけですが……。

 そんなとっても偉い国王陛下の呼び出しを、私はここ最近までブチブチと無視しまくっていた。具体的には呼び出しの手紙を見たとしても、見なかったことにしてポイポイしておりましたね。
 お陰で実家に帰るのもなんとなく避けるようになり『そろそろ本気でマズイし、顔を出しておこうかな?』と思っていたところだったんだけど、何か手を打つ前にこの状況になってしまったわけで……。

 だから今、メチャクチャ気まずいわけです!! 完全に私が悪いんだけどね!?
 もうね、必要もない自国の情報をわざわざ思い返して、現実逃避する程度には気まずい。
 そんな状況じゃなければ、別に話すのも全然構わないんだけどなぁ……。
 なんかいい感じに、そのこと忘れてないかなぁ……?
 まぁ忘れてるはずないか……。
 あっ、でも今の状況が状況なだけに、そっちについて言及されない可能性もあるんじゃない? あったらいいなぁ……。

 そうこうしてる間にカイくんが、通信用の魔術道具の準備を終えていたようで「行くぞ」と声を掛けられた。

 その時にはさすがに、カイくんも私を拘束するのをやめて距離を取っていたため一瞬『今なら逃げられるのでは?』という考えがよぎったが、それすらカイくんに読まれたのか『余計なことはするな』とでも言いたげに睨まれたので、あえなく諦めたのだった。
 ちぇ……。


「遅かったな……」

 通信用の魔術道具で投影されたのは、一人の男性の姿。
 私にとって馴染なじみ深い蒼銀髪を持ち。その切れ長の目と深い青色の瞳で、睨むように私を見た。
 うん、分かりやすく不機嫌だね。
 その容姿はもう50近いというのに、若く見えると評判で実際私も30代くらいに見えると思う。

 しかし、まぁ機嫌が悪い……。
 よほどイライラしてるのか、手前に映っている机をコツコツと指で叩いている。
 いや、こういう時に人と話すのはやめた方がいいと思うんですよ……ねぇ?
 当然口には出さないけども!!

「まぁ、いい……言いたいことがあれば先に聞こう」

「はい、ご機嫌麗ごきげんうるわしゅう国王陛下……」

「全然麗しくない、主にお前のせいで」

 あれれ、そっちが喋っていいって言ったのに私の言葉を途中でさえぎってきたぞ~!
 その上にいわれのない中傷まで……うーん、暴君かな?

 ちなみにカイくんはというと、この人が通信機に投影された辺りから、ひざまずいて頭を下げたままで微動だにしない。当然会話にも参加していない。

 これは形式に従ってる部分もあるだろうけど、機嫌が悪いのが分かってて面倒くさいから、とりあえず巻き込まれないようにするためという部分もあるだろう。
 私に丸投げしようという魂胆こんたんが腹立たしいので、できることなら肩を掴んで激しく揺さぶりたい。
 いや、だってカイくんが通信繋いだんじゃん!! なのになんで喋らずに済んでるの、ズルくない……!?
 ああもう、やっぱり腹が立つので揺さぶって……。

「……もっと他に何かないのか?」

 そうこう考えているうちに、通信機越しの不機嫌そうな声が聞こえてきて私は我に返った。
 ああ、そう言えばうちの王サマと話してましたね……ええ、もちろん覚えてますよ?

 いや、でもしかしさぁ『何か』ってなに……? えっ、無茶振りですか?
 やれやれ、これだから権力者は……。

 はぁー、分かりましたよ……そこまで言うのであれば、私が一つ見せて差し上げましょう。

 そこで私は一旦、通信の投影範囲外まで移動してから、両手を広げながらバッと画面の目の前に改めて登場し直した。


「はーい、お久しぶりですー、お父様!! アナタの可愛い娘リリアーナでございますぅ!!」

 ほら、どうですかっ!? お望みの何かですよっっ!! うん、頑張った、私エライ!!
 そうして私が渾身こんしんの笑顔と仕草しぐさ愛想あいそを振りまいたというのに、お父様は深々と溜息を付いた後に目を伏せてボソッと呟いた。

「ダメだ、うちの娘の頭が本格的におかしい……」

 あれれ、極めて失礼な単語が聞こえてきたぞ?
 気のせいかな?

