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第87話 親の心子知らず(なお分かるのは関節技の痛みのみ)
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「まぁそういうわけで……お前の行動はかなり怪しいものの、その件に関してはひとまず置いておき、改めて話を聞こう」
え、ひとまず置いておくっていう部分が少し気になるのですが? と思うものの、そこにツッコミを入れるのは、なんか危ない気がするので止めておこう。
「はい、かしこまりました」
「具体的にはお前がご聖託を受けてから、収集した情報を掻い摘んで報告するように」
あら、私がさっきみたいにふざけないよう……もとい話を逸らさないように、前もって内容を指定してきましたね。
うん仕方ないから、ここは真面目にやろうかな?
「私が受けた指示というのは、お父様もご存知の通り大地の大精霊様に関する調査です」
先程カイくんから話を聞いた限りだと、ご聖託は《我が、古き友 大地の大精霊をどうか助けてあげて欲しい》というもので、その他も含めてややふわっとしている。
実際には私が指示を受けた事実がないので、そこから推測してそれらしいことを言うほかないわけだけど……その内容をまとめて俯瞰すれば、自然と私が受けた指示に対する客観的な解釈が、こうなるのは間違いないはず。
その証拠にお父様も、特にそこへ口を挟むこともなく私の話を聞いている。
よしよし……。
そしてこの話題に置いて一番の問題であった、本当のことを知っているカイくんも口を挟んできてはいない。おそらく彼の性格上、私の味方にはならない代わりに余計なことも言わないつもりだろう……うん!! まぁ、これならどうにかなるね。
「私が今までに行ったことは、まず今まで公になっていなかった、大地の大精霊様の不自然な行動についての調査と……それによって呪いを掛けられた森の及び、関係者の状態についての調査です」
「ほぅ」
話の中ではあえて関係者とぼかしたけども、まず間違いなくお父様はアルフォンス様の存在は把握しているだろう……話を持ち帰ったのが、あのお兄様だからね。それを報告していない、なんてことは有り得ないはず。
そしてその状況を鑑みたうえで、私からアルフォンス様の話題に触れるのは、得策ではないと判断した。なぜなら詳しく話を聞かれた場合、上手くお父様を納得させられない可能性があるからだ……。
お父様は私的には軽口も叩くし悪ノリも好きだが、事務的にはかなり合理的な考え方をする性格である。
お兄様の時は、どうにか上手く切り抜けられたが、今度もそう上手くいくとは限らない。
まぁこの話題全体がそうだけど、時間を掛けて詳しく話を聞かれれば聞かれるほど、ボロが出る可能性も高くなる……。
そうでなくても、普段から厄介な貴族達を相手にしているお父様は、詭弁や嘘に目ざとく非常に手強い。だから何かあった場合に、私が丸め込むのはかなり難しいだろう。
実際に私が、適当な理由をつけて魔術の研究予算を出してもらおうとして、何度も却下されていたりする。場合によってはちゃんと大真面目に資料を作り、かなり妥当性のある研究の予算も下りなかったことがある……ああ、あれは本当に納得できなかった!! いや、絶対に他との兼ね合いとか時期的な問題だよね!? 悔しい……ではなくて。
そういうわけで、お父様を説得するのはとても難しいのである。
それでも説得する自信自体がないわけではないが、それ以上に失敗するリスクはなるべく減らしたい。
だから、できればこのまま深く話さず流してもらうくらいの方がいいのだ。
何より厄介なのが私がしくじって、お父様から呪いの件に関わらないよう命令された場合だ。
その時には、まずカイくんが自動的にお父様側に付くため、私がズルズルとここから引き剥がされる状況になりかねず……。
確かに私が本気で抵抗すれば、簡単にどうこうされることもないけども……。そこで時間が掛かれば間違いなく、最終手段のお兄様が出て来て強制的に試合終了だからね!?
そうなると下手なことをせずカイくんに、引きづられていく方が断然マシじゃないですか……こうなると完全に詰みですよ、詰み。
可能性としては、カイくんが口裏を合わせてくれればごまかせそうだけども……武の名家の生まれで、立派な騎士道精神をもち合わせている彼は決して主君の命に背くことはないわけです。まぁ、こうなってしまうと私が何を言っても無駄ですねー!!
ちなみにカイくんの中での優先度は、お父様、お兄様、越えられない壁があって私みたいな扱いである……うぐぐ、カイくんの裏切り者!!
