魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第88話 上司と部下の楽しい面談-別視点-1

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 リアが出て行った扉を尻目しりめに俺は、陛下ことグレイオス様に一人向き直る。

「……今のわざとですよね?」

 俺の言葉に、グレイオス様はニヤリと笑った。

「おっ、バレていたか」

 そんなグレイオス様の様子に、ため息を付きそうになるのをこらえて俺は言う。

「気付いていたからこそ、あえて止めなかったんですよ……」

「さすがカイくん……俺が見込んだだけあって、なかなか気が利く男だ」

「すみません、自然な流れでカイくんと呼ばないで頂けますか?」

「そう固いことを言うなよ~ そんなんだとリアにも嫌われるぞ?」

「……」

 グレイオス様は、俺がプライベートでリアと親しいことと、彼女に想いを寄せていることを知っている……それは、もう嫌になるほどに。
 だから俺のことをおちょくろうとする時は、わざと俺のことをカイくんと呼んでくるわけだ。
 正直言って、この人のこういうところは鬱陶うっとしいことこの上ない。もっとぶっちゃけるとウザい。

「……まさか、そんなことを言うために追い出したわけではないですよね?」

「まっ、それも少しあるが……」

 いや、あるのかよ。
 まったく、この人の悪ふざけ好きな性格には困ったものだ……。

「ほら、リアに直接聞いても素直に話してくれなさそうなことがあるだろ? だから、素直で信頼の置けるカイアスに聞こうと思ってな~」

 ああ、なるほどそういうことか。
 ふざけているように見えても、やはり一国の王……考えなしではない。
 リアは色々間抜けな部分もあるが、実際かなり知恵が回るほうだ。本気を出せば、一切表に本心を出さずに、乗り切るだけの立ち回りも十分できる。
 まぁ、プライベートだと一切そんなことをする気がなくて、勝手に墓穴ぼけつを掘っている有り様なわけだが……。
 そうではない本気で隠し事をするつもりの、リアを相手にするのは非常に厄介なわけだ。
 だからこそ、あえてリアのいない状態で、嘘をつかないであろう、俺だけから話を聞こうということなのだろう。

 俺がそんなことを推測していると、グレイオス様は続けてこう口にする。

「なんでも聞いた話によると、随分面白いことになっているらしいじゃないか……そう、リアのやつが毛皮を拾っただとか?]

「け、毛皮ですか……」

 毛皮ってあれだよな? 間違いなく、ケモ王子のことだよな……当然、報告を受けているグレイオス様は、アレのことも把握済みだろうからな。
 いや、でもその前に今、気になるのは……。

「その話の前にお聞きしたいのですが、アーク様は本当にいらっしゃるのでしょうか?」

 そう、先程リアを追い出すためにグレイオス様が口にした、アーク様が来るという言葉だ。

「ん、来ないぞ? だってリアと通信をするなんて言ったら、理由をつけて執務室に居座られる可能性が高いからな。まず面倒で、そもそも話してすらいない」

「やはり、そうでしたか……」

 ああ、やっぱりあれはリアを追い払うためだけの嘘だったか。
 確かに彼女に余計なことを考えさせず、自ら出て行かせるにはそれが一番ではあるが……。
 ほんの少しだけ、娘に対しても息子に対しても、その扱いはどうなのかと思わないでもない。
 それもこれも、全部本人たちが原因なのだが……本当にうちの王族は、なんで能力が高くても変人や曲者くせものばかりなのだろうか。

「そうそう~ ついでに、さっきリア本人には言わなかったことだが、アイツに関しては帰ってきてから、たっぷり絞り上げようと思っている」

 あ……まぁ、それに関しても何となく察していた。
 今回のことだけじゃないし、あの程度で済ませるのはさすがに甘すぎるからな……。

「まっ、親子水入らずの時間を作ってやろうという話しだ」

 締め上げることを、親子水入らずと表現するのはどうかと思うが……余計なことを言っても仕方ないので、ここは口をつぐむ。
 もちろんリアに下手に伝えると、おとなしく帰らなくなりそうなので、そちらについても黙っておく。

「それでだ……カイアス、お前はその毛皮のことをどう思う?」

「どう、とはどういう意味でしょうか?」

「なに、極めて個人的な感想を聞いているだけだ。気軽に答えればいい」

 グレイオス様の表情や口ぶりを見るに、あくまでまだ俺個人の印象を聞いているだけのようだな……。

「自分は別にどうとも思っておりません」

「ふむ、そうか」

「ちなみにソレに対してアークは、処分するべきだと強固に主張している」

 ああ、確かにアーク様は、俺が国を出る前の時点でケモ王子の情報を調べ上げており、その際にその悪評も知ってしまったらしく『カイアス、行くならあの獣を殺せ……!!アレが我が妹の側で、息をしてるなど到底とうていゆるされない』とかすさまじい剣幕けんまくで言ってきたな。

