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第86話 簡単な引っかけ問題です
しおりを挟む「では気を取り直して話しを聞こう……カイアスも普通に立っていて構わないぞ」
「御意」
カイくんはお父様の言葉に頷くと、身を引いて私のやや後ろに立った。
「それでは私には退出許可を……」
「出すわけないだろう、そこを動くな」
くっ、やっぱりダメか……。
かなり自然な流れで許可を取ろうとしたのに!!
「むしろなぜ許されると思った?」
そう聞いてくるお父様は露骨な呆れ顔だ。
「いや、とりあえず言うだけ言っておこうかと思いまして」
「その無謀なチャレンジ精神だけは評価してやろう」
「ありがとうございます。ではそういうことで私は失礼して……」
「だから、ダメだと言っているからな……!? まさか何度も言えばどうにかなると思っているのか?」
「……まさかぁ、冗談ですよ」
ただ、もしかしたらという可能性に掛けていただけですって。
だけど、これは本当に諦めるしかなさそうだなぁ……ちぇー。
「それではリア、話しをしろ」
「はぁ、でも具体的になんの話をすればよいのでしょうか……今年上半期の国内新書おすすめランキングのことでもよろしいですか?」
「そんなことをわざわざ聞くと思うか……?」
「はい、どんな内容だって可能性はゼロではありませんからね」
私が笑顔でそう答えると、お父様は私から視線をそらして小さくため息をついた。
え、え? なんですか、その反応は……あ、分かった。
「もしかして私にあえなくて寂しかったとか……? もうっお父様たら仕方ありませんねぇ~」
そう、お父様はこう見えて案外寂しがりやさんなのだ。
例えばある日唐突に、私の部屋に乗り込んできて『お前、また食事を全部保存食で済ませてるうえに、研究のためとか言って睡眠時間を削りまくってるらしいな!?』と言いながら、私がちゃんと寝るまで側を離れなかったり、食事を取る様子を監視したりすることがある。
まったく仕方ない人だ。食事くらい前もって誘ってくれればちゃんと行くのに……まっ、実験と研究の予定さえ入ってなければね?
ちなみにお父様のそんな行動のせいで、私は予定を何回か変更せざるおえなくなった。
お父様はというと『こっちは忙しいんだからいい加減にしてくれ』などと言うが、それはどちらかというとこっちの台詞である。まぁ、私は優しいので「娘と過ごしたいけど素直になれない父親の気持ち」というものを汲んで、あえて言及はしていないけどね。やれやれ。
「断じて違うからな? 確かにお前の姿をしばらく見てないことに気づいたときには、軽く悪寒が走ったが……」
あれ、なんで悪寒が? おかしいなぁ……ああ、これまた分かりました!!
「心配でたまらなかったという意味ですねー? もう、素直じゃないのだから~」
そう言いつつ、私はにこにこと笑みを浮かべるが、それに対してお父様の表情はかなり冷たい……というか無に近い。
うーん、つれませんねぇ?
「……このままでは話しが進まないのでハッキリ言おう。 聞きたいのは、お前が無断で出国した件についてだ」
あ……あれぇ?
「今回はその理由について、改めて聞かせてもらおうと思っていてな」
ついさっきまで無表情だったお父様は、そう言いながらニヤリと笑った。
そ、そこを聞いちゃいますかぁ!? いやぁぁ、それはマズいかなぁ!!
だってこれを素直に答えちゃうと……。
『苦手なお兄様が、国外出張だと知って浮かれてつい~』
『よし分かった、赦さん』
ギャー!? 私の関節が可動域の限界に挑戦させられてしまう……!!
ん、いや、でも待って?
その辺りって確かカイくんから聞いた話だと、上手く理由付けされてた感じだったよね?
よかった、助かったぁ……ちなみに先程の動揺は、訓練された圧倒的精神力によって一切表面上に出してないから、上手く誤魔化し切れるぞ……!!
「そちらの件に関しては、おそらくお父様もご存知の通りでございます。私がヴィヌテテュース様からのご聖託を受け、一人この地に赴くことになったのです」
はい、完璧。私に死角などありませんよ。
「…………ふむ、なんだ引っかからなかったか」
んん、あれ? お父様が今、とてもおかしなことを言ったぞ? えっ、え、ヒッカカラナカッタカって何?
「確かにお前の今回の行動は、あの御方も認めているところだが……それにしては不自然な部分も多かったからな」
ギクギクッッ!! わぁーなんていうか、もう心当たりしかない……。
「他に何かしらあるのではないかと勘ぐって、軽く引っかけたつもりだったが……流石に分かりやす過ぎだったか?」
いえいえ、一瞬かなり焦ったので、客観的にその判断は間違ってないと思いますよ? それにしても、わざわざ話して下さりありがとうございます!! ……なんて言わないからね!?
ひ、酷い実の娘に、そんな仕打ちをするなんて……私、傷つきました、楽しみに取っておいた貴重な実験素材を破損した時くらいには傷つきましたよ。えぇ。
「……私ってそんなことをされるほど、信用がありませんかね?」
「それについては自分の胸に聞け」
ちょっ、なんで先刻のカイくんと、同じような事を言ってくるのですかね!?
え、私ってなかなかいないレベルで善良な人間なのに、おかしいなぁ……なぁ。
何気なく、私のやや後方にいるカイくんをちらりと見ると、無言なのにちょうど目が合って『ほら、だから言っただろ』と言われたような気がした。
む、むぐぅ……いや、やっぱり納得できないんだけど!?
みんな、私への認識がかなり酷いよね? か、悲しい……ぐすん。
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