親友だと思ってたのにっっ!! この三人の中なら確実に一番一緒にいる時間も長いのに、この仕打ち……!!
そもそも私の数少ない近しい人物が、大体勝手に私の情報をお父様に流してるってどうなんですかねぇ!? もしかしてみんな、実は私のこと嫌いなの? ねぇ?
……と、まぁそんなことはいくら言っても仕方ないから、カイくんは裏切り者予備軍と断定して一旦横に置いておこう。
そう、だからこそリスクは全力回避……!!
サクサク話を進めて、余計なことを言わないのが一番なのです。
……あとは余計な部分に気が向かないように、ちょーっと食いつきの良さそうな話題もご用意いたしましょうか。
ふふふっ。
「更に私は、直接的な大精霊様への接触にも成功いたしました」
さぁさぁ、これでどうですか!? なかなか素敵な話題でしょ?
「なに?」
ほら、驚きましたね!?
ええ、だって私もあの時は驚きましたもの!! そしてかなり怖かったなぁ……ははっ。
「接触に成功したとは、一体どういうことだ?」
「はい、詳しくご説明いたしますと、元々は森の調査だけをする予定だったところに、偶然大精霊様が現れまして……その結果少しですが、直接言葉を交わすことができたのです」
そこで私は一旦言葉を区切り、お父様の反応を待った。
まぁ、詳しく内容を聞いてくるだろうことは予想できるので、次はそこから……。
「それでお前に危険はなかったのか?」
ん? え、あれ……聞くのはそこですか?
むむ、予想が外れたな……。
「はい、まぁなんとか」
「煮え切らない返事だな……もしや何かあったのか?」
「いえ、ただ少しばかり大精霊様の虫の居所が悪かったといいますか……いや、それよりも真っ先に聞いてくるのはそこなんですね?」
正直な話、頻繁に腕や首根っこを掴まれてズルズル引きづられたり、関節技を掛けられながら拘束された経験があり過ぎるせいで、お父様にとっての私の扱いって雑にしてもいいと思われてる節があったんです。だからいきなり心配されたのが、かなり意外と言いますか……。
いや、普通に考えて普段のそれが娘への対応として、全部間違っているんですけどね?
「確かに並大抵のことならば気にしないが、曲がりなりにも大精霊が相手となると、お前であっても危険だからな……無茶をされてはたまらん」
まるで私がいつも無茶をしてるような言い草なのが気になるのですが……まぁそれ以上に今、気になるのは。
「つまり純粋に、私のことを心配して下さっているのですか?」
まさか、そんなことが……? いつもは私の関節が悲鳴を上げていても無視してるというのに……。
「むしろ常日頃から、かなり心配しているのだが伝わってなかったのか……?」
「えっ!?」
「なるほど、全然伝わってなかったことだけは分かった」
「え、いや……もちろんお父様が私への愛情を持って下さっていること自体は、疑ってませんけどもね?」
「ほぅほぅ、そうか」
でもお父様の性格上ちょっと、いやかなり愛情表現が分かりづらいというか、素直じゃないというか……なんかもう、考えが読めないんですよね!! ほら、すぐに悪ノリしますし? 私の関節を逆側に曲げようとしますし?
どちらかと言えば、これはお父様が悪いですね? うん。
「……いやー、しかし、今の心遣いには感動しましたよ!! もし今目の前にお父様がいらっしゃったら、抱きしめて差し上げたのに残念ですー」
「そうか、そしたらこちらも抱きしめ返していたよ……お前の関節をな」
「そこで関節はおかしくありませんかね!?」
「ははっ、非常に残念だ」
なぜ、この父親はピンポイントに娘の関節だけを選ぼうとするのだろうか?
いや、間違いなくそういう部分が色々悪いと思うのでやめて頂きたいですね、切実に。
もしかして逆に、これが父親から娘への対応として一般的だったりする……わけないですよね!! さすがに、そこは私でも分かりますよ。
「一応、お前にも言葉が伝わると信じているので言っておくが、あまり無茶はしてくれるなよ?」
「一応ではなく、ちゃんと言葉は通じるので大丈夫です。はい、分かりました」
「そして勢いだけで行動せず、情報を精査してできる限り安全な手段を取るように」
「……はい、分かりました」
「おい、今変な間があったぞ」
「え? 気のせいですよ」
しれっと目を逸らしたが、お父様が明らかに疑いの目で見てくる。
いやいや、そうやって我が子を疑うのは良くないと思いますよ……? 信頼関係、信頼関係ですよ、っね?
