異世界サウナ。ととのえばととのうほど強くなる勇者がサウナの力で無双する。~能力を恐れた魔王軍が全裸の時に攻めてくるので、全力でもてなします~

倉紙たかみ

文字の大きさ
5 / 66

第5話 ピザ・モッツァレラ

しおりを挟む
 とりあえず大勝利ということで、本日は宴が行われることになった。まだ、昼過ぎだが、興奮冷めやらぬということで、町中の酒場はすぐさま営業。壮絶なまでの大宴会が、町のあちこちで行われることになる。

 俺も、サウナ終わりということで、一杯やりたいところだった。

 そんなわけで、俺は洋食バル『あんてぃ』へとやってきた。ここは『ピザ』と呼ばれるパン生地を使った料理や『パスタ』と呼ばれる麺料理を食べることができる。

 座敷席もあるので、サウナ終わりにも最適。サウナ後の座敷席って、なんか惹かれるものがあるんだよな。

 メリアもフランシェも、都合が悪く。今日は俺ひとりでのサ飯となる。手伝うべきだとは思ったのだけど、今回の戦に多大なる貢献をしたということで、ゆっくりと食事を楽しんでいいそうだ。

 ああ、ちなみにラングリードの民は『見えない部分での貢献』も、ちゃんと評価をするという文化を持っている。今回、俺は戦わなかったけど、防衛策を考えたということで貢献している。

 また、敵が撤退したのも、俺の存在と能力を知っていたからだろうと判断。要するに、俺の存在自体が防衛に繋がっているし、町の人たちも理解してくれるのだ。

 存在してくれるだけでもありがたい人に、ちゃんとした対価を払うことで、この町に居着いてくれるとわかっている。

「さて、今日のサ飯は、と――」

 先程注文した料理が、俺の前に並べられる。

「御注文の『マリゲリータ』と『こおら』になります」

 登場したのはピザ・マルゲリータ。ピザの中でもシンプル・オブ・シンプルな一品。

 平たく丸いパン生地にトマトとチーズを敷いて、オーブンで焼いた至高のジャンクフード。低価格ながら、その満足感はフルコース料理に勝るとも劣らない。

 ――ピザの賞味期限は恐ろしく短い。

 ピザの唯一の難題として『熱いうちに食べる』ことが義務づけられる。冷めたピザはネズミも食わない、ということわざがラングリードにはあるほどだ。

 じゅるりと心の涎がこぼれ落ちる。

 石窯から出したばかりをアピールするかのように、チーズがぐつぐつと滾っていた。俺は、ピザカッターを使って六枚に切り分ける。刃が沈んだ瞬間、クリスピー生地のサクリという感触が掌を伝って、脳へと届けられる。

 ――完璧な焼き具合!

 チラとキッチンの奥を一瞥すると、若き男性シェフが横目でこっちを見ながら、ククッっと笑みを浮かべていた。

 まるで『俺は完璧な仕事をした。文句は言わせねえぜ』とでも言っているようだった。

 ――ああ、わかっている。

 至高のピザを食べるに相応しい客なのか、俺を値踏みしているのだろう。

 ピザを一口。先兵として襲いかかってきたのは、トマトだ。しっかりと熱しているせいで酸味が飛んでいる。反比例するように奥底の甘みが押し寄せてくる。甘い。かなり甘い――いや、なんだこれは甘すぎるッ!

「ッ!」

 これは『あまいらトマト』かッ!?