「もっと言うと一日も経っていないというのに、殺……いや、処分する必要性についての数十枚の意見書も提出してきたな……」

 ……アーク様、流石に殺意が高すぎだろう。
 一応、曲がりなりにも他国の王子なのに……。
 本当にあの人は、リアが絡むと言動があやうくなるな。それでも陛下の言うことを聞いた上で、意見書でどうにかしようとしてるところは、まだ冷静なようで安心し……いや、やっぱり短期間で何十枚もの殺害提案書類を書いてる辺り冷静ではないな。どう考えてもヤバい。

「まぁ、アークのことはよいとして……カイアス、騎士としてのお前に問おう」

 そこで今までは、やや軽薄けいはくだったグレイオス様の表情が、急に真面目なものに変わった。
 同時につられて俺の気持ちも引き締まる。
 ついに来たか……。

「貴様は件のソレに、どう対処するべきだと考える?」

 騎士として、か……こちらの質問が本命だな。
 あの王子について知ったうえで、この場にいる俺が適切な判断をできるか、意見を聞いて見定めようということだろう。
 その証拠に、グレイオス様は今試すような眼でこちらを見据みすえている。

「はい……私は別段、特別な対処をする必要はないと考えております」

 そう、答えた瞬間グレイオス様の目がすっと細くなる。
 予想通りの反応だが、どうしても緊張するな……。

「ほぅー、理由も聞こうではないか」

「それが、なんの問題や障害にもならないからです。それゆえ対処の必要もないと判断しました」

「そういい切れるだけの根拠こんきょは?」

 より一層、視線を鋭くしたグレイオス様が俺に問いかける。
 ここが、一番のヤマ場だな……。
 そう思ったからこそ、俺は胸を張り、しかしあくまで淡々と答えた。

「なぜなら私が今ここにいるからです。むしろそれ以上に、何が必要でしょうか」

 そう、あの毛皮……いや、ケモ王子が、どんな奴で何を考えようと関係ない。
 俺がリアの側にいる限り、問題など起こらない、だから今必要なことなど何もないわけだ。
 まぁ、本気でケモ王子が何か変な気を起こした場合は、やはり俺が首を切り落とすので心配などない。とはいっても俺自身も積極的に、人を殺したいわけじゃないので、できればそんな事態にはならないことを願ってはいるが……。

 俺がそんなことを思っているうちに、グレイオス様も俺のその回答に満足したのだろう。厳しかった表情をゆるめ、にこやかに笑いながら口を開いた。

「ははっ、そうだな。王家の剣と呼び声が高い、騎士家門グラディウス侯爵こうしゃく家の後継者にして、自身も国内屈指くっしの実力者と言われる貴様の言葉であれば、それはこれ以上にない根拠だ」

 そうして、つらつらと俺への賛辞さんじを並べるグレイオス様だが、その褒め言葉はただ手放しに受け取って良いものではない。

『これだけ称賛しょうさんされ功績こうせきを持っているのだから、まぁその程度のことは出来て当然だ』

 この方は暗に、そう告げているのだ。

「何よりも、この俺が個人的にお前を信頼しているのだからな」

『俺が目をかけてやっているのだから、できないとは言わせない』

 口に出さなくても、グレイオス様のそんな声が聞こえて来る。実際間違いなく、そう思っているはずだ。
 普段みせる飄々ひょうひょうとした姿とは裏腹に、王として相応の厳しさと狡猾こうかつさも兼ね揃えた人物……それこそが今、俺が相対あいたいしてる当代国王グレイオスという男だ。

 だからこそ俺は、深々と頭を下げつつ騎士の礼でそれに応じた。

過分かぶんなお言葉を頂き恐れ要ります、必ずやご期待に沿う働きをいたしましょう」

「ああ、今後も貴様の働きには期待しているぞ、カイアス・グラディウス」

「はっ」

 まぁ、そんな言葉なんてなくとも、リアのことくらいは必ず守るつもりだがな……。



―――――――――――――――――――――――――――……


【オマケ】よくあるリアの実家での会話

グレイ「まぁ、俺のような色男だと、それだけで昔から周りも放って置かなくて大変でな―― (その後長々と聞いてもない自分語り」
リア「 (何を言ってるのだろうか、このオッサンは頭がおかし)そうですね」
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