それからややあって、短くため息をついたお父様は、すっと目を細めて、私を見つめながら真剣な声音で言った。
「いいか、お前の頭はちゃんと使えば回る方なのだから、本当にちゃんと考えろ。絶対一度考えろ、少しでいいから動く前に考えろ、分かったか?」
「……肝に銘じます」
いや、実はその辺は普段からやろうと頑張ってるんですよ?
少なくとも仕事中は、その通りにしてますし……。ただずっとそれだと気疲れするんで、主にハメを外したプライベートなどで、うっかりをボロボロ連発するだけで……いや、本当に気をつけます、はい。
「それで話を戻すが、実際にお前が調べたところで、原因と具体的な解決策は見つかったのか?」
「現在当たりなどはつけておりますが、詳細については鋭意調査中です」
「ふむ、そうか」
「一応、具体的な内容については、メモとして別紙にまとめてあります。必要であれば、そちらも読み上げますがいかがいたしましょうか?」
「いや、いい。あとで報告書を提出してもらうつもりだからな」
「はい、分かりました報告書を……ん、え?」
私のその反応をみたお父様は、さも愉快げにニヤリと笑った。それはまるでイタズラが成功した時の子供を、連想させるような笑みであった。
「何を意外そうにしている? 特殊な任務に当たっているのだから、それに関する報告書を上にあげるのは当然だろう」
「そ、そうですか……」
ほ、報告書の提出……つまり事務仕事。
異国の地まで来て事務仕事……って、そんなぁ!? 元々気楽で楽しい旅行の予定だったのに、ここに来て仕事を抱え込むなんてっ!!
いや、趣味や研究用の資料をまとめることならば、比較的好きですけどもね?
しかしそういうものとは、一切関係のない報告書を作るのは、別に好きじゃないし、むしろ面倒くさいので嫌です……うぅ嫌なんですよぅ。
せっかく、国を出る前に受け持っている書類仕事は、期日が遅いものも含めて、頑張って全部終わらせたというのに……ふぇーん、書類作りイヤだよぅ。
…………でも実際そうなると、あとで情報を整理して、使えそうなものをまとめなくちゃいけないんだよなぁ。そうするとあそこをこうして、今までの情報量はこれくらいの紙の枚数でまとめつつ、今後のものはもう少し余裕を持たせて……ってああ、もうっ!! やっぱり面倒くさいな、本当にいりますかねっ!? 私はいらないと思います!!
「そしてあとの現場の判断に関しては、基本リアに任せるが、あまり妙な行動に走るようだったら……カイアスお前が止めるように」
「はっ、承知しました」
あれ? 私が報告書について仕方なく考えている間に、お父様がカイくんに何か任せているのですが……。
え、妙な行動ってなんですかね? 娘への信頼と言うものは……? 何よりなんでカイくんは、普通にその言葉に頷いてるの? 一切の疑問点とかはないんだ、ねぇ?
私が色々納得出来ずに、脳内で疑問をぶつけてると、お父様が通信外の何かにふと目をやった。
んん? えっと、執務室のあそこにあるのは確か……時計だったかな。
「おっと、話しているうちに時間だな」
あ、やっぱり時計を見てたんですね。
しかし時間というのは……? まず会議は、そもそもこの時間帯には行われないから違う。きちんと誰かと会う、もしくは出掛けるにしては、あまりに準備をしてなさ過ぎる。
うむむむ?
「……あの、なんの話でしょうか?」
「いや、これからこの執務室にアイツがくる約束なんだ」
えっ、お父様の執務室まで来る人物なんて、かなり限られているのですが……。
確かにそれなら近しい人物でしょうが、なんだろう……この時点でもう嫌な予感しかしない。
「……つかぬことをお聞きしますが、アイツとは?」
「決まっているだろう、アー……」
「あっっっ!? 私、急用を思い出したので、ここで失礼いたします!! それではご機嫌よう!!」
私が知ってる中で、最初の文字がその名前の人物は一人しか居ない。
それに気付いた私は、危険を回避するために、身を翻して部屋の外に転がり出た。
いやいやいや!? 事前にお兄様はいないって言ったクセに、カイくんの嘘つきぃぃぃ!! 裏切り者ぉぉぉぉぉ!!
そうして勢いのまま部屋を飛び出して、しばらく走った後に気付いた。
あれ、そう言えばなんで今回のカイくんは、私を引き止めなかったのだろうか……?