 伝説的糖度を誇るトマト。太古の昔、お茶の国と呼ばれる地域で品種改良されたといわれており、他のトマトの追随を許さないほどの糖度を誇る。ラングリードの学者が文献を掘り起こし、現代に再現した超高級品。それをまさか、贅沢にもピザに使ってくるとは思わなかった。

 トマトの猛攻が収まらぬうちに、今度はチーズの追撃が襲いかかる。

 ――ズシンとめりこむかのようなインパクトが舌を貫いた。

 瞬間、俺の意識が飛んだ。
 気がつけば牧場にいた。

『ここは……?』

 ああ、わかっている。これは幻だ。ととのった状態で、美味すぎる料理を食すると『トブ』ことがある。この世界は、マルゲリータが俺に見せているのだ。

 牧場の扉を開いて、飼育小屋へ。ああ、なるほどな。ここにチーズを産みだした奴がいるわけか。そいつのところに、俺を誘おうとしているらしい。

 扉を開けると、いくつもの房が並んでいた。「モォー」という鳴き声が聞こえた。

 奴らがチーズの生みの親か。いいだろう。そのツラを拝んでやろう。そして、感謝させてくれ。最高の食材を紡いでくれたアンタにありがとうを言いたい。

 だが、房を覗いたその時だった。

『なっ――こ、こいつはッ!?』

『モォー』

 牛ではない。水牛だ。

 ホルスタインでもジャージー牛でもない。水牛。すなわちバッファローである。

『モモモモモッ!』

 文献で読んだことがある。チーズをつくるのに、水牛のミルクを使うことで濃厚さが増す。クセも良いアクセントになる。俺が口に入れた超絶インパクトのあるチーズは、こいつのモノだったのだ。

 バギャンバギャンと木製の房を突き破って、水牛たちが飛び出してくる。そいつらは一斉に俺へと突っ込んできた。水牛たちのパワーに抗うことが出来ず、跳ね飛ばされ、もみくちゃにされ、踏みつけられる。

 ――かはッ!

 そこで、俺の意識が現世へと戻ってきた。

 俺は、食べかけのピザへと視線を落とす。

 なんという贅沢な一口だ。このチーズは、もはや圧縮された水牛だ。爆弾のようなエネルギーを内包している。

 ツ……と、汗が頬を伝った。

 それをシェフに見られていたようだ。彼は満足したかのように目を伏せ、笑みを湛えたまま仕事を続ける。さすがの俺も、ひれ伏すしかあるまい。このピザ一枚で580ゴールドは安すぎる。

 俺は心を静めるため『こおら』に手を伸ばす。黒い色のドリンクである。見た目以上に甘く、ピザの塩気にマッチする。また、炭酸が入っているので爽快感も抜群。ピザとこおらは、おしどり夫婦も真っ青のベストパートナーである。

 しかし、こおらを一口飲んだ瞬間、俺は違和感を覚えた。

 ――これは、ただのこおらではないッ?

 甘さのあと、ほのかにあと引く苦み。

「これは、クラフトこおらかッ!?」

 思わず、声を大にして叫んでしまった。だが、誰もがそれに驚くことはなかった。シェフもウェイトレスも客も、誰もがしたたかな笑みを浮かべていた。『へえ、知らなかったんだ。ククク』とでも言いたげなようであった。

 こおらというドリンクは、ラングリードでは一般的なのだが、これがいったいなんの液体なのかというのはあまり知られていない。多くのカフェやレストランは、工場と契約しており、毎日届けられるシステムとなっている。制作工程が複雑ゆえに、工場での大量生産がベターなのだ。

 ――だが時折、店でこおらをつくる猛者が現れる。

 こおらの原料は、カルダモンやシナモン、グローブなどの香辛料に加えて、柑橘系の果実、生薬などが使われる。

 店によって、独自のレシピがあるらしく、基本的には門外不出。あんてぃのコーラは甘さ強めの強炭酸。ととのった俺でも、使われているすべてのスパイスを把握できない。

 くっ、これはレモン? いや、ライムを使っているのか? バニラビーンズが少ないだと? なるほど、苦みをダイレクトに伝えたいのか? 

 わからん――。いや、わからなくていいのだ。

 こおらとはそういうものだ。素材の探求に意味はなく、ただ『美味い』『甘い』『爽快』を堪能すればいいのだから。

「くっっっはぁぁぁぁぁぁッ!」

 大歓喜の声を上げる俺。口の中がさっぱりすると、再びピザへと手が伸びる。ああ、まだ冷めてくれるなよ。俺は、シェフと水牛に不義理な真似はしたくない――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...