「以前から結構アレだとは思っていたが、確実に悪化している、やはり再教育も視野にいれるべきか……」

 いや、気のせいじゃない上に相当危ないことを仰ってません!?
 えっ、今の可愛らしく小粋こいきな冗談で、そこまで考えるってどうなんですかね……?
 やはり、あのお兄様の親なだけあって思考も似ているのでしょうか……。
 ああ、身内にまともな人間が一人もいないなんて、なんたる悲劇、可哀相な私……。

 …………ん、待てよ、よく考えると今は好機なのでは?
 お父様がコチラを見ていない、この瞬間なら不具合をよそおって通信を切っても言い訳が立つ。
 実はこの魔術道具を使ったことはないけれど、カイくんがさっきアノ辺りをああしてたから、そこに上手く魔術を当てれば……。

 よし、いけそう……!! ではこのまま術を……。

「っっ!?」

 しかし術を発動させるため、僅かに手首を動かそうとしたところ、それを突然掴まれてしまった。

「おい、今何をしようとした……?」

 そうして自分の耳元で、そんな台詞を囁かれて心臓が飛び出しそうなほどドキッとする。

「か、カイくん……」

 そう、私の背後には先程まで少し離れた場所でひざまずいていたはずの、カイくんが立っていたのだ。
 い、いつの間に背後に!?
 まさか私のかすかな動きを察知して、一瞬で距離を詰めたというのだろうか……くっ、これが若手の中では随一と謳われる騎士の実力なのかっ!! 油断していたとは言え、腕を掴まれるまで気付かないとはなんたる不覚……。

 …………それはそうと、ちょっと腕を掴む力が強めだからゆるめない? そういうとこ、よくないと思うな?


「ふむ……仲が良いのは結構だが、そういうことは二人っきりの時だけにして置きなさい」

 カイくんと若干の腕の痛みに気を取られてると、そんな声が聞こえてきて私は思わず正面を向く。するとそこには、どこか楽しげな様子でこちらを見るお父様の姿があった。
 な、何か知らないけど機嫌が若干良くなってる!? え、この状況のどこに面白ポイントがあったの……?
 そもそも二人っきりの状況で、背後から手首を掴まれるって私は普通に嫌なのですが……。

「陛下、これはそういうものではありません」

 私がお父様の機嫌の変化に困惑していると、カイくんはややムッとしたような口調でそう言いながら私の手を離した。
 あ、やった、私の手首が解放された……!! 大丈夫かな、ちゃんと動くかな……?

「それと許可なく立ち上がり、その上お二人の会話を遮ってしまったことも申し訳ありません」

「いや、聞いてのとおり大した話はしてないから構わない。そもそも俺たちしかいないのだから、そこまで堅苦しくする必要もないぞ?」

「いえ、そういうわけにはいきません」

 手首の調子を確認する私をよそに会話をする二人。
 私の時より格段にマシな雰囲気になっているので『これならやっぱり、私がいなくてもいいのでは?』と思わないでもない。
 よし、とりあえず私が入らなくて良さそうな会話が続く限りはずっと放っておこう。

「ふむ、変な部分で頑固なのは父親似か?」

「いえ、そんなことは……」

「あ、やっぱり違うわ、アイツは表面上だけ丁寧に見せかけて、色々と容赦なくて失礼だし……」

 そこからは何故かしばらく経っても、カイくんの返事がない。それが気になってそっと様子をみると、カイくんが否定も肯定もできないせいか曖昧あいまいな笑みを浮かべていた。
 ああ……そこはまぁ、そうなるよね。

 カイくんのお父上であるヴァル様は、基本紳士的な人格者で、騎士のかがみとまで言われているお方なのだけど。
 お父様と昔馴染みなのもあって、プライベートだと容赦ない物言いで、お父様をグサグサと刺してる姿が見られるのだ。それも基本丁寧な口調のままで……。
 個人的にはそれが物凄く面白いので、もっとやってくれないかなぁと思っているんだけど、これで色々と背負い込んでしまう真面目な性格のカイくんには地味にキツそうなんだよね。それでもやっぱり私は、もっとやれと思うけども。

 ちなみに以前私が、うっかり似たようなことを言った時には、お父様から笑顔で関節技を決められたりもした。
 うん、あれは痛かったなぁ……。

「そうそう、リリアーナ」

 私が懐かしい関節の痛みに思いを馳せていると、お父様の私を呼ぶ声が聞こえた。
 あれ、わざわざリリアーナと呼んでくるって嫌な予感が……。

「言っておくが、次はないからな?」

 お父様は、いつか私に関節技を決めた時と似た笑顔を浮べてそう言った。
 あ、これはさっきの行動の意図が完全にバレてるやつだ……。

「一体なんの話だか分かりかねます」

 でも認めるような返事をするわけには、いかないので私は素知そしらぬ顔でシラを切る。

「そういうことにして置いてやる……今回はな」

 依然として嫌な笑顔を浮かべたまま、お父様はそう答えた。

 ああ、これでは残念ながら『どさくさに紛れて通信切断作戦』は諦めざるおえないな……無念だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...