うーん……まぁ、いいか! それよりも今は、カイくんが私のことを騙した方が重要だからね!!
本当に、もうしばらくは許さないよっっ!?
え、ひとまず置いておくっていう部分が少し気になるのですが? と思うものの、そこにツッコミを入れるのは、なんか危ない気がするので止めておこう。
「はい、かしこまりました」
「具体的にはお前がご聖託を受けてから、収集した情報を掻い摘んで報告するように」
あら、私がさっきみたいにふざけないよう……もとい話を逸らさないように、前もって内容を指定してきましたね。
うん仕方ないから、ここは真面目にやろうかな?
「私が受けた指示というのは、お父様もご存知の通り大地の大精霊様に関する調査です」
先程カイくんから話を聞いた限りだと、ご聖託は《我が、古き友 大地の大精霊をどうか助けてあげて欲しい》というもので、その他も含めてややふわっとしている。
実際には私が指示を受けた事実がないので、そこから推測してそれらしいことを言うほかないわけだけど……その内容をまとめて俯瞰すれば、自然と私が受けた指示に対する客観的な解釈が、こうなるのは間違いないはず。
その証拠にお父様も、特にそこへ口を挟むこともなく私の話を聞いている。
よしよし……。
そしてこの話題に置いて一番の問題であった、本当のことを知っているカイくんも口を挟んできてはいない。おそらく彼の性格上、私の味方にはならない代わりに余計なことも言わないつもりだろう……うん!! まぁ、これならどうにかなるね。
「私が今までに行ったことは、まず今まで公になっていなかった、大地の大精霊様の不自然な行動についての調査と……それによって呪いを掛けられた森の及び、関係者の状態についての調査です」
「ほぅ」
話の中ではあえて関係者とぼかしたけども、まず間違いなくお父様はアルフォンス様の存在は把握しているだろう……話を持ち帰ったのが、あのお兄様だからね。それを報告していない、なんてことは有り得ないはず。
そしてその状況を鑑みたうえで、私からアルフォンス様の話題に触れるのは、得策ではないと判断した。なぜなら詳しく話を聞かれた場合、上手くお父様を納得させられない可能性があるからだ……。
お父様は私的には軽口も叩くし悪ノリも好きだが、事務的にはかなり合理的な考え方をする性格である。
お兄様の時は、どうにか上手く切り抜けられたが、今度もそう上手くいくとは限らない。
まぁこの話題全体がそうだけど、時間を掛けて詳しく話を聞かれれば聞かれるほど、ボロが出る可能性も高くなる……。
そうでなくても、普段から厄介な貴族達を相手にしているお父様は、詭弁や嘘に目ざとく非常に手強い。だから何かあった場合に、私が丸め込むのはかなり難しいだろう。
実際に私が、適当な理由をつけて魔術の研究予算を出してもらおうとして、何度も却下されていたりする。場合によってはちゃんと大真面目に資料を作り、かなり妥当性のある研究の予算も下りなかったことがある……ああ、あれは本当に納得できなかった!! いや、絶対に他との兼ね合いとか時期的な問題だよね!? 悔しい……ではなくて。
そういうわけで、お父様を説得するのはとても難しいのである。
それでも説得する自信自体がないわけではないが、それ以上に失敗するリスクはなるべく減らしたい。
だから、できればこのまま深く話さず流してもらうくらいの方がいいのだ。
何より厄介なのが私がしくじって、お父様から呪いの件に関わらないよう命令された場合だ。
その時には、まずカイくんが自動的にお父様側に付くため、私がズルズルとここから引き剥がされる状況になりかねず……。
確かに私が本気で抵抗すれば、簡単にどうこうされることもないけども……。そこで時間が掛かれば間違いなく、最終手段のお兄様が出て来て強制的に試合終了だからね!?
そうなると下手なことをせずカイくんに、引きづられていく方が断然マシじゃないですか……こうなると完全に詰みですよ、詰み。
可能性としては、カイくんが口裏を合わせてくれればごまかせそうだけども……武の名家の生まれで、立派な騎士道精神をもち合わせている彼は決して主君の命に背くことはないわけです。まぁ、こうなってしまうと私が何を言っても無駄ですねー!!
ちなみにカイくんの中での優先度は、お父様、お兄様、越えられない壁があって私みたいな扱いである……うぐぐ、カイくんの裏切り者!!
親友だと思ってたのにっっ!! この三人の中なら確実に一番一緒にいる時間も長いのに、この仕打ち……!!
そもそも私の数少ない近しい人物が、大体勝手に私の情報をお父様に流してるってどうなんですかねぇ!? もしかしてみんな、実は私のこと嫌いなの? ねぇ?
……と、まぁそんなことはいくら言っても仕方ないから、カイくんは裏切り者予備軍と断定して一旦横に置いておこう。
そう、だからこそリスクは全力回避……!!
サクサク話を進めて、余計なことを言わないのが一番なのです。
……あとは余計な部分に気が向かないように、ちょーっと食いつきの良さそうな話題もご用意いたしましょうか。
ふふふっ。
「更に私は、直接的な大精霊様への接触にも成功いたしました」
さぁさぁ、これでどうですか!? なかなか素敵な話題でしょ?
「なに?」
ほら、驚きましたね!?
ええ、だって私もあの時は驚きましたもの!! そしてかなり怖かったなぁ……ははっ。
「接触に成功したとは、一体どういうことだ?」
「はい、詳しくご説明いたしますと、元々は森の調査だけをする予定だったところに、偶然大精霊様が現れまして……その結果少しですが、直接言葉を交わすことができたのです」
そこで私は一旦言葉を区切り、お父様の反応を待った。
まぁ、詳しく内容を聞いてくるだろうことは予想できるので、次はそこから……。
「それでお前に危険はなかったのか?」
ん? え、あれ……聞くのはそこですか?
むむ、予想が外れたな……。
「はい、まぁなんとか」
「煮え切らない返事だな……もしや何かあったのか?」
「いえ、ただ少しばかり大精霊様の虫の居所が悪かったといいますか……いや、それよりも真っ先に聞いてくるのはそこなんですね?」
正直な話、頻繁に腕や首根っこを掴まれてズルズル引きづられたり、関節技を掛けられながら拘束された経験があり過ぎるせいで、お父様にとっての私の扱いって雑にしてもいいと思われてる節があったんです。だからいきなり心配されたのが、かなり意外と言いますか……。
いや、普通に考えて普段のそれが娘への対応として、全部間違っているんですけどね?
「確かに並大抵のことならば気にしないが、曲がりなりにも大精霊が相手となると、お前であっても危険だからな……無茶をされてはたまらん」
まるで私がいつも無茶をしてるような言い草なのが気になるのですが……まぁそれ以上に今、気になるのは。
「つまり純粋に、私のことを心配して下さっているのですか?」
まさか、そんなことが……? いつもは私の関節が悲鳴を上げていても無視してるというのに……。
「むしろ常日頃から、かなり心配しているのだが伝わってなかったのか……?」
「えっ!?」
「なるほど、全然伝わってなかったことだけは分かった」
「え、いや……もちろんお父様が私への愛情を持って下さっていること自体は、疑ってませんけどもね?」
「ほぅほぅ、そうか」
でもお父様の性格上ちょっと、いやかなり愛情表現が分かりづらいというか、素直じゃないというか……なんかもう、考えが読めないんですよね!! ほら、すぐに悪ノリしますし? 私の関節を逆側に曲げようとしますし?
どちらかと言えば、これはお父様が悪いですね? うん。
「……いやー、しかし、今の心遣いには感動しましたよ!! もし今目の前にお父様がいらっしゃったら、抱きしめて差し上げたのに残念ですー」
「そうか、そしたらこちらも抱きしめ返していたよ……お前の関節をな」
「そこで関節はおかしくありませんかね!?」
「ははっ、非常に残念だ」
なぜ、この父親はピンポイントに娘の関節だけを選ぼうとするのだろうか?
いや、間違いなくそういう部分が色々悪いと思うのでやめて頂きたいですね、切実に。
もしかして逆に、これが父親から娘への対応として一般的だったりする……わけないですよね!! さすがに、そこは私でも分かりますよ。
「一応、お前にも言葉が伝わると信じているので言っておくが、あまり無茶はしてくれるなよ?」
「一応ではなく、ちゃんと言葉は通じるので大丈夫です。はい、分かりました」
「そして勢いだけで行動せず、情報を精査してできる限り安全な手段を取るように」
「……はい、分かりました」
「おい、今変な間があったぞ」
「え? 気のせいですよ」
しれっと目を逸らしたが、お父様が明らかに疑いの目で見てくる。
いやいや、そうやって我が子を疑うのは良くないと思いますよ……? 信頼関係、信頼関係ですよ、っね?
それからややあって、短くため息をついたお父様は、すっと目を細めて、私を見つめながら真剣な声音で言った。
「いいか、お前の頭はちゃんと使えば回る方なのだから、本当にちゃんと考えろ。絶対一度考えろ、少しでいいから動く前に考えろ、分かったか?」
「……肝に銘じます」
いや、実はその辺は普段からやろうと頑張ってるんですよ?
少なくとも仕事中は、その通りにしてますし……。ただずっとそれだと気疲れするんで、主にハメを外したプライベートなどで、うっかりをボロボロ連発するだけで……いや、本当に気をつけます、はい。
「それで話を戻すが、実際にお前が調べたところで、原因と具体的な解決策は見つかったのか?」
「現在当たりなどはつけておりますが、詳細については鋭意調査中です」
「ふむ、そうか」
「一応、具体的な内容については、メモとして別紙にまとめてあります。必要であれば、そちらも読み上げますがいかがいたしましょうか?」
「いや、いい。あとで報告書を提出してもらうつもりだからな」
「はい、分かりました報告書を……ん、え?」
私のその反応をみたお父様は、さも愉快げにニヤリと笑った。それはまるでイタズラが成功した時の子供を、連想させるような笑みであった。
「何を意外そうにしている? 特殊な任務に当たっているのだから、それに関する報告書を上にあげるのは当然だろう」
「そ、そうですか……」
ほ、報告書の提出……つまり事務仕事。
異国の地まで来て事務仕事……って、そんなぁ!? 元々気楽で楽しい旅行の予定だったのに、ここに来て仕事を抱え込むなんてっ!!
いや、趣味や研究用の資料をまとめることならば、比較的好きですけどもね?
しかしそういうものとは、一切関係のない報告書を作るのは、別に好きじゃないし、むしろ面倒くさいので嫌です……うぅ嫌なんですよぅ。
せっかく、国を出る前に受け持っている書類仕事は、期日が遅いものも含めて、頑張って全部終わらせたというのに……ふぇーん、書類作りイヤだよぅ。
…………でも実際そうなると、あとで情報を整理して、使えそうなものをまとめなくちゃいけないんだよなぁ。そうするとあそこをこうして、今までの情報量はこれくらいの紙の枚数でまとめつつ、今後のものはもう少し余裕を持たせて……ってああ、もうっ!! やっぱり面倒くさいな、本当にいりますかねっ!? 私はいらないと思います!!
「そしてあとの現場の判断に関しては、基本リアに任せるが、あまり妙な行動に走るようだったら……カイアスお前が止めるように」
「はっ、承知しました」
あれ? 私が報告書について仕方なく考えている間に、お父様がカイくんに何か任せているのですが……。
え、妙な行動ってなんですかね? 娘への信頼と言うものは……? 何よりなんでカイくんは、普通にその言葉に頷いてるの? 一切の疑問点とかはないんだ、ねぇ?
私が色々納得出来ずに、脳内で疑問をぶつけてると、お父様が通信外の何かにふと目をやった。
んん? えっと、執務室のあそこにあるのは確か……時計だったかな。
「おっと、話しているうちに時間だな」
あ、やっぱり時計を見てたんですね。
しかし時間というのは……? まず会議は、そもそもこの時間帯には行われないから違う。きちんと誰かと会う、もしくは出掛けるにしては、あまりに準備をしてなさ過ぎる。
うむむむ?
「……あの、なんの話でしょうか?」
「いや、これからこの執務室にアイツがくる約束なんだ」
えっ、お父様の執務室まで来る人物なんて、かなり限られているのですが……。
確かにそれなら近しい人物でしょうが、なんだろう……この時点でもう嫌な予感しかしない。
「……つかぬことをお聞きしますが、アイツとは?」
「決まっているだろう、アー……」
「あっっっ!? 私、急用を思い出したので、ここで失礼いたします!! それではご機嫌よう!!」
私が知ってる中で、最初の文字がその名前の人物は一人しか居ない。
それに気付いた私は、危険を回避するために、身を翻して部屋の外に転がり出た。
いやいやいや!? 事前にお兄様はいないって言ったクセに、カイくんの嘘つきぃぃぃ!! 裏切り者ぉぉぉぉぉ!!
そうして勢いのまま部屋を飛び出して、しばらく走った後に気付いた。
あれ、そう言えばなんで今回のカイくんは、私を引き止めなかったのだろうか……?
うーん……まぁ、いいか! それよりも今は、カイくんが私のことを騙した方が重要だからね!!
本当に、もうしばらくは許さないよっっ